自然日誌 たかつき

自然についての問わず語りです。

クルマユリの話

2012年06月27日 | 植物 plants
しばらく続いたアファンの森の話題が一区切りつきました。今日はいつもと違う話題です。

 最近、とあるきっかけで中国内モンゴル出身の女性と知り合いになりました。さまざまな時代の流れがあり、今は日本市民として暮らしておられます。日本に留学して物理学を研究しておられたそうですが、いかにも聡明な感じの方です。お話をうかがうにつけ、植物が好きだということがわかりました。私は何度か経験したことがありますが、生き物好きというのは国を越えて「あなたもわかるんですね」という深い共感をもち、仲良くなれるものです。その人の植物の「好きさ」の程度はふつうの日本の市民よりはよほど上で、かなりの植物名を日本語でいえるほどです。私はモンゴルで写した植物の写真をまとめて図鑑のようなものを作っていますので、それを見ながらいろいろ話が弾みました。
 その「図鑑」の中にクルマユリがありました。モンゴルの草原でときどきみかけますが、「万緑叢中紅一点」とはこのこと、鮮やかな朱色が緑の中で映えます。ササユリなどの花に比べるとよほど小さく、径が5cmほどで、花びらが反り返っているのが、愛らしい印象があります。


モンゴルのクルマユリ 2010.6.30

 この花の写真をみて、彼女の表情が変化しました。そして次のような話をしてくれました。

 小学校に上がったくらいの頃、植物が好きで、草原に出ては花を見ていました。きれいな花があるととってきてはお母さんに名前を聞きました。ある日、今までに見たことのないきれいな花を見つけて、思わず摘んで家に帰りました。そうしたら思いがけないことにやさしいお母さんがきびしく叱ったそうです。
 「この花は昔はよくあったけど、今はほとんどなくなってしまったのよ。それをどうしてとってなんか来たの。どうせとるなら根からとってくれば、庭に植えればまた生えてくるのに。」
 彼女はクルマユリを摘んだ場所にいって、一生懸命根を探しました。でもいくら探しても見つかりません。そのうち夕方になり、暗くなってきましたが、見つからず、とうとうあきらめて家に帰りました。


 私には彼女が6、7歳のときの姿が眼に浮かびました。そしてあの地平線の見える草原の夕方、太陽が落ちようとすると、自分の陰が遠くまで伸びる、あの夕焼けの中で、涙を流しながらクルマユリの根を探している少女のことを想像しました。

 この話がとても印象的だったので、もう一度会ったときに、
「泣いたでしょう」
と聞きましたが
「覚えていません」
という返事でした。でもモンゴルの子供は両親をとても尊敬します。お母さんに叱られたら、どうしてよいかわからなくなって泣いていたに違いないと思います。
 おだやかで、ややうつむきかげんで静かに話をする彼女が花のことになると浮き浮きしたようすになったことが印象的でした。私が撮った一枚の写真が、忘れていた彼女の記憶を呼び覚ましたらしく、母国のお母さんに電話をしてこの花の話をしたそうです。
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