日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

愛知芸大音楽部新校舎竣工記念式典で

2013-10-06 14:33:29 | 建築・風景

妻君を車に乗せてひたすら東名高速を走った。
ほぼ一月前になる9月3日の早朝、すこし時間が掛かるかもしれないと思ったが、山中を通り抜ける新東名には入らず、時折海岸添いを走る旧道!を選ぶ。路面は荒れているが海を見たい。愛知県立芸術大学音楽部の新校舎完成の式典に出席するのだ。
車を使ったのは、行く機会がつくれなかったさほど遠くない、坂倉準三が故郷に建てた岐阜羽島市庁舎に行ってみたかったからでもある。そして名古屋に足を留める。

新校舎は日建設計の設計によるもので、担当したのは故林昌二肝いりの掛川市庁舎や、名古屋駅の前に建つスパイラルタワー(モード学園)などの話題作を担当した俊英・若林亮である。
急傾斜地に建てることになったためにつくられた高さを抑えた渡り廊下などに、吉村順三の理念を引き継ごうとする若林の思いを感じ取れる。
このキャンパスの耐震改修を軸としたキャンパスのあり方を検討する委員会が設置されたが、設計をした東京藝術大学の吉村順三や担当した奥村昭雄の構築したキャンパス構成が損なわれると、愛知芸大の卒業生の一部や、東京藝大のOBから反発がなされ、一時騒然となった。
音楽部校舎の新設についてはその余波を受けてその計画対して反論がおき、さらにこのキャンパスを取り巻く生態系が壊されるとの反発が起きたりしたものである。

僕は2年ほど前から、西沢泰彦名古屋大学(名大)准教授を引き継いで、このキャンパスの建築群のあり方を検証する委員として会議に出席している。そういう中で新築された新校舎である。
室内楽ホールで行われた式典には、大村秀章愛知県知事などが参加され、僕は委員会で一緒の谷口元名大名誉教授の隣に案内された。しばし小声で談笑する。
式典の後、学生による記念演奏を聴く。モーツアルトのピアノ、クラリネットとビオラによる三重奏曲(k498)とシューマンのピアノ五重奏曲(作品44)である。この小ホールでの初演奏だ。

式典のあと、委員会の委員長を務めるデザイン学科の水津准教授と新校舎を歩きながら語り合った。
「ちょっと音がねえ!」こんなものでしょうか?と問われて僕は、音が若いですよね!と訳知りのように述べた。実感なのだが、御茶ノ水の「カザルスホール」の保存問題に関わってシンポジウムをコーディネートしたときに、日本の音響工学を率いた永田穂氏から音の真髄をお聞きしたことが念頭にあった。

使い続けないと音が駄目になる、そして使い続けていくとホールの音が練られて豊饒に鳴るようになるという一言である。このホールの壁は傾斜されていて、角材が隙間を空けて大胆に立ち並んでいるのだ。

ところでこの新校舎のこのキャンパスにおける位置づけをどう捉えればいいのかと言う考察は、これから時折委員会の開催時にこのキャンパスを訪れることになるので、繰り返し歩き、また使われている状況を視てから述べることにしたい。<文中敬称略>