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実践コミュニティ

組織学習論において、「実践コミュニティ(community of practice)」という概念は重要である。しかし、なぜかわかりにくい。というのは、実践コミュニティが「非公式」で「自律的」な活動であるがゆえに、見えにくいし、マネジメントもしにくいからだ。また、非公式ネットワーク・グループとも区別しにくい。

実践コミュニティ論の第一人者であるウェンガーによれば、「共通の専門スキルや事業へのコミットメント(熱意や献身)によって非公式に結びついた人々のグループ」が実践コミュニティである。単なる非公式グループとの違いは、その目的にある。実践コミュニティは、「仕事上の共通課題」に関心を寄せる人々の集まりである。

単に気の合う人々が集まった会社の飲み仲間は非公式グループではあるが実践コミュニティとはいえない。これに対し、提案型営業に関心のある営業担当者が自主的に開いた勉強会や、内部統制の最新情報を理解するために総務担当者が立ち上げた研究会などは、実践コミュニティに当たる。

多様な実践コミュニティが存在する組織は強い。なぜなら、それだけ問題意識や熱意のある人々がたくさんいて、そこから有用な仕事上の工夫が生み出されるからである。ここで問題となるのは、実践コミュニティが「非公式で自主的」であるがゆえに、壊れやすく消えやすいという点にある。

だから会社は、実践コミュニティを公式に管理しようとする。例えば、コミュニティのリーダーを指名し、成果を評価し、報酬を与える。しかし、公式的に管理したとたんに「非公式で自主的」性格を持つ実践コミュニティの強みが失われ、内発的なモチベーションから生まれるパワーが低下してしまう危険性がある。どうすればいいのか?

個人的には、実践コミュニティを厳密に管理することを避け、支援することに徹する方がよいと思う。例えば、一定の職務時間をコミュニティ活動に使うことを承認したり、場所を提供したり、活動の存在を組織内に広めることに留めておくべきではないか。実践コミュニティには必ず熱意を持ったリーダーが存在する。彼・彼女が動きやすいようにサポートしていくことが大切になる。

ウェンガーが言うように、コミュニティへの参加を促すのは、あくまでも参加することで得られる利益である。コミュニティに参加することで問題が解決したり、新しいアイデアが得られたり、熱い同僚と交流できるという魅力である。実践コミュニティをうまくマネジメントできる組織こそ、学習する組織といえるだろう。

出所:ウェンガー&スナイダー「場のイノベーション・パワー」ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー2000.August: 120-129.
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