写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

「錦川の恵み」

2006年06月23日 | 季節・自然・植物
 6月19日にこのブログに書いている「天然鮎」という、1000字足らずのエッセイを500字にスリム化して新聞に投稿していた。

 半分の文字数に圧縮すると、残るものは骨と筋だけになるのではと思ったが、結構体脂肪が多かったせいか、なんとかまとめることが出来た。

 今朝、姉からの電話で、掲載されていることを知った。文章は、書き始めから制限字数を意識して書いたほうが良いといわれている。

 私の場合は、いつも書き終わった後、制限字数に絞り込むやり方だ。やってみて、これでまずいとも思えない。人それぞれか……。

 時間のある方は、よろしければ両方の文を読み比べてみてください。本日の掲載文は以下の通りです。
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 「錦川の恵み」

 梅雨の中休み、犬を連れて錦帯橋に行った。ズボンを膝までまくりあげ、川の中へ誘う。短い脚が水底に届かなくなったとき、前脚で上手に犬かきを始めた。

 泳ぐには少し早いのか、橋脚の石畳に上がった時、足を震わせている。ブルブルッと身体を回した後は、天日干しで我慢させた。

 3人の釣り人が流れの中に膝上まで入り、竿を操っている。「あっ、Sさんだ」。久しぶりに見る会社の先輩がいた。

 悠々自適とはこのことだろう。近くに住み鮎掛けを楽しんでいると言う。胸までのゴム長靴をはき、いっぱしの漁師姿であった。

 10分くらいの間に、2匹が釣れた。「まだまだ小さいよ」と言う。「好きならあげるよ」「いや、そんなぁ」「ええよ、持って帰えりんさい」「いや、いいですよ」と言いつつも、川に沈めてある生簀の中の鮎を5匹もポリ袋に入れてもらった。

頭の下の淡い黄色の斑点が天然のしるしか。川に入り、9mもの竿を3時間も振り回す。「いい運動になるよ」と笑っていた。

 急ぎ家に帰って塩焼の準備をする。「今夜は、ワインでいきましょう」。ワイン党の妻の機嫌がいい。

 台所からプーンと香ばしく焼けた苔のにおいがし始めた。さあ、今夜は頂き物の錦川の旬の恵みで乾杯だ。
   (2006.06.23 中国新聞「広場」掲載)