日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

雨宿り

2006-03-25 11:19:21 | 日々・音楽・BOOK

土曜日の夕方深川の弟の家に立ち寄った。ちゃぶ台の前のKちゃんは本に読みふけり、妹のYちゃんはテレビを見ている。眼をやった途端朝青龍が勝った。星取表が出てきて栃東の負けがわかる。横綱は無理だなあ。風格もねえ、と思う。
元気そうだね、とハイティーンの二人へ投げかける。まあね!とにやり。二コリでないところがねえ、可愛いんだ。

これからちょっと料理を作るからビールでも飲んでいかないかと弟がいう。うん、でも人と約束があるからほんの少し。頷いてごそごそやっていたと思ったら、こんがりと焼いた`鰆(さわら)`が出てきた。なんとも手際がよい。娘たちが箸をつけ「美味いジャン」という。さっぱりしていて本当に美味い。一緒に出してくれたサラミも格別だ。エビスのビンのビールをカップに入れてくれた。乾杯と言ってごくりと飲む。

チャンネルが変わり歌が流れ出した。「おや平原綾香ジャナイ!」と言ったら、エッ!叔父さん知ってるのとのたまう。CD持ってるもん。エーッと今度は二人の語尾が延びる。TVでは替わって歌い始めたグループが映っている。
`東京事変`て知ってる?なにそれ?娘たちが笑い出す。椎名林檎って知ってるでしょ、って弟が助け舟を。名前は聞いたことがあるけどねえ、とは言ったものの顔も思い浮かばない。
ところで「五輪真弓って好き?」と彼女たちに聞く。誰それ?エーツと今度は僕がのけぞる。
今の若い子は五輪真弓を知らないんだ。

叔父さんはね、五輪真弓を子守唄にして寝るんだよ。タイマーを一時間ぐらいに設定してね。でもね、いつも5分くらいで寝ちゃうんだよ。 ふーん!
「雨宿り」が好きでね、それを聴きたいのだけど、そこから始めると目がさえてしまって終わっても寝れなくなっちゃうの。
そうなの、私もね、寝ようと思っても好きな曲をかけちゃうと目がさえちゃうの、とKちゃんがいう。なんとなく意気投合、価値観の共有だ。

五輪真弓は「雨宿り」になると声のトーンを下げ、つぶやくように唄いだす。
「駅のホームで見かけたあなたは昔の恋人。見つめあう二人。思わず男はタバコを取り落とす。今は別々の夢を追う二人。ただ若すぎただけ」
聴く毎にいつもいつも胸が熱くなる。
「お茶でも飲もう!めぐり合いは素敵なこと、雨宿り。電車は通りすぎて行く」。

三島由紀夫は、高い壁の向こう側から青春のざわめきが聞こえてくるがその壁を越えられない、と慨嘆した。僕はと言えばこの胸の熱さをいつまでも共有したい。なにと?誰と?
さーて!時にと言ってもいいのだろうか。格好よく言えばわが人生と。
二人の娘たちはこのアルバムを聴いてみたいという。僕はね。ロックにうるさい僕の娘に今の音楽シーンを聞いてみよう。

ビールが利いてきてなにか切ない気持ちになって街にでた。これから人に会うのだ。ハワイの旅からかえって来る北国の青年と大阪の淑女に。