「冷たい銃声」(2005年12月刊)で探偵スペンサーは言う。
「私は大人になって以来の全人生をホークと付き合っていて、たとえ静養中とはいえ、危険な感じを与えない彼は初めてだった」そしてそれでもつくづく「ホークは時に予測するのが困難な場合がある」。
ホークは背後から撃たれて病院で臥せているのだ。
読みながら思うこともあるのだが、僕に全人生をかける友人がいるか・・と己に問うのはやめよう。
ホークの恋人セシルがいう。
`彼は変わることができるわ`
スペンサーが答える。
「彼は変わりたくないのだ、それが彼の中心点なのだ。彼は、自分がなりたい人間でいる。彼はそのようにして世界に対処してきたのだ」
`その世界というのは、人種差別の歪曲的な表現なの?`
「人種差別、冷酷、孤独、絶望・・・世界に対する歪曲的表現だ」
`ということは、彼は人を愛することができない、という意味?` 悩めるセシルが聞く。
「判らない。彼は人を憎むことをしないようだ」
「彼は今の彼であり続ける。今の彼が彼なのだ。彼はほとんどつねに正しい。彼があらゆることを知っているからではない。自分が知らないことについては絶対話をしないからだ。ホークは黒人だ。生まれてこの方、少数派でいる。それがどんなことか、知らないし、たぶん、知ることはないだろう」
スペンサーの恋人スーザンは問う。
‘彼がホークになるのに、なにが必要だったか‘
「ホークであり続けるのに。彼は、維持するのが容易なホークを選ばなかった」
弁護士のリタがホークに言う。
・その男の子に責任を感じてるの?・
『そうだ』
・あなたになにができたというの?・
『彼の父親が殺されるのを防ぐことができた』
・いいこと、ホーク。連中はあなたの背中を撃ったのよ。それがどうしてあなたの落ち度になるの?・
『おれは背中を撃たれるようなことがあってはならないんだ。』
・冗談じゃないわ。あなたは他の男たちと同じように人間よ。傷つくことがあるわ。殺される可能性があるのよ・
『ほかの男たちと同じであってはならないんだ』
スーザンがスペンサーに。
‘あなたは自分に嘘は言わない。あなたの世界では、あれはやらなければならないことだったのよ。ホークはこれをやらなければならない。彼とあなたは、成人後の全人生を通じて、お互いの人生における確信性の象徴だった。あなたは助けてやらなければならない‘
ところでその男たち、すなわちホークとスペンサーと、それに警部クワークがなにを食っているかというと、「スコーン?」
「ドーナッツはないのか?」「俺は警部だ。たまには格上げしたくなる」「ドーナッツからどうやって格上げするのだ?」スペンサーは肩をすぼめてスコーンを取った。彼は言う。「体力を維持しなくてはいけない」
なに?ドーナッツを食って体力維持!そしてそういうスペンサーは昼飯にアップルパイを食べたりするのだ。
彼らはコーヒーになんと砂糖を入れウイスキイをドボドボと注ぐ。
酒も飲むが、甘いものも喰うのが<アメリカの>男というものか!
つい先日の自動化検診、つまり人間ドックでお医者様に僕はこう言われた。「コーヒーを飲みすぎず、甘いものをセーブし、酒に気をつけろ!」
よく分かるなあ僕の好きなものをと、今の医療世界は見事だと感心したのだが、これじゃあいつまで経っても俺は男になれないか(慨嘆!)。
さてさて著者ロバート・B・パーカーは甘辛両党なのだろうか。