8月に訪れたPajuBookCity。
坡州市(Paju―City)に入ると、街道の左手に、有刺鉄線を設置し、監視所を配置した非武装地帯が現れる。
有刺鉄線は螺旋状に巻かれていて、監視所は迷彩色に塗装されている。銃を持った兵士がいて、双眼鏡で非武装地帯を監視している姿も見受けられる。川がありその向こうは北朝鮮だ。街道沿いなので誰でもその有様を実感できるが、軍事施設なので写真掲載はしないほうがよさそうだ。
僕と藤本さんを案内してくれた尹先生と洪さんは、時折起こる機密漏洩のエピソードを、柔らかい口調で面白くおかしく披露してくれるが、厳しい状況がずしりと胸に沁みこんで来る。
今僕がいるのは日本ではないことをふと思う。紙之郷(Pajubookcity)やHeyri ArtValleyはそういう場所につくられたのだ。
紙之郷(Pajubookcity)は、Book Cityとあるように、出版関係のオフィスを集めた建築団地だ。打ち放しコンクリートの骨格に、錆を意匠にした鉄板(コルテン鋼)や、ベニヤパネルを無造作に使った間仕切りで構成された管理棟へ案内してもらった。会議や展示のできる天井の高い大きな部屋がいくつかある。食事をする場所もあるし、「Jijihyyang」と名づけられたホテルも併設されている。
一階の各部屋の前には、池に張り出しウッドデッキのテラスがあって、休憩時間には人が集まるのかもしれないが、人っ気がない。がらんとしているが、なんとなく建築家魂を揺さぶられる建築だ。
尹先生は、僕と山名さんの10月訪韓のホテルをここにすると、僕たちの好奇心に応えられると思ったそうだ。8月に見学したときに、あまりにも僕が面白がったからだ。でも、シンポジウムを行う壇国大学とは反対方向、ちょっと遠くて無理ですね!とSUWON(水原)のホテルに入る時、二人で頷きあった。
この団地の企画はHeyri ArtValleyとよく似ているが、違う面白さがある。
この建築群が、総てオフィスなのが興味深い。デザインコンセプトは、フラットルーフ(陸屋根)であること、建築は素材を生かしたデザインとすることだという。
コンクリート打ち放しによる外壁に、ピンを細かく取り付けてその影を楽しむなど、様々な工夫がなされているのもコンセプトに沿ったものだ。
他の建築と差別化するために、建築家は苦労したに違いないと同情もするが、うらやましくもある。さてさて、魅力的な建築もあるが、首を横に振りたくなるのもあってそれも一興だ。
ここで働く人に、かつて尹先生がヒヤリングした。
空間構成は面白い。だがデザイン先行で、働く私たちの事をなにも考えていない。外に窓がなくてせっかくの景色(建築も景色だ)が楽しめないと、ぼやく女性が沢山いたそうだ。さもありナン。
置いてある案内パンフレットはハングル文字だ。残念だし申し訳ないが読めない。英語版があったようだがなくなってしまったそうだ。パンフレットに大きく「紙之郷」という墨で書いた文字がある。何故だ?それだけが日本語なのは!
ところで坡州市(Paju―City)は、僕の住まいのある神奈川県海老名市から、伊勢原市を通った西側に位置する秦野市と、友好都市協定を結んでいる。人口約26万人、秦野市の1,6が倍だという。面積は約6、4倍だそうだ。
市の鳥は「鳩」。平和を願う市民の、シンボルなのかもしれない。