暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

夕去りの茶事を終えて・・・(3)終章

2023年09月15日 | 「立礼の茶事」(2023年~自会記録)

    

つづき)

後座の床に太田垣蓮月の野月の和歌の短冊を掛けました。  

    むさし野の 尾花が末にかかれるは

        誰がひきすてし 弓張の月      蓮月

 

蓮月八十歳とありますが、伸びやかな御筆は野月を愛でる豊かな感性と蓮月尼の充実した心境を表わしているようでした。(この御軸はこれからの茶事にも登場しますので、いずれまた紹介したいと思います)

蝋燭の灯の元、茶碗を運び、濃茶点前が始まりました。

茶入は久しぶりに凡鳥棗の登場です。凡鳥棗は京都を去る時に姫路のSさまから頂戴した伊藤庸庵の箱書のある、思い出の棗です。

昭和30年代まで横浜市神奈川区高島台に住んでいらした庸軒流の茶人・伊藤庸庵が作らせたものの一つで、「凡鳥之棗 反古庵好ミ写也 庸菴」と箱書に書かれています。

 

 (T氏が写真を撮ってくださいました・・・茶事中の貴重な写真です)

四方捌きをして心を鎮め、棗、茶杓を清め、いつものように点前が進んでいきましたが、蝋燭の灯りのせいか、点前をしている自分をもう一人の自分が見詰めているような、不思議な感覚を味わいました。

濃茶を3杓掬い、あとは茶杓でやさしく掻き出して(大津袋のお点前)、水を釜にさし湯を汲み、濃茶を一心に練りました。

南蛮人燭台や手燭があり暗くはないのですが、黒楽茶碗の中は真っ暗闇。指先の感覚を頼りにゆっくりと濃茶を練っていきます。湯をほんの少し足して、各服点なので最後まで飲みやすいように緩めにしました。

「お服加減はいかがでしょうか? 少し緩めになりましたでしょうか?」

「大変結構で美味しゅうございます」・・・安堵して、二椀目続いて三碗目を練りました。濃茶は坐忘斎お好みの「延年の昔」(星野園詰)です。

一段落してから、凡鳥棗や3つの茶碗のお話をしました。三人のお客さま、特に正客ST氏と詰T氏は道具屋さんでお出会いしたというほどの道具好き(?)なので、お話が弾み、愉しゅうございました。

茶杓は銘「無事」、後藤瑞巌師の御作です。

次は薄茶ですが、半東が燭台を1台ずつ水屋に引き、芯切りをしました。芯切りをしないと芯が崩れ、煤で汚れてしまいますので・・・。

 

  (半東AYさんが1碗目の薄茶を点てています)

薄茶になり、お点前を半東AYさんにお願いし、暁庵が半東です。

煙草盆と干菓子(「陸の宝珠」と小布施の栗落雁)が運ばれ、薄茶点前が始まりました。

正客ST氏が岡山のご出身と伺っていたので、薄茶の3碗は全て虫明焼にしてみました。

虫明焼は約180年前に備前池田候の筆頭家老であった伊木家のお庭窯として備前虫明(現在は岡山県邑久郡虫明)の地で始められました。

正客さまの茶碗は京都で初めて出合った虫明焼の茶碗です。伯庵茶碗のような枇杷色の肌、とても薄づくりで、葦雁図が描かれていて、高台内に「むしあけ」と「真葛」の印があります。

2つの印が珍しく、この印がきっかけとなって虫明焼に興味を持ち、いろいろ調べ始めました。初代(?)真葛長造作かもしれませんし、虫明焼は贋作が多いとのことなので謎がますます深まり、それも楽しいことです・・・。

 

次客さまの茶碗は、虫明焼について調べているうちに蓼純さんの「虫明焼の栞」というHP(今は閉じてしまいましたが、大いに刺激を受け勉強になりました・・・)に出合い、「虫明焼の栞」10周年記念に蓼純さんから頂いた刷毛目の平茶碗です。「むしあけ」の銘があります。

 

三客様の茶碗は、暁庵の喜寿のお祝いに茶友Yさまから頂いた虫明焼、風になびくススキの画が描かれていて、岡部紫山作です。

 

いつのまにか虫明焼が3碗も揃いましたのも、何かのご縁でしょうか。

お話を交じえながらAYさんが2服ずつ美味しい薄茶を点ててくれました。薄茶は「舞の白」(星野園詰)です。

薄器は秋草文様の化粧壷、茶杓は紫野・隋応戒仙師の御銘「雲錦」です。

 

・・・こうして、時が過ぎて早やお別れが迫ってきました。

ST氏、SY氏、T氏の3人のお客さま、半東AYさん、懐石小梶さん、皆さまのお陰で無事に愉しく夕去りの茶事が出来ました。

一会一会が貴重で有難く、心から感謝申し上げます。

      

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                  夕去りの茶事支度を始めました

 

 


夕去りの茶事を終えて・・・(2)

2023年09月14日 | 「立礼の茶事」(2023年~自会記録)

 

つづき)

初炭が終わり、懐石になりましたが、懐石は伏傘です。

立礼の茶事ではいつも小梶由香さんがテーマに添った献立を考え、美味しい懐石を作ってくださいます。

今回は半東AYさんが写真を撮ってくださり、一部掲載します。

 

 献立  伏傘懐石  小梶由香作成

 飯   ニ杓
 汁   茄子 針茗荷  金色(または鉄鍋)でだす、汁2椀分
 向付  鯛 月見仕立て 加減土佐醤油 
     浅草海苔 山葵   
 椀盛  冬瓜海老そぼろあん 針生姜
 焼物  いちぢく田楽
 預鉢  きぬかつぎ とり おくら 
     炊き合わせ
 箸洗  葡萄
 八寸  たこ柔らか煮 酢ばす
 湯斗
 香の物 沢庵 胡瓜浅漬け 柴漬け

 酒  「熊澤」  茅ヶ崎市香川 熊澤酒造

 

 

懐石後に待合へ動座して頂き、そちらで主菓子をお出しし、中立となりました。

主菓子は「西湖(せいこ)」(紫野和久傳成)を冷たくして差し上げました。

 

   (主菓子は西湖(せいこ)をお出ししました)

後座の用意と灯りを半東AYさんと手分けして準備しました。

主菓子をお出しする前に灯篭に灯りを入れ、露地に4つの足元行灯、腰掛待合にも行灯、手燭1つ(手燭交換用)を半東AYさんが用意しました。

中立の間に暁庵は湯相と火相をみたり、床の花をお軸に変えました。床に黒河氏作成の燭台1つ、点茶盤に南蛮人燭台1つ、次客様と三客様の間にペルシャ文燭台(小灯し)を置き、もう1つ手燭を水屋に用意しました。

 

    (後座の床の掛物と燭台(黒河氏作成))

 

18時30分を過ぎると、もう外は真っ暗です。喚鐘ではなく迎え付けをして、手燭交換して後座の席入りをしていただきました。

後で正客ST氏が「手燭交換は夕去りでは風流の極致ですが、茶事やお茶を全く知らない方があの光景を見たら、きっと黒魔術?・・・と妖しく思うでしょうね」とおっしゃったことが可笑しくも言いえていて、今思い出しています。

・・・でも、その瞬間は蝋燭の火も消えずに(風が強く消えることもしばしばです)、久々に感極まってST氏と手燭交換をしたのでした。  

後座では濃茶、後炭を省略して薄茶を差し上げました。 つづく)

 

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                  夕去りの茶事支度を始めました

 


夕去りの茶事を終えて・・・(1)

2023年09月11日 | 「立礼の茶事」(2023年~自会記録)

 

9月2日(土)に夕去りの茶事をしました。

8月終わりから9月半ばまでが夕去りの茶事のベストシーズンと前にも書きましたが、

日の入りは18時8分でした・・・それで18時30分前後の中立を目安として、席入りは16時30分にお願いしました。

夕去りの茶事をよくしましたが、それは次のような理由からでした。

〇 中立で昼から夜の明暗の変わり方の妙、露地や茶席の灯りの風情を味わってもらいたい

〇 短罫や燭台の灯の元で濃茶を練って差し上げるのが大好きです(いつにも増して主客の集中度が研ぎ澄まされるように感じるから・・・)

〇 夕去りの茶事は決まりがなく、変幻自在に次第などを変えれるのが面白くやりがいがある

〇 夜咄の茶事では終了時間が遅くなり、遠くからのお客さまには帰宅が遅くなってしまう

〇 食事は出来たら明るいうちに召し上がっていただきたい

等々

 

まだ猛暑のような暑さが残る中、袴姿の正装でお客さまがいらっしゃいました。

お客さまはST氏、SY氏、そして社中のT氏の3名様、全員が男性という茶事は初めてでした。初めて・・というのは新鮮で、何とも言えぬ緊張とときめきを感じながら、冷房をきかし、冷たい汲出しを用意してお待ちしました。

板木が3つ打たれ、半東AYさんがレモングラスとロック氷の入ったワイングラスを運び出し、腰掛待合へご案内しました。レモングラスはご近所のYさまから頂いたもので、午前中に3分ほど煮だし冷蔵庫で冷やしておきました。さっぱりとしたお味がおすすめです。

しばらくして迎え付けに出ました。

いつものように蹲の水を周囲に撒いて清め、手を浄め、口を漱いでから、蹲へ桶の水をザァッ~と水音高らかに注ぎ、一旦桶を戻しますが、その時に大失敗!

無意識!に蹲柄杓を桶に入れて戻してしまったようです・・・きっとお客さまは困惑されたと思うのですが、すぐに気が付かず大変失礼しました(お客さまは一言もおっしゃらず対処してくださったようで・・・ありがとうございます!

 

     (初座の点茶盤の設え、釜は桐文車軸釜で長野新造です)

お客さまお一人お一人と、嬉しくご挨拶を交わしました。

御正客ST氏は3月に歳祝いの正午の茶事にお招き頂き、初めてのお目文字にもかかわらず、一人亭主で心に残るおもてなしをしていただきました。

また、御詰のT氏(社中)は昨年5月に飯後の茶事で自宅茶室にお招き頂き、次客SY氏はその時にご一緒した素敵な方です。

 

待合の掛物は「去々来々来々去々」、足立泰道老師の御筆です。

 暑かった夏が去り 秋がやって来る

 日が暮れ一日が終わり また新しい一日が来る

 親しかった人が去って寂しい思いをするが また新たな人がやってくるのが嬉しい

 季節も歳月もそして人も 「去ってはまた来る 来るとまた去って行く」

 「去々来々来々去々」を心静かに受け止め 茶を楽しみながら一日一日を過ごそう

そんなことをお話しました。

 

          (尾花・ススキと葛の花・・・花入れは桂籠)

初座の床には尾花・ススキと葛の花を桂籠にいけました。

猛暑のせいで、いつもは出始めているススキの穂がどこにも見当たらず、探すのが大変でした。ツレがススキと葛の花を見つけて来てくれて、やっと間に合いました。

花は野にあるように・・・いつも夕去りの茶事では夕方にしぼんでしまう花が多く、一番花が難しいのですが、失敗を重ねて今では花探しも含めてやりがいを感じています・・・

 

 (初座で点茶盤の下に飾っておくので「飾り炭斗」ともいうそうです)

初炭になり、淡々斎お好みの蛍籠炭斗を虫籠炭斗とし、キリギリスを添えました。

夕去りの茶事では続き薄茶にすることが多く、暁庵も後炭を省略することとし、朝茶事のように初炭で風炉中拝見をしていただきました。

香合は月見舟、琵琶湖堅田の浮御堂古材で作られていて、稲尾誠中斎作です。

平安の昔、やんごとなき方々は水に月を映して愛でたそうです。

やんごとなき茶道男子さまたちは香合を拝見しながら、能「三井寺」の月、月見舟で琵琶湖へ漕ぎ出でて湖面に映る月など・・・いろいろな月に思いを馳せてくださって、伺っていて楽しゅうございました。香は沈香(松栄堂)です。つづく)

 

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                    夕去りの茶事支度を始めました

 


夏休みあけの稽古で・・・「自灯明」

2023年09月07日 | 暁庵の裏千家茶道教室

     (今日は猛暑もおさまり、秋風が涼やかです)

 

9月4日が夏休み明け初めての稽古でした。

夕去りの茶事で使用した点茶盤や喫架の片づけをどんどん急ぎ、何とか滑り込みで稽古の準備が完了。

13時半に若武者F氏がやってきました。

「先生、やっと9月のシフトが出ました。4日と19日に伺いたいのですが、ご都合はいかがでしょうか?」

「4日と19日は大丈夫です。13時半にいらしてください」

その日は稽古日ではなかったのですが、用事が入っていなければF氏のシフトに合わせるようにしています。そうしないとなかなか稽古日が確保できないので・・・。

入門して3年目に入り、F氏のお茶に対する気持ちがしっかりして来て、これからが楽しみであり、今がとても大切な時期と思うのです。

その日の科目は初炭と濃茶でした。

久しぶりの稽古でしたが、初炭もだんだん所作が身についてきて、もう一息でしょうか。

「だいぶ出来るようになったけれど、10月にもう一度初炭を稽古しましょう」

今は1回でも多く稽古して、しっかり手順と所作を身につけて欲しいと思います。

その一方で、ゆっくりでいいから確実に正しい所作を身につけて欲しいと願っています。

 

       (写真がなく、昨年の風炉の稽古の写真です)

濃茶点前では素敵な茶杓銘を考えてきてくれました。

「白竹が涼やかさを感じさせるお茶杓でございますが、御銘は?」

「坐忘斎家元の御作で、銘は「自灯明」でございます」

「とても素晴らしい御銘ですが、「自灯明」とはどのような解釈なのでしょうか?」

「茶杓銘をいろいろ調べたり、考えたりしましたが、「自灯明」が私の心に響く言葉でした。自分に自信をもって、自らが灯明となって進む道を照らして生きていきたい・・・と」

私は大きく息を吸って頷きました。

自信と目的をもって歩み出したF氏ご自身の新たな道を心から応援しています。

 

さて、「自灯明(じとうみょう)」とは、

80歳のお釈迦様が今まさに亡くなろうとしているときに弟子のアーナンダが
「お釈迦様が亡くなってしまったら,その後,私はどうすればいいんでしょうか。何を拠り所にすればいいんでしょうか!?」とお釈迦様に尋ねました。

それに対しお釈迦様は「自灯明」とおっしゃったのです。
「自灯明」とは、自分自身を信じて生きることです。自分を信じて自分の価値観や考えを基に、他人の意見には左右されずに、自分を拠り所として生きるということです。

暁庵も時々思いがけないことが起こった時、「自分を信じなさい。結果がどうであれ最善を尽くして自分自身の茶の道をしっかり進みなさい・・・」と自分に声掛けし激励することがあります。

 

   (再び車で四国遍路・・・仙遊寺にて 2022年6月撮影)

「自灯明」のお話を書いていたら、もう一つ大好きな釈迦の言葉を思い出しました。

約20年前に出かけた四国遍路、第一番札所霊山寺の本堂内陣で次の言葉に出合いました。

 

己こそ己の依るべ 己を捨てて何処に依るべぞ

 よく整えられし己にこそ 誠 得難き依るべをぞ 得ん

この言葉も「自灯明」と同じくらい、色々なことを語りかけてくれます。

 

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