日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

枇杷と蜂蜜

2013-06-16 16:07:42 | 生きること
体調がよくないと聞いていて、今年は年賀状も来なかった先輩から電話をもらった。
声もしゃべり方もいつもと変わらず、ホッとはしたものの、6ヶ月入院して手術を繰り返した。今でも3泊4日で大学病院に行き、10日経つとまた3泊4日の入院、点滴治療を繰り返し、人工肛門をつけて生活しているのだと言う。一瞬言葉にならず、溜息しか出なかった。

電話をくれたのは、枇杷が旬(しゅん)だからだという。「採りに来ない?」
今は閉業したが、彼が現役のときの材料置き場と加工場の庭に植えた枇杷の樹に実が鈴なり、剪定等の手入れができないので一枝に実が付き過ぎているが美味しいよと言う。
妻君を誘ってまず伊勢原の彼の自宅に行き、僕の車で何度か訪れたことのある置き場に行く。
そこに枇杷の樹のあることには気がつかなかった。
ほっぽっといたら大樹になったのだそうナ!
下から見上げると、確かにたわわな枇杷だ。

妻君は梯子を上るなんて到底無理だとしり込みして下で待つ。
気をつけて、と言い、まず先輩がシナシナとしなるアルミの梯子をスルスルと上る。とても病人とは思えぬ鮮やかな上り方、僕がよろよろと上っていく様に、妻君は心配そうだが呆れてもいる。
波型鉄板屋根の下地のあるところに立たないと屋根が破れるかもしれないので気をつけてといわれながら、陽の当たるところの熟れたものを選ぶように言われてもぎり、皮を剝いて口に含んだ。
野性味あり、これが「枇杷」なのだ。

先輩の自宅に戻って奥様とも一緒に、人生の嘆きと面白さも、そして可笑しさに話が弾んだ。先輩の髪は薄くなったが顔色はその昔と変わらず、うちに帰ってきてからの妻君には、六つも年上なのにあなたより元気じゃない!あんた、よれよれよ!

さても、先輩からプレゼントされた日本蜜蜂のビンテージ、4年物の蜂蜜を、ちびちびと舐めながらの陶酔境、この一文をしたためている。