日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

北海道紀行08(1)旭川から日本の最北端・稚内へ時を走る

2008-11-02 14:57:50 | 建築・風景

旅をする。
目的があって旅をする。例えばイベントに参加する為に。家族で温泉に。
自分で企画することもあるし、ただついていくだけの旅もある。仕事で出かけるのは旅とはいわないだろう。出張? でも仕事を旅にしてしまうこともある。

仕事の旅、数は少ないが、8月の後半に行った新潟では僕の設計したホテルの定期点検の後、一泊伸ばして翌日の夜「新潟町遺産の会」の人たちに保存の話をした。そこで思いがけず銘酒「鶴の友」の当主にあう。ニコニコしながら握手をした。
夕方までの空いた時間は例によって建築探索だ。前川國男の設計した新潟市立美術館へ。そこで僕の好きな画家、李禹煥(リ・ウーハン)の大作に出会った。砂丘館(元日銀支店長宅・木造の邸宅を美術館にした)に行って、館長・美術評論家の大倉宏さんに「いいですね、あの作品」と同意を求めたら、うれしいことを言ってくれますね、と喜んだ。この作品は大倉さんが収録を決めたそうだ。
大倉さんは新潟町遺産の会の代表でもあるのだ。でも僕の講演を仕切ってくれたのは伊藤さん、JIA保存問題委員だ。

僕の旅って人に会いに行くようなものなのだ。大倉さんに会いに行く。すると蔵元の当主と再会したりする。その後の飲み会で大勢の人と名刺の交換をする。飲まない誰かがホテルまで送ってくれたりする。

今年の北海道は、10月26日(日)から29日までの旅。築年の友、諸澤先生に招かれての札幌建築デザイン専門学校の学生(2年生と3年生)の設計課題の講評と学生との懇談会が目的。でも会いたい人がいるのだ。
建築家上遠野徹さん、北大の歴史の研究者角教授と院生の原さん、小樽PRES・KAFEの髯のマスター、それに学生たち。2年生が3年生になって一年ぶりの再会だ。
2年生とは初の出会い、彼らは緊張しているようだが、僕の好奇心が刺激される新鮮な出会いだ。

2年生の課題講評と懇談会の翌日、旭川を通って稚内へ向かう。旭川には、DOCOMOMOで選定した佐藤武夫の代表作、建築学会賞を受賞した市庁舎があるからだ。前夜北大の研究室に角さんを訪ね、サハリンの建築調査の成果に見入った(魅入った)後お座敷に席を移して一杯やりながら、旭川市庁舎を見た後稚内に行くんですよと述べたら、角さんはうっと眼をむいた。往復750キロくらい、日帰りだからだ。

去年は釧路の毛綱建築紀行だった。今年は「上遠野建築」を観たい。では稚内へ。いいね、稚内へは行ったことがないし。でも地図見て驚いた。北端だ。日本の最北端の丘陵地に、上遠野さんの自邸と並ぶ代表作、レンガを使った「稚内北星大学(竣工した1986年当時は短大)」が建っている。

今年の上遠野邸は紅葉の真っ盛り。ご子息の克さんが、樹の真下に円を描くように広がる落ち葉が綺麗だったのに、昨日の風雨で落ち葉がこっち側に固まちゃったと申し訳なさそうな顔をする。
青々とした芝生(札幌では芝生が枯れない。春になって雪が解けると緑の芝生が顔を出す)と紅葉、鉄の柱と梁と雨を含んでしっとりとしたレンガがえも言われぬ美しさだ。克さんともいつの間にか親しくなった。口に出さなくても建築家同士の絆ってあるのだ。

北海道は広大だ。でも車で走ると直線。長い。
まだ緑の唐松が、3時間も走ると色づいてきて白樺のヒラヒラとした黄色が綺麗だが、名寄を過ぎると枯れ木になってしまう。時を、季節を僕たちは走り抜けているのだ。

僕は助手席でうつらうつらしながら諸さんと語り合う。その諸さんは9月、砂丘館を訪ね大倉さんに会った。新潟に行ったら砂丘館を見て大倉さんに会いなさい!と僕が強要したからだ。
7時半に札幌のホテルを出て稚内北星大学に着いたのは3時を過ぎた。日暮れの予感がする。北は日が落ちるのが早いので。カメラを構えて走り回る。今年初めて手がかじかんだ。寒い。

上遠野さんが連絡を入れてくださったので、総務課のKさんが出迎えてくださり、校舎内を隅々まで案内していただいた。
諸さんも僕も無言。至福の時だ。

(写真 上遠野邸の紅葉と北西大学)