暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

除夜釜  掛物三種

2013年12月31日 | 献茶式&茶会  京都編
           除夜鐘の試し撞き  27日知恩院にて

12月28日に先生宅の除夜釜へお招きいただきました。

京都では時折雪が舞う天候で、廻りの山々は白く雪を被っています。
風の冷たさに思わずショールの襟を立てて出かけました。

          
              かわらけ売り

除夜釜なので、雨戸を閉めて夜咄の設えでした。
玄関の寄付に掛物が掛けられています。
かわらけ売りの絵で、正月に御神酒やお屠蘇に使うかわらけ、
ウラジロ、ユズリハを篭に入れて売り歩いています。
もう現在では見ることができない、暮れの風景です。

丸行灯が灯された待合へ入ると、火鉢の炭火が赤々と暖かく、
別世界へやってきたみたいです。

              

床にはもう一つ灯りがあり、掛物を拝見すると、画賛でした。
下方に米俵を背負った馬と馬子が歩いていて、
上方には「何ゆへに重荷おう・・・」 う~ん!一部しか読めません。
後ほど先生のお話を伺ってびっくり!

その掛物は、根津美術館にある
「大津馬図」 松花堂昭乗画 沢庵宗彭賛 の写しで、
江戸時代に狩野派の絵師が横書きへ写し直したものでした。

沢庵和尚の賛は次のような洒落れたもので、

   何ゆへに
   重荷おおつ(負う)(大津)の
   うま(馬)(生)れきて
   なれもうき世に
   我もうきよに

   と 馬おいのよみしは
   むへ(べ)もやさしき こころはへ(ばえ)なり

大津馬とは大津で荷役に使われていた馬のことです。
琵琶湖を舟で運ばれてきた米を京都まで運び、米は舟で大阪へ運ばれました。
俵を積んだ大津馬は歳末の風物詩でした。

          
            「大津馬図」写

甘酒を頂き、八畳の広間へ席入りすると、いつもと様子が違います。
葦棚が置かれ、小間の設えになっていました。
竹罫の灯りが葦の影を壁側に映し出していて、
炎の揺れにその影もゆらゆら揺れて、皆で声を上げました。

床に手燭が置かれ、
「無事是貴人」と書かれた掛物を手燭をかざして拝見しました。
白風袋、揉紙の簡素な大徳寺表装が好ましく、大徳寺棒に吊られています。
この日、一番強烈な印象に残った墨蹟でした。
前大徳・大徹和尚筆です。
禅機みなぎり、力強さのある筆跡に惹きつけられ、圧倒されながら、
今日、このお軸に出逢えた幸せを感じました・・・。

         
           竹罫の灯りと葦棚

美味しいお弁当、お手づくりの汁椀と八寸を完食した頃、
丁度よく煮えがついて、薄茶となりました。
釜は寒薙造、仙叟好み矢筈釜、大徳寺古材の炉縁が垂涎でした・・・。

先生のお点前で、いろいろなお話を伺いながら頂く薄茶は愉しく、
格別なひと時です。
次々と出してくださる茶碗がどれも素敵で、解説ももらさじ・・と。
主茶碗は玉水一元造の赤筒「網代守」、おだやかな赤色と姿が美しく、
光悦の影響を思わせる筒碗でした。
道八の暦手、奥村秋石の蝙蝠絵の茶碗、それから雪に鴉の菓子鉢、
一方堂焼の気品あふれる火入れなど、また出逢いたいお道具ばかりです。

         
           丸行灯の中をパチリ

お菓子は「八重の桜」の会津からお取り寄せの「香木実(かぐのみ)」、
そして弦付の薄器は大樋焼・五代勘兵衛(黒田官兵衛と同名)造でした。
NHKの大河ドラマの主人公八重さんから官兵衛さんへ、
今年から来年へ橋渡しの道具組に一同にっこり。

暮れのお忙しいなか、このようなひと時を作ってくださって感激でした。

         
           珍しい蕨箒が・・・

お陰さまで、心豊かな気持ちで年の暮れを迎えております。
ありがとうございました!

皆々様、佳い年をお迎えくださいませ。
                                



終い天神と茂庵

2013年12月29日 | 京暮らし 日常編
                        終い天神の賑い

12月25日、クリスマスのこの日は終い天神でもあります。
9時過ぎに家を出て、北野天満宮へ向かいました。
終い天神なので、いつもより人出も出店も多いようです。
目的は、もちろんお茶に使える掘り出し物、珍しい物がないか、
ぶらぶら店を覗きながら探すのが超楽しい!です。
それに、そろそろ正月用品も買い調えなくっては・・・。

           

陶片のアクセサリーを売っている店で、面白いものを見つけました。
茶碗や鉢の底の部分で、周りの陶片を切り取った残りだそうですが、
丸い伊万里の鉢底に惹かれるものがありました。
先日の淡路島の茶事で、海揚がりのような陶片が灰皿に使われていて、
印象に残ったせいかもしれません。
何に使うか、用途がはっきりしないのも、考える余地がありそう。
ちょっぴりまけてもらってお買い上げです。   

それから、水指を買いました。
侘びた風情の瀬戸で小振りのサイズが気に入りました。
同じお店で根来風の丸盆、少し塗りが剥げかけていますが、
時代を経たものの味わいとしましょう。
主人は水墨画に使う小皿を探していて、見つけたようです。

最後に、正月用の干し柿、干し芋、餅花を買いました。
松竹梅のお飾り付きの餅花で、新年を迎える勢いをつけたいものです。

    
                          茂庵

市中の山居・茂庵でTYさんとクリスマスランチの約束があったので
主人と途中で別れ、吉田山の山上の茂庵へ急ぎました。
TYさんの勤務先がキリスト教に関係しているので、
今日は特別のクリスマス休暇だそうです。

茂庵はTYさんと初めて出逢った場所でもあります。
人気店でいつも混んでいますが、年の瀬の平日なので、
人が少なく静かでした。 寒い時期がお薦めです。

     
   ステキな灰皿            外の腰掛待合          

ランチメニューは月替わりですが、
この日のランチはポークシチュー、切干大根のサラダ、
プルーンの紅茶煮、パンのセットでした。

           

左大文字が見える山並みを眺めながら、ランチと会話を楽しみました。
こんなクリスマスの日の過ごし方も京都らしいかな・・・。

                           & 




岡山・クリスマスの茶事-3

2013年12月28日 | 思い出の茶事  京都編
(つづき)
戻って、初炭から・・・。
初炭を懐石の後にしたのは、炉を囲んでのお話の時に
火が落ちないようにという、ご亭主の配慮からでした。

常盤籠の炭斗が運び出され、大講堂釜が上げられました。
実は炉壇にギリギリに見えたので心配したのですが、
珍しい鉄の炉壇でした。
姿をあらわした釜は浄清造、堂々とした存在感を示しています。

香合は織部のはじき、
十字架模様がクリスマスにぴったりと選んだとか。
練り香はご亭主が山田松香木店で自ら調合したもので、
香銘は「福音」、
キリストの教えの他に佳い音色という意味もあるそうです。

          

Sさまのお話の後に濃茶となりました。
点前座の棚は寒雲卓です。
圓能斎お好みで、玄々斎が好まれた寒雲棚を半分の
サイズにしたそうで、水指は運びになります。
蓋置の扱いや置く位置が珍しく、地板のない棚も好いものですね。
侘びた古伊賀の水指がお似合いでした。
よく煮えがついていて、熱々の濃茶を五人で美味しく頂戴しました。
茶銘はたしか小山園の「永寿」。

つづき薄茶となり、SさまとTさまも席へ入って頂きました。
ご亭主は人数分の薄茶を点ててくださったり、お道具を拝見に
だしたり大忙しでしたが、私たち客と水屋方は愉しく茶談義です。

         

蝋燭を思わせるスマートな茶入がみんなの注目の的でした。
瀬戸の蝋燭手で、五人分の濃茶がしっかり入るそうです。
片身代わりの仕覆も魅力的な裂地(亀甲華文と一重蔓ぼたん?)でした。
茶杓銘は「聖夜」、棗は玄々斎お好みの豊兆棗です。

美味しい懐石を味わい、炉を囲んで昔話に耳を傾け、
クリスマスのご趣向を楽しみながら頂く濃茶と薄茶、
いつまでもつきない茶談義の楽しさ、
こんな幸せなクリスマスはめったにない・・・と思いました。

お互いに招き招かれて、茶事を楽しみ、切磋琢磨する
仲間がいる幸せを噛みしめました。
そして、私もまた茶事に励もう・・・と勇気づけられたのです。

            

終りに、ご亭主Yさまから嬉しいメールを頂きました。

  (前略)・・・お茶事の準備は確かに大変なのですが、
  やってみるとこんなに楽しいものって他にないと思います。
  煮物椀の蓋をあけた時の歓声を耳にし
  嬉しくてちょっと涙が出そうでした。
  ありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました!            
三人の素晴らしいチームワークに感謝です。   

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岡山・クリスマスの茶事-2

2013年12月27日 | 思い出の茶事  京都編
(つづき)
後座へ席入りすると、暗くなりかけた夕去りの設えでした。
床に手燭とエキゾチックな小灯しが置かれ、お軸が掛けられています。

「無為 
 無事人」 (むい ぶじの人)

鵬雲斎大宗匠の書です。
御年90歳の大宗匠のいまの心境を表わしているのでしょうか?
正直、難しく、よく解らなかったのですが、
「あるがまま自然体に生きる(人)」
という意味でしょうか? 噛むほどに味わい深く、奥が深い語句です。 

Sさまが席へ入られ、いよいよ宿題の「お話」です。
どのタイミングで入れたらよいか、三人で考え、
夜咄のように蝋燭の灯りの元で囲炉裏(炉)を囲んで昔話を語る・・・
そんなイメージになったそうです。

           
              
お話は二つ、
一つは、グリム童話から「おいしいおかゆ」。
語り口はとても真似できませんが、あらすじは次のようです。

   むか~し、貧しい母子が住んでいました。
   森で女の子はおばあさん(魔法使い?)から古い鍋をもらいます。
   その鍋は不思議な鍋で、女の子が
   「おいしいおかゆを炊いとくれ」と言うと、おかゆを炊いてくれ、
   「炊くのを止めとくれ」と言うと、炊くのを止めるのでした。

   或る日、女の子の留守にお腹を空かしたお母さんは
   「おいしいおかゆを炊いとくれ」
   お鍋はおかゆを炊いてくれましたが、
   止めさせる言葉がわかりません。

   おかゆは鍋からあふれ、家からあふれ、町中おかゆで
   いっぱいです。そこに女の子が帰ってきて
   「炊くのをやめとくれ」
   やっとお鍋は炊くのを止め、人々はおかゆを食べながら
   家へ帰ったとさ。

         
             鳥取の名峰・大山(だいせん)

もう一つは、鳥取地方の民話「さきざきさん」。
   むか~し、あるところにおじいさんとおばあさんがおったそうな。
   二人はさきざき(先々)のためにすこしばかりお金をためておった。

   おじいさんの留守におばあさんはこの大切なお金を、盗賊に
   「おれがそのさきざきさんだよ」とだまされてあげてしまいます。
   ・・・ひょんなことから二人は盗賊たちから逆にお金を巻き上げて、
   大金持ちになったというお話です。

   短気なおじいさんと、耳が遠いおばあさんのやり取りが
   鳥取地方の方言でユーモラスに語られました。
   老い先短いおじいさんとおばあさんがさきざきのために
   貧しいふところからお金をためている所では、我が身を反省したり、
   お金持ちになって胸をなでおろしたり・・・忙しかったです。
                          客5人の

Sさま、ステキなお話を熱演してくださって、ありがとう!
Sさまのお話を聴きながら、某家庭茶事の会に入会させて頂いて
本当に好かった!とつくづく思いました。
だって、こんな素敵なお話が聞ける茶事なんて、めったにありませんもの。
これから「お話」茶事がどのように進化していくのか、楽しみです。
                                    

     岡山・クリスマスの茶事-1へ      3へつづく


岡山・クリスマスの茶事-1 

2013年12月26日 | 思い出の茶事  京都編
            
           京都駅と京都タワー(行きと帰りにパチリ)

12月23日、クリスマスの茶事にお招き頂き、京都駅から岡山へ向かいました。

ご亭主のYさまは某家庭茶事の会の会員で、岡山市在住です。
今年2月、雪の夕去りの茶事へ茶友Sさまとご来庵頂いた時、
時間が足りず、所望していたSさまの〇〇が宿題になっていました。
YさまとSさまはそのことを忘れずにいてくださって、
家庭茶事の会の先輩方4名さまとともにお招きくださったのでした。 

ご亭主はYさま、水屋はSさまとお仲間のTさまが担当、
そして席はSさま宅でした。
素敵なS邸ですが、茶事のための工夫や試行錯誤のアレコレを体験し、
参考にするのが一同の楽しみでもあります。

玄関の上がり口に電気カーペットが敷かれ、待合になっていました。
ペインティングや壁掛けなど、手づくりのクリスマスグッズが飾られ、
早や雰囲気満点です。

「歳月不待人  宗興」
の色紙が掛けられていました。
年末にこの語句を拝見すると、我が身を省みて胸キュンとなります。

拍子木のような竹2本の鳴り物が”good idea!”
「お支度が整いましたら鳴らしてください」
とメモがあり、詰のYさまが5回打ち鳴らしました。

           

玄関内に椅子が5つ用意されていて、
「今日は寒いので腰掛待合をこちらにいたしました。
 白湯を召し上がりましたら、こちらでお待ちください」とご亭主。

玄関から景色を眺めると、稲の切株が残る田んぼが遠くまで続き、
稲叢が数個積まれ、働く人も見えます。
稲わらを焼いている煙が白く上がっていて、懐かしい風景でした。

備前大鉢の立ち蹲で身を浄め、八畳の広間へ席入りしました。
長方形の炬燵が取り払われ、正座ができないSさまのために足を入れて
腰掛けられるようになっていて、はめられた中板が役に立ちそうです。

床にお軸ではなく花が生けてありました。
なにかご趣向があるのかもしれませんね。
山帰来の真っ赤な実と白椿、クリスマスカラーが映えています。
花入は信楽の旅枕。
炉には大講堂釜と鋳込まれた、大きな釜が掛けられています。

           
           山帰来の実 (季節の花300提供)

ご亭主と挨拶を交わしましたが、
私のリクエストを忘れずに、茶事へお招き頂いた感激とお礼を
きちんとお伝えできたかしら・・?

「本来は初炭ですが、都合により懐石にいたします」とご亭主。

向付はカルパッチョ(サーモン、鯛、ベビーリーフ、パブリカ)、
ジノリの白い皿に美味しく映えていました。
煮物椀のカニ真蒸が美しく、柔らかく、味良くシンプルな中身が、
開けた途端「あっ!」と一斉に声が出た、華麗な椀にぴったり。

厚いサワラの幽庵焼、旬の野菜と鳥の炊合せがお好みの器で次々と。
(次々とはなかなか出せないので、好いなぁ~!)
箸洗のキュウインは酸味がさわやかで、早速使ってみたいです。

SさまとTさまが料理を担当されたそうですが、
どれも美味しく、ヒントと刺激をたくさん頂戴しました。
息の合ったタイミングに三人のチームワークの好さが伺え、
嬉しゅうございました。
                             

        岡山・クリスマスの茶事-2へつづく