暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

炉開きと口切の会

2009年11月30日 | 稽古忘備録
先生からお電話をいただきました。
「11月の花月之式の稽古は口切の茶事形式で、
 炉開きを兼ねていたします。」
11月5日がその日でした。

席入りすると、椅子の見学席が用意してありました。
膝を悪くして正座できない先輩のための特別席です。
床には、長谷川寛洲老師筆の「一陽来福」。
ふっくらした蕾の白玉椿と実付きの白山吹が
青磁の花入に生けられ、茶壷が飾られています。

「お稽古ですので、皆さんで役割分担して進めます」と先生。
亭主役のK先輩と和やかに挨拶が交わされたあと口切です。
入日記が正客へ運ばれました。
茶壷の口が切られ
「いずれのお茶をさしあげましょうか?」
所望の茶を取り出し挽家に入れ、再び封がされます。

ご亭主が印を押すと、正客のS先輩から
「お壷、お口覆ともに拝見を」の声が掛かりました。
信楽焼の釉のなだれ、土肌の変化が見事な小振りの壷でした。
口覆は青海波金襴です。

瓢の炭斗が置かれ、初炭手前はIさんでした。
釜は加藤忠三郎作、真形、和歌の浦の地紋、
炉縁は高台寺蒔絵です。
久しぶりに拝見する炉の炭手前。
炭の太さが頼もしく、湿し灰の風情にうっとりですが、
炭の置き方が気になりました。

恒例の粟ぜんざいと柿なますを美味しくいただき、
S先輩がすらすらと台天目で点ててくださった
濃茶をたっぷり味わいました。

濃茶が終わると、吸物八寸です。
吸物はカニ真蒸、松茸、ほうれん草、柚子。
八寸はアワビと銀杏の松葉刺しで、
アワビが柔らかく絶品でした。
吸物、八寸は水屋を一手に引き受けてくださった
Y先輩の手になるものでした。

中立して昼食ということになり、
先生とY先輩が用意してくださった炊き込みご飯、
吸物、煮物、つけもの、フルーツ盛を、
みんなで談笑しながらご馳走になりました。

午後は壷飾り花月です。
私は月を引いて正客でした。
問題は「折据おまわしを」の次の札です。
月を引いた人は、薄茶を点てている間に
壷の飾り紐を結ばなくてはなりません。

大先輩のIさんが月でしたので、内心ほっとしました。
私は一度も花が当たらず、薄茶だけいただいて
ずっーと正客の座に居ました。
三服目になり、隅掛けで折据をまわしましたが、
まだ飾り紐が結び終えていません。

先生から、その場合は正客が判断して
隅掛けにしないでもう一順するように・・・
とご指導がありました。
正客なのに気がつかず、I先輩に急かせてしまった様で
申し訳なかったです。

始めて先生宅の炉開きと口切の会へ伺いましたが、
アットホームな雰囲気が印象に残る楽しい会でした。

      写真は、三渓園・聴秋閣の紅葉(三渓園提供)



十三夜の茶事 (2)

2009年11月27日 | 思い出の茶事
 (つづき)

初炭が終り、布製?の座箒の登場に一同ため息です。
白鳥の舞のように軽やかに掃いてくださいました。
これまた手作りの「月見兎」をいただいて中立です。

中立のベランダで月はまだ見られませんでしたが、
後座の席入りで月とススキの画賛に出会い、
最初の「月」を見ることができました。

大樋の茶碗で練られた濃茶を美味しくいただきました。
茶銘は「嘉辰の昔」。

続き薄で、絵唐津の茶碗で薄茶をいただきました。
ご亭主は高取がお好きなようですが、
私は瀬戸肩衝の茶入に心惹かれました。
鹿の子まだらを連想される釉の景色に魅入りました。

繊細な「月のしずく」というご自作の茶杓、
茶平一斎作の豪華な蒔絵の中次など
優雅でしなやかなお道具組はご亭主のお人柄そのものです。

席中でいろいろな月を眺めることができましたが、
帰りにもう一度ベランダへ出てみました。
月の光は見えるのにビルに邪魔されてまだ見えません。

帰りの玄関で仙崖和尚の絵が「月はどこから・・」と
にこやかな顔で指差していたそうです。
(残念!見損ないました)

満月に少し足りない十三夜の月を指差し愛でながら
ご連客さまと帰途につきました。




母が亡くなり、しばらく気落ちしていましたが、
日が薬でやっと外出する気になりました。
「どうなることかしら?」
と、実は心配しながら出かけたのですが、
たくさんの元気をいただいて感謝しています。

私にとって心に残る、忘れられない茶事です。 

ご亭主のHさま、水屋のHさま、ご連客のWさま、Yさま、
とても楽しかったです。ありがとうございました!


                    
                    

十三夜の茶事 (1)

2009年11月26日 | 思い出の茶事
金木犀の香に包まれている頃、嬉しい手紙が届きました。
10月30日が後の名月の十三夜にあたるそうで、
夕去りの茶事へお招き頂いたのです。

月見とは、陰暦八月十五日の月(中秋の名月)と
九月十三日(十三夜)の月を賞することで、
中秋の名月だけを愛でるのは片身月といって
縁起が悪い・・・と本で読んだばかりでした。

十三夜の茶事は始めてです。
ご亭主はマンションの一室を小間の茶室に改造されて、
お仲間と茶事に精進されているHさまです。

事前に次のようなご案内がありました。
「半東がおりませんので、そのままお入りください。
 奥左手の和室を寄り付きにいたします。
 瓶掛けのお湯をお召し上がりのうえ、
 ベランダに腰掛を置きますので、お出ましください。
 お月様が出てくれますよう、楽しみにお待ちしております。」

寄り付きに入るとススキと月見団子が
人待ちげに迎えてくれました。
侘びた色合の火入れが目を引き、灰型にご精進のほどが
しのばれました。
あとで火入れは高取焼のビアカップと聞いてびっくりです。

香煎をいただいてからベランダの腰掛に座りました。
10月末にしては暑かったので涼風に吹かれながら、
8階から谷あいの黄葉の風情を見下ろし、
高層ビル群との対比を面白く鑑賞しました。

落ち着いた暦張りの小間に席入りすると、
壁床に白い花三種がほの白く浮かんでいます。
夕去りの何ともいえない幸せな一瞬です。

懐石は加賀の産物に彩られた加賀料理。
水屋担当のHさまが郷里から食材を取り寄せたと
お聞きして一同感激でした。

特に蓮と金目鯛と枝豆の煮物碗は味といい、
食感といい、舌鼓をうちながらいただきました。
柔らかく煮こまれた子持ち鮎、治部煮、
和え物(松茸、菊、ほうれん草)も美味しかったです。

八寸はカラスミと銀杏の松葉刺し、
まるでチーズのような柔らかいカラスミが絶品でした。

      (つづく)

                      

      写真は「東雲の夕景」
                


月の夕去りの茶事 (2)

2009年11月24日 | 茶事
   (つづき)

懐石は伏せ傘です。
伏せ傘についてはいずれまた・・・。

懐石後に初炭でしたが、炭が流れていて
「どうしましょう!」状態でした。
それでもパチパチと音が聞こえたので一安心。
ところが、やはり駄目でして中立で、
半東のKさんがあわてて炭火を入れてくれました。

おまけに雲竜釜でしたので、湯の沸きが遅く
火相、湯相ともに大失敗でした。
黒をもう二本多くすれば・・・?
と反省しきりです。

中立になると秋の陽はすっかり落ちて、
行灯の明かりが露地に並びます。
お正客さまは表千家流ですので、座って手燭交換をしました。
形は異なっていても厳粛で胸躍る一瞬でした。

後座は短罫と手燭の明かりだけです。
床の掛物は大徳寺第514世教堂宗育和尚筆の「喜 無量」。

短罫の灯の元で濃茶を練りました。
暗いので美味しく練れたかしら?
「大変美味しゅうございます」・・ほっとしました。
茶は「涼翆の雫」、翆晶庵の詰です。
主菓子は栗きんとん、翆晶庵製です。
茶碗は昭楽作で長次郎「喝喰」の写しです。

重茶碗でもう一服お点てしました。
益子焼の長石釉がたっぷりかかった茶碗です。
すぐに四客のMさまから
「・・・オイシイ」・・と言う声が漏れ聞こえて
安堵しました。

茶入は瀬戸、中興名物「廣澤」の写しです。
本歌は小堀遠州が古歌に因んで命銘した
瀬戸金華山窯の茶入です。

   廣澤の池の面に身をなして
      見る人もなき秋の夜の月

蓋裏が銀箔の月、なだれの景色が池に映る月の趣です。

その日は晴れたり降ったりで、月をあきらめていましたが、
茶事が終わる頃には月がでました。

家に帰り12時近く、「中秋の名月」を露台から眺め、
月と雲が戯れている様をしばし見とれていました。

「今宵のお客さまにこの名月を
 茶事中に見て頂けただろうか?」
と思いながら、クールダウンしました・・・。


   聴き入りて影に見入りて時過ぎん
       秋の夜半の後座の夕去り  (Yさまより)

   秋の夜に板木聴きつつ待ちわびる
       銀の名月誰にか見せん   (暁庵)    
 

月の夕去りの茶事 (1)

2009年11月23日 | 茶事
今年は10月3日が中秋の名月でしたので
この日に月の夕去りの茶事をしました。
お客さまはインターネットのお仲間の六名さまです。

待合の色紙は「横笛」。
親友の布絵作家・森下隆子さんの作です。
詰のYさんが心をこめる板木の音が聞こえてきました。

夕去りでは初座が陽で、床に花を生けます。
糸ススキ、白の秋明菊、秋海棠を竹花入に生けました。

月の出を待ちながら茶箱・月点前にて
薄茶を一服召し上がっていただきました。

お正客のRさまは表千家の方です。
表千家では茶箱点前がないそうですが、
裏千家では六種類もあって覚えるのが大変です。
茶事で茶箱は始めてでしたが、大好きな月点前で
薄茶を差し上げることができて嬉しいかったです。

振出しには和三盆の霰糖を入れました。
手作りの霰糖は一つ一つ形も大きさも違います。

「徳島の岡田製糖所の霰糖ですね」
「あらっ、よくご存知ですね」
「私は徳島出身ですので・・・」
Yさまのお声で、四国遍路で立ち寄った岡田製糖所
懐かしく頭をよぎりました。

茶箱は一閑塗りの色紙ちらし、安本表雲斎作です。
ある花月の会で、この茶箱の銘をいくつかの古歌の中から
会員の皆さまに選んでいただきました。

  ちはやぶる神代もきかず龍田川 
       唐紅に水くくるとは  
  
在原業平の歌から「唐紅」という銘をつけて頂いた
思い出の茶箱です。
龍田川の干菓子(翆晶庵製)をお出ししました。

茶箱の茶道具は旅先や道具屋で探していますが、
いまだ未完成です。
発展途上の茶道具をご披露しました。

茶箱点前では薄茶を古袱紗に載せてお出しします。
半東のKさんの提案で、水屋からの薄茶も古袱紗に
載せたままでお出ししました。

Kさんが古袱紗をたくさん持ってきてくださり、
お客さまを思い描きながら茶碗に合わせて
二人で選びました。
この準備が結構楽しかったです。

    (つづく)              

     写真は「横笛」(布絵)です。