ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第45回 Weingut Vincenz Richter<1>@「キャッチ The 生産者」

2009-06-16 09:52:14 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2008年4月21日)

第45回  Thomas Herrlich <Weingut Vincenz Richter><1>

ドイツのザクセン地域のワイナリー第3弾は、今回もマイセンからです。

エルベ川のほとりに建つ ヴィンセンツ・リヒター に、
5代目の トーマス・ヘルリッヒ さんを訪ねました。


<Thoma Herrlich> (トーマス・ヘルリッヒ)
44歳。1990年からヴィンセンツ・リヒターの5代目当主。
一番好きなワインはリースリング。
家では2人の男の子のパパ


マイセンの実力者 “ヴィンセンツ・リヒター” へ

同じマイセンといっても、ここは前回紹介したシュロス・プロシュヴィッツとは全く位置的に異なり、マイセンの市街地からエルベ川沿いの道(Dresdner Strasse)をドレスデン方面に遡っていくと、左手に小さなワイナリーが見えてきます。



入り口を入ったところにある小さなレセプションルームでは試飲もでき、お得意様なのでしょうか、ときどき人がやって来ては、ワインをケース単位買っていきます。


それにしても、エルベ川は道を挟んだすぐ前!

川の流れる風景を見ていると、日本にもこんなところがあったような…、と懐かしく感じました。


ブドウ畑は醸造所の裏手斜面に広がっています

畑の奥行きはかなり短めですが、南西向きの斜面のため、日照条件は非常に良さそうです。
ここの区画が “Kapitelberg” (カピテルベルク)になります。



Q.5代目ということですが、ワイナリーの歴史は?
A.1873年に帝政ドイツ軍の大佐だったヴィンセンツ・リヒターがワインをつくり始めたことが始まりで、130年以上の歴史があります。



Q.畑はどのくらい所有していますか?
A.総面積は8.5haあります。

最も栽培面積の多いのがリースリングで(45.9%)、ミュラー・トゥルガウ(21.9%)、シュペートブルグンダー(=ピノ・ノワール)(9.6%)、ケルナー(8.3%)、ヴァイスブルグンダー(5.3%)、ショイレーベ(4.5%)、カベルネ・ドルサ(2.9%)、トラミナー(1.3%)という順になっています。


Q.このあたりの土壌はどんなタイプでしょうか?
A.花崗岩と、花崗岩が風化したものと、レス(黄土)土壌になります。


Q.白ワインが中心(88%)ということですが、特別なロゼワインもあるとか?
A.はい、独自の圧搾機を使い、1990年に私が初めて
“マイスナー・シラーヴァイン”(Meissner Schillerwein)をつくりました。


右端がシラーヴァインのロゼ

シラーヴァインはヴュルテムベルク地方でつくられていますが、白ブドウと黒ブドウの果汁をブレンド後、発酵させます(ロートリング)。

グラスの中でキラキラ輝くことから、ドイツ語の“輝く”(schillern)(シラーン)が語源になっています。


真ん中がシラーヴァイン用のラベル



Q.ワインづくりにおける哲学は?
A.新旧の融合ですね。伝統的なものを守りつつ、特に栽培においてですが、醸造の方は最新のテクノロジーを用いています。



ワインのスタイルも、伝統的なものもありますが、収量を落として最新醸造技術でつくったハイクオリティワインもあります。



Q.コロンとしたボトルの形が独特ですが?
A.これはザクセンの伝統的な形状で、 “Sachsen Keule”(ザクセン・コイル) (ザクセンのモモ肉の意味)と呼ばれています。
つまり、これは人間の「太モモ」の形から来ているんです(笑)





Q.マイセンの市街地レストラン 「ヴィンセンツ・リヒター」 も経営されていますね?
A.1873年から家族経営でレストランを始めました。
建物は非常に歴史的価値が高く、骨董品や古い武器などをたくさん所有しています。


レストランの内部

1992年には、旧東ドイツのレストランでは初めて“ロマンティックレストラン・ホテル”の会員になりました。


レストランの外観

 → このレストラン にも行ってきました。 リポートは <2>


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第44回 Weingut Schloss Proschwitz<2>@「キャッチ The 生産者」

2009-06-15 09:11:42 | キャッチ The 生産者
 

第44回  Antje Neumann
<Weingut Schloss Proschwitz Prinz Zur Lippe>  <2>

ドイツ、ザクセン地方のワイン生産者「シュロス・プロシュヴィッツ」の訪問記<2>です

 *<1> から読みたい方は → コチラ へどうぞ
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<1>から続く アンテ・ノイマンさんへのQ&Aです



Q.ザクセンというと、 「ゴルトリースリング」の名前も聞きますが?
A.フランスのアルザスから12世紀にやってきたといわれる品種で、軽いワインになります。夏の夕方などに楽しむのにぴったりです。


Q.ラベルの王冠が赤のものと緑のものがありますが?
A.は自社畑のぶどうからつくったワインで、のものは契約栽培の農家から買ったぶどうでつくったワインです。

契約農家といっても、長い間の信頼関係があり、ぶどうの品質はどれも最高のものばかりです。


ジャム、チョコ、スピリッツ類もつくっています

Q.ボトルの形も特徴的ですね?
A.当社のワインボトルは、ダークグリーンのスレンダーな形のものを伝統としています。


Q.販売先はどうなっていますか?
A.直販のお客様(40%)、パリやベルリンのホテルや高級レストラン(20%)、国内のワイン専門店(40%)が主な販売先で、ディスカウントショップには置きません。

輸出は陶磁器関係のルートから台湾に少々、そして日本にのみ出荷しています。
アメリカやフランスには輸出していません(パリの星付きレストラン等を除く)。



<テイスティングしたワイン>


Spatburgunger Rose 2006 Sekt

サーモンピンクが美しい辛口のゼクト(スパークリングワイン)で、口当たりも非常にクリーミーでスムーズ。



Muller-Thurgau Quualitatwein Trocken 2006

酸が比較的ありますが、口当たりはソフトで、スパイシーな感じもある辛口白ワインです。



Grauburgunser Spatlese Trocken 2006

これも辛口白。ミュラートゥルガルより酸がもっと凝縮された味わいを感じました。



Fruhburgunder Qualitatswein Trocken 2005

フラウブルグンダーという黒ぶどうからつくられた赤ワインです。
フラウブルグンダーはシュペートブルグンダーの早期熟成種らしく、味わいもピノ・ノワールに似ていますが、アロマにおいてもう少し複雑さを感じました。1.2haと少量だけ栽培しています



Traminer Auslese 2003

トラミナー種からつくられた甘口ワインで、甘さは濃厚ですが、ピュアな味わいです。

アンテさんのお勧めマリアージュは、
「ゴルゴンゾーラチーズに蜂蜜をかけたものやチョコレートケーキ」

う~ん、それはバッチリ合いそうです。

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インタビューを終えて

ワイナリーを後にし、マイセンの街の中心部まで送ってもらう途中、エルベ川沿いの道を走りましたが、進行方向左手になる川の北側部分は崖になっていて、赤い岩の層が見られました。

アンテさんによると、これは花崗岩で、この花崗岩の岩盤の上に6mのローム層が載っているとのこと。
赤い花崗岩の持つミネラルが、この地のワインにミネラル豊かなアロマを与えてくれるといいます。

そうしたミネラル感は、実際にそれほどハッキリとワインに感じることはありませんでしたが、どのワインも辛口でほどよい骨格を持ち、食卓に喜びを与えてくれるものばかりだと思いました。

この地の人々の生活には、ごく自然にワインが溶け込んでいるようで、ワイナリーにあるブティックには、ワインをケース単位で買いに来た地元の人が車でやってきていました。


典型的ドイツ美人のアンテさん

シュロス・プロシュヴィッツは個人経営のワイナリーですが、従業員は60名とザクセンでは珍しく大規模で、前回紹介したクラウス・ツィマーリング(クラウスさんが1人でワインづくりをしている)と対照的です。

ただ、これだけの規模(年間生産量約30万本)のワイナリーでも、国内販売がほとんどで、輸出はほんのわずかということですから、ザクセンの他の小さい生産者のワインを日本で見ることはほとんどないわけです。

ただ、アンテさんも言っていた通り、シュロス・プロシュヴィッツのワインは日本にも少量入ってきています。

ドイツの東端でつくられているワインがどんな味わいなのか気になる方は、探してみてはいかがでしょうか?



*ザーデルのワイナリーでは手頃な価格で宿泊できる施設も用意されています。
 ただいま、下のような部屋も拡張中で、次回は私も泊まりたい!と思いました。



雰囲気のいいお部屋(バス付き)


ステキなパーティルームもありました


* 取材協力:ドイツワイン基金

      (株)日野屋  http://www.hinoya.com/

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以下もぜひご覧ください

シュロス・プロシュヴィッツの「ゴルトリースリング」の詳細は → コチラ

シュロス・プロシュヴィッツ製の「チョコレート」の画像は     → コチラ

シュロス・プロシュヴィッツの「バックラベル」エトセトラは    → コチラ



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第44回 Weingut Schloss Proschwitz<1>@「キャッチ The 生産者」

2009-06-14 10:07:37 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2008年3月21日)

第44回  Antje Neumann
  <Weingut Schloss Proschwitz Prinz Zur Lippe>  <1>

今回はドイツのザクセン地域のワイナリー紹介第2弾ということで、
シュロス・プロシュヴィッツアンテ・ノイマンさんを紹介します 。


<Antje Neumann> (アンテ・ノイマン)
シュロス・プロシュヴィッツの広報担当。
好きでよく飲むのは白ワインだそうです。


ザクセン最古のワイン醸造所

シュロス・プロシュヴィッツを紹介する際のキーワードは二つあります。
ひとつは 「ザクセン最古」、そしてもうひとつは 「ザクセン最大の個人所有」 です。

プロシュヴィッツ醸造所はザクセンで800年以上の歴史があります。
この地でのぶどう栽培は11世紀から始まっていたといわれ、特に16世紀に大きく繁栄しました。
その頃は貴族や王族がワイン産業に非常に興味を示していたことも、発展を後押ししたといいます。

現在、シュロス・プロシュヴィッツ醸造所はリッペ家が所有しています。
リッペ家は12世紀にまで遡る古い貴族の家柄で、ヨーロッパの王室などとも縁が深い家系です。

それは 「Prinz Zur Lippe」 という名前からもわかるように、 現当主は「プリンツ」 (英語ではプリンス)、つまり「王子」というわけですが(当主の正式な名前はDr. George Prinz Zur Lippe、50歳)、今に至るまでには、リッペ家には色々なことがあったようです。

リッペ家はザクセンに1900年代の初めの頃から居を構え、1918年からはドイツ政府の支配下に入りました。その後、1945年以降に西ドイツに移り、ホテル業をはじめ、さまざまなビジネスに携わってきました。

さて、その後のリッペ家がどうなったのかは、アンテさんに話を伺うことにしましょう。





マイセンでのワインづくり

マイセンはザクセンの中心地であるドレスデンから普通電車で北西に約40分行ったところに位置します。ドレスデンを拠点に観光すると、余裕をもって日帰りで行って帰ってこられる都市です。

マイセンは有名な陶磁器の産地として知られています。九州の有田とも姉妹都市の関係にあり、日本人にとってはなじみの深いドイツの都市のひとつではないでしょうか。

このあたりのぶどう畑はドレスデンから北に向かって流れるエルベ川沿いに広がり、ワイン生産地域でいえば、ベライヒ「マイセン」になります。

マイセンは陶磁器の名産地であっただけでなく、ワインの名産地でもあったわけです。

マイセンの街の中心部には大聖堂があり、私も見学してきましたが、その立派さはマイセンの司教の力の大きさを感じさせるものでした(下の写真参照)。



実は、シュロス・プロシュヴィッツの醸造所は1100年から1539年までマイセンの歴代司教の支配の下にあり、ザクセン地方の教会で使われる聖酒をつくってきたという歴史があります。

1539年以降、シュロス・プロシュヴィッツは色々な貴族によって支配され、第二次大戦の際にロシア共産党によって没収されるまで続いたのです。



マイセンの大聖堂から眺めたエルベ川



マイセンの駅でアンテ・ノイマンさんと待ち合わせをしてピックアップしてもらい、まずは車でぶどう畑に連れて行ってもらいました。

マイセンの駅前の通りは渋滞していましたが、エルベ川に架かる橋を渡る頃には順調な走りを見せ、左右に何もないガランと開けた野原(もしかしたら畑?)の中の田舎道を、アンテさんはビュンビュンと車を走らせます。



途中に見えるのは、なーんにもない平原・・・これは荒地?畑?


シュロス・プロシュヴィッツのぶどう畑はエルベ川を見下ろす南斜面に広がっていました。遠くにはマイセンの大聖堂も見えます。

川面に反射する光がまぶしく、もう12月だというのに豊かな日照を感じ、本当に気持ちの良いぶどう畑でした。



傾斜の奥に白く光って見えるのがエルベ川



Q.シュロス・プロシュヴィッツは個人としてザクセン最大のぶどう畑を所有しているということですが、広さはどのくらいありますか?
A.2007年現在のぶどう畑全体の広さは70haですが、ぶどうが植えられているのは50.2haです。

*ザクセン地域全体のぶどう畑の面積は450haですから、ここがかなり高い割合で畑を所有していることがわかります。



畑を見た後は再び車に乗り、今度は「シュロス」に向かいます。

「シュロス」とはドイツ語で「城」のことですが、「プリンツ」という名前から予想できたように、リッペ家はシュロスを所有し、当主家族はシュロスに住んでいます。

ただ、某テーマパークにあるようなお城ではなく、もっと落ち着いた雰囲気のお城です。



シュロス・プロシュヴィッツの外観


Q.ここは第二次大戦後の1945年から旧東ドイツ政府の所有になっていたということですが?
A.旧東ドイツ政府はなかなかシュロスを手放してくれなかったのですが、プリンツは多額のお金を積み、1990年から少しずつ買い戻していきました。
1997年には新しい醸造所も立て直しましたが、1990年から今日までの17年間で800万ユーロ(約14~15億円!)も投資したのです。



シュロス内を見学したところ、かなりの人数が会食できる部屋もあり、たしかに豪華ですが、シックな雰囲気が漂います。


シュロス内のガーデンホール


優雅なバンケットルーム


Q.こうした部屋はどんな時に使われるのですか?
A.実はシュロスはオープンにしています。先週はお茶とシュトレンを楽しむ100人のパーティがありましたし、ウエディングパーティーにも1日一組限定で貸し出しています。

シュロスに隣接する公園は誰もが入れますし、こうしたオープンな姿勢は当主プリンツの考えです。



次はシュロスから5km離れた Zadel (ザーデル)にあるワイナリーに移動です。


ザーデルにあるモダンなワイナリー

このワイナリーが1997年に完成したという新しいもので、外観はシュロスと雰囲気が似せてあります。

ところが、中に入ると、非常に近代的なつくりになっていました。


Q.このワイナリーはどんな特徴がありますか?
A.非常に近代的なスタイルの醸造所で、グラヴィティ・システムを利用し、収穫したぶどうを上から落とすなど、重力の力でぶどうや果汁、ワインを移動させ、ポンプの力を使わないようにしています。



左上のシューターからぶどうが落ちてタンクに入ります

プレスもソフトに行い、やさしい醸造を心がけ、温度コントロールのできる低温発酵システムも備えています。
マスト(発酵前の果汁)にケミカルなものは何も加えませんし、ワインを清澄する際にも化学的なものは使わず、ナチュラルなワインづくりを行っています。


セラー内はステンレスタンクがずらり


ただいま仕込み中のタンク


タンクの前面には細かな醸造記録が記されています


発酵中のワイン・・・ポコポコ湧いています


Q.どんなワインをつくっていますか?
A.栽培面積で一番多いのがグラウブルグンダー(=ピノ・グリ)の9.4haで、全体の18.8%あり、次がエルブリング4.5ha(11%)、バイスブルグンダー(=ピノ・ブラン)5.2ha(10.4%)、リースリング4.3ha(8.6%)と続きます。

赤ワインはシュペートブルグンダー(=ピノ・ノワール)が4.6ha(9.1%)、ドルンフェルダー4.2ha(8.3%)です。


Q.白ワインが多いですが、ザクセンの赤ワインの将来はいかがでしょうか?
A.ドルンフェルダーに大きな将来があると見ています。色も濃く、フルーツの感じがたっぷりとあるワインができています。

白はタンクで醸造しますが、赤ワインにはバリック樽を使います。アメリカンオークは甘くなりすぎるため、フレンチオークやサクソニアンオーク(ザクセン産)を使います。樽は6~7年で取り替えています。



赤ワインが熟成中の樽


 → Weingut Schloss Proschwitz <2> に続きます


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第43回 Weingut Zimmerling<2>@「キャッチ The 生産者」

2009-05-21 09:37:45 | キャッチ The 生産者
 

第43回  Klaus Zimmerling  <Weingut Zimmerling> <2>
 
ドイツ、ザクセン地方のワイン生産者「ツィマーリング」の訪問記<2>です

 *<1> から読みたい方は コチラ へどうぞ
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<テイスティングしたワイン>

ザクセンでは「品種名」がワインの名前となっています。

モーゼルやラインガウなど、他の産地では「畑名」が付いているのでわかりにくいですが、ザクセンのラベルは非常にシンプルで明確です。

(クラウスさんのラベルは写真が表で、ワイン名はバックラベルにあります)

また、味わいも基本は「辛口」です。

ラベル表示といい、味わいの点といい、やはり場所柄のせいか、オーストリアワインに近いスタイルのようです。



1) Weissburgunder -R- 2006 
2) Weissburgunder -A- 2006


この 「R」や「A」は、クラウスさんが勝手に付けたもので、ドイツのワイン法とは全く関係ない とのこと。

「R」は「リザーヴに近い」クラスのワインという意味とのことで、家の下の畑のブドウからつくったものは「R」が付いています。

「A」は「アウスレーゼに近い」クラスのワインという意味で、丘の上の畑のブドウからつくったものは基本的に「A」になるといいます。

丘の上の畑は下の畑より収穫が約10日間遅くなるため、その差が2つのワインに若干出ているように思います。



3) Grauer Burgunder 2006
4) Grauer Burgunder -A- 2004


グラウブルグンダーは暑い西の生産地ではうまくつくれず、冷涼な東の産地の方がよくできます。

2004年は夏が暑くなくて、ファンタスティックな10月を過ごしたので、酸がまだしっかり残り、糖のレベルも高く、いいワインができました」とクラウスさん。

いずれも爽やかで好ましいワインに感じました。



5) Riesling 2006
6) Riesling -R- 2006
7) Riesling -A- 2006


2006年は非常にリースリングが熟した年で、通常の年ならエクスレ度が90~100程度なのに、120まで上がりました」とクラウスさん。

5)はリースリングの香りというよりも花の香りが感じられ、非常にフローラルでやさしい感じのワインです。

6)はリースリングらしいワインですが、石油香的なものはなく、繊細な味わいです。

7)は骨格がくっきりしています。



8) Gewurztraminer 2006
9) Traminer 2006


8)のゲヴュルツトラミネールは、小さい粒のブドウが少量しかとれないとのこと 。
これは非常にソフトな口当たりのワインでした。

9)トラミナーはこのあたりではよくつくられている品種だそうで、熟れた白桃のようなアロマがあり、口当たりはなめらかで甘く、酸がマイルドに感じました。



10) Gewurztraminer -BA-2006
11) Riesling -BA- 2006
12) Eiswein vom Traminer 2003


この3つは甘口タイプになります。

10)は桃の感じがあり、やさしくよく熟した甘さのワインで、クラウスさんによると、レバー料理との相性が良いとのこと。

11)はリースリングのキャラクターがよく出ているワインで、ケーキやアプリコットを思わせる甘い風味を感じました。

12)はアイスワインです。このところ、ドイツでも温暖化の問題があり、この2003年を最後にアイスワインの収穫ができていないとのこと。

「2003年はボトリティス菌が付かずに健康なブドウが収穫できました。私がアイスワインをつくるときはボトリティスは付けません」とクラウスさん。

このアイスワインは長い余韻が素晴らしく、さすがの品格があります。




「アイスワインは シュトレン に合わせると最高だよ」と、クラウスさんがクリスマス菓子のシュトレン(村の近くのお菓子屋さんのもの。毎年そこのシュトレンを買うそうです)を切って出してくれました。

確かに見事なマリアージュで、さすがにこれはしっかり飲み干しました。
(もちろん、シュトレンも完食しました!)







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インタビューを終えて

ザクセン訪問の1軒目ということで、かなり緊張してお邪魔しましたが、クラウスさんは非常に真面目で穏やかな人柄の人物で、とてもていねいに説明してくださいました。

後日訪問したワイナリーの人たちからも、「彼はとてもいい人間だ」という話口々に聞き、私がクラウスさんに感じた印象は間違っていなかったんだ、と嬉しくなりました。

実にマイペースで、コツコツと1人でやっているクラウスさんですが、その努力の積み重ねがザクセンワインを代表する生産者としての高い評価につながっています。


奥様のマルゴルツァタさんと

今後、家の敷地内にセラーが完成し、自分のすぐ目の届くところでワインづくりができるようになったら、さらに素晴らしい品質のものができるようになるに違いありません。

これからの動きが気になるワイナリーです。



アトリエでの作業風景

奥様は1992年に東京を訪問したことがあり(彫刻のコンクール)、
「その時に京都に行けなかったことが心残りだったのよ」と言っていました。
とても明るい方で、真面目なクラウスさんとは素晴らしくナイスなカップルに思いました。



2006年のラベルになった木像


ワインは彼ら夫婦の合作といえます




この後も、ザクセンのワイナリー訪問記は続きます。
今回紹介できなかったことは、次回以降に追々触れていきますので、どうぞお楽しみに。



* 取材協力: ドイツワイン基金

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ぜひコチラもご覧下さい               → 「ザクセン取材秘話1」

マルゴルツァタさんの作品をもっと見たい方は  → 「ザクセン取材秘話2」

ピルニッツについてもっと知りたい方は      → 「ザクセン取材秘話3」


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第43回 Weingut Zimmerling<1>@「キャッチ The 生産者」

2009-05-20 09:33:53 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2008年2月21日)

第43回  Klaus Zimmerling  <Weingut Zimmerling> <1>

今回のゲストは、ドイツで最も東にあるワイン生産地ザクセンでワインづくりを行っている「ワイングート・ツィマーリング」クラウス・ツィマーリングさんです。


<Klaus Zimmerling> (クラウス・ツィマーリング)
ライプツィヒ生まれ。ドレスデン工科大学卒業。1992年からピルニッツでワインづくりを始め、現在はワイングート・ツィマーリング当主。


ドイツワイン最東の地へ  
ドイツのワイン生産地は13ありますが、その中で最も東に位置しているのがザクセン(Sachsen)で、ポーランドやチェコの国境に非常に近いところです。
ザクセンでのワインづくりの歴史は古くからありますが、栽培面積もワイン生産量も13地域のうちで最も小さいため、なかなかザクセンのワインにお目にかかる機会がないというのが現状です。なんたって、ドイツ最大のワイン生産地ラインヘッセンの1/40の生産量しかなく、日本の長野県のワイン生産量の半分にも及ばないのですから。

このように、ザクセンはドイツワインの中の最小生産地で、しかも他の生産地ともかなり離れているため、ほとんど情報がないのが実情です。
だからこそ、これはぜひ行かねば!と思い立ち、2007年12月、ドイツが本格的な冬を迎える前に、ザクセンに飛びました。



エルベ川とザクセンの発展
ザクセンのぶどう畑は、エルベ川沿いに広がっています。



エルベ川というのは、ドイツを代表する2大河川のひとつで(もうひとつはライン川)、チェコとポーランド国境の山地(ボヘミア北部)から発し、ドイツ東部を縦断しながら北海(ハンブルグの北西にあるヘルゴラント湾)に注ぐ全長1091kmの国際河川です。
かつては東ヨーロッパの水上交通の要で、エルベ川流域の経済は、この川によって発展してきました。


ザクセンのワイン生産地訪問の1軒目は絶対にココ、と思っていたので、まずはエルベ川の上流、チェコとの国境に近いピルニッツ(Pillnitz)を訪れることにしました。
このピルニッツのほんの少し上流にピルナ(Pirna)という場所があり、ピルナがザクセンワイン街道の始点となりますが、このあたりがザクセンで最も東にあるワイン産地です。

今回訪問したピルニッツはザクセンの中心地ドレスデンからエルベ川を約10km遡ったところに位置し、観光的にはバロック様式の「ピルニッツ宮殿」が有名です(下の写真)。



エルベ川の川べりに建てられていますが、ここはかつてのザクセン王が夏の間に過ごした“夏の宮殿”として知られ、現在は博物館として公開されています(5~10月)。
宮殿のテラスの前はすぐエルベ川の美しい風景が広がり、たしかにここは避暑地にはもってこいです。

もっと上流に行くと、チェコとの国境の手前に「ザクセンスイス」と呼ばれる渓谷地があります。エルベ川がつくった厳しい渓谷で、ここも観光客に人気のスポットのようです。


ピルニッツ宮殿前のフェリー乗り場


宮殿のテラスからのエルベ川の眺め


ザクセンワインとは?

ドイツの13の各ワイン生産地域の下には「ベライヒ」(Bereich)と呼ばれる地区があり、その下には「グロスラーゲ」(Grosslage)と呼ばれる統合畑があり、その下に「アインツェルラーゲ」(Einsellage)という単一畑で構成されています。

ザクセンのベライヒは2つありますが(マイセン、エルスタータル)、ピルニッツは「マイセン」(Meissen)に属し、グロスラーゲは「エルプハンゲ」(Elbhange)になります。
ここでは、一体どんなワインがつくられているのでしょうか?

まずは、ぜひ行きたかったピルニッツクラウス・ツィマーリングさんを訪問しました。






ピルニッツのワイン街道の看板



ワイン街道沿いの丘の中腹にはブドウ畑が広がっています


Q.工業系の大学を出ていますが、なぜワインの道に?
A.ブドウ畑を見る機会があり、きれいだなぁ~と感動したのがきっかけです。
その当時はエンジニアの仕事をしていましたが、どうにかしてブドウ畑を買いたいと思ったのです。


Q.どこでワインづくりを学んだのですか?A.
オーストリアのヴァッハウにあるニコライホーフというワイナリーです。
ここはオーストリアのビオディナミの第一人者で、非常に素晴らしいワインづくりをしています。


Q.なぜピルニッツでワインづくりをしようと思ったのですか?
A.ここはザクセンの東の端ですので、研修したオーストリアのヴァッハウからも近かった、という単純な理由です(笑)
まず1992年に4haの畑を拓きました。最も古いのはこの家の建物のすぐ下の畑です。


家の窓からすぐ見える畑(ずっと南、写真の奥がエルベ川)


最初につくった1992年(右)

Q.ブドウ品種は何を?
A.家のすぐ下の畑はグラウブルグンダー(ピノ・グリ)、リースリング、ヴァイス・ブルグンダー(ピノ・ブラン)があり、これは自分で植えました。
家の上の斜面の畑ではゲヴュルツトラミネール、グラウブルグンダー、リースリング、トラミナー、ヴァイス・ブルグンダーなどを植えていますが、つくっているのは白品種のみです。



丘の上までブドウ畑があります


ここは家の横にある畑


Q.白だけとはいえ、ずいぶん多くの品種を育てているんですね?
A.限定してしまうと、それがうまく育たなかった年はワインづくりができなくなってしまうというリスクがあるからです。保険的な意味もあって、色々な品種を栽培していますが、私が最もポテンシャルがあると思う品種は リースリング です。



2007年12月上旬の状態


取り残されたブドウがありますが、これはもう仕込みに使いません


Q.このあたりの気候は?
A.大陸性気候で、夏は暑く冬は寒いです。12月はまだそれほど寒くありませんが、1月になるとかなり冷えます。
このあたりでは雪はそれほど降りません。たまにヒザ下くらいまで積もることもありますが、一冬で数えるほどです。


Q.あなたのワインづくりのこだわりは?
A.研修に行ったニコライホーフがビオディナミでしたので、私もできるだけ自然なつくりをしようと思い、オーガニックで行っています。
収穫量にもこだわり、1ha当たり21~25ヘクトリットルに制限しています。
また、収穫時期も、他のワイナリーでは10月中旬をメインに行いますが、私は11月中旬くらいと、遅めに行います。もちろん、その年の天候によって違い、07年のリースリングは11月上旬に収穫しました。


Q.現在、ブドウ畑はどのくらいありますか?
A.5haです。他の人の手は借りず、すべて自分ひとりでオーガニック栽培を行っているので、これ以上広くなると手に負えません。5haでちょうどいいと思っています。




Q.あなたのワインのエチケットはとてもユニークで印象的ですが?
A.妻が彫刻家なので、彼女の作品をエチケットにしています。毎年変えているので、エチケットを見ると、何年産のものかわかります 。


例えば上の3本は・・・・


左から 2005年、2004年、2003年


Q.今後の予定は?
A.実は醸造所がこの場所になく、ピルニッツ宮殿の地下を借りてワインづくりを行っているので、早くセラーを建てたいと思っています。完成したらここで大パーティーを開きますので、そのときは招待しますよ(笑)



本当にピルニッツ宮殿の地下に醸造施設がありました!



セラー内にはステンレスタンクがずらり



出荷を待つワインもここに保管されます

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第43回~のドイツ訪問記では、たくさんの写真を撮ってきました。
一度にアップしきれないため、各生産者をそれぞれ<1><2>と2回に分けて紹介します。

→ Weingut Zimmerling <2>


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第42回 Chateau Tour Grise@「キャッチ The 生産者」

2009-05-19 15:00:05 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2008年1月11日)

第42回  Phillipe Gourdon  <Chateau Tour Grise>

今回のゲストは、フランスはロワールでビオディナミ栽培によるブドウづくりを行っている、 『シャトー・トゥール・グリーズ』フィリップ・グルドンさんです 。


<Phillipe Gourdon> (フィリップ・グルドン)
ル・ピュイ・ノートル・ダム村生まれの55歳。
1990年にシャトー・トゥール・グリーズを設立。
現在、シャトー・トゥール・グリーズ当主。


ビオディナミへの取り組み  - Chateau Tour Grise -  

フィリップさんがワインづくりに携わる前の20年間は、家業のキノコ栽培に携わっていましたが、1990年にもうひとつの家業であるブドウづくりにも関わるようになりました。

この頃は、つくったブドウは協同組合に売っていたそうですが、1991年に父から運営を引き継いだのを機に協同組合との契約を切り、自らの手でワインづくりを始めました。

そして現在は、AOCソーミュールの北東にあるル・ピュイ・ノートル・ダム村でビオディナミ栽培を行い(カベルネ・フラン14ha、シュナン・ブラン9ha)、『シャトー・トゥール・グリーズ』の当主としてワインづくりに取り組んでいます。


* ル・ピュイ・ノートル・ダム村
 村全体が丘の頂付近にあり、土壌は石灰白亜質。





Q.なぜビオディナミ栽培を行おうと思ったのですか?
A.祖父の時代の畑は生き生きとしていましたが、1960年代から農薬が多く使われるようになり、私が父から引き継いだ1990年当時の畑は農薬まみれの状態でした。

これはなんとかしないと・・・と思い、まずは有機栽培に取り組みました。
その後、段階的にビオディナミを取り入れ、1998年に完全にビオディナミに移行しました。(現在はEcocertとBiodivinに加盟)  


Q.リュット・レゾネ(減農薬栽培)は考えなかったのでしょうか?
A.リュット・レゾネは、できるだけ農薬を使わないようにしようというものですが、それでも自然界にないものを投与することになります。ビオディナミでは、自然界にないものを投与してはいけないと考えるので、この2つの境界線には大きな意味があります。


Q.大きな意味というのは?
A.そうした物質の投与は子の世代に伝わる危険性があり、すべての生命体への危険性をはらんでいます。そうした理由から、私はリュット・レゾネよりもビオディナミを選んでいる人の方が100倍良いと考えます。

ビオディナミで投与するものはすべて自然のものに限られています。雑草は焼いて取り除き、虫が増えた場合も、ビオディナミでは虫が多いということは生命体が多様性を持っていることと考え、共生するということで解決を見出していきます。


Q.ビオディナミにする理由は、ほかには何かありますか?
A.ワインづくりそのものに係わるものがあります。すなわち、AOCはその地方の伝統をリスペクトして初めて名乗れるもので、ただ品種だけを選ぶものではありません。
テロワールを表現していなければそのAOCを名乗ることができませんし、テロワールの表現にはビオディナミ栽培を行うことが不可欠だと考えたので、私はビオディナミを選びました。

よって、畑にもワインにも、よそから何かを添加するということは一切行いません。


Q.ビオディナミによって大きく変わったものは?
A. です。化学的なものを施した畑は、その土地の特質を土壌に反映することができません。土地の特質を土壌に反映させるには生命体の介在が必要なのです。

生命体の豊かな土壌とそうでない土壌は“匂い”が違います。ビオディナミでない畑は土壌に生命体が全く存在しないため、土の匂いが全くしません。
また、木の木片などは普通はバクテリアなどによって分解されてなくなりますが、ビオディナミでない畑の木片はそのまま残っています」
(土の写真をいくつか見せてもらいましたが、確かに彼の言う通りでした)


Q.ビオディナミに転向して、ワインに変化はありましたか?
A.すぐには結果が現れませんでしたが、ビオディナミに転向して4年が経過した2002年、ブドウが真の力を発揮し始めた!という手ごたえを感じました。
やはり時間がかかります。


Q.醸造では何か特別なことをしていますか?
A.ビオディナミでは、畑はミネラル、アニマル、ベジタルからのプレパラシオン*1によってエネルギーの刺激を受けるため、ワインづくりの90%は畑で完結しています。
ワイナリーではテクノロジーは不要で、我々はブドウがワインになっていくのを見守るだけです。

良いブドウが毎年得られれば良いですが、天候などの影響でそうはいきません。
そこで、木が疲れることなく毎年良いブドウを得るには、収穫はいつ?どのブドウをどのくらい?赤?ロゼ?白の甘口?それとも辛口?など、さまざまなことを見極めねばなりません。それが経験の中でわかってきましたので、人間のやることにも大きな役割があると思います。

毎年同じワインをつくる人もいます。
が、“その年のその区画からのブドウをよく表現したものをグラスの中につくる”ということが私の目指すものです。毎年同じものをつくりたいとは思いません。


*1) プレパラシオン
ビオディナミで使用する特別な溶剤。牛糞や植物を煎じたものなど、いくつか種類があり、雨水で希釈したものを月のカレンダーに合わせてごく少量ずつ散布する


<テイスティングしたワイン>



Chateau Tour Grise Saumur Brut Non Dose 2000
「シュナン・ブラン100%で、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵のスパークリングワインです。ブドウに対して何も付け加えたくないので、酵母も糖も添加しません。

ブドウは熟すギリギリまで待ち、かなり遅くなってから摘みます。ブドウがよく熟したという点を活かし、その力をワインに反映させています。
ハーモニーを取るのに時間が必要なので、6年間カーヴでシュル・リーの状態で寝かせます。
デゴルジュマン(オリ抜き)の後にも何も加えず(ノン・ドゼ:甘いリキュールを加えないこと)、ブドウが最初から持っているものしか入っていません。

これはストラクチャーがしっかりしているので食事の際に飲んでいただいても負けず、食事の最初から最後まで合わせられると思います。地方の特徴をよく表していますが、シャンパーニュと違って好き嫌いがあるかもしれません」(フィリップさん)

かなり濃いゴールドの外観で、香りはふっくらとしています。ノン・ドゼであり、酸が豊かであるにもかかわらず、口当たりはやわらかくで、ふくよかで旨味を感じる味わいを感じました。


Chateau Tour Grise Saumur Blanc “Les Fontanelles” 2002
「ブドウはジュラ紀の硬い地層の上に植えています。土壌は生きていなければならず、土壌を活性化して生かすために3種(ミネラル、アニマル、ベジタル)のプレパラシオンを使います。それによって大きなエネルギーがもたらされます。
そのため、ビオディナミの土壌からできたブドウは酸がしっかりします。白ワインはまろやかさがなく、キツイ味わいだと思うかもしれませんが、何年経ってもおいしいものになります。

この白ワインをつくる際には、色の黄色い、よく熟したブドウ(シュナン・ブラン)を選びました。アルコール発酵は自然に任せ、もちろん何も加えません。年によってほの甘口になったり辛口になったりしますが、2002年は辛口になりました」(フィリップさん)

このワインも非常に濃い色合いをしています。酸がキツクなるということですが、たしかに酸がたっぷりとしていますが、とてもまろやかな味わいでした。




Chateau Tour Grise Saumur Rouge Cuvee 253 2004
「カベルネ・フラン100%の赤ワインで、すべて除梗しています。マセラシオンは40~50日かけ、じっくりと抽出しますので、しっかりしているのに繊細で良質のタンニンが得られます。ルモンタージュ(液体部分の循環)は行いません。
樽の影響は出したくないので、使うなら10年使用樽を使います。
とにかく、ブドウ本来のものを変化させるものを加えたくない、ということにこだわっています」(フィリップさん)

熟した感じの香りが良く、タンニンはたっぷりなのに、やわらかなボディを持った赤ワインで、アグレッシブな点は全く見られません。ワインとして飲みごたえがあります。


フィリップさんのワンポイントアドバイス

ロワールの赤ワインは何も食べないで飲むと強すぎるかもしれませんので、パンを口に含むとちょうどよくなります。
サービス温度は、室温より低めの15℃が適当です。

実は、昼にパリで一番飲まれているワインはロワールワインです。ラングドックのワインは昼には濃すぎます。

北の産地であるロワールでは、ブドウの収穫率を下げるとアルコール度数が高くなりますが、南のワインほどは上がりませんので、ロワールのしっかりした赤ワインは昼でも楽しめるというわけです。





VDT Zero Pointe NV  <参考品>

「シャトー名も地方名も年号も入れられないVDT(ヴァン・ド・ターブル)ですが、ブドウは2007年のカベルネ・フランを100%使っています。アルコール度数は8.5%で、若いうちから楽しんでもらうロゼワインとして4年前からつくってみました。

ロゼワイン用のブドウは赤ワイン用のブドウより8~10日早く収穫します。酸を必要とするワインですので、フレッシュさを残しました。良いと思ったバランスで、アルコールの低くなった時点で発酵を止めました」(フィリップさん)

きれいな色のロゼで、口にすると爽やかな甘さも魅力です。いわゆる“新酒”的なフレッシュなワインですが、こういうワインを日本でも飲んでみたいですね。


VDT Zero Pointe Ze Bulle NV  <参考品>

「まだ完成していないものですが、サンプルとして持って来ました。昨年試作品をつくり、07年から市場(フランス)に出します。これもカベルネ・フラン100%で、スパークリングです。
フィルターをかけると透明になりますが、今は濁っています。1番目のスパークリング(Saumur Brut Non Dose 2000)とは違い、食中ではなく、食前や食後などに楽しんでほしいですね」(フィリップさん)

これもきれいな、でもかなり色の濃いロゼ。プチプチとした泡が爽やかで、ナチュラルなジュースという味わいがチャーミング。



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インタビューを終えて

Zeroは、新しいもの、ほかとは違ったものをつくりたい、というイノベーター的な気持ちでつくったワインですが、ワインの愛好家がちょっと飲みたいなぁと思う時に開けていただけるといいかなと思います。もちろん、飲み慣れていない人にも飲んでいただけるものに仕上がっていると思います。
先にリリースした Zero Pointe は著名レストランのグランシェフたちにもとても好評です」とフィリップさん。

ビオディナミの生産者はきっちりしている、という印象が強いですが、フィリップさんは、肩の力を抜いて気楽に飲める、ゆる~い雰囲気をかもし出している 『Zero』 (ブドウはもちろんきっちりビオディナミですが)もつくっていて、ワインも人も“自然体”だなぁと思いました。

しかも、“ゼロ”という名前も“何も手を加えないもの”に通じ、なかなか遊び心があります。

このユニークな『Zero』がまだ日本で手に入らないのは残念ですが、今回これをテイスティングできたことは、なかなか意味深いものがありました。

今後のフィリップさんの展開に期待が高まった出会いでした。



奥様のフランソワさんと

「自然に囲まれた村での暮らしも彼のワインも気に入っているわ」(フランソワさん談)


取材協力: 大榮産業株式会社
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第41回 Michel Trino Wines@「キャッチ The 生産者」

2009-05-14 10:00:15 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2007年12月21日)

第41回  Nicolas Cornejo Costas  <Michel Trino Wines>

今回のゲストは アルゼンチン『ミッシェル・トリノ』 のマーケティング・マネージャー、ニコラス・コルネホ・コスタスさんです。


<Nicolas Cornejo Costas> (ニコラス・コルネホ・コスタス)
ミッシェル・トリノ社のマーケティング・マネージャー 。


“カファジャテ”はどこにある?    - Michel Trino -  

アルゼンチンは南米で最も大きなワイン生産国で、世界でも第5位(04年の統計)。

しかしながら輸出量は少なく、国内消費が大半を占めているため、実際にはまだ一部のワインしか海外に紹介されていないというのが現状です。
しかし、このところは国際市場を意識し始めたワイナリーも増え、世界に通用する高品質ワインが次々と誕生しています。

日本でもアルゼンチンワインは以前から親しまれてきていますが、その産地の大半は中央西部のメンドーサ(総生産量の70~75%)とサン・ファン(同約20%)で、この2つですでに90~95%になります。

ところが、今回紹介する「ミッシェル・トリノ」は、ここには入らないマイナーな地域にワイナリーを構えています。

それが北西部サルタ州(Salta)“カファジャテ”(Cafayate)地区です。

南緯26度で、メンドーサから1000km以上北に位置しているので、さぞかし暑いだろうと思いきや、ブドウ畑は標高1000~2000mの山間部の渓谷にあるため、ブドウ栽培に非常に適した環境にあるというのです。

さて、このカファジャテという土地では、一体どんなワインがつくられているのでしょうか?



Q.カファジャテはどんなところですか?
A.アルゼンチンには北から南まで大きく5つのワイン生産地がありますが、その最も北に位置するのがサルタ州です。当社のワイナリーのあるカファジャテは標高1700mの高地にあり、渓谷(Cafayate Valley)にブドウ畑が広がっています。

カファジャテは昼間の日照がたっぷりとありますが、朝晩はぐっと冷え込みます。
そのためにブドウがゆっくり育ち、酸が豊かでフルーティーな香りが高まり、アロマティックなものになります。ゆっくり育つのでブドウが均一に育ち、日照のおかげで色付きが良く、エネルギーを充分蓄えたブドウが得られます。


Q.土壌の特徴は?
A.土壌はとても貧しく、石が多い砂質です。また、雨が少なく、サボテンが生えるような乾燥した地域のため灌漑が必要で、アンデス山脈の雪解け水を使って灌漑(ドリップイリゲーションシステム)を行っています。この地にはインカ帝国時代の水路が見られるので、その流れを止めて使ったりもしています。


Q.カファジャテのワインはどのような特徴がありますか?
A.天候が安定しているので、安定したワインがつくれます。また、1日の寒暖の差が大きく、土壌も特殊なので、個性を持った、消費者にわかりやすいワインをつくることができます。
ブドウ品種は、白はトロンテス、赤はカベルネ・ソーヴィニヨンが適しています。


Q.『ミッシェル・トリノ』 について教えて下さい
A.1892年、ダヴィッド・ミッシェルとガブリエル・トリノによって創設されたため、ワイナリー名を『ミッシェル・トリノ』としました。

カファジャテ地域はワイナリーの数は12~13ほどしかありませんので、当社はブティックワイナリー的存在といえ、スーパープレミアムワインに特化しています。

自社畑は720haで(年間生産量500万リットル)、ブドウ畑はすべてワイナリーから15分以内のところにあります。ブドウ樹の平均樹齢は30年です。

当社はHACCP*1やGMP*2などを取得し、また、一部の畑ではオーガニックの証明(Argencert)も取得しました。
5つのレンジのうち、日本にはこのオーガニックワインを含む2つのレンジを輸出いたします(07年10月より販売)。


Q.オーガニックワインについて教えて下さい
A.ブランド名は“CUMA” (クマ)といいます。
当社では1990年代の初めからできるだけ何も使わない農法に取り組み始めました

CUMAはFinca El Transito Vineyard (エル・トランジット)の畑(約40ha)のブドウからつくられます。02年に申請を行い、06年10月から新レンジとしてリリースしています。
品種はトロンテス、マルベック、カベルネ・ソーヴィニヨンの3アイテムです(日本ではトロンテスとカベルネを発売)。

CUMAは、現地のアイマラの言葉で“クリーン&ピュア”の意味があります。次の世代にクリーンでピュアな環境を残していこうということから生まれたワインです。




Q.トロンテスについて教えて下さい
A.トロンテスは、スペイン語圏、特にスペイン北西部ガリシアによく見られるローカル品種です。甘い香りがあり、モスカートのファミリーに属していますが、飲むと甘くはありません。
フローラルな香りが強く、バラ、ジャスミン、菩提樹のアロマを感じますが、食事によく合うワインだと思います。日本料理にも合い、スパイシーな料理にも最適です。


Q.日本で発売されるもう一つのレンジとは?
A. “DON DAVID ” (ドン・ダビ)といい、創設者のDavidに敬意を表して名付けました。
エレガントで複雑なファインワインで、すべて樽を使用しています(日本ではシャルドネ、トロンテス、カベルネ・ソーヴィニヨン、マルベックの4種を発売。すべてレゼルバ)。

CUMAはフルーティーでナチュラルなテイストのワインですが、長い熟成期間を要するDON DAVIDは ボルドーを思わせるような複雑さとエレガントさが特徴です。




*1 HACCP
Hazard Analysis and Critical Control Point、
安全な食品をつくり出すための危害の分析や抑制方法の継続的措置を行うこと

*2 GMP
Good Manufacturing ractice、適正製造規範の意


<テイスティングしたワイン>

DON DAVID Chardonnay Reserve 2006
樽、ナッツの香りが豊かで、果実味と繊細な酸がきれいです。クリーンで凝縮した感じがあり、広がり方はそれほどでもないものの、余韻の長さを感じます。

「アメリカンオークとステンレスタンクを50%ずつ使用し、フルーツとオークのバランスを重視しています」(ニコラスさん)


CUMA Organic Torrontes 2007
シャルドネよりも香りが華やかで、きれいな酸味があり、果実味が軽快。爽やかに気軽に飲めるタイプのワインだと感じました。

「トロンテスは、現代の若い人の食生活にマッチする味わいのワインだと思います。東南アジア料理やカレーにも合うのでは?」(ニコラスさん)


DON DAVID Torrontes 2007より繊細でデリケートな花の香りがあり、エレガント。口当たりもソフトで複雑味があります。グレープフルーツの皮のようなほろ苦さ、ふくよかさ、余韻の長さが印象的。

「45%はステンレスタンクで、残り45%はトラディショナルな樽、10%はアメリカンオークの小樽を使用しています。CUMAよりも繊細な料理向きだと思います」(ニコラスさん)




DON DAVID Malbec Reserve 2005 
深く黒々とした紫色で、燻したベーコンのようなスモーキーなニュアンスを感じます。アタックはまろやかで、とろみ、濃度があり、なめらかさがあります。果実味が豊かで、タンニンはキメ細かく、タンニンは甘ささえも感じました。

「05年は天候に恵まれ、よりフルーツの感じと色の濃いキャラクターが出ています。スパイシーな感じが出ているのが、カファジャテの特徴です」(ニコラスさん)


CUMA Organic Cabernet Sauvignon 2007
青っぽい野菜の香りがあり、若々しいキャンディの感じもありますが、口に含むとやわらかでなめらかで、香りとのギャップを感じました。価格を考えると、ワンダフル!


DON DAVID Cabernet Sauvignon Reserve 2005
CUMAよりも複雑で、これも燻したニュアンスがあります。酸がしっかりとし、タンニンは豊かなのに、ガチガチした感じではありません。アルゼンチンらしくないワインだと思いました。



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インタビューを終えて

冒頭に書いたように、アルゼンチンワインは国内需要から輸出に目を向けています。
現在の輸出先は、アメリカ、イギリス、カナダ、スカンジナビア諸国が中心となっています。

「アルゼンチンワインは国としてプロモーションを始めました。すなわち、今後は国のサポートが期待できるということで、これによって海外市場を確保していければと思っています」 とニコラスさん。

たしかに、ここ数年、アルゼンチンワインのプロモーションの機会が多くなったと感じます。

また、アルゼンチンには、このミッシェル・トリノの“CUMA”同様のオーガニックワインが多く、クリーンで洗練された高品質ワインがずらりと揃っています。
これを実現させているのは、乾燥して雨が少なく、病気にかかりにくい自然環境に他ならず、アルゼンチンでは無理なくオーガニックな栽培が可能です。

かつては、ちょっと野暮ったい感のあったアルゼンチンワインですが、新しいワインに出会うたびに、「これがアルゼンチンワイン?」と驚かされることしきりです。しかも、このミッシェル・トリノをはじめ、手頃な価格にも驚かされます。

コストパフォーマンスの良い高品質ワインを探すのなら、アルゼンチンは、もはや外せません。


一見サッカー選手?(笑)のニコラスさん


取材協力: 株式会社スマイル

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第40回 Agricola Allegrini@「キャッチ The 生産者」

2009-05-13 09:51:24 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2007年11月11日)

第40回  Marilisa Allegrini  <Agricola Allegrini>

今回のゲストは、イタリアはヴェネト州のヴァルポリチェッラにある
アッレグリーニの6代目、マリリーサ・アッレグリーニさんです。


<Marilisa Allegrini> (マリリーサ・アッレグリーニ)
アッレグリーニの6代目。
マーケティング担当。


三兄妹が支えるヴェネトの名門ワイナリー  - Allegrini -

マリリーサさんの父で5代目のジョバンニ氏が1983年に亡くなった後、アッレグリーニを継いだのがマリリーサさんたち3人兄妹でした。

長男のウォルターさんは栽培、次男のフランコさんは醸造、そしてマリリーサさんはマーケティングと、3人が力を合わせてアッレグリーニを支えていくことになりました。



Q.ワイナリーのあるヴァルポリチェッラはどんなところですか?
A.ヴェネト州のヴェローナ北部に位置しています。ヴェローナはヴェニスとミラノのちょうど中間地点にあります。
ヴァルポリチェッラのすぐ西側にはガルダ湖というイタリア最大の湖(大きさは日本の琵琶湖の約半分)があって、これがブドウ栽培にとてもいい影響を与え、特別な気候(マイクロクライメット)を生み出します。


Q.ヴァルポリチェッラでのアッレグリーニの位置付けは?
A.ヴァルポリチェッラは協同組合が多く、しかも自社畑を持っているワイナリーは意外と少ないんです。
そんな中、アッレグリーニは自社畑を持ち、自分のブドウでワインを生産している数少ないワイナリーのひとつで、家族で代々やっています。

自社畑があるのは父のおかげで、父は1950年代に本格的に畑を購入して拡大しました。年間生産量は90万本と、中規模ワイナリーといえるかと思います。


Q.ヴァルポリチェッラのワインには、単なる“ヴァルポリチェッラ”と“ヴァルポリチェッラ・クラシコ”がありますが、2つの違いは何でしょうか?
A.ヴァルポリチェッラは2000年以上も前から続くイタリア有数の歴史あるワイン産地です。この古い時代から続く栽培地域が現在“ヴァルポリチェッラ・クラシコ”と呼ばれているエリアで、オリジナルのヴァルポリチェッラはここでつくられていました。

しかし、1968年にDOCのルールができたことにより、安くておいしいと評判だったヴァルポリチェッラの需要が上がり、それに応えるためにヴァルポリチェッラのエリアを拡大したのです。それが“エンラージドヴァルポリチェッラ”(拡張された…の意味)で、場所はクラシコエリアの東側になります。

この拡大されたエリアが単なるヴァルポリチェッラで、クラシコエリアの2倍の広さがありますが、量を求めてワインの品質が低下していくに従い、だんだんと寂れてきました。“量”の時代は終わり、“品質”の時代に変わってきたからです。


Q.品質的にどう違うのでしょうか?
A.クラシコエリアはガルダ湖により近い場所にあるため湖の影響を大きく受け、畑は丘陵地の斜面にあります。
クラシコエリアの東側に位置するエンラージドはガルダ湖から遠く離れ、畑は平地が多くなります。
丘の上の畑は収穫量は減るものの、高い品質のブドウが得られます。一方、平地では収穫量は多くなりますが、ブドウの品質が低下します。

そのため、生産量ではクラシコエリアは25%、エンラージドは75%ですが、単一畑やスペリオーレタイプの上質ワインの比率はクラシコが75%、エンラージドが25%と逆転します。
また、アマローネやレチョートといった手のかかる特別なワインにおいても、クラシコは87%、エンラージドは13%です。こうしたクラシコエリアの高品質傾向は、ますます強まってきています。



Q.ヴァルポリチェッラで重要なブドウ品種について教えてください
A.最も重要なブドウはコルヴィーナです。80%まで使用することができ、サクランボの風味やタンニンをワインに与えます。

ワインに甘さとコクを与えるのがロンディネッラで、5~30%まで使用できます。

収穫量の多いモリナーラは、かつて5~25%まで使用することができましたが、2003年に法改正があり、今はオプション品種となりました。
当社では2003年ヴィンテージからアマローネには入れていません。というのも、モリナーラはピンク色で色味がなく、酸も高いため、加えるとワインが薄まるからです。

また、モリナーラは灰色カビ病に冒されやすい品種で、ボトリティス(貴腐菌)にするなら使うというメーカーはあるようですが、アッレグリーニではカビの付いたブドウは一切使いません。そうしたこともあり、当社では扱いが徐々に減ってきています。


Q.現在、ヴァルポリチェッラには国際品種も使えるようですが?
A.カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロなどの国際品種が最大5%使え、サンジョヴェーゼやバルベーラも使えます。ですが、カベルネやメルロはコルヴィーナの特徴を消してしまいますので、当社ではコルヴィーナとはブレンドしません。


Q.アッレグリーニは中規模ワイナリーながら、ヴァルポリチェッラのリーディングプロデューサーと言われていますが?
A.アッレグリーニは歴史もあり、自社畑も多く所有しているだけでなく、さまざまな研究や技術革新への投資も行ってきました。それが評価され、各ワイン専門誌で高い評価を得ていて、ヴェネト州ではNO.1、イタリアでもトップ5に入る生産者とも言われています。


Q.研究や技術革新とはどんなものですか?
A.アマローネをつくる際には、“アパッシメント”と“リパッソ” という伝統的な2つの手法があります。
前者はブドウを乾燥させる手法で、乾燥させて水分が減って糖度の高まったブドウを搾ったものを発酵させます。
後者は1回目の発酵を終えたマストにアマローネの搾りかすを加え、もう一度発酵させる手法です。よりアルコール度数が高くなり、ストラクチャーが強く、余韻の長いワインになりますが、果実味がなくなり、苦味や酸化のニュアンスが強くなるので、当社ではやめようと思いました。

そこで、70%(コルヴィーナ)は収穫後すぐに醸造し(12%のアルコール度数のワインになる)、残りの30%(コルヴィーナ以外のブドウ)は4ヶ月間乾燥させてからプレスして果汁を引き出し、最初のワインに加えて再び発酵させています。
これにより、アマローネのニュアンスを持ったアルコール13.5%ほどのワインができます。
「Palazzo della Torre」(テイスティングの3番目のワイン)がこの方法でつくったもので、私たちはこのワインを「ベビーアマローネ」と呼んでいます。



Q.アパッシメントにも技術革新があるということですが?
A.ブドウを乾燥させる際には、ワラで編んだ敷きマットの上にブドウを広げて行うのが伝統的ですが、このマットはあまり衛生的ではありません。洗うとボロボロになって翌年は使えなくなしますし、毎年買うと高く付きます。
また、この方法は天候に大きく左右され、アパッシメントの途中でブドウが腐ったり、カビが出たりしたことがあったので、当社はマット使用をやめ、1998年に乾燥施設の建物をつくりました。

乾燥が自然に行われることはもちろん大事ですが、天候が悪いときはテクノロジイを使い、理想的な状況をつくってあげることも必要だと考えたからです。

浅めのプラスティックケースにブドウを入れて運び、そのままパレットにセットします。パレットの列の間は空気の循環のために空けておきます。大きなファンを設置して風を循環させたり、建物のドアは天候によって開けたり閉めたりして、細かく調整を行っています。
乾燥は最初の4日間が重要で、4日のうちに茎の水分がだいぶ飛びます。その後大きな部屋に移します。ケースの上下の入れ替えは特に行いません。アマローネ用のブドウで約4カ月、レチョート用で約5カ月乾燥させます。


Q.新アパッシメントの効果はいかがでしょうか?
A.これにより、複雑な香りの要素を融合し、ブドウの持つ果実味とリパッソのような凝縮感を持つワインが生まれました。
アルコールは強くないですが、酸化しないスタイルのアマローネになり、より料理との相性が良くなったと思います。



<テイスティングしたワイン>


Soave 2006
「2003年に畑を購入し、2004年VTから生産しています。ガルガーネガ80%、シャルドネ20%で、シャルドネを加えているのは、ガルガーネガの繊細さに力強さを加え、支えてくれるからです。
この白ワインには樽は全く使いません。ブドウの素直な凝縮感がワインにそのまま出るようにつくっています。あるコンペティションで、ソアーヴェの有名な生産者に勝ったこともあり、私はこの出来にとても満足しています」(マリリーサさん)

Valpolicella Classico 2006
「当社のスタンダードなヴァルポリチェッラで、これにはモリナーラも少しブレンドしています。各地に散らばっている畑のブドウを使って仕込み、品質が良ければアマローネにします。フレッシュな感じを出したいので、このワインにはオークは使いません。チェリーのアロマを素直に出したいと思っていますし、あまり寝かせず、2、3年で飲んでいただきたいと思っています。
パスタや、トマトソースを使った料理、さまざまな地中海料理に合う赤ワインです。普通は赤ワインとトマトソースの組み合わせは難しいと言われますが、このワインなら全く問題なく、ヴェニスの魚料理にも相性ピッタリです」(マ)



Palazzo della Torre 2004 (sample)
「東向きのなだらかな畑で、この地方によく見られる石を積み上げたテラス状になっています。樹齢は47年です。新しいリパッソの手法で仕込み、私たちがベビーアマローネと呼んでいるワインです」(マ)

La Grola 2004  (sample)
「1979年に購入し1995年に拡張した、当社で一番大きなシングルヴィンヤードの25haの畑です。当初からダブルグイヨで始めました。これも技術革新のひとつで、ブドウに凝縮感を出すために、密植度を4200本/haから6500本/ha(コルヴィーナの限界)にしました。ガルダ湖に最も近い畑で、空気の循環も日当たりも良く、土壌もコルヴィーナに適しています」(マ)



Villa Giona 2003
「畑は平地にあり、ここにコルヴィーナを植えると平凡になるので、国際品種を植えました。50%がカベルネ・ソーヴィニンヨン、40%がメルロで、フランスのボルドースタイルのワインですが、10%シラーがブレンドされています。熟成をフレンチオークの新樽で18~24カ月熟成しています」(マ)

Amarone Classico 2003
「このアマローネと次のレチョートはほぼ同じ方法でつくられています。レチョートは甘口ですが、アマローネは辛口ワインです。アパッシメントを施したブドウを完全に発酵させたのがアマローネで、発酵を途中で止めたのがレチョートです。収穫時点での糖度はほぼ同じくらいですが、アマローネのワインとしての残糖は4g/lで、アルコールは15.4%です」(マ)



Giovanni Allegrini 2004 (Recioto) (sample)
「父の名前、ジョバンニという名の付いた甘口ワインのレチョートで、DOCは“レチョート・デラ・ヴァルポリチェッラ・クラシコ”になります。
アパッシメントの期間は5カ月で、重さが約半分になった2月に破砕と除梗をして発酵させます。残糖分は145g/lで、アルコールは14%です」(マ)


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インタビューを終えて


赤ワインのイメージが強いアッレグリーニでしたが、
今回、白ワインのソアーヴェを初めて試飲し、その素晴らしい出来に驚かされました。



輝くようなゴールドの外観。深みのある熟れたフルーツの香りがあり、口にすると豊かな果実味がやわらかく広がり、酸も穏やかで、ほどよい厚みを感じます。

価格を見ると、デイリーにも楽しめそうな懐にやさしいプライス!

アッレグリーニは、ソアーヴェの選択肢を見事に広げてくれたといえるでしょう。


そして、伝統的なヴァルポリチェッラを見ると、さまざまな改革に取り組み、しかもその成果をキチンと出している点に拍手を送りたいと思います。

今後もアッレグリーニの動向は要チェックです。



実は、長男のウォルターさんが2003年に亡くなりました。
大変残念で悲しいことではありますが、その悲しみを乗り越え、現在はマリリーサさんとフランコさんの2人がアッレグリーニを支え、ウォルターさんの分まで頑張っています。



取材協力: 株式会社スマイル
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第39回 Champagne M.Maillart@「キャッチ The 生産者」

2009-05-08 09:29:24 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2007年10月11日)

第39回  Nicolas Maillart  <Champagne M.Maillart>

今回のゲストは、フランスのシャンパーニュ生産者
“M.マイヤール”の若き9代目、ニコラ・マイヤールさんです。

日本には初めてというニコラさんに会ったのは、真夏の暑い日。
「日本は暑くて湿度も高くて参っちゃうね・・・」と苦笑するニコラさんでしたが、それでもしっかりとお話を伺わせていただきました。


<Nicolas Maillart> (ニコラ・マイヤール)
1977年6月4日生まれの30歳。姉2人とニコラさんの3人姉弟。
ボルドー、モンペリエの醸造学校を卒業し、エノローグの資格を取得。フランス国内、アメリカ、スペイン、南アのワイナリー等を経て、2003年にM.マイヤールに戻る。


モンターニュ・ド・ランスの家族経営生産者 - M. Maillart -

M.マイヤールは1720年から続く歴史あるドメーヌで、ニコラさんで9代目。
現在の名前になったのは1965年で、ニコラさんの父ミシェルさんが「M. MAILLART」としました。

ドメーヌはエキュイユ村にあります。ちょっと聞きなれない村名ですが、シャンパーニュの中心地、ランスから南西に10数km離れたところに位置しています。
エリアでいえば、モンターニュ・ド・ランスになります。

M.マイヤールでは、本拠地のエキュイユと、その南東のヴィレ・アルラン、さらに南東に行ったブジーの3ヶ所に畑を持っています。

そして、畑はすべてプルミエ・クリュ(エキュイユ、ヴィレ・アルラン)、グラン・クリュ(ブジー)のみというこだわりがあります。




Q.エキュイユはどんな村ですか?
A.人口400人の小さな村ですが、シャンパーニュの畑としては1級になります。
我々の畑は南東向きの斜面にあります。斜面の中ほどは粘土質ですが、下の部分は砂質土壌で、表土は10~15mと非常に深く、その下は白亜質のチョーク層です。
そのため、ピノ・ノワールの栽培に最適で、シャルドネにも適しています。
所有畑はピノ・ノワールが70%で、シャルドネが30%、ブドウ樹の平均樹齢は30年です。


Q.あなたのシャンパーニュづくりの特徴は?
A.リザーヴワイン(*1) が多いことでしょうか。生産量の約50%をリザーヴワインに回しますが、これはかなり多い方だと思います。そのため、リザーヴワインは3~4年分のストックがあります。

リザーヴワインは、スタンダードなブリュットでも35~40%使います。これは、ロットにより大きな品質の差を出さないためです。

また、複雑さ、厚みを与えるために樽発酵を行っています。マロラクティック発酵は、基本的には行いますが、キュヴェによって違います。


Q/栽培についてはいかがですか?
A.農法は特に形にこだわらず、リュット・レゾネ、ビオロジックを考慮してブドウづくりを行っています。
また、畑の下草は残すようにしています。


Q.M.マイヤールのシャンパーニュの特徴は?
A.ファインワインといえると思います。香り高くアロマティックで、土地の個性や風味が現れて、エレガントできれいなシャンパーニュです。


Q.ラベルデザインが少し変わったようですが?
A.昨年から変えています。イメージも大切ですから、おいしそうに見えるようなデザインにしています(笑)。紙質も変えました。というのも、シャンパンクーラーに入れて冷やすことが多いと思いますが、ふやけて取れたり、破れてしまうことが多かったんです。そうしたレストランからの声や要望があったので、特殊加工した紙とシールを使うようにしました。

また、デゴルジュマン(*2) の日付を表のエチケットに入れていましたが、バックラベルの方に移動しました。


デゴルジュマンの日付、生産本数、ドサージュ量等の情報が記載


Q.ラベルが変わっただけですか?
A.いえ、今までの商品を整理して絞り込み、
“クラシック・シリーズ”と“テロワール・シリーズ”に分類することにしました。

“クラシック・シリーズ”は、従来のスダンダートスタイルのものと、10年以上寝かせたヴィンテージものがあります。

“テロワール・シリーズ”は、シャンパーニュにも素晴らしいテロワールがあることを伝えたいと思った新シリーズで、テロワールがよく出る特別なつくりをしています。

クラシック・シリーズ         テロワール・シリーズ
Brut 1er Cru              Les Chaillots Gillis 1er Cru
Brut Blanc de Blancs 1er Cru   Les Francs de Pied 1er Cru
Cuvee Prestige 1er Cru       Brut Rose Grand Gru


Q.テロワール・シリーズについて詳しく教えてください
A.これらに着手したのは私がドメーヌに戻った2003年からで、2007年11月のリリースを予定しています。ラベルもクラシック・シリーズとは全く違います。

“Les Chaillots Gillis 1er Cru 2003” はシャルドネ100%のブラン・ド・ブラン(*3)で、エキュイユの中腹にある畑のブドウを使っています。平均樹齢は40年以上です。樽発酵、樽熟成を行っていますが、マロラクティック発酵は行っていません。無ろ過、無清澄で、熟成期間は平均3年以上です。

“Brut Rose Grand Cru” ですが、以前はグラン・クリュのブジーのブドウとプルミエ・クリュのエキュイユとヴィレ・アルランのブドウをアッサンブラージュして“Brut Rose Premier Cru”としていましたが、ブジーのものだけを使い、“グラン・クリュ”シャンパーニュに格上げしました。
ピノ・ノワール70%、シャルドネが30%で、セニエ(*4)によるロゼです。平均熟成期間は2年以上です。

“Les Francs de Pied 1er Cru 2003” は、エキュイユ村のピノ・ノワール100%からつくったブラン・ド・ノワール(*5)で、樽発酵、樽熟成は行いますが、これもマロラクティック発酵は行わず、無ろ過、無清澄です。熟成期間は平均3年以上です。


Q.“Les Chaillots Gillis 1er Cru”と“Les Francs de Pied 1er Cru”は“Extra Brut”ということですが、ドサージュ(*6)の量はゼロですか?
A.どちらも2g/リットルで、ゼロにはしません。というのも、料理でもちょっとの調味料で味が引き立つように、シャンパーニュもドサージュで味が丸くなるからです。試飲しながら最適の量を決めました。




Q.“Les Francs de Pied 1er Cru”は特別なシャンパーニュということですが?
A.これは、接ぎ木していない自根のブドウ樹です。父の頃から(1973年に植樹)あることがわかっていました。エキュイユ村に1パーセル(区画)だけあるピノ・ノワールです。
この畑は砂質土壌ですが、土壌と樹の相性が良かったのでしょうか、フィロキセラを寄せ付けることなく成長しました。特別な環境(畑のまわりは樫の木の森)にあるのかもしれませんし、土壌とブドウが極めて稀な組み合わせだった、といえるのかもしれません。


Q.クラシカル・シリーズの古いヴィンテージものは、どういうシャンパーニュですか?
A.現在市場に出ている古いものは“Champagne Cuvee Prestige Premier Cru 1989”と“Champagne Cuvee Reserve Premier Cru 1989 Magnum”です。
古いものを飲み慣れていない消費者に熟成したおいしいシャンパーニュを飲んでほしい、という思いからつくっています。

偉大な年のみの生産で、近年では1985、1988、1989、1995、1997年につくっています。10年以上熟成させてから出荷しますが、この1989年は15年熟成させています。


(*1) リザーヴ・ワイン:
各生産者の個性を表現するため、将来に備えてストックしておくワインのこと

(*2) デゴルジュマン:
出荷前に行うオリ抜き

(*3) ブラン・ド・ブラン:
白ブドウからつくられる白いシャンパーニュ

(*4) セニエ:
「血抜き」の意味で、黒ブドウのかもしの途中で、ほどよく色付いた果汁部分だけを抜き取り、白ワインのように醸造する手法

(*5) ブラン・ド・ノワール:
黒ブドウからつくられる白いシャンパーニュ

(*6) ドサージュ:
オリ抜きした後に加える糖分(門出のリキュール)のこと

(*7) グラヴィティ・システム:
ポンプ等を使わず、ワインの移動を重力によって行うこと


<テイスティングしたシャンパーニュ>
新シリーズになる前の現行の2アイテムをブラインドでテイスティングしました


Brut Premier Cru NV
色はやや濃い目のイエロー。酸がしっかりとし、コクがあり、ボディがしっかりとし、やや甘さを感じるタイプ。どちらかというとスティルワインに近い印象があり、ピノ・ノワールが多いかも?

オープンしてみると、ピノ・ノワール80%、シャルドネ20%で、ドサージュは9g/リットル。1998~2002年のワインをアッサンブラージュ。マロラクティック発酵していないワインを10%ブレンドしていました。



Brut Blanc de Blancs Premier Cru 2000

1本目よりは色調が淡く、味わいもスッキリ。ミネラル感があり、口にチリチリと当たる感じは爽やかなエスプリ系のシャンパーニュでは?

オープンしてみると、シャルドネ100%のブラン・ド・ブランで、ドサージュは3g/リットルと、やはり1本目よりも辛口。こちらはマロラクティック発酵していないワインを35%ブレンドしているということで、これもより爽やかに感じた要因のひとつでしょう。


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インタビューを終えて

「小さい頃からシャンパーニュの味見はしていたけれど、初めからドメーヌを継ごうとは思ってなかったんです。意識し始めたきっかけは、15、16歳くらいのときに行ったヴーヴ・クリコ社の研修でした。といっても、1週間くらいのミニ体験コースでしたけどね。

この時の研修でシャンパーニュづくりの雰囲気がわかり、醸造学校に行ってみようかなと思いました。ですが、家が畑を持っていなかったら、自分はワインの仕事には進まなかったかもしれないですね。スペインや南アフリカとか、美人が多い土地にいたかったかも(笑)」

と、冗談交じりに語るニコラさんですが、この日に話を聞いた限りでは、もうすっかりシャンパーニュづくりにのめり込んでいるようでした。

ニコラさんがドメーヌに戻ってきた2003年には醸造設備を一新し、テロワールごとに醸造できるよう、多くのステンレスタンクを購入し、グラヴィティ・システム(*7)も導入しました

準備はすっかり整い、これからは思う存分、持てる力を発揮するだけです。

ニコラさんの父ミシェルさんはまだ引退するような年ではなく、しっかり元気ですが(1943年生まれの64歳)、早々にニコラさんにドメーヌを譲ったのは、安心して任せられると判断したからなのでしょう。

ミッシェルさんは、時々は収穫等の手伝いもしているということですが、今は悠々自適に過ごし、ニコラさんを蔭から見守っています。



M.マイヤールでは、いよいよこの11月に新シリーズをリリースしますが、さらに今後の目標は?と尋ねると、

「最終的には品質を良くしていくことに努めたいと思います。いい樽を選んだり、いい焦がし方を研究したりする等、やることはまだまだありますよ!」
とニコラさん。

まだまだ進化しそうなM.マイヤールは、今後も目が離せそうにありません。




取材協力: 豊通食料株式会社
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第38回 Franz Haas@「キャッチ The 生産者」

2009-05-07 10:02:11 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2007年9月11日)

第38回  Maria Luisa Manna  <Franz Haas>

今回のゲストは、北イタリアのアルト・アディジェにある
フランツ・ハースのマダム、マリア・ルイザ・マンナさんです。
マリアさんは多忙なフランツ・ハース氏に代わり、同社のセラー・マスターであるアンドレア・モーザーさんとともに来日しました。


<Maria Luisa Manna> (マリア・ルイザ・マンナ)
トレンティーノ・アルト・アディジェ州の州都トレント出身。
1982年、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの試飲会でフランツ・ハース氏と出会い、結婚。
現在は、フランツ・ハースの妻として、またワイナリーの販売マネージャーのアシスタントとしても夫をサポートしている。


イタリア最北部の歴史あるワイナリー   - Franz Haas -
イタリアの最北部に位置するトレンティーノ=アルト・アディジェ州は、第一次世界大戦前まではオーストリアに属していました。現在はオーストリアと国境を接し、南側のトレント自治県、北側のアルト・アディジェ自治県に分かれている特別自治州です。

今回紹介するフランツ・ハースは北側のアルト・アディジェ自治県にあります。アルプス山脈の麓に位置するこの地域は、協同組合のワイナリーが75%を占め、フランツ・ハースのような個人経営のエステート型ワイナリーは少数派です。

アルト・アディジェのDOCは“DOC Alto Adige”(またはSudtirol)で、白、赤、ロゼ、スプマンテ(発泡ワイン)、パッシート(乾燥したブドウからつくる甘口)、ヴェンデンミア・タルディーヴァ(遅摘み)と、さまざまなタイプのワインがつくられています。

ワイン生産比率は、赤が50%超、白が約45%ですが、この地域の白ワインへの注目が集まってきているため、白用品種の作付面積が増えてきています。



<Andrea Moser> (アンドレア・モーザー)
サン・ミケーレ醸造学校卒業後、いくつかのワイナリーを経て、フランツ・ハースに入社。
フランツ・ハースでの経験は4年になり、現在は同ワイナリーのセラー・マスターを務める。



Q.フランツ・ハースについて教えてください
A.(Maria)フランツ・ハースは、1880年に1.5haの畑からスタートしたワイナリーで、トレンティーノ・アルト・アディジェ州の北部都市ボルツァーノ(Bolzano)から車で20~30分のモンターニャ村(Montagna)にあります。
長男が代々名前を継いでいくという伝統がこの地にはあり、現当主であり私の夫が8代目(1986年から)のフランツです。

夫の代で9haの畑を購入し、レンタルの30ha(場所を借りているだけで、畑の面倒は自分たちで見ている)、契約栽培の10haと、合計50haから年間25万本生産しています。


Q.アルト・アディジェとはどんなところですか?
A.(Maria)オーストリアとの国境に近いので、ドイツ語、イタリア語、ラディン語(*1)を話す人が入り混じります。夫のフランツは普段はドイツ語を話します。

小さな地域ですが、ミシュランの2つ星や3つ星のレストランがたくさんあり、美食エリアとしても知られています。レストランの内装は木を使ったウッディな雰囲気の店が多く、イタリアの他のエリアと全く違います。

家庭的な料理も多く、各家庭ではよく料理を作ります。自家製チーズ、カネデルリ(*2)、スペック(*3)、グラーシュ(*4)がよく食べられています。リンゴの産地でもあるので、リンゴを使ったシュトルーデル(*5)、フランボワーズなどの森のフルーツを使ったトルテなどのお菓子も名物です。


Q.ワイン産地としてはどんな特徴がありますか?
A.(Maria)ボルツァーノは盆地ですので、冬は寒くて夏は暑くなります。大陸性気候と地中海性気候の2つの特徴を持ち合わせ、ジメジメしている時もあれば乾燥する時もあります。寒暖の差と湿潤の差が激しく、例えば、午前中にアルプスの麓でスキーをしていたのに、お昼からは湖で泳げてしまう、そんなところです。

このように、昼と夜の寒暖の差が大きく、土地の高低差があるので(標高250~850m)、ブドウの生育には最適な場所といえます。
よって、フランスでいえばボルドーからブルゴーニュ、アルザスetc…といった気候があるので、さまざまな要素を持つワインができます。

特に土地の高低差は、ブドウの熟し方、収穫時期に影響を与え、さまざまな品種のブドウをつくることができるので、バリエーション豊かなワイン生産が可能です。

(Andrea)アルト・アディジェは土壌に多様性があり、他の地域との差別化を図るには最適な場所といえます。エリアの特性をしっかりと見分け、エリアごとにブドウにあった土壌を見極めて植えていくことが大事です。

また、広いDOCですので、畑での人の関わり方(仕事)がワインに影響を与えます。畑は山の中腹にあって作業がしにくいので、仕事量が多く、非常に手がかかりますが、当ワイナリーでは、オーナーのフランツが中心となって、スタッフ全員で畑作業にあたっています。



Q.フランツ・ハースの哲学は?
A.(Maria)「栽培技術の発達で可能になったこともありますが、自然を重視し、自然に近づき、最小限の薬剤しか使わない、そんなワインづくりを行っています。

また、長熟タイプのワインを楽しんでもらいたいと思ってつくっています。
白ワインならブルゴーニュのモンラッシェやムルソー、赤ワインのピノ・ノワールならブルゴーニュのイメージを持つもの、カベルネやメルロ系ならボルドーやポムロルをイメージしたものをと考えています。

(Andrea)この土地でつくったすべてのブドウで、いかにエレガントさと個性を出していけるかがフランツの考えるところで、当ワイナリーの命題ともいえます。
つまり、良いブドウをつくり、土壌とミクロクリマをブドウの中に閉じ込めていこうという考えです。


Q.ワインづくりで大事なことは?
A.(Andrea)良い香りを持たせ、しっかりした酸味をいかにワインに落とし込むかが大事です。また、先に述べたワインのエレガントさを出すには気候によるものが大きいので、このところの地球温暖化は非常に問題です。8年くらい前から北イタリア全体でもその影響を感じています。そのため、標高850mのところまで畑を広げ、酸味をしっかり出す畑を確保しました。

次に大事なのは樹の仕立て方です。1987年からフランツは仕立て方を変え、ペルゴラ(棚式)をやめてコルドンやグイヨにし、収穫量を抑えています。

今まで1haあたり3000~4000本だったものを1万~1万2000本に密植し、ブドウ樹1本あたり2~3kgの収穫量が0.4~0.6kgになりました。これにより、凝縮感のあるブドウを得ることができるようになりました。

しかし、ペルゴラで古い樹齢のミュラー・トゥルガウやラグレインがあります。ラグレインは仕立て方で大きく差が出る品種ですが、古木からはクオリティの高いブドウが得られるので、ここ2~3年はペルゴラと新式の2つのシステムで行っていきたいと思います。


Q.国内と海外のシェアは?
A.(Maria)「60%がイタリア国内のトップマーケット向けで、輸出は40%です。輸出先のトップはドイツで、日本やアメリカも大きな割合を占めています。


(*1) ラディン語:
この地域のローカル言語。ボルツァーノ周辺はイタリア語で“アルト・アディジェ(Alto Adige)と呼ばれているが、ラディン語では“ズュートチロル(Sudtirol)”(=南チロル)という。(ドイツ語もSudtirol)

(*2) カネデルリ:
固くなったパン、チーズ、ハム(スペック)などを練り込んだニョッキ風の団子。この地方の名物。

(*3) スペック:
この地方名物の生ハムの燻製

(*4) グラーシュ:
肉と野菜にワインを加えてつくる、シチューのような煮込み料理

(*5) シュトルーデル:
リンゴなどのフルーツを薄く伸ばしたパイ生地で包み込んで焼いたお菓子。リンゴを使ったものは“アップル・シュトルーデル”と呼ばれ、オーストリアやドイツ、スイスなどでもよくつくられる。


<テイスティングしたワイン>


Alto Adige DOC Muller Thrugau 2006
桃のコンポートのような華やかな香りがありますが、口にするとクリーンでキレがあり、フレッシュで爽やかなワインです。ピュアで酸がしっかりとし、ミネラル感もあります。

「モンターニャ村のグレーノ畑からのブドウを使っています。土壌は斑岩を含む砂質です。ミュラー・トゥルガウはフレッシュで親しみやすいブドウですので、我々もフレッシュさ、酸と果実味のバランスの良さを出し、口の中で果実味を楽しめるワインをつくろうとしています。ステンレスタンクのみを使い、スキンコンタクトで香りをうまく移し、酸を引き出します。酵母も、多糖類を旨く引き出せるような種類を選んでいます」(アンドレアさん)


Alto Adige DOC Traminer Aromatico 2006
グリーンがかった外観で、香りは花、白い果肉の若い果実、洋梨。ボディはしっかりとして厚みがありますが、酸がベースになっているので、バランスが取れています。

「ピノ・ビアンコは制約が大きいブドウのひとつで、良いものを探すのが難しい品種です。しかし、エレガントで、土壌をよく反映する可能性のあるブドウです。このワインにはモンターニャ村とアルディーニャ村のブドウを使っていますが、土壌は砂質が多く、ミネラル感を引き出します。発酵はステンレスタンクですが、一部小樽を使います。少しだけマロラクティック発酵を行い、フレッシュさとミネラル感を与えています」(アンドレアさん)


Alto Adige DOC Pinot Bianco 2006
ライチやマスカットのフレーバーがあり、アロマティック。香りは甘く、口にすると果実の甘さがあるものの、酸がキリリとし、柑橘の皮のほろ苦いニュアンスも。余韻は長め。

「ゲヴュルツトラミネルのイタリア名がトラミネール・アロマティコで、名前の由来となったトラメーノ村を中心に栽培されている伝統品種で、最重要白品種でもあります。安定した水分の供給が必要なので、石灰質や粘土質の土壌を好みます。このワインは、モンターニャ村とエーニャ村からのブドウを使っています。アロマティックさを出すために、低温でマセラシオンを行います。発酵はステンレスタンクですが、発酵期間は短すぎても長すぎてもだめで、長いと皮からタンニン分が出て苦くなります。このバランスを取るのが大変です」(アンドレアさん)



Alto Adige DOC Pinot Nero 2005
若々しくきれいなルビー色。香ばしいナッツの香りがあり、口にするとハッとする鮮やかな果実味で、酸もしっかりしています、余韻も長めで、ほどよいビターさを感じます。

「当主フランツが最も心血を注いでいる品種がピノ・ネロ(=ピノ・ノワール)です。良いワインをつくるのが難しいブドウのひとつですが、石灰質や粘土を含む砂質土壌の35の畑(モンターニャ村とエーニャ村)に植え、バランスの取れたブドウを得られるようにしています。ブドウ樹は1haあたり12500本に密植し、良いストラクチャーを持つブドウが得られるように努力しています。ピノ・ネロはフレッシュさがあり、独特の果実の香りが身上ですから、35の畑別に少しずつ変えて仕込み、最後にアッサンブラージュを行います」(アンドレアさん)

「アルト・アディジェは涼しいので、フレッシュさが出せ、イタリアのピノ・ネロの中で最も良いものができる地域です」(マリアさん)



Alto Adige DOC Lagrein 2005
野生的な豊かな香りで、煮詰めたフルーツを思わせます。タンニンはたっぷりとしていますが、ザラつきがなく、なめらかです。なめし革のような野性味があり、旨味もたっぷり。

「ラグレインは地元では“ラグライン”と呼んでいます。これも地元で親しまれてきた伝統品種です。エーニャ村のブドウを使っていますが、標高が低く(250m)、土壌は熱を逃しにくい沖積土ですので、夜間も温度をキープし、ブドウの完熟に寄与します。攻撃的なタンニンがあるためマセラシオンが難しく、パワフルで構成がしっかりしているので、エレガントさを出すのが難しい品種ですが、うまく出せるように努力しています」(アンドレアさん)



Alto Adige DOC Moscato Rosa 2005
濃厚な色のロゼワイン。バラやマスカットのような華やかな香りが素晴らしく、口にすると非常にチャーミング。甘さと酸のバランスが良く、ピュアで可憐な、幸せな甘さです。

「モスカート・ローザはアルト・アディジェ特有のブドウで、アロマが素晴らしく、色もきれいなワインになります。しかし、栽培面積はアルト・アディジェ全体でも12haしかなく、我々も3.5ha(エーニャ村)しか栽培していません。というのも、結実が非常に難しく、バラバラにしか粒が付かないからです。でも、付いたブドウはしっかりしているので、パッシート(乾燥)させることも可能です。このワインは低温でスキンコンタクトを行い、香りと残糖分高めに残しています。なお、土壌は斑岩、粘土・石灰・砂質の混成です」(アンドレアさん)

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インタビューを終えて

フランツ・ハースのワインをテイスティングして感じたのは、どのワインも非常にエレガントだということ。過剰な抽出はせず、濁りがなくピュアで、しかも芯がしっかりとしてメリハリがあります。

また、充分な酸がボディを支え、きれいな果実味とのバランスが取れ、1杯飲んだらまた1杯・・・とグラスを重ねたくなるタイプのワインです。

これはアルト・アディジェという冷涼な気候によるものが大きいかもしれませんが、アンドレアさんが言っていたように、収量をきっちり抑え、ていねいに手をかけて育てたブドウでないと、ここまでのクオリティは出せません。

「フランツがピノ・ノワールに狂っていることは、知り合う前から有名だったわ。彼は今も、寝る間を惜しんでピノ・ノワールに心血を注いでいますけど(笑)」

とマリアさんは言いますが、フランツ・ハースのワインを飲めば、ピノ・ノワールだけでなく、どのブドウにも愛情が注がれていることがわかります。



現在はフランツさんとアンドレアさん、そして若い研修生の3人が中心となって現場にあたっています。そこに販売マネージャーと、典型的なイタリアのマンマである陽気なマリアさんが加わり、スタッフ一丸となって高品質で国内外の評価の高いワインを生み出しています。

そんなチームワークバッチリのフランツ・ハースは、エレガントでフィネスを備えるワインを求める人にとって、絶対にハズせないワイナリーでしょう。


取材協力: 株式会社ワインウェイヴ
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第37回 Sylvie Spielmann &Rateau @「キャッチ The 生産者」

2009-05-06 10:22:25 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2007年8月11日)

第37回  Sylvie Spielmann & Jean Claude Rateau
  <Domaine Sylvie Spielmann & Domaine Rateau >

今回のゲストは、夫婦それぞれがフランスの著名生産地でワインづくりを行い、しかも普段は300kmも離れた生活を送っているという、
シルヴィー・スピールマンさんとジャン・クロード・ラトーさん夫妻です。
夫婦を一度に取材というのは、「キャッチ The 生産者」では初ですが、なかなか興味深い 話が聞けそうです。  



<Sylvie Spielmann> (シルヴィー・スピールマン)
アルザス地方のベルグハイム村(ストラスブールとコルマールの間に位置)生まれ。
1988年よりドメーヌ・シルヴィー・スピールマン当主。



Jean Claude Rateau> (ジャン・クロード・ラトー)
1953年生まれ。14歳で家を出て修行に出る。
1979年、祖父母や父の所有するブドウ畑を元に、ボーヌにドメーヌ・ラトーを設立。


300km離れた情熱的カップル  
             
奥様のシルヴィーさんはアルザス夫のラトーさんはブルゴーニュにそれぞれ所有するドメーヌがあるため、二人が一緒にいられるのは週末だけ。それでも毎週車を走らせて会いに行くというのですから、非常にラブラブな夫婦です。
しかも、遠く離れながらも、それぞれのワインづくりに情熱を注ぐ二人ですが、どちらのドメーヌもビオディナミ農法を行っているという、ビオディナミ夫婦でもあるのです。



Domaine Sylvie Spielmann

Q.あなたがワインづくりを始めた経緯は?
A.この地で祖父が採掘の仕事をしていました。それが100年ほど続くスピールマン家の本業ですが、祖父はブドウを植え、副業的にブドウ栽培を始めました。その後、瓶詰めをするようになり、それがドメーヌ・シルヴィー・スピールマンの前身です。

父の代はコンクリート業で、石を仕入れて卸したりする仕事をしていますが、ワインづくりに関しては、母が祖父から引き継ぎました。

そして、母から引き継いだのが私です。兄も姉もいましたが、私は自然と接することが好きでしたので、私がワインづくりをしようと思いました。

まずシャンパーニュとブルゴーニュで勉強をし、カリフォルニアやオーストラリアのワイナリーにも修行に行きました。
そして、アルザスに戻って来たのが1988年です。


Q.あなたのいるベルグハイム村の土壌は特殊だと聞きますが?
A.ここは石膏(ギプス、フランス語ではジプス)を取り出していた採石場でしたので、ブドウ畑の下は石膏の岩盤となっています。
そのため、所有する8haの畑のうち7haが石膏混じりの泥灰土の土壌です。石膏は水分を閉じ込めるので保湿効果があり、ブドウの根に水分を補給してくれます。
また、石膏が混ざると重くて冷たい土壌になるので、ブドウが熟す速度はゆっくりになります。

よって、石膏混じりの土壌のワインは、何年か熟成して飲むとよりおいしくなるという特徴があります。
また、ミネラルをたくさん含み、ボディにフレッシュ感を与える酸が豊かなワインになります。これらはすべて石膏のおかげです。


Q.アルザスの土壌の特徴は?
A.アルザスの地形は、長い歴史を持ってつくられたため、非常に複雑です。かつてボージュ山脈とドイツの黒い森はつながっていましたが、地殻変動により、アルザス側とドイツ側それぞれに大きな断層ができました。アルザスのブドウ畑は、このボージュ山脈の断層に沿ってあり、縦100km、横2~5kmに広がっています。断層の上は花崗岩で、崖の下の方や平地は川からの丸い石ころ(アルプスから川の流れで流れてきたもの)が見られます。また、いくつもの段々もあります。

私の畑は石膏+泥灰土の土壌で、水の溜まる沼や潟だった時代にできた堆積土によってつくられました。他の土地は海だったところが多く、化石が堆積したものが多く見られます。火山岩(ランゲン)、スレート(カステルベルク)、貝殻土壌(カイゼルベルク)等、さまざまな土壌があり、13の土壌とぶどう品種7つの組み合わせで、アルザスというところは実に多種多様なワインがつくられる地域だといえます。


Q.醸造についてのこだわりは?
A.プレスは長い時間をかけてゆっくり行います。自然な醸造で、温度コントロールは行いません。自然酵母のみで4~5カ月かけて発酵させます。

良いブドウだけを選び、皮のうまみを出すためにオリと一緒に長く漬け込みます。旨味をどんどん取り出すことでワインの資質が高まります。こうした作業が土壌のミネラル分を引き出します。


Q.白ワインが主流のアルザスにおいて、赤ワインも生産しているということですが?
A.はい、ジャン・クロードと知り合ってからピノ・ノワールのつくり方を学んできました。
まずは、完熟したブドウからワインづくりをすることを心がけています。次に、以前はルモンタージュ(=発酵槽の下から果汁を抜いて循環させること)だったのを、ピジャージュ(発酵槽の上に浮かんだ果皮の塊をほぐすこと)に変えました。ピジャージュは、ブルゴーニュでは足で踏んで行いますが、私は手で行っています。これにより、ピノ・ノワールのやさしさが引き出され、繊細でやさしいワインになったと思います。

樹齢がまだ若いので新樽は使わず、ドメーヌ・ラトーの1年か2年使用樽を使い、丸みのあるピノ・ノワールに仕上げています。また、黒ブドウのスパイシーな味わいも出したいと思っています。

畑の剪定方法もジャン・クロードから習いました。樹液の流れをコントロールするコルドン仕立て(ブルゴーニュ方式)にし、自然に収穫量を抑え、資質のあるワインをめざしています。




Domaine Rateau

Q.なぜビオディナミ栽培に?
A.ボージョレで自然なつくりのワインに出会い、感銘を受けたことがきっかけでした。そこで、ドメーヌを立ち上げた1979年からビオディナミ栽培を始めました。

自然な栽培をしていると、どんな時でも、熟度、健全さ、すべてにおいて、ブドウがバランスの良い成長をしているのを感じます。私のすることは、畑で植物の状況を見ながら、自然な対応を行うだけです。

例えば、2003年は酷い猛暑でしたが、長年ビオディナミでやってきたおかげで根が深く伸び、水分やミネラル補給が適度に行われ、ブドウの成長や成熟にはまったく問題ありませんでした。暑い年でも、土壌の味わいがどんどん出てくるワインになったと思います。


Q.あなたにとって、ワインづくりとは?
A.“ヴァン・ナチュール”(フランス語で“自然なワイン)は、すべてはブドウ次第で、自然が勝手につくるものだと思います。人、ブドウ、すべてが健全なハーモニーを持つワインで、テクニックを使った工業的ワインの対極にあるワインといえるでしょう。

結果はグラスの中のワインにあります。
私は気持ちと情熱をワインに込めているだけです。


Q.ブルゴーニュとアルザスの地形&地質の違いは?
A.アルザスよりシンプルですが、似ています。ブルゴーニュはアルプス山脈が隆起した時に山が落ち込んでできた渓谷です。昔は海でしたが、地殻変動時の圧力で砕けたものが土壌に混ざり、粘土石灰質がメインとなっています。


Q.地球温暖化の影響はありますか?
A.ブルゴーニュは比較的冷涼な気候ですが、温暖化により、今まで涼しかった場所でも毎年完熟したブドウが収穫できるようになってきています。


Q.ワインづくりにおいて、シルヴィーさんの影響はありますか?
A.白ワインのプレスの方法が変わりました。シルヴィーがやっているのと同様、ゆっくりゆっくりとプレスすることで、美味しい白ワインになってきたと思います。私のつくるワインの40%は白ですから、彼女から学んだ影響はかなり大きいですね。




<テイスティングしたワイン>

Domaine Sylvie Spielmann

Riesling V.V. 2004
果実味が豊かで、フルーツの充実感を感じます。果実の甘味と酸味のバランスが良く、ボリューム感、旨味も楽しめます。

「祖父が1960年に植えた樹です。畑は泥灰質混じりの石膏土壌で、石膏土壌からは燻したような香りが感じられます。白い花のフレッシュ感があり、やさしい味わいのワインです。ミント、ウイキョウ等の涼しいハーブを感じ、繊細でミネラル感があります。食事に合うワインだと思います」(シルヴィーさん)


Riesling Grand Cru 2001
より強いミネラル感と果実味を感じます。ふくよかで厚みがあり、さすがグラン・クリュの風格を感じます。

「ここの土壌は、昔は海だったところの堆積土で、水晶が含まれています。水晶といってもジュエリー用ではなく、もっと硬くて加工しにくい鉱物です。

土壌に水晶が含まれていると、光合成が増えます。雨が多い年は水分を飛ばします。畑は3.2haのガイゼルベルクで、傾斜が大きいですが、岩があるので雨で土が流れることはありません。

水晶はパワーストーンといわれていますから、エネルギーを持った土壌といえます。しかも、ここは磁場のある土地と言われていて、かつて十字軍の宿舎があったのも、それに関係しているようです」(シルヴィーさん)



Pinot Noir 2005
しっかりと辛口の赤ワイン。凝縮感があり、タンニンがなめらかです。樽のニュアンスはないものの、ほろ苦さを少し感じます。

「ブルゴーニュのピノ・ノワールが熟した約2週間後にアルザスのピノ・ノワールが熟すので、収穫時期決定の目安にもなっています。05年からはフィルターをかけず、ワインの旨味をそのまま残して瓶詰めしています」(シルヴィーさん)



Domaine Rateau

Hautes Cotes-de-Beaune Blanc 2005
やさしい飲み口の、ピュアな白ワインです。

「オート・コート・ド・ボーヌは、かつてフィロキセラで死んでしまった土地ですが、現在は良い区画がたくさんあり、可能性のある土地です。ボーヌ1級畑よりも規制が厳しくありません。

私の畑では、風の通りをよくするためにY字に剪定をしています。中に湿気がこもらないので、ブドウが健全な状態でいられます。葉っぱが広がりやすく、そうすると自分で蒸発させ、光合成にも良い仕立てといえます」(ラトーさん)


Beaune 1er Cru Les Coucherias 2003
ほっとするやさしいワインで、突き刺すようなところは全く感じません。果実の旨味が充分感じられ、甘さの余韻も長く、質の高さを感じるワインです。

「ボーヌの1級畑の中でも、クーシュリアはちょっと特殊な畑です。南向きなので太陽が沈むまで日が当たり、日照量が多くなります。また、昔は石切り場(オスピスをつくるために切り出したところ)でしたので、硬い岩盤の上に表土があります。そのため、根が岩盤に近づくように深く張らせ、5~10mまで行くようにしています。土は繊細で、触るとポロポロ崩れますが、モンラッシェと同じ土壌なので、偉大な白ワイン向きです。完熟して凝縮した良いブドウが得られるので、リッチでボリュームがあり、ずっと余韻の残るものになります」(ラトーさん)



Beaune 1er Cru Bressandes 2004
スパイシーな香りがあります。タンニンはまだ若くてタイトな感じがありますが、エレガンスを感じるワインです。

「傾斜の強い区画で、乾燥するため病気が少なく、種まで完熟するまで待つことができ、ブドウの実が凝縮します。ブレッサンドはボーヌの中でも熟すのが遅い区画ですが、私の目標は、完熟したピノ・ノワールでワインをつくることです。

これはたくさん抽出しようというワインではなく、エレガントさや女性的な優しさを残したワインです。まだ若いですが、タンニンの質がやさしく繊細で、もう1~2年置くと良いと思いますが、飲む1時間ぐらい前にカラフェに移しておくと良いでしょう」(ラトーさん)


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インタビューを終えて

「1999年にパリで試飲会があった時にジャン・クロードと出会ったんだけど、
私の方が好きになっちゃって(笑)」とシルヴィーさん。

そのラトーさんの影響で、シルヴィーさんがドメーヌ・シルヴィー・スピールマンにビオディナミを導入したのが1999年。愛の力はドメーヌの方向性を変えてしまい、そして二人は結婚、となったわけです。

しかしながら、普段は離れ離れという生活は淋しいかと思うのですが、この二人の様子を見ていると、いつも会えない分、一緒にいられる時は非常に嬉しいようで、特にシルヴィーさんのラブラブパワーがしっかりと伝わってきました。

しかも、ラブラブなだけでなく、シルヴィーさんは、特にピノ・ノワールづくりでは絶大な信頼をラトーさんにおき、
ラトーさんはシルヴィーさんのワインのことを、
「ピュアで明確につくられているワインで、土壌の味わいがしっかり出ています」と言っているように、お互いを尊敬し合っていることがよくわかります。



ラトーさんはブルゴーニュで最も早くビオディナミに取り組み始め、そのラトーさんの影響でシルヴィーさんもビオディナミに転向したわけですが、二人からは、「ビオディナミでやっているんだ!」という気負いは全く感じられません。

ごくごく自然にやっている・・・、そんな姿勢がどちらのワインにも素直に現れていると感じました。



すらっとしたラトーさんに、ふっくらとしたシルヴィーさん。このカップルは一見全く正反対のように見えますが、ハートは見事につながっているようです。


取材協力: BMO株式会社
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第36回 Weingut Fred Loimer@「キャッチ The 生産者」

2009-04-22 09:00:00 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2007年7月11日)

第36回  Fred Loimer  <Weingut Fred Loimer>
 
今回のゲストは、最近注目を浴びているオーストリアのワイナリー
“フレッド・ロイマー醸造所” のオーナーのフレッド・ロイマー さんです。



<Fred Loimer> (フレッド・ロイマー)
42歳。ウィーン近郊のクロスターノイブルク醸造学校卒。
ドイツのナーエのワイナリーや、カリフォルニアのシュグ・ワイナリーでの修行を経て、現在はフレッド・ロイマー醸造所のオーナー兼エノロジスト。


国際市場で赤丸急上昇のオーストリア

芸術の都ウィーンを首都に持ち、ハプスブルグ家の栄華の香りが残るオーストリアで本格的なワインづくりが始まったのは、紀元前100年頃のローマ時代といわれています 。

そして現在、オーストリアのブドウ畑は48,000haあり、フランスのブルゴーニュ地方よりやや広いものの、ワイン生産量はブルゴーニュをやや下回り、しかも、緯度はブルゴーニュとほぼ同じ47~48度に位置しています。

ということは、ブルゴーニュ地方がそのまま東に移動したのがオーストリアと想像していただくと、イメージが掴みやすいでしょうか。

ただ、ワイン生産地が細長く縦に広がるブルゴーニュと違い、オーストリアの国土は東西に広がり、ワイン生産地は国の東側に集中しているという特徴があります。

オーストリアのワインは、国境を接し、ワイン法においても近いものがあるドイツと似ていますが、ドイツより南に位置してやや温暖なため、アルコール度数が高めの辛口ワインが多くつくられています。

その中でオーストリアワインを代表するものといえば、
グリューナー・フェルトリナーからつくられる辛口白ワインでしょう。
グリューナー・フェルトリナーはオーストリアの固有品種で、栽培面積は約37%を占めています。

また、古くからのワインファンにとっては、オーストリアといえば
新酒の“ホイリゲ”を思い浮かべることでしょう。

しかし、ここ近年は国際市場でも評価の高い高品質ワインがどんどん登場し、若手生産者の活躍も目立ってきています。

もちろん、今回紹介するフレッド・ロイマーも、その注目若手生産者の1人です。




Weingut Fred Loimer
フレッド・ロイマー醸造所は、ウィーンの北西70kmに位置するカンプタール(Kamptal)のランゲンロイス(Langenlois)にあります。多くのワイナリーが集中するランゲンロイスは、オーストリア最大のワインの町です。

オーストリアのワイン産地は大きく4つに分かれますが、カンプタールは、オーストリアのブドウ栽培面積の6割近くを占めるニーダーエステルライヒ州の栽培地区のひとつです。



Q.カンプタールの気候、土壌、畑の特徴は?
A.カンプタールは“カンプ渓谷”という意味です。この地域を南北に流れるカンプ川がつくった渓谷の土地で、南部のドナウ川とこのカンプ川の影響を大きく受け、小さいエリアに独特な気候が生まれます。

冬は寒く、夏は暑くて乾燥する大陸性気候ですが、北の森から涼しい風が吹くので、昼夜の寒暖の差が激しくなります。また、日本のような四季も見られます。

土壌はロームとレス(黄土)が中心ですが、原生岩土壌も見られ、丘陵地帯にテラス状の畑が広がっています。畑があるのは標高200~400mのところです。 

Q.あなたのワイナリーは外観が美術館のようにスタイリッシュでモダンですが?
A.以前はランゲンロイスの町の外にセラーを持っていましたが、2000年ヴィンテージから新ワイナリーで醸造を行い、熟成と貯蔵もここで行っています。

これはウィーンの建築家にデザインしてもらいました。もちろん外観も自慢ですが、もっと素晴らしいのは、ワイナリーとしての完璧な機能です。
また、訪問者がワイナリーを見学したり、テイスティングしたりできる広いスペースもあります。
私はこのワイナリーの明るくて自由な雰囲気をとても気に入っています。

Q.最近ビオディナミ農法に切り替えたということですが?
A.ビオディナミはシュタイナーの理論ですが、経験豊かな生態農学者のアンドリュー・ローランド博士の指導の下、当ワイナリーは2005年の冬からビオディナミ農法を採用しています。
ですが、それ以前から20年間(父の代は30年前からで、その途中から)、ケミカルなものは使っていません。使用するのは硫黄と銅(ボルドー液)のみです。

我々は自然と一緒に働いていると考えているからです。
また、畑に多様性を持たせるため、ブドウ畑には花も植えています。

Q.あなたのワインの特徴は?
A.“モダンかつトラディショナル”なスタイルだと思います。
ステンレスタンクを使ったフレッシュなワインづくりを行う一方で、大きな木樽を使った伝統的な醸造方法も大事にしています。大樽はワインにストラクチャーと深みを与えてくれるからです。

ブドウ品種はグリューナー・フェルトリナーが中心ですが、この品種はスパイシーなスタイルを好みますので、それを生かしたワインづくりを行っています。

Q.あなたのワインづくりのコンセプトは?
A.“ヴィンテージと土壌の特徴を最大限に引き出す”ということです。
健康でバランスが取れ、根を深く張ったブドウの樹がブドウにテロワールの個性を与えてくれると考えているので、清澄をあまり強く行わない等、ワインに人工的な影響が及ぶのを限りなくゼロにするよう心がけています。

そうしてつくった私のワインは、カンプタールと私自身を鏡のようによく映し出したものになっていると思います。

Q.“Terrassen”(テラッセン)というワインがありますが?
A.ランゲンロイスのテラス状の畑のブドウからつくったワインです。それぞれの区画が小さいため単一畑として仕込めない畑があるので、それらをまとめ、“テラッセン”(テラス状の)という名前を付けました。

木のニュアンスを付けず、果実味を前面に出したスタイルのワインで、グリューナー・フェルトリナーとリースリングの他に、赤ワインのピノ・ノワールも少しあります。

Q.この地域では、テラス状の畑はよく見られるのですか?
A.畑の経済性を考えると、平地の部分は他の作物の畑や家畜の飼育用地にした方が良く、そこで、段々畑状のテラスの畑にブドウが植えられてきました。

しかし、テラスは斜面になっているので太陽の光がよく当たり、ブドウ畑としては非常に良い条件の場所なのです。カンプタールはブドウ栽培地としては北限に近いので、このように日射量を多く受けられるということは重要なことです。




<テイスティングしたワイン>

<Terrassenシリーズ>

Gruner Veltliner Terrassen 2005
5つの区画のテラス畑からのもの。マイルドな酸味とグリューナー・フェルトリナー特有のスパイシーなフレーバーと花のニュアンスがあり、春らしい彩の野菜料理にぴったり。アルコール度数13%

Riesling Terrassen 2005
リースリングはお隣のドイツが有名ですが、オーストリアでも重要な品種で、生き生きとした酸味が特徴です。これはより果実味を出すために、ステンレスタンクで醸造しています。きれいなミネラル感があり、酸がスックと伸びたワインです。アルコール度数12.8%




<シングル・ヴィンヤード・シリーズ>

Kaferberg Gruner Veltliner 2005
ケーファーベルクはラングロイスの北側の標高の高いところ(300m)にある畑で、気候はより涼しくなります。土壌は1700年前の片麻岩と粘土砂岩で、グリューナー・フェルトリナーの栽培に最適の畑です。アルコール度数13%

Spiegel Gruner Veltliner 2005
シュピーゲルは、風に吹かれてアルプスからの土地が堆積したレス土(黄土)の土壌で、グリューナー・フェルトリナーに向いています。土が珪素を含んでいるため、ミネラリーなタイプのワインになります。アルコール度数13.5%

Seeberg Riesling 2005
ゼーベルクは重たいスレート土壌で、リースリングに向いている畑です。ワインはフローラルで果実味に富んだものになります。アルコール度数13%

Steinmassl Riesling 2005
シュタインマッスルは痩せた片麻岩の石の多い土壌で、ここもリースリング向きの畑です。硬質なミネラル感が特徴のワインになります。アルコール度数13%




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インタビューを終えて


フレッドには、子供の頃、頭やノドが痛いといった仮病を使って学校の授業を抜け出し、よく父のいるブドウ畑に手伝いに行った、というエピソードがあります。

とにかく、小さな頃からブドウ栽培に興味と情熱を持ち、早く自分でブドウをプレスしてワインをつくりたい!と思っていたフレッド少年の情熱は今も失われることなく、いえ、年々その熱さを増し、国内外のコンクールでメダルを獲得するまでに花開いてきました。

ぱっと見、アーティストのようなクールでシャイな雰囲気の漂うフレッドですが、

「我々のワインは喜びを与えるためのもの」と、ワインを飲む者への愛情を忘れていません。



また、彼のワインは、ワインだけが先走るのではなく、食事にもよく合います。

例えば、テラッセンシリーズのフレッシュなワインには「野菜のテリーヌ」(写真左下)が、シングルヴィンヤードのグリューナー・フェルトリナーには「ウィーン風カツレツ(ウィンナー・シュニッツェル)」(右下)がお勧めだとか。



ウィンナー・シュニッツェルは、叩いて薄く伸ばした牛肉のカツレツですが、カツレツは日本でもおなじみの献立です。定番はトンカツですが、ビーフカツやハムカツもあります。
そう考えると、カツレツの温野菜添え などは今晩すぐにでもつくれそうですね。



一見、高貴でツンとし、ちょっと取っ付きにくそうに思えるオーストリアワインですが、フレッドと同様、実は両手を広げて温かく迎えてくれる穏やかなやさしさと懐の深さがあります。

どのワインにもいえることですが、ワインは飲んでみなければわかりません。
まずは、“レッツ トライ!”です。


取材協力:オーストリア大使館商務部

    (株)日本グランドシャンパーニュ
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第35回 Ch. Gaudet-St-Julien@「キャッチ The 生産者」

2009-04-21 09:00:00 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2007年6月11日)

第35回  Guy Petrus Lignac  <Ch. Gaudet-St-Julien>

世界遺産に指定されているフランスはボルドー地方のサン・テミリオン
この町の中心部にあるシャトー・ゴーデ・サン・ジュリアンに、
当主のギィ・ペトリュス・リニャックさんを訪ねました 。



<Guy Petrus Lignac> (ギイ・ペトリュス・リニャック)
サン・テミリオン出身。
シャトー・ゴーデ・サン・ジュリアンの現当主。




歴史の町 サン・テミリオン

ボルドーの東20kmに位置するサン・テミリオンは、8世紀に聖エミリアンによって拓かれ、中世の時代にはスペイン北西部にある聖地サンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼者の宿場町として栄えた町です。その歴史と巡礼者が通った石畳の町並みが注目され、現在は世界遺産に指定されています。

町の中心部の高台には教会と観光案内所があり、その周りにはレストランやカフェが軒を並べ、大型バスから降りた観光客が次々にやってきます。

でも、私が訪れた日は初冬ながら吐く息は真っ白で、指先からジンジン冷えてくる真冬並みの寒い日。しかも深い霧が立ち込めて薄暗く、たくさんいた観光客はいつの間にかいなくなっています。

人気のない町並みは、古い時代にタイムトリップしたようなミステリアスな静寂さに包まれ、サン・テミリオンの素顔を垣間見ることができたような気がしました。



Ch.Guadet-St-Julienへ

県道243号線とゴーデ通り(Rue de Gaudet)が交差する高台の広場から約50m下ったところにシャトーの入り口があります。といっても、まんまアパルトマンの1階という普通の家の扉で、本当にここがシャトー?といぶかしく思いつつも、呼び鈴を鳴らして入った先は、やはり普通の家の玄関がありました。

ところが、その奥に進むとかわいらしい中庭があり、中庭から醸造所とカーヴにつながっていたのです。





Q.シャトーの名前の由来は?
A.まず“Gaudet”ですが、法律家であり、ジロンドの代議士をしていたマルグリット・エリー・ゴーデに由来しています。彼の肖像画はラベルに残されています。
このゴーデ家が所有していたシャトーを我々の祖先が1844年に購入しました。

このゴーデの名は、町のメインストリートで、当シャトーの目の前の通りの名前(Rue de Gaudet)にもなっています。

なお、“サン・ジュリアン”は当家のカーヴに付けられた名前で、元々は人名に由来していています。メドックのサン・ジュリアン村とは関係ありません。 



収穫の終わったサン・テミリオンのブドウ畑

Q.所有する畑について教えて下さい。
A.畑は5.5haで、石灰粘土質土壌の台地にあります。ブドウの平均樹齢は32年で、1haあたり5,500本植えています。
75%がメルロ、25%がカベルネ・フランで、収穫は手摘みで行います。当シャトーではカベルネ・ソーヴィニヨンはなく、メルロ主体であることがサン・テミリオンの特徴です。

生産量は、グラン・クリュ・クラッセの “Ch.Guadet-Saint-Julien”が年間平均22,000本、AOCサン・テミリオンの“Le Jardin”が1,200本です。



中庭にある井戸のような出入り口から地下カーヴに降りて行くことができます

Q.このカーヴはいつ頃つくられたものですか?
A.5世紀のガロ・ロマン時代のものです。このあたりは建築に使う石の産地で、石が切り出された跡の穴がワイン用のセラーとして使われるようになっています。



セラーの壁面には当時に描かれたと思われる、かすかなデッサンが

Q.このカーヴの温度や湿度管理はどのようにしていますか?
A.カーヴはクリーム色の石灰岩(ライムストーン)でできていますが、これにより、温度は13℃、湿度はだいたい65~70%に自然にコントロールされます。



Q.醸造について教えてください。
A.アルコール発酵終了後、一部は樽で、一部はタンクでマロラクティック発酵(MLF)を行います。その後ワインは18~24カ月樽に入れますが、年によって期間は違います。新樽の使用率は40~60%ですが、こちらも年の出来次第です。
樽はフレンチ・オークのみで、アメリカン・オークは使いません。

Q.あなたのワインの特徴は?
A.リッチで、なめらかさがあり、口の中でボリューム感が広がります。よく熟したフルーツのフレーバーがアロマティックで、良質のタンニンとスパイシーな感じのよく混ざり、凝縮感を感じさせるワインです。

説明するよりも、今からテイスティングをして確認しようじゃありませんか?(笑)



ラベルの人物がエリー・ゴーデ


<テイスティングしたワイン>

Ch. Gaudet-St-Julien 2002
メルロ80%、カベルネ・フラン20%。
タンニンは重すぎず、エレガントで、良いバランスを保っています。フィネスがあり、クラシカルなスタイルの、しかも飲みやすさを備えたワインです。
「アニョー(仔羊)やブフ(牛肉)の料理に。さらに魚料理にも合わせられるワインだと思いますよ」(リニャックさん)

Ch. Gaudet-St-Julien 2001
タンニンのストラクチャーがあり、ボディがしっかりとしてスパイシーで、これもクラシカルなスタイルのワインで、しばらく熟成させてから飲みたいと思いました。
「これも、アニョーがオススメですが、チキンやダックにも合います」(リニャックさん)



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インタビューを終えて

複雑な格付け制度

サン・テミリオンにはボルドーのメドックと似たような格付け制度がありますが、10年ごとに改定が行われます。前回の改定は1996年で、その次は2006年の9月でした。

1996年の改定では、シャトー・ゴーデ・サン・ジュリアンは“グラン・クリュ・クラッセ”でしたが、2006年の改定の際にクラス落ちしてしまいました。

この改定に対し、ゴーデ・サン・ジュリアンをはじめとした数シャトーは、「きちんとした調査がされていない状態での決定は公平でなく、大きな問題がある」と訴えを起こしたのです。

そしてその後、リニャックさん達の訴えが認められ、2006年の改定結果は保留となり、つまり、正式な結果が出るまでは、1996年の際の格付けのままでいくことになりました。

たしかに、格付けは消費者にとっては購入の際の目安になり、生産者にとっては市場での販売価格の決定を左右する重要なものです。

10年ごとの見直しというのは、高い品質を保持していくためのしかるべき措置かもしれませんが、格付けの基準を明確にし、公正な調査を行われた上のものでないと、今回のような混乱を引き起こします。

クラスが上がったシャトーにとっては、この保留措置はガッカリかもしれませんが、落とされたシャトーの被るダメージの方が考慮されたということになります。




そういった小難しい話は置いといて、リニャックさんの奥さまのカトリーヌさんが、

「私は都会で生まれて、結婚してサン・テミリオンに来ましたが、住んでみると本当におとぎの国のような素敵なところです。
ここでワインを毎日飲むことは文化のひとつで、あたりまえのことなんです」

と話してくれたように、格付けのことはひとまず置いといて、自分がおいしいと思うワインを好きなように飲んで、楽しもうじゃありませんか?




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第34回 Champagne KRUG@「キャッチ The 生産者」

2009-04-20 09:00:00 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2007年5月11日)

第34回  Julie-Amandine Michel  <Champagne KRUG>

シャンパーニュ訪問記もいよいよ大詰めです。
今回は、シャンパーニュ好きなら誰もが憧れる「クリュッグ」社
スタッフのジュリーさんに 案内していただきました。



<Julie-Amandine Michel> (ジュリー・アマンディーヌ・ミッシェル)
シャンパーニュ出身。ブルゴーニュで勉強後、再びシャンパーニュに戻り、現在はクリュッグ社に勤務。
ちょっとシャイな、でも、とてもチャーミングな女性です。



神秘のシャンパーニュ   ― KRUG ―

“クリュッギスト” という言葉が生まれるほど、そのシャンパーニュに魅せられ、「最高のシャンパーニュは?」と尋ねられたら真っ先にこの名を挙げる人が多いメゾンのひとつが、ここ“クリュッグ”であることは間違いないでしょう。

それほどまでに愛されるシャンパーニュには、いったいどんな秘密が隠されているのでしょうか?

その神秘のシャンパーニュに出会うため、ランスの町にあるクリュッグ社に足を運びました。




KRUG
1843年、ヨハン・ヨセフ・クリュッグ氏(ドイツ系)によってランスに創業。
現当主は6代目のオリヴィエ・クリュッグ氏(1966年生まれ)。
現在はLVMH(ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー)グループに所属。





Q.クリュッグには、ノンヴィンテージ・シャンパーニュがないと聞きましたが?
A.ええ、“ノンヴィンテージ”という名前のシャンパーニュはつくっていません。
違った年の違ったテロワールのパーソナリティを尊重し、セレクトしてブレンドしたシャンパーニュは“マルチヴィンテージ”と呼んでいます。
そして当社では、それを“グランド・キュヴェ”(Grande Cuvee)としてリリースしています。
このグランド・キュヴェこそが当社を象徴するシャンパーニュです。

Q.なぜ、一般的な名称を用いず、そのような名前を付けているのですか?
A.クリュッグ社は、他にはないユニークなシャンパーニュをつくろうということでスタートしましたので、それが名前にも表れています。

Q.グランド・キュヴェの特徴は?
A.洗練された最高のブレンド技術を駆使したブレンドシャンパーニュの極み、といえるでしょう。このグランド・キュヴェが、クリュッグの全てのシャンパーニュのスタイルのベースになっています。

リッチでありながらフレッシュで、力強さがありながらフィネスもあり、非常に調和とバランスの取れた味わいが特徴です。

グランド・キュヴェは3つのブドウ品種をブレンドしていますが、6~10の年度が異なるキュヴェ約50種を使い、創業当時と同じ味わいを今日まで保ち続けています。

3品種はピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・ムニエです。

ピノ・ノワールがフレッシュさ、デリケートさ、複雑さ、力強さを与え、シャルドネがミネラル感を、ピノ・ムニエがスパイシーさを与えます。

なお、ブドウの摘み取りはすべて手で丁寧に行っています。




Q.畑にも特徴があると聞きましたが?
A.畑は非常に小さなモザイク状の区画になっていて、そこからそれぞれのキュヴェをつくり、ブレンドします。

長年の経験で、どの区画にどのブドウが適しているのか、そこからどのようなキュヴェが得られるのかがわかっていますので、それがブレンドに生かされています。

同じブドウ品種でも、畑の区画によってかなりキャラクターが異なってきます。
ですから、一次発酵後のブレンディングテイスティングが非常に大事です。

Q.醸造でのこだわりは ?
A.当社のこだわりは、発酵にオークの小樽を使うことです。ただし、新樽は使いません。年にもよりますが、だいたい3ヶ月ほど樽に入れます。

小樽を使うことで、細かいレベルでのキュヴェ管理が可能になるのはもちろん、樽がワインに生き生きとした風味を与え、酸化もゆるやかになります。



敷地内に並べられたたくさんの樽


Q.熟成についてはいかがですか?
A.シャンパーニュの瓶熟成期間は法律で15ヶ月以上と決められていますが、当社ではグランド・キュヴェでも最低6年(72ヶ月)以上熟成させています。

また、ボトリング後も1年間は瓶で熟成させ、需要に応じて出荷しています。



セラーの中で静かに眠るボトル



オリを落とすためにピュピトルにセットされます


Q.リザーヴワインについてはどう考えていますか?
A.1990年はとても暖かく、ワインがややフレッシュさに欠ける、ということがありました。それ以来、リザーヴワインは良い年にたくさん生産していこう、という体制になりました。
リザーヴワインが充分あれば、年による収穫状況のバラツキがあっても、クリュッグの味を守れるからです。


Q.クリュッグのラインナップについて教えてください。
A.“Krug Grande Cuvee”、“Krug Rose”、“Krug Vintage”、“Krug の5つのラインナップがあります。

クリュッグでは3品種のブドウをバランスよくブレンドすることを身上としていますが、 “クロ・デュ・メニル”だけは唯一の例外です。
これは、クロ・デュ・メニルという単一畑(1.85ha)から得られるシャルドネ1種類によってのみつくられます。この畑はコート・デ・ブラン地区のメニル・シュル・オジェ村にあり、1698年から石の塀で囲まれている特別な区画で、南東向きのゆるやかな斜面にあります。

Q.最後に、クリュッグの哲学とは?
A.決して妥協せず、職人として持てる限りの技術を最大限に生かし、唯一無二のシャンパーニュづくりに情熱を捧げることです。

ブドウの時からグラスに注がれる時まで、献身的に手をかけて育て上げたものがクリュッグのシャンパーニュです。





<テイスティングしたシャンパーニュ>

Krug Grande Cuvee
外観は輝きのある黄金色。充分な酸を持ち、バランスも絶妙。キメ細やかで余韻も長く、高貴な雰囲気を感じさせるシャンパーニュです。

「シトラス、レモンのニュアンスがあり、フレッシュなのにパワーがあってボディがしっかりとし、複雑な味わいが特徴です」(ジュリーさん)



―食事は何を合わせたらいいでしょう?

「どのシャンパーニュも、いわゆるフランス料理に合いますが、お寿司にも合うのではないかと思います。アラビア料理のようなスパイシーなものに合わせても面白いかもしれません。シャンパーニュの北部地域では、ハム類にロゼシャンパーニュを合わせて楽しんでいます。
シャンパーニュは元々ワインですから、甘すぎる料理や酸っぱすぎる料理とはあまり相性が良くない、と考えていただければ難しくはないと思いますよ」(ジュリーさん)


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インタビューを終えて

解き明かされた神秘の鍵

クリュッグの訪問で、“クリュッグはクリュッグ、“クリュッグであることの誇り”がひしひしと伝わってきました。
その誇りを支えているのは“徹底した職人気質”です 。

他とは違う最高のものをつくろうという情熱が品質への自信を生み出し、人々が焦がれて止まないシャンパーニュをつくり出しています。

そして、途絶えることなく続いているファミリーの絆も、クリュッグであるために不可欠なもののひとつで、メゾンの個性を左右するブレンドの作業は、1843年以来、必ずクリュッグ家の一員が行っています。

明文化したブレンドのレシピはなく、代々引き継がれている彼らの舌の記憶こそがクリュッグのスタイルを決める鍵となっています。

心がうちふるえるほど高貴で神秘的なシャンパーニュは、連綿と続くクリュッグファミリーの絆の賜物だったのです。



クリュッグ家の家系を表すツリー

これと似た家系ツリーをドイツのワイナリーでも見かけ、やっぱりクリュッグはドイツ出身ということを実感しました。


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第33回 Champagne Bollinger@「キャッチ The 生産者」

2009-03-22 10:46:03 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2007年4月11日)

第33回  Sonia de la Giraudiere   <Champagne Bollinger>
 
シャンパーニュ訪問記第4弾は、アイ村のボランジェ です。
瀟洒な外観が美しいボランジェ社で 笑顔のソニアさんが 出迎えてくれました。



<Sonia de la Giraudiere> (ソニア・ド・ラ・ジロディエール)
今回、案内をしてくれたボランジェ社スタッフのソニアさんは、知的な雰囲気漂う素敵な大人の女性です。
でも、「“アイ(愛)”(Ay村と同じ発音)は日本語では“ラブ(love)”という意味よ」と私が言うと、「本当?どういう綴り?」と嬉しそうに目を輝かせ、まるで少女のような表情を見せてくれました。

“アイ村は愛の村”という話は、もしかしたら村中に広がっているかもしれません。


フィロキセラ以前のブドウ樹
私がボランジェ社を訪問したいと思ったきっかけのひとつが、古い仕立てのブドウ畑の存在でした。

現在のブドウ樹は、クローン選別したものを培養したり、取り木した枝を挿し木するなどして増やしていきます。

ところが、昔々の方法は違いました。ブドウはツル性植物ですから、成長期にはどんどんツルを伸ばします。そのツルの一部を土に埋めると、そこから根が生え、新しい株ができます。この方法を“provignage”(プロヴィニャージュ)といいます。

今では見られない手法ですが、フィロキセラ禍(19世紀後半)以前からのプロヴィニャージュのブドウ畑がボランジェにあるのです。これはぜひとも拝見せねば!



『007』とボランジェ
ジェームス・ボンドが活躍するハードボイルド映画『007』にはシャンパーニュが登場しますが、そのシャンパーニュは実はボランジェ社のものです。
2006年に公開された最新シリーズ『007/カジノ・ロワイヤル』にも出演しています。

ボランジェとジェームス・ボンドとの共演は『007/ムーン・レイカー(1979年)』から始まりました。
“ジェームス・ボンドの非の打ち所のない嗜好と洗練されたパーソナリティにマッチするシャンパーニュ”ということで、彼の愛飲するブランドとしてボランジェが選ばれたといわれています。

ボランジェの“スペシャル・キュヴェ”は、イギリスでは“ボリー”と呼ばれて親しまれているので、イギリス秘密情報部に勤務するジェームス・ボンドの目に留まったのかもしれませんね。

映画館でシャンパンボトルを抱えながら、というのはちょっと厳しいですが、部屋でお気に入りの『007』をDVDで楽しみながらボランジェのグラスを傾ける、っていうのは手軽にできそうです。




Bollinger
1829年、ドイツからやってきたジャック・ポランジェが、1750年からアイ村を拠点にいくつもの畑を所有するアタナス・エヌカン・ド・ヴィレルモンと出会い、シャンパーニュメゾン“ボランジェ”をアイ村に創立しました。

その後、メゾンはボランジェのファミリーに受け継がれてきましたが、1941年からはマダム・ジャック・ボランジェ(リリー)が取り仕切り、彼女の死後は2人の甥に、そして現在はその子供たちに引き継がれています。

アイは、第30回(ゴセ・ブラバン)でも紹介しましたが、グラン・クリュ格付けの村であり、ピノ・ノワールで名を馳せている村です。実はゴセ・ブラバンとは狭い道を挟んで向かい合っています。

「うちはボランジェ社にブドウを売っていたんだ」と、ゴセ・ブラバンのクリスチャンは言っていました。両社は縁の深いお向かいさんなのです。




まず「プロヴィニャージュの畑が見たい」 とお願いしたところ、建物の裏手に案内されました。家庭菜園風の小さな畑です。

「ほら、これを見て(下の写真)。この畑のブドウの樹の配置図を点で表したものなんだけど、左は点々が不規則でしょう?ツルを埋めて増やしているから、こんなふうにバラバラな配置になっているのよ。根元も畝を高くしているの。

右は“en foule”(アン・フル)(密集させるという意味)という植え方で、きれいに整列しているでしょ?」とソニアさん。



たしかに、樹はてんでバラバラに植えられ、ネギ畑のように畝が高くなっています。なるほど、伸びたツルを埋めるために盛り土をしているんですね。




Q.このブドウ品種は?これでワインをつくっているのですか?
A.ええ、ブドウはピノ・ノワールで、“Vieilles Vignes Francaises”(ヴィエーユ・ヴィーニュ・フランセーズ)(VVF)というシャンパーニュをつくります



収穫の終わった畑で数房のブドウを発見しました・・・・甘い!

Q.VVFはどういうシャンパーニュですか?
A.ピノ・ノワール100%のブラン・ド・ノワールです。畑はここ(Chaudes Terres)の他にもあと2箇所(AyのClos St-JacquesとBouzyのCroix Rouge)あり、それでも全部合わせて0.6haほどです。

だから生産量も少なくて2000~3000本ほどで、毎年つくれるとは限りません。セラーで最低6年寝かせるので、リリースするまでに時間もかかるし、とても手のかかるシャンパーニュです。(現在は1998年のものがリリースされています。2695本)

Q.現在のボランジェについて教えて下さい。
A.マダム・リリーが経営を引き継いで以来、ずっとファミリーで運営するという姿勢を崩していません。外部から干渉を受けることなく、自由にシャンパーニュをつくりたいからです。

畑は70%が自社畑(150ha:ピノ・ノワール95ha、シャルドネ40ha、ピノ・ムニエ20ha)で、30%が契約栽培ですが、すべて長い付き合いのある栽培者です。

Q.ボランジェ社のワインメーキングのこだわりは?
A.ピノ・ノワールをベースにしていること、最初にプレスしたキュヴェしか使わないこと、そして“樽”です。

シャンパーニュでは、第一次発酵の際にオーク樽を使うところは稀ですが、ボランジェのプレスティージ・キュヴェである“ラ・グラン・ダネ”と“R.D.(エル・ディ)”は必ずオーク樽を使いますし、“スペシャル・キュヴェ”(他社でいうノン・ヴィンテージ・シャンパーニュ)も部分的にオーク樽で発酵させます。

Q.なぜオーク樽にこだわるのでしょうか ?
A.ステンレスタンクでは、果汁がダメージを受けることがあると考えるからです。だからといって何でもオーク樽に入れればいいわけではなく、その果汁が充分な資質を持っていることが必要です。当社は熟成期間を長くとっていますので、力のない果汁ではそれに耐えることができません。
また、樽はワインにアロマや独特のキャラクターを与えてくれるからです。ただ、それが過度にならないよう、新樽は使いません。

オーク樽には、村ごと、区画ごと、セパージュごとの単位で小分けにして仕込みますので、それぞれのキャラクターを掴めますし、出所の追跡もできます(トレサビリティ)。



樽にこだわるというだけあって、醸造所内には樽を整備する作業場があり、樽職人(クーパー)の姿もありました。

Q熟成期間が長いということですが、どのくらいでしょうか?
A.スペシャル・キュヴェで最低3年、ラ・グラン・ダネで6年以上、R.D.で8年以上、時に20年になることもあります。

Q.ラ・グラン・ダネとR.D.の違いは?
A.まず、ラ・グラン・ダネをテイスティングし、アロマや酸、ストラクチャーなど、全ての要素でR.D.になれる可能性を持っていると判断されたら、1年後にもう一度テイスティングします。そこで認められたものだけがR.D.への切符を手にすることができるのです。

Q.リザーヴワインはどうしていますか?
A.当社ではリザーヴワインをとても重要視しています。実はヴィンテージ・シャンパーニュよりもノンヴィンテージ・シャンパーニュの方がつくるのが難しいのです。天候が悪い年でもコンスタントにつくっていかなければならないのですから。

そこで、味のベースとなるリザーヴワインが重要になってきます。

リザーヴワインはクリュごとに全てマグナムボトルに詰められ、酵母と糖分を添加して5年から12年寝かされます。その際、ラ・グラン・ダネとR.D.用のものはコルクで、スペシャル・キュヴェ用には金属キャップで栓をします。

なお、当社のリザーヴワインの使用比率は5~10%です。

Q.ルミアージュ(動瓶)は手作業ですか?
A.ラ・グラン・ダネとR.D.は手で、スペシャル・キュヴェは機械(ジャイロパレット)で行います。前2つは特殊なコルク栓を使っているので、機械にセットできないからです。

その後、デゴルジュマン(澱抜き)をしたら4ヶ月ほど寝かせ、落ち着いたらクリーニングをしてラベルを貼って出荷します。




<テイスティングしたシャンパーニュ>

Special Cuvee
イギリスで“ボリー”と呼ばれているポピュラーな“マルチ・ヴィンテージ・シャンパーニュ”。
他社でいう“ノン・ヴィンテージ・シャンパーニュ”に当たりますが、“マルチ・ヴィンテージ”と呼び、“スペシャル・キュヴェ”と名づけたところにボランジェの誇りとこだわりを感じます。
力強さ、フィネス、深み、バランスを兼ね備えた、ボランジェのスタイルをよく表したシャンパーニュです。プルミエ・クリュとグラン・クリュのブドウが使われ、ピノ・ノワール60%、シャルドネとピノ・ムニエが各15% 。

「アペリティフや、サーモン、白身の魚の料理がおすすめです」(ソニアさん)


La Grande Annee 1999
“偉大な年”という名のプレスティージュ・キュヴェ。非常に良い年で、テロワールをよく反映し、しかもボランジェらしさがよく出た年のみに仕込まれます。丸みのあるストラクチャーと、豊かで複雑な深みのあるアロマを備えたシャンパーニュで、基本セパージュは、ピノ・ノワール70%、シャルドネ30%。1999年はピノ・ノワール63%、シャルドネ37% 。

「サービス温度は10℃くらいで。魚料理などと一緒に楽しんでください」(ソニアさん)


R.D. 1996
先述したように、エイジングのポテンシャルと良いコンディションを持ったラ・グラン・ダネだけが“エル・ディ”になることが許されます。
長い時には20年以上もセラーで寝かされるというから驚きです。長い熟成を経てもなお生き生きとしたフレッシュさが残り、非常にデリケートで複雑なアロマを持っています。1996年はピノ・ノワール70%、シャルドネ30% 。

なお、“R.D.”とは“Recemment Degorge”(レサマン・デゴルジュ)の頭文字をとったもので、“最近デゴルジュマン(澱引き)をした”という意味。そのため、バックラベルにはデゴルジュマンをした日付が明記されています。

「トースティなアロマがあり、ノワゼットのようなナッツの風味があります。シャンパーニュをよく知り尽くした上級者に飲んでいただきたいですね」(ソニアさん)



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インタビューを終えて

ボランジェは、いわゆる“通好み”のシャンパーニュとよくいわれます。もちろん、ボランジェが超一流ブランドということもあるでしょうが、めざすスタイルを明確にし、それに向けての最大限の努力をしていることがすべてに現われているからでしょう。

“ボディを与えるピノ・ノワールをベースに選び、樽を使うこと。そして、樽に負けないポテンシャルの高い本物のブドウを手に入れること” がボランジェの真髄といえます。

そして、脈々と受け継がれているプロヴィニャージュの奇跡の畑もまた、ファミリーを大切にするボランジェを象徴するもののひとつ、ということがわかりました。



テイスティングにお付き合いいただいたエチエンヌ・ビゾ氏(1962年生まれ)
マダム・リリーの甥クリスチャン・ビゾ氏の息子で、ゼネラル・ディレクター。



このプロヴィニャージュの畑から生まれる“ヴィエーユ・ヴィーニュ・フランセーズ”は本当に貴重なシャンパーニュで、非常に高価な超高級品です。一生のうちで一度でも口にできたら、天にも昇るような幸せな気持ちになるに違いありません。

あの畑で育ったVVFと、いつかどこかで再会できますように…。



オフィスに飾られていた古いエチケットラベル

取材協力:JFLA 酒類販売株式会社 アルカン事業部
コメント (5)
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