写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

天然鮎

2006年06月19日 | 季節・自然・植物
 梅雨の中休み、天気のいい日曜日、まだ陽の高い夕方、ハートリーを連れて錦帯橋に行った。

 暑苦しい部屋の中で、1日中口を開けてハ~ハ~やっているハートリーを橋の下へ連れて行った。

 ズボンを膝までまくりあげ、水かさの増えた川の中へ誘う。何のためらいもなく気持ちよさそうについてきた。

 短い脚が水底に届かなくなったとき、前足で上手に犬かきを始めた。鼻先を上にあげ、天性の泳ぎのうまさである。

 まだ泳ぐには少し早いか。石畳に上がった時、後ろ足を震わせている。拭いてやるものは何も持ってきていなかった。

 自分でブルブルッと身体を回し水気を切った後は、天日干しで我慢させた。乾くまで橋脚の日陰に座って川の流れを見ていた。

 3人の釣り人が、膝上まで流れの中に入り、鉛の先につけた針を背中の後ろから回して半円状に竿を操っている。

 私に1番近い釣り人の横顔を見た。「あっ、Sさんっ」。久しぶりの顔だった。会社で一緒に仕事をしたことのある先輩であった。

 悠々自適とはこのことだろう。錦帯橋の近くに住み、釣り人が少ないときを狙って鮎掛けに来ていると言う。胸まであるゴム長靴をはき、いっぱしの漁師姿であった。

 見ている10分くらいの間に、2匹が釣れた。「まだまだ小さいよ」と言い。本当に小さなものはまた川に戻している。釣り人のマナーだろう。

 「好きならあげるよ」「いや、苦労して釣ったものですから、そんなぁ」「ええよ、持って帰えりんさい」「いや、いいですよ」

 と言いつつも、川に沈めてある生簀箱の中の、元気のいい鮎を5匹もポリ袋に入れてもらった。頭の下の淡い黄色の斑点が天然のしるしか。体が光っている。

 川に入り、9mもの竿を3時間も振り回す。「いい運動になるよ」と笑っていたが、かなりの重労働に思えた。

 現役時代の思い出話をしばらくして別れ、急ぎ家に帰って塩焼の準備をする。「今夜は、ワインでいきましょう」。ワイン党の妻の機嫌がいい。

 これを書いている背中から、プーンと香ばしく焼けた苔のにおいがし始めた。ハートリーも鼻をくんくんさせ始めている。

 さあ、今夜は頂き物の錦川の旬の恵みで乾杯だ~。
  (写真は、先輩からの頂き物「錦川の天然鮎」)