日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

点描(1) 旧日向別邸へ行く Ⅲ 佇まいにそっと寄り添う

2007-06-11 15:54:05 | 建築・風景

サンプルをかざして、事務所で書棚の前で見たときは、文字がバックの本の背文字にまぎれて溶け込んでしまったのだが、透明ガラスの白文字も、ガラスを白く摺って透明に抜いた文字も垣根の前で読み取れた。文字を抜いたほうがおしゃれだ。よしこれにしようと決めた。
摺ったガラスは濡れると文字が見えなくなるので、摺った側に透明ガラスを合わせることにした。透明とはいえガラスの色がかぶさるが、それがまたなかなかいいのだ。

自然にそっと手を差し伸べる。つまりこの仕舞屋の「佇まいにそっと寄り添う」。ちょっと面映い言い方だが、十年ほど前に心に残った若林奮さんのセゾン美術館の小川の造形の、自然とのかかわり方に触れたことが、こういうところに生きてくる。
「点描」というシリーズを書いてみようと思ったのは、ちょっと出会った光景を数行で顕してみたいと思ったのだが、日向邸と書いた途端薀蓄を傾けたくなってしまった。多少説明をしなくてはわからないだろうと思ってしまったのだ。ということで本意ではないがこの際ついでに一つ二つ・・・

気にして街を歩くと、ガラスに白文字のシールを貼った案内標識が目に付く。安藤忠雄さんの21-21の透明ガラスの手すりに白文字のシールを貼った→などの案内標識もそうだ。
隈研吾さんの歴史探訪館(栃木県那須町:ブログ2006年5月28日参照ください)ではエントランスと庭の間の透明ガラスの塀の白文字による解説版もそうだった。しかし強化ガラスだとエッチングができないので、シルクで印刷した白文字を貼る。或いはシルク印刷をする。
今の時代のガラス多用、透ける建築志向に対応しているとも言えるかもしれない。自然に手を差し伸べる、という感覚はこのお二人にとってはどうだろう。

白水社のTさんや熱海市文化交流課の担当者に、タウトについてのエピソードや、市が取得した経緯など述べているうちにお昼になった。さて飯でも食うか、ということになって僕がTさんを案内したのは、駅の向かい側のビルの地階にある「まるに」だ。

昼時なので混んでいる。店を覗き込んだらここに座りなさいと、客席の常連さんと思える叔父さんが、同席のお客さんをうごかして2人分の席を作ってくれた。
初めてかと聞かれたので、昼飯は初めてだというと、喜んでこの店の親父のことを教えてくれた。
定置網を持っている魚師で、朝の4時に海に出て魚を捕り、その捕れ具合によって刺身を組み合わせるという。僕は夕方、委員会の後など何回も来ているがなるほどと納得、7時頃になるとご飯がなくなったと店を閉めてしまうからだ。明朝のためだ。
いやいや道理で魚が美味いわけだ。ためらわずに刺身定食を頼む。常連の叔父さんがニコニコした。

そもそも「メンチカツは熱海が発祥の地」というと、エーッそれは初耳とその常連さんがのたまう。本当かといわれると僕もぐらつくが、この店をはじめて案内してくれた、日本カーバイト工業の優れもの、僕と飲み友達になった小野口さんの受け売りなので。僕はだからいつもここでは酒を飲みながらメンチカツを喰う。それがまた美味いのだ。
美味いコーヒーのおしゃれなお店も駅の近くにあるが、それはいずれ機会を見て・・・・