Seoul(ソウル)市街の、どこからでも望めるソウルタワーの建つ南山の麓に、LEEUM(三星美術館)がオープンした。
スイスの建築家マリオ・ボッタ、フランスのジャン・ヌーベルによる二つの常設展示館と、オランダのレム・コールハウスの、企画展示と教育機能を持つサムスン児童教育文化センターを併せ持った、世界的な建築家三人のコラボレートによって建てられた美術館である。
僕たち建築家にとっては、この個性豊かな建築家達が、どんな建築をつくったのかと好奇心を抑えきれないが、一般の人々の評判も高いようだ。オープン当初は予約制でスタートして、それがソウル観光のガイドブックにも記載されていることからも伺い取れる。現在は予約なしで自由に入場できるが、建築だけを観てもそれぞれの建築思潮が読み取れ、期待を裏切らない。
三人は日本でも建築をつくっている。
建築家としてだけではなく、理論家でもありその都市の考察は、世界に大きな影響を与えているコールハウスは、福岡市のネクサスワールド、レム棟・コールハウス棟で1992年度日本建築学会賞を受賞した。
東京で仕事をしている僕に馴染みがあるのは、神宮前の`JIA会館`や`塔の家`の近くにある美術館マリオ・ボッタの設計した「ワタリウム」と、ジャン・ヌーベルが新橋駅近くの汐留め再開発の高層群に建てたオフィスビル「電通」だ。ヌーベルはパリの「アラブ研究所」で一躍注目された建築家で、ずい分前になるが、見学したとき記念にと、ギャラリーショップでアラブの大皿を2枚も買い込み、持ち帰るとき重くて閉口したことを思い出した。
僕は8月と10月、いずれも尹(ユン)先生の案内で訪れたが、藤本さんも山名さんもコールハウスの空間が面白いという。
ヌーベルの担当した黒コンクリートを試用したMUSEUM2の外観は、パリのブランリー美術館を彷彿とさせるが、僕はこの建築の展示室のガラス越しに観る、鉄のフレームの中に石才を積み上げた地下庭園の石垣に魅かれる。その黒っぽい石垣と展示室のガラスの間の上部から、微かに自然光が注がれるのが好きだ。
展示空間に入る前のホールには、三人がDVDの数面のモニターよって紹介されていて、建築家の存在を際立たせていて嬉しくなるが、この美術館の魅力は、無論それだけではない。
一つはコレクションの素晴らしさだ。ことにボッタのMUSEUM1に展示されている先史時代から朝鮮時代(李朝期とは韓国では言わない)の陶磁器は、汲めども尽きぬ奥深い美しさだ。日本語のイヤホーンによるガイド機が用意されているのもうれしい。
MUSEUM2の、現代美術のコレクションもいい。ジャコメッティやフランシス・ベーコンなどの代表作と共に、韓国の近現代美術作家の所蔵作品も興味深い。
LEEUMが、このように先史から朝鮮時代に至る韓国が培ってきた美術品と、近現代の作品とともに、それに現在(いま)活躍している作家の作品を、コールハウス館(!)で企画展示して紹介していることは素晴らしいことだ。自国の美術史を展望できるだけでなく、現在が過去との繋がりの中にあり、それが将来に示唆を与えることを考えているからだ。
もう一つは、保存研究室の存在である。民間企業が私立機関としてサムスン文化財団を設立し、1989年にアジアで最初の保存科学室を設置し、現在に至っているという。
ここでは国指定の文化財や収蔵品の修復・保存を行うと共に、所蔵資料を外部の研究者に公開し、利用することが可能だということである。韓国の見識をここでも感じ取れるのだ。
<写真 コールハウスの設計した、企画展示室エントランス>