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古い本 その172 平牧動物群 7 

2024年08月21日 | 化石

 Vanec, 1877が本当にBunolophodon属の命名をしたのかは疑わしいが、確かにこの言葉が出てくるところがある。文末に系統樹のような分類図が示してある。

640 Vacek, 1877. p. 45 の文中図.表題なし

 すぐ上の文章を翻訳しておく。「最後に、この記事で提示された観点に従って、これまでに知られているヨーロッパのマストドン属の種類の概要を把握すると、次のようなグループ分けを想像することができる。」
 「マストドン属」とはっきり言っている。一番下の欄がそれで、二つに分かれてZygolophodonBunolophodon になっている。ちなみにOsbornではこの二つの名称のどちらも、この論文で初出の属としている。Vanek はこの二つを亜属のような扱いで記している。文中に新属とか新亜属というような主張があるかどうかは知らない。文中には「Zygolophodonten」「Bunolophodonten」の語はたくさん出てくるが、属扱いには見えない。図ではこの二つの「分類群」の上にそれぞれ種があって、「M. tapiroides Cuv.」というように記してあり、分類名上に亜属のような記入はない。当然、新亜属だとしても模式種の指定はここにない。もちろんannectensは記載前だから出てこないが、入れるとすればM. angustidensが一番近いのだろう。この図の縦の点線は進化系列だろうと思うが、横の点線はなんだろう? 同時代ということだろうか。7枚の図があり、その中のTaf. 4とTaf. 5がMastodon angustidens の図である。

641 Vanec, 1877. Taf. 4. Mastoon angustidens Cuv.
Fig.1;原位置にある下顎門歯、
Fig. 2; 壊れた左下顎骨の第一大臼歯の歯根後部、第2及び第3大臼歯の上面観。骨は描いてない
Fig. 3;萌出していない左下顎第3大臼歯 と Fig. 3a; その前面観
Fig. 4;強く摩耗した右下顎第1大臼歯 の上面観 と Fig. 4a ;その内側
Fig. 5;二本の下顎門歯(先端から約200mmでの)断面
ディジタルファイルでは、Fig.番号が読みづらいので、数字を書き込んだ。またFig. 5 は薄くて見えないので画像処理した。その内部は原本では白色である。

642 Vanec, 1877. Taf. 5. Mastoon angustidens Cuv.
Fig.1;右上顎第3大臼歯上面観、 Fig. 1a; その内側観
Fig. 2; 未萌出の右上顎第3大臼歯最前稜前面観
Fig. 3; 左上顎第2大臼歯上面観、 Fig. 3a; その外側
Fig. 4; 左上顎第1大臼歯上面観、Fig. 4a ;その外側
Fig. 5;右上顎最初の置換歯上面観
Fig. 5a; その内側
Fig. 6; 左上顎の牙、エナメル帯が部分的にダメージを受けている
Fig. 7;上顎の牙の異なる位置における断面
ディジタルファイルでは、Fig.番号が読みづらいので、数字を書き込んだ。

 この図版説明は結構難解で、臼歯を後ろから順に説明していたりするから、現代風に書き直した。また臼歯の「上面観」(von oben gesehenなど)というのは、歯の歯冠側の意味だから上顎臼歯では腹側になる。さらにpraetritenとposttritenというのは、臼歯の横稜の先に摩耗する側と後で減る側という意味で、マストドン類に特有の用語である。
 Michael Vacek (1848−1925)はオーストリアの古生物学者。

 では次の属に進もう。
5. 属Serridentinus Osborn 1923
 鹿間は、次の論文でannectensSerridentimus属に含めて記した。
○ 鹿間時夫, 1937. 日本産化石長鼻類の標本産地及び文献. 斎藤報恩会時報. No. 122: 9-28.
 この論文は表題のように象化石の産出地のリストで、その初頭にSerridentinus annectens (Matsumoto) が記録されている。そういう文章だから、この属を適用した理由や、Serridentinus属の出典が書かれているわけではない。Serridentinus属を記載したのは次の論文。
○ Osborn, Henry Fairfield, 1923. New Subfamily, Generic and Specific Stages in the Evolution of the Proboscidea. Amer. Mus. Novitatus, no. 99: 1-4. (長鼻類の進化に現れる新亜科、新属、新種)
 下記の多くの新亜科・新属・新種を提唱した論文。
p. 1 Moeritheriinae, new subfamily, Winge- Osborn
p. 1 Zygolophodintinae, new subfamily
p. 1 Cuvieronius, new genus
p. 2 Serridentinus, new genus
p. 2 Prostegodon, new genus, Matsumoto
p. 2 Serridentinus simplicidens, new species
p. 3から4 Triliphodon progressus, など5つのnew species (省略)
 属Serridentinusの記事はたった3行。模式種はMastodon productus Copen など5種が列記してある。こういう場合には最初のものを模式種にするのだろうか。アメリカの南西海岸に特徴的に産する、として、形態的にはTrilophodon と臼歯の先に鋸歯が現れるとしている。その通りなら、annectensはこれに合わない。「Trilophodon全種の観察が必要」となっている。この論文には、図はない。
 このようにannectensを属Serridentinusに入れた理由はよくわからない。

 あとは現在使われている次の属が残る。
6. 属Gomphotherium Burmeister, 1837.
 これについては「古い本」168ですでに記した。

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