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古い本 その97 古典的恐竜8 1877年(つづき)

2022年05月09日 | 化石

1877年 Titanosaurus
 Marshの論文で使われていたTitanosaurusという属名は彼の提示したものではなく、同じ年の初め頃(月日はわからなかった)Lydekkerがインドの標本をもとに記載した属。その論文は次のもの。
⚪︎ Lydekker, Richard, 1877. Notices of new and other Vertebrata from Indian Tertiary and Secondary rocks. Records of the Geological Survey of India. Vol. 10, No. 1: 31-43. (インドの第三紀と第二紀の新種他の脊椎動物に関する知見)
 ここで「Secondary」というのは地質学史に出てくる古い地層名で、もともと岩石・地層を硬さや重なりから4つの時代のものに分けたことから始まる。第三紀と第四紀は今も使われている。その前の(地層なら下の)時代が第二紀で、化石が含まれてやや硬い地層や、一部の火成岩が含まれていた。現在でいうと中生代の地層はここに含まれる。「Primary」は、固結した古生代の地層や、深成岩・変成岩などを含む。
 Lydekkerは、Titanosaurus indicus を新属新種として提示した。この命名はインドで初めての恐竜の記載であり、アジア全体でも最初のものだという。標本はIndian Museumにある巨大な大腿骨と二個の巨大な尾椎とした。採集場所はインド中央部のJabalpurのLametasというところ。恐竜の化石の図版はない。しかし、文中に「脊椎骨はFalconerのPalaeontological Memoirs vol. 1, p. 418に短く記載され、Plate 34には図示されている。」となっている。その論文は次のもの。
⚪︎ Falconer, Hugh, 1868. Notes on fossil Remains found in the valley of the Indus Below Attok. and st Jubbulpoor. Palaeontological Memoirs and Notes of the Late Hugh Falconer, A. M., M. D. Vol. 1 Fauna Antiqua Sivalensis. 414-416, Plate 34 and its explanation. Robert Hardwicke, London. (Indus Below Attokの谷とJubbulpoorで見出された化石に関する覚書)
 表題でわかるように、Falconerの死去を悼んで発行された本である。初めにFalconerの肖像が掲載されている。

338 Falconer肖像 “Memoirs” Vol. 1. Plate 1. (1968)

 肖像画のページには、上の方に丸印があり、下の方にサインが入っている。丸印はこのpdfの原本が収蔵されている施設の印。”British Museum Nat. Hist.” “Palaeont Library” “Presented” “19 SEP 1968” と読めるから、発行された時に寄贈されたことがわかる。下辺にサインのようなものが印刷されている。

339 Falconersサイン “Memoirs” Vol. 1. Plate 1. (1968)

 自信がないが上段は「yours very truly」かな? 下段はサイン「H. Falconer」だろう。他のページにもいくつか書き込みがあるが、達筆で読めない。どうやら原本はCharles Falconer (H. Falconerの家族か)からColin MacRae という研究者に贈呈され、すぐに図書室に納められたようだ。死去を悼んで発行された本だから、どこかから写してきたものであろう。

340 “Memoirs” Vol. 1. (1968)中表紙

 内容の大部分はシワリク丘陵の新生代の脊椎動物化石に関するものであるが、他の地域からの断片的なものを扱った論文がかなりある。ここでは二個の脊椎骨が記載されているが、椎体の周辺がくぼんでいることが強調されている。これは竜脚類大型の竜脚類の脊椎骨では広く見られる形態で、軽量化のためと考えられている。Plate 34にそのうちの一個のスケッチが掲載されている。本文にbodyの全長が5.4 inches (約14.7センチ)としてあるから、思ったより小さい。

341 Falconer, 1868. Plate 34(一部) Jubbulpoorからの化石脊椎骨. 後の Titanosaurus indicus(後の)

 2003年にWilson and Upchurch はTitanosaurus についてレビューを行い、模式種の特徴とされた形態が「退行的」なものであることからTitanosaurus属の名称は捨てられるべきであるとした。さらにそれから派生した上位の分類群名(Titanosaurinae, Titanosauridae, Titanosauroidea)もまた使用しないという結論なのだが...。古い恐竜などの記載において、十分な特徴が記載されている例の方が少ないくらいだと思う。分類名の安定のためには、不十分な記載の種類があれば、適切な再記載をして使っていく方が安定した分類研究がしやすいのではないだろうか。文献は下記のもの。
⚪︎ Wilson, Jeffrey A. and Paul Upchurch. 2003. A revision of Titanosaurus Lydekker (Dinosauria – Sauropoda), the first dinosaur genus with a ‘Gondwanan’ distribution. Journal of Systematic Paleontology, Vol. 1, No. 3: 125-160. (「ゴンドワナ」型の分布を持つ最初の恐竜属、Titanosaurus Lydekker (Dinosauria – Sauropoda) の修正)
 Hugh Falconer (1808-1865) はスコットランドの古生物学者。1846から1849年にかけて発表した「Fauna Antiqua Sivalensis」は現在もよく引用される古典である。恐竜の文献さがしでこの人が出てくるとは思わなかった。
 Camarasaurus の項に登場したEdward Drinker Cope (1840-1897)・Charles Othniel Marsh (1831-1899)・Richard Lydekker(1849−1915)の三人はあまりにも有名な古生物学者であり、分野を紹介するだけでも手に負えないので紹介を省略する。
Titanosaurus, Lydekker, 1877 模式種:Titanosaurus indicus Lydekker, 1877 
産出地 Lametas, Jabalpur  インド

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