暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

「鳥羽の藤」を愛でる

2014年04月28日 | 京暮らし 日常編
ポスターで知り、一度見たいと思っていた「鳥羽の藤」。

平成26年度は4月26日~29日(10時~16時)まで一般公開がされ、
施設内の見事な「鳥羽の藤」を楽しむことができます。
4月27日に思い立って、鳥羽水環境保全センターへ行ってきました。

     

14時頃、鳥羽水環境保全センターへ着きました。
ここは京都市の下水処理場で、広い敷地の一角に藤が植えられています。
棚から垂れ下がって咲いている藤を見た瞬間、
「あらっ、紫式部がいらっしゃるみたい!」
30~50センチ位の花房が品の佳い紫で、紫式部を連想します。
落ち着いた中にも甘い華やかさを感じる色合いで、ノダフジという種類です。

             

藤棚の下へ一歩入ると、
「あっ、この甘い芳香・・・唐津城の藤を思い出すわね」
九州・唐津市へ行ったときに唐津城の入り口を覆い尽くしていた
満開の藤のことを思い出していました。
あのときも甘い香りと藤色の花房に酔いしれたけれど、
「鳥羽の藤」も凄い!です。

紫色の花房が青い空に映えて、どこまでも続いています。
棚から出て、藤波のような重なりを横から眺めたり、
中へ入っては上から垂れ下がる房を見上げ、芳香を愉しみました。

日曜日なのでブースが設けられ、下水処理場の仕組みや環境啓発ブース、
ゲリラ豪雨を体験し、浸水対策を学ぶ降雨体験コーナー、クイズラリーなど、
職員総出でおもてなしの「鳥羽の藤」一般公開でした。

            

            

約120メートルの藤棚を見終わると、奥の藤棚の下には休憩所があり、
みんな、思い思いのスタイルでくつろいでいます。
「思い切って見に来てよかった!」
ふっ・・と、幸せを感じる一瞬、
ここに集っている人たちもはきっと同じ思いではないかしら・・・。

   甘薫る花房つづく「鳥羽の藤」
         集える顔のおだやかにして   (暁庵)


            
                西高瀬川の土手を行く

行き当たりばったりですが、次のようなコースでした。
近鉄「竹田」駅~(臨時バス10分)~鳥羽水環境保全センター「鳥羽の藤」~
西高瀬川の土手を北へ(徒歩15分)~右へ曲がり久世街道へ(徒歩3分)~
旧千本通を北へ(徒歩30分)~羅生門趾~バスにて帰宅

            
              西高瀬川を久世街道へ曲がる

     
      児童公園でデート中の恋人たち        (クリックすると大)
   (公園で男性がギターを撮っていたので、便乗しました。
    まるで恋人たちのようなご自慢のギターでした)

            
           最後に訪れた「羅城門趾」の碑

                                   

本 「裂がつつむ」

2014年04月25日 | 茶道具
・・・ちょっと落ち込んでいました。

散歩の途中、歩道近くの分離帯につまづいて、なんと顔面制動・・・。
とっさに手が出ず、顔面を目から火が出るほど打ちつけました。
それで、顔の左側が打ち身と擦り傷でお岩さん状態です。
4月29日の「京都の春を惜しむ茶会」までに治らないかしら?
治らないまでも傷を目立たなくしたい・・・と祈っています。 

そんな折に、ステキな御本「裂がつつむ」が届きました。
横浜に居るときに仕覆をお習いしていた小林芙佐子先生からです。
更紗の表紙を見た途端、うっとり・・・先生の熱い思いが伝わってきます。

           

早速、電話でお礼を申し上げると、
「なんか恥ずかしいのですが、あなたにも見ていただきたくて・・・」
先生らしい謙虚なお言葉が返ってきました。

「裂がつつむ」には20年余、仕覆にひたすら向き合ってこられた、
小林芙佐子先生の確かな足跡とゆるぎない信念を感じました。

           

どの頁の仕覆も垂涎の素晴らしい裂地で作られ、
茶道具たちを優しく温かく包んでいます。
茶入や茶碗だけでなく、茶籠一揃い、茶杓一式、香合、花入など
裂と茶道具が生み出すハーモニーが一段と茶道具を惹き立てています。
写真から中の茶道具を想像するのも愉しいです。

           

「お茶の道具は、持ち主の愛情で仕覆や箱が調えられて
 はじめて茶道具から”お道具”になるのよ」
・・・そんな先生のお話を、本を見ながら思い出しています。

古布や古い着物の裂地もあり、いわゆる名物裂ばかりではないのですが、
そこに先生のセンスと個性が輝いていて、素敵です。

            

「自分の茶事とは・・・? 
 自分のしたい茶事をしているの?」
・・・ふらふらと迷い、自問自答していた時だったので
ガーンと一発、殴られたような、愛の鞭を感じました。
(先生を見習って、迷いながらでも前へ進もう・・・っと)

「裂がつつむ」は非売品とのこと。
大事な記念の御本を大切に愛読するとともに、一人でも多くの方に
見て頂けたら・・・と思っています(貸出、大歓迎です)。

                               


桜旅 吉野山にて

2014年04月23日 | 京暮らし 日常編
                吉野山にて 2014年4月14日撮影

今年、見納めの桜旅は吉野山(奈良県)です。

4月14日朝8時、京都駅発の観光バスで吉野山を目指しました。
バスツアーは車も土地勘もない私たちにはとても便利で、
伊吹山(滋賀県)、足立美術館(島根県)に次いで3回目の利用です。

11時に駐車場へ着き、15時までの4時間が逍遥時間です。
支給された花見弁当とお茶を持って、先ずは「金峰山寺(きんぷせんじ)」へ。
途中の展望台から吉野山を見渡すと、下千本から中千本へかけて
桜と若葉が入り混じった、吉野の桜に大満足、なかなか先へ進めません。


              下千本から中千本の桜の景

金峰山寺仁王門(国宝)をくぐって、蔵王堂(国宝)へお詣りしました。
重層入母屋造、桧皮葺の蔵王堂は安土桃山時代に再建されたそうですが、
高さ34m、幅36m四方という大伽藍に圧倒されました。
本尊の蔵王権現三体が御開帳とのことで、内覧しましたが、
こちらも見上げるほど大きく立派な体躯の蔵王権現さまです。

蔵王権現さまの御前には障子で仕切られた小部屋が設えてあり、
それは日頃の諸悪罪業を懺悔し、仏の道へ発心するための場とのこと。
罪多き二人は一緒に入り、一心に祈り懺悔したのですが、
中味は夫婦であっても別物でしょうね・・・。

        
                 金峯山寺・蔵王堂

桜の見物客でごった返す参道を登り、吉水(よしみず)神社へ。
境内から見渡す、中千本から上千本へ桜の花が駆け上がるような景色が見事で、
つい写真を何枚も撮りました・・・その日、一番の吉野山の桜の景でした。


            吉水神社からの桜の景(中千本から上千本)

吉水神社は元は吉水院といい、吉野山を統率する修験宗の僧坊でしたが、
明治時代に神仏分離が行われ、後醍醐天皇の南朝の皇居であったことから、
明寺8年に吉水神社と改められ、祭神は後醍醐天皇です。

吉水院には後醍醐天皇の玉座の間が現存しますが、
豊臣秀吉が修理したので桃山時代の様式になっています。
展示されている御物に天皇の日常を偲ぶことが出来ました。
金輪寺茶入や蝉丸の琵琶(後醍醐天皇所持)、御宸筆、
大塔宮(後醍醐天皇の皇子)所用の御茶台や陣羽織もありました。

吉水院で後醍醐天皇が詠まれた和歌
 花にねて よしや吉野の吉水の 枕の下に岩走る音 (御製)

           

           
               吉水神社 後醍醐天皇の玉座の間

展示物を見ていると、放送があり、宮司さんがご説明くださるそうで、
「義経・静御前 潜居の間」の前に集まりました。

文治元年(1185)、兄・源頼朝の追手を逃れて、義経と静御前は弁慶らと共に
吉水院へ潜伏していました。
そして、この潜居の間が義経と静が最後に過ごした場所だそうです。
とても愉快で、ステキな宮司さんがこんなお話をしてくださいました。

           
                  お話がステキな宮司さん

「ここで最後の夜を過ごした義経と静・・・こっちへ向いて寝たのかな?
 それとも、あっちを向いて寝たのかな?」
みんな、それを聴いて、ニコニコ笑いました。
すると、
「今笑った方は健康な心を持っていて、大いに結構ですが、
 笑えず苦虫を噛んだような顔をしている方は要注意です。
 人間、どんな時にも笑える心、笑うことがとても大事で、
 健康にも好いと思っています・・・などなど・・・」

そのあとで、
「毎日、吉水神社から桜の美しさを眺め暮らしていますが、
 桜はその時々の良さがあり、散る桜もまた良いものです。

 年に一度出会うかどうか?
 桜が一斉に散って、その花びらが山の斜面を花吹雪となって駆け上がり、
 空高く舞い上がってから沈んでいく・・・
 そんな光景が見れる一瞬があるんです。

 みなさんにもお見せしたいですが、写真におさめることができません。
 吉水神社から見る、吉野の桜が一番と、感謝して暮らしています」

            
                   韋駄天山の祠と桜

吉水神社から韋駄天山という小さな丘へ上り、お弁当を食べていると、
祠の横の満開の桜が風に吹かれて一斉に散りました。
すると、風が韋駄天山へ駆け昇ってきて、花びらを空高く舞い上げると、
すぐに花びらは落ちてしまいました。
「あっ・・」という間の出来事でした。

私たちだけでなく、この瞬間を目撃した若い女性のグループも
「えっ!見た? 今のはなに?」と驚きながらも感激しています。
満開の桜、一斉に散る条件、風、上昇する地形など、偶然ですが、
吉水神社の宮司さんのお話が実感できました。

吉野山の桜旅で宮司さんのお話と共に心に残る思い出となりました。 

                           



正午の茶事-風吹南岸柳 (2)

2014年04月20日 | 思い出の茶事  京都編
                  散り椿   府立植物園にて
(つづき)
銅鑼の音を聴くのも茶事の楽しみの一つです。
音色と間合いの良さが好ましく、Yさまの日頃の精進が伺えました。

後座の床に、白い鯛釣り草と紅い椿が春の歓びを謳い上げていました。
美しく自然釉がかかる花入は伊賀焼の旅枕でしょうか。
誰が袖棚にたっぷりした染付の水指が爽やかに映えています。

           
                    鯛釣り草と紅い椿

黒の楽茶碗が運び出され、濃茶点前が始まりました。
袱紗捌きの衣擦れの音に心地好く耳を傾けていると、
ゆらゆらと釣り釜が揺らいで、なにやら眠気が・・・。

佳い薫りがして来て、眠りの谷底から覚醒しました。
湯を汲み、しっかりと練ってくださった濃茶の美味しかったこと!
湯の温度も熱すぎず、たっぷりと頂戴しました。
茶銘は錦上の昔、詰は柳桜園です。

前席のお菓子は、白と黄色のきんとん、黄身餡が珍しく新鮮でした。
ご亭主の手づくりの一品でした。

           
                   菜の花畑

黒の楽茶碗を手に取ると、釉薬が二重掛けされているのでしょうか。
なだれが胴を一巡りして、独特の景色を作り出しています。
窯元は玉藻焼(たまもやき)、作者は初代・氏家常平でした。

香川県高松市にある高松城は海に面していて、玉藻城と呼ばれています。
柿本人麻呂が讃岐の国の枕詞に「玉藻よし」と詠んだことから、
このあたりは玉藻の浦と呼ばれ、名の由来となったそうです。

私にとって玉藻焼は懐かしい思い出があります。
四国遍路の折、玉藻城へ寄って、疲れた足を休めたことがありました。
そのことが忘れられず、玉藻焼の赤楽茶碗を入手し、今も愛用しています。

玉藻焼の黒楽で濃茶をいただけたことに嬉しいご縁を感じました・・・。
茶入は朝日焼の肩衝、粋な縞模様の仕覆は青木間道です。
茶杓は、方谷文雅和尚作の銘「華衣(はなごろも)」、
中節から下の景色が古代衣裳の「裳(も)」を連想させるステキな花衣です。

           

煮えが落ちてきたところで、後炭となりました。
釣り釜の初炭も久しぶりでしたが、後炭はさらにご無沙汰しています。
釣り釜が上げられると、炭が綺麗に流れていて、五徳がないせいか、
残り火の姿は一段と胸に迫るものがありました。
炭がご亭主の意のままに選び置かれ、輪胴止めでした。

この時の後炭の風情に心惹かれ、いつかしてみたい・・と思います。

           
                六角堂(頂法寺)の柳

すぐに煮えがついてきて、薄茶になりました。
干菓子は野菜の砂糖漬け、ハス、サツマイモ、人参、柚子など5種、
これも手づくりです。
ステキな薄茶茶碗が次々と登場し、干菓子をモリモリ賞味しながら、
2服ずつ美味しく頂戴しました。
最後にご自服して頂き、はやお別れの時が近づいて来ました・・・。

相客のMさま、Sさまと愉しく過ごさせて頂きましたが、
ご亭主から懐石のヒントやお点前の刺激をたくさん頂戴しました。
お心こもるおもてなしに感謝しております。                      
                                 

                          
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正午の茶事-風吹南岸柳 (1)

2014年04月19日 | 思い出の茶事  京都編
              (京都・白川疏水の柳)

4月13日、紅しだれ桜が満開の候、正午の茶事へお招き頂きました。
ご亭主は、灑雪庵の茶事へ何度もいらしてくださったYさまです。
京都駅で相客のMさま、Sさまと待ち合わせ、11時の席入でした。

待合に2羽の雀が描かれたお軸が掛けられていました。
眼鏡を取り出して落款を見ると、
「あらっ! 栖鳳だわ」
チュンチュン・・・急にかわいらしい鳴き声が聴こえてくるようです。
(・・・栖鳳の画を表装へ出したばかりなので、つい嬉しく・・・)

            
                     白川疏水の桜

カーテンで上手に仕切られた廊下を通り、庭の腰掛待合へ。
庭好きの相客のお話では苔庭は育てるのも管理も大変なようですが、
美しく育っていて、杉苔、ゼニ苔、ハエ苔など種類も増えています。
腰掛で静かに語り合いながら迎え付けを待つ、大好きなひと時です。

感謝の心をこめて、ご亭主と無言の挨拶を交わし、席入りしました。

躙り口で席中を覗くと、清寂の空間に釣り釜が幽かに揺れています。
・・・一瞬、何とも言えぬ鮮烈な印象を受けました。

床のお軸は、
「風吹南岸柳」
(風は南岸の柳に吹く)
建仁寺・益州和尚の筆です。

この禅語は対句になっているそうで、
「風吹南岸柳  雨打北地蓮」
(風は南岸の柳を吹き  雨は北地の蓮を打つ)

禅語の意は深く、揚子江の南と北の様子を現した語句ですが、
実際に南と北では気候も文化も風俗も人の性格も違うそうです。
しかし、この禅語は差別や違いを表現しているようで、そうではなく、
実は平等をあらわしていて、基には不変の真理が込められているとか。

禅語の真理を理解するのは難しいですが・・・
風が柳の若葉を揺らして吹いている情景が目の前に広がり、
爽やかな春風が耳元を通り抜けていきました。

           
              (春風になびく柳  鴨川東岸にて)

久しぶりに釣り釜の初炭手前を拝見しました。
霰遠山の筒釜は菊地政直造、重量感のある鎖、弦、鐶の作者はえ~と・・・?
小あげ、大あげ、弦や鐶の扱い、揺れを抑える釣り釜独特の所作も好いですねぇ~
さらさらと流れるようなYさまの炭手前をうっとりと眺めていました。

はっ!と我に返り、「お香合の拝見を」
香合は、緑釉に金箔の模様が華やかな京焼の琵琶香合、
香は、松栄堂の加須美です。

           

つづいて懐石になり、京風の味付けがもう絶品で、何度も舌鼓です。(シアワセ!)
今後の参考にしたい春の献立でした。

  向付    鯛、水前寺海苔など
  汁     桜麩(道明寺粉入り) 合わせ味噌  辛子
  煮物碗   筍真蒸  筍  ワカメ  木の芽
  焼物    太刀魚
  炊合せ   鯛の子  蕗  小芋
  和え物   春野菜の木の芽和え
  箸洗い   姫皮
  八寸    サヨリの一夜干し  もう一種
  香の物   沢庵  胡瓜糠漬  もう一種
  酒


           正午の茶事-風吹南岸柳(2)へつづく