野外調査が終わってからがなかなか大変です。データが膨大なのでその入力が大変なのです。それをまとめたのが以下の報告です。
調査者:井上敬子、植原 彰、奥平純太、奥平めぐみ、
高槻成紀、芳賀月子、松林一彦
報告者:高槻成紀
2023年8月19日に訪花昆虫の調査を実施した。調査法などはこれまでと同じである。
訪花昆虫の記録数を見ると、6月から大きく増加し、8月19日には2268に達した(図1)
その昆虫の内訳を見るといずれも大きく増加しているが、7月下旬にはハエ・アブが過半数を占めたが、8月にはハチとマルハナバチが大きく増加したため、相対値はやや小さくなった。
図1. 訪花昆虫の内訳の推移
花の数としてはヤマハギが最多で、ノハラアザミ、シラヤマギク、マツムシソウ、イタドリなどが続いた(図2)。
図2.昆虫の訪花が確認された花の数(2023年8月19日)
記録数が100以上であった花について、訪花昆虫ごとの訪花数を比較した(図3)。このグラフでは左側に吻が棍棒状で蜜を舐めるタイプであるハエ・アブを並べた。その右にハチ、マルハナバチ、チョウなど蜜を吸うタイプを並べ、アリ、甲虫はそのような類型からするとさほど特徴がない。
シラヤマギク、マツムシソウ、ヨツバヒヨドリではハエ・アブが集中的に訪問していた(図3a)。これらは筒形であるから、ハエ・アブは吸蜜しにくいはずである。したがってハエ・アブは吸蜜ではなく、花粉を食べるなどの目的で訪問するのかもしれない。オミナエシとノダケはハエ・アブが多く、花は皿型なので説明がつくが、ハチ、甲虫なども訪問していた。
図3a. ハエ・アブの訪問が多かった花の訪花昆虫の内訳
一方、ヤマハギ、ノハラアザミ、タチフウロはマルハナバチが集中的に訪問していた(図3b)。ヤマハギとノハラアザミは筒状花であるから説明がつくが、タチフウロは皿型であり、花の形だけでは説明がつかない。ただしタチフウロの場合はハエ・アブやハチも訪問していた。
図3b. マルハナバチの訪問が多かった花3種の訪花昆虫の内訳
昨年まで訪花の記録のなかったヤナギランに18例の記録があった。その内訳は全てハチであり、過半数の11例はマルハナバチであった(図3c)。
図3c. ヤナギランへの訪花昆虫の内訳
ヤナギランの花は典型的な筒状であり(図4)、マルハナバチの訪問が多かったのはよく説明がつく。
図4. ヤナギランの花
柵を作ってすぐに回復した種もあれば、ヤナギランのように少し時間をかけて回復するものもあるようで、訪花昆虫との「リンク」は今後さらに豊かになることが期待される。