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自然日誌 たかつき

自然についての問わず語りです。

乙女高原7月 4

2023年10月05日 | 乙女高原
もう一つの卒論研究は訪花昆虫調査です。乙女高原の中には歩道があるので、ここをゆっくり歩きながら右側の幅2mほどの中にある花に昆虫がきていたら記録するという調査をしました。
2013年の結果のうち、最も多かった8月にはルート1000mに123の訪花昆虫が記録されました。ハエ・アブが約半数でした。
これが柵を作って7年経過した昨年、比較のためのデータを取ることにしました。8月のデータを見ると実に1150と、9.3倍にも増加したことがわかったのです。つまり柵を作ることで昆虫で受粉する虫媒花が増え、その花に訪れる昆虫が10倍近くにも増えたということです。
 これはまさに生物多様性の回復であり、私たちは喜びました。このような背景があり、同じ調査を今年も継続しています。7月11日に調査をしました。





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乙女高原7月  3

2023年10月03日 | 乙女高原
私たちはその次に刈り取り実験をしました。

5月に、芽生えてきた植物の茎に針金を回してビニールテープでマーキングしました。その後高さを追跡しました。このグラフで刈り取らなかったのは黒線で、刈り取った方が破線です。途中で止まっているのは、枯れてしまったことを示します。上のだんのキンバイソウ、タムラソウなどは7月で枯れてしまいました。イタドリ、クガイソウなどは生き残りましたが、背丈が低くなりました。しかしススキとヤマハギは違いがありません。ススキは再生力があることはすでに説明しました。ヤマハギはもともと枝を多く出すので、刈り取りには強いようです。



 ススキについては何もしない「対象区」、6月だけに刈り取る「6月区」、9月だけに刈り取る「9月区」、6げつと9月の両方で刈り取り「6・9月区」という異なる処理をして、5年間追跡しました。6月かりは背は低くなりましたが、安定していました。9月に刈り取ると、成長し切ってからですからダメージが大きく、だんだん低くなりました。「6・9月区」はダブルパンチなので4年目には草たけが10cm以下になり、やっと生きているという感じになりました。

 シカの影響は時々食べるというものですから、6月区に近いものと思われます。
そうすると同じシカの採食に対してススキは影響が小さいまま維持されるのに、双子葉草本類は強いダメージを受けるということが進行しているということになります。それを図示したのが下の図です。



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乙女高原7月 2

2023年10月02日 | 乙女高原
乙女高原での卒論のもう一つ、柵内外の草丈変化の追跡も良い結果が得られました。


乙女高原の主要植物の草丈の月変化(Takahashi et al. 2013より こちら)

 これを見ると、ほとんどの植物が柵の外で低く、中で高いことがわかります。*印がついているのは、統計学的に有意差があるという意味です。その中で柵内外で違いがないのが2種ありました。右下のススキとヨツバヒヨドリです。
 ススキは刈り取りに強く、よほど強い刈り取りがないと生育が抑制されません。一方、ヨツバヒヨドリはシカが好まない草です。柵の外を注意して観察すると多くの種には時々シカの食べ跡があります。

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乙女高原7月 1

2023年10月01日 | 乙女高原
長いモンゴルの報告を終えました。その前に遡ります。7月11日に乙女高原で訪花昆虫の調査をしました。ここでは、2010年くらいに、それまで豊富にあった色とりどりの花が少なくなり、ススキだけが多い草原になっていました。ここで長年観察や保護活動を熱心に進めている植原彰さんに声をかけられて、調査をすることになりました。植原さんは優れたナチュラリストで植物も昆虫も鳥類も、なんでも詳しく、乙女高原のことなら文字通り行き字引きのような人です。彼はこの変化をシカによるものではないかと思い、私にそうであればそれを調べて、証拠を示してもらえないかと相談してきました。
 そこで私は学生の卒論テーマとして、一つはシカの食性、もう一つは実験的に作られた一辺が10メートルほどの柵の内外の植物の草丈の伸びを毎月調べるということをしてもらいました。食性は夏はイネ科、冬はミヤコザサが主要な食物であることがわかりました(こちら)。
乙女高原のシカの糞組成の月変化(Takahashi et al. 2013より)
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乙女高原 6月2

2022年09月13日 | 乙女高原
このとき一番印象的だったのはサクラスミレで、こんなにたくさんあるところは他に知りません。


サクラスミレ

感激してスケッチを試みました。
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乙女高原 6月

2022年09月12日 | 乙女高原
7月27日にモンゴルから帰り、第一印象は「うわっ、これは蒸し風呂だ!」でした。気温もさることながら、湿度がすごい、これはかなわんと思いました。そのモンゴルの報告が40回も重なったので、他の話題を棚にあげることになりました。

その前の6月28日に山梨の乙女高原に行きました。訪花昆虫の調査ですが、まだ緑が浅く、あまり昆虫はいませんでした。



新緑が爽やかでした。
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乙女高原での春の訪花昆虫調査 4

2022年06月02日 | 乙女高原
++++++ その後のこと +++++++++

 マメな植原さんから早速記録シートが送られてきました。それを集計したのが下の表です。コースの長さはまちまちなので、所要時間は7分から1時間まで違いましたが、速度の違いはそれほどではなく、遅いところでは150m/時くらい、速いところでは300m/時を超えたところもありました。これを全部まとめて昆虫の発見率を計算すると、1.9匹/10mとなりました。つまり距離10m歩いて2匹ほどが見られたということです。これを去年の8月と比べると、去年は10.7匹/10mで、今回は6分の1ほどでした。


 記録された花はミツバツチグリが74.0%、キジムシロが23.1%で大半を占めました。ごく少数ではありましたが、サクラスミレとエゾノタチツボスミレにも昆虫が来ているのが記録されました。
訪花が記録された花の数の内訳


 昆虫は甲虫が最も多く65.7%、ハエ・アブが21.9%これに次ぎ、ハチが第3位(10.7%)でした。

訪花が記録された昆虫の数の内訳

 あとで昆虫の写真を送ってもらったので、花ごとに並べて見ました。サクラスミレに来ていた蝶はミヤマセセリで、岡崎さんの撮影です。

主な花と昆虫の組み合わせ

 私が採集した昆虫を撮影しました。植原さんによると、甲虫1はルリマルノミハムシの可能性大、甲虫3, 4はモモブトカミキリモドキの可能性大とのことです。モモブトカミキリモドキは3の方がオスで名前の由来になっています。植原さんのブログに登場しています(こちら)。これはヒメツチハンミョウと同じ成分の毒を持っているということです。上の野外写真でもよく写っていますが、記録をしていても一番多く見ました。

採集された昆虫。格子間隔は5 mm

 皆さんに撮影してもらったライン状の10メートル間隔の方形枠の写真から花の数を推定しました。方形区の数は114で、花の数はミツバツチグリが82
キジムシロが16、そのどちらか1、サクラスミレが16で、合計は115でした。フデリンドウはあったかもしれませんが、この撮影法では見つかりませんでした。
 これは1平方メートルあたり1.0個と言うことになります。正、実際には全ての場所に平均1個の葉長あるのではなく、114のうち葉長あったのは36個(32%)で、3分の2には花はなかったということで、あるところにはまとまってあるということです。


図. 方形区(1 m x 1 m)内の花の数を多いものから並べたず。
3分の2は花がなかった。

これは草丈の低い草本だからかもしれません。今後の調査ではもっと花が増えますから、その変化も追跡したいと思います。

++++++ 今後のこと ++++++++

 このあと、花も昆虫も増えるはずです。月一回の頻度で季節変化を調べたいと思います。楽しく調査に協力してくださったみなさんに感謝です。ありがとうございました。

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乙女高原での春の訪花昆虫調査 3

2022年06月01日 | 乙女高原
 それからやり残していた10 メートルごとに花の撮影をし、昆虫採集をすることをお願いしたのですが、これが意外に大変で時間もかかってしまい、申し訳ないことになり、時間切れで全部はできませんでした。ただ、目的は果たせました。私と芳賀さんは昆虫採集をしました。あまりいませんでしたが、甲虫類などいくつか採れました。

ゲートから草原を見る

 最後に記念撮影をして解散としました。


左から:鈴木、岡崎、井上、芳賀、植原、高槻

 天気の良い乙女高原で春の花と昆虫の記録ができ、充実した気持ちで植原号で下山しました。車中、この調査の意義や高校生などに参加してもらいたいなどの話をしました。

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乙女高原での春の訪花昆虫調査 2

2022年05月31日 | 乙女高原
  尾根が近づくと林を抜けて草原的な環境になり、下の景色がよくみえ、薄緑色の新緑がきれいでした。
新緑

 もう一度来るのは賢明でないと判断して、10 メートルごとの花の写真を撮影したので、皆さんを待たせたまま遅くなり、お腹がぺこぺこになりました。

 「お待たせしました!」
とロッジの前に行くと、皆さんテーブルでお待ちかねで、早速お弁当にしました。植原さんがワラビのおひたしを出してくれて、皆さんアク抜きの話に盛り上がっていました。野鳥の話や、オニグルミの花の赤がかわいいとか、「あれが黄色いのが高尾山にあるのよ」と岡崎さん、と次々に話題が広がりました。
 芳賀さんの近所に90歳になるおじいさんがいて、働き者でいつも動いていて「回遊魚みたい」というので笑いました。植原さんが
「俺もそういうところがあるかも」。
あのマメさからすればさもありなんです。でも弁当を食べてまっとりしたので
「いや、やっぱ回遊魚じゃないな」
と植原さん。
「回遊魚じゃなく、底生魚だな」
「ヒラメとか」(笑)

 「これも食べて」
と芳賀さんが漬物などを出してくれましたが、つけた梅がおいしかったです。
「トマトもどうぞ」
と言われたのですが、私はトマトとがダメなので
「ごめんなさい、私はどうもトマトは苦手なもんで」
というと皆さん笑いました。それで好き嫌いの話になって岡崎さんが納豆はダメだというような話になりました。
「好き嫌いがないということは、ものの違いがわからないということなんですよ」
と負けず嫌いを言ったら
「ものはいいようだね」
「なーるほど」
「それ、使わせてもらう」
など反応がいろいろでした。

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乙女高原での春の訪花昆虫調査 1

2022年05月30日 | 乙女高原
訪花昆虫調査(2022年5月28日)の報告

高槻成紀

 去年(2021年)の夏に乙女高原で訪花昆虫の調査をして、柵ができる前の10倍もの記録がとれて、柵が設置されたことで、花が戻ってきたと同時に昆虫も戻ってきたことを大いに喜びました。まとめた後で「来年はシーズンの初めから続けて調べたいね」という話になり、5月下旬に予定しました。当日(5月28日)は幸い、快晴の気持ち良い天気になりました。
 私が塩山の駅に10時についたので、皆さんお待ちかねで申し訳なく思いました。早速説明をして、11時半くらいから各々が持ち場について調査を始めることにしました。


「いざ出発」

 5月下旬とはいえ、乙女高原ではまだ草が伸び始めといった感じで、主な花はミツバツチグリとキジムシロでした。所々でフデリンドウを見つけて喜びました。私は芳賀さんと一緒に作業をすることになり、西側の林の登山道沿いの場所を調べることになりました。

コース(A, B, C・・・)と境界の番号

 100メートルの巻尺を張りながらの上りは思ったより大変でした。始めてすぐにサクラスミレがあり、しかもそれがたくさんあって感激しました。こんなにたくさんのサクラスミレを見たのは初めてです。

サクラスミレ

 肝心の昆虫は探すとなかなかいません。しばらくしてようやくキジムシロに小さな甲虫が来ていました。そうすると巻尺で今、何メートルのところにいるかを記録し、それから花の名前と昆虫を記録しました。

キジムシロに甲虫

 100 メートルの巻尺いっぱいになりましたが、まだラインAは続きます。ここでUターンして記録を取り、巻尺を巻き直して100 メートルの続きを始めました。ミツバツチグリとキジムシロにはいくつか記録が取れましたが、サクラスミレには昆虫が見つからないのにはちょっとがっかりしました。
 こうして山道を登って行きましたが、高くなるとマイヅルソウが出てきました。ただ、まだツボミでした。その辺りで「あれ?」と思いました。白いスミレです。「もしや?」と思いました。その「もしや」は「やっぱり」でした。エゾノタチツボスミレです。

エゾノタチツボスミレ

 これはアファンの森で初めて見て、感激したもので、その後他の場所では見ていませんでした。スラリと背が高く、花が純白で格別な印象です。しかも昆虫が来ているのも確認できて大満足でした。
 ただし、まだまだ上りがつづくので、二人ともペースダウンです。年代が同じことがわかって「長嶋が大好きだった」とか「昔70歳といえばヨボヨボの爺さんと思っていたのに、自分がなるとなんだかね」などととりとめもない話を楽しみました。
 昭和30年代の山陰では、男の子が花が好きというのは「男のくせに花が好きだなんて」と言われるのが恥ずかしくて秘密にしていたものです。芳賀さんは「わかる、わかる。私が山を歩き始めた時、山なんか行ってどうするの、と言われたの」と二人で時代の違いに納得しました。


 
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