暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

灑雪庵・名残りの茶会-3

2014年11月11日 | 茶事  京都編
灑雪庵・名残りの茶会の最後に、お客さまから頂いたお手紙やメールを全部は無理なのでいくつかを掲載させて頂きます。
最後なのでどうぞ大目に見てください・・・それに、茶事茶会は亭主だけのものではなく、お客さまと一緒に作り上げるものだと思うからです。

                 

                
10月31日に来庵のOさまより
昨日は、大変楽しい一時を過ごさせて頂き有難うございました。
薄暗い中をいつまでもお見送りしてくださっているお姿が、今も目に浮かびます。

206系統のバスを降りて灑雪庵を探す時からトキメキは、始まりました。
路地を入り、「在釜」を見つけほっとしながら、おシャレーと思いました。
玄関を開けて、土間に入り、少し開けられた障子をゆっくりと開けると、
可愛い火入れに迎えられ、何もかも楽しい雰囲気の一つ一つに
「わぁ!わぁ!」と皆で声をあげていました。

お白湯を持って来られた時に初めてお会いでき、いつもネットでお目にかかっている暁庵さんだと感激でした。
お香を焚かせて頂く大役を頂きましたが、皆さんと心一つに香を楽しむ事ができました。お炭点前暗さの中での炭の優しい明りが落ち着かせてくれます。

点心、とても美味しかったです。土瓶蒸しまでつくってくださり、松茸、初物をいただきました。亭主様の手造りのお菓子、秋の色どりが一杯で、餡、甘さ控えめで、贅沢を味あわせていただきました。

後座では、蝋燭の明かりで、又、初座とは、違った趣で「心清寿年長」が、心に沁みます。私も、これからの人生なんて思ってしまいます。
お濃茶、二人二人に練ってくださり、お心使いを有りがたく頂戴いたしました。
本当に美味しかったです。
今、古帛紗の上に、薄く歪につくられた茶碗をゆっくり回した事を思い浮かべ、お茶碗をお尋ねしなかったことが悔やまれます。
次茶碗の辰砂が出ているような黒の茶碗も何方のだったかなと思っています。

手燭の明かりに照らされたお道具を拝見させて頂くと、揺らぐ和蝋燭が風情を添えて、お道具を楽しませてくれました。
一つ一つの事に、お茶を本当に楽しんでいらっしゃるのだなと感じ入りました。
今回、ネットでの繋がりで皆さんと一座建立を持てた事、素晴らしいことだなぁと思います。
“お茶”が一つにしてくれました。御蔭さまです。ありがとうございました。
・・・・(後略)・・・
                  

                 
10月31日に来庵のIさまより
秋時雨の朝となりました。
先日は灑雪庵・名残りの茶事にお招き頂きまして、大変有難うございました。
お待合の温かい風情、凛とした身の引き締まるような中にもご亭主様の御心配りがしみじみと感じられる素晴らしいお茶席、
またお茶事でお香を聞かせて頂いたのも初めてでした。

ご相席の皆さまにも温かい配慮を頂き、初めてお会いしたことも忘れて
初心者の私でものびのびと過ごさせて頂きましたこと、これもひとえに暁庵様から頂戴したかけがいのないご縁と、心より感謝申し上げます。

あまりに名残惜しく何とかお引止めしたい気持ちで一杯ですが、どうぞまた京都にお越しの際はお声掛けくださいましたら幸いに存じます。    未熟な私ですが、
この次お目に掛かれるときは、一服差し上げられるよう、自分なりに精進して参りたいと存じます。
連日のお席でさぞお疲れのことと存じますが、どうぞお元気で錦秋の京をお楽しみくださいますよう・・・。

                  

11月1日に来庵のYさまより
晩秋の候、先日は灑雪庵・名残りの茶会へお招き頂きまして、ありがとうございました。
思いやりにあふれる御心配りに、和やかでとても楽しい一日を過ごさせて頂き、幸せに思っております。

小雨の中、神戸を後にし、電車に乗っていても落ち着かず、お宅の前に佇むS様のお姿を拝見し、安堵いたしました。
何もかも初めてのことで緊張感いっぱいでお詰めの仕事が出来るのだろうかと不安が押し寄せました。厳粛な席入り後、S様にお香を焚いて頂き、少しずつ落ち着きを取り戻しました。

頂いた点心の数々、季節の土瓶蒸しまで美味しく頂戴いたしました。
三島の主茶碗の手の感触や黒楽茶碗「喝喰」で頂いた濃茶のまろやかで美味しかったこと、お手づくりの桜の葉の香りが席中にあふれ、なんとしあわせなこと、手燭のあかりで揺れる幽玄な世界が未だ目に浮かび、蘇えります。

嘗て経験したことのないお茶、ほんとうのお茶に出合えたような気がしています。
暁庵様に感動を頂きました。ひとり亭主でのおもてなしを頂き、とても感謝しています。
後日、お疲れが出ていないかと気がかりですが・・・。
この度は暁庵様に出会えたことやお茶に対してのお考えを知ることができ、
私も一層精進しようと思った次第です。
あとわずかの時間しかご一緒出来ませんが、どうかよろしくお願いいたします。
S様には不慣れな者ばかりとご同席頂き、感謝しております。よろしくお伝えください。
・・・・後略・・・

                 

暁庵より
お客さまからのお手紙を頂戴し、有難く涙しながら何度も読みました。
全員のお手紙を掲載できませんでしたが、お客さまお一人お一人に御礼申し上げます。
京都へ来て茶事をすることを心新たに選択し、続けてきて本当に良かった!と思います。お客さまに支えられて、灑雪庵・名残りの茶会で無事卒業式をすることができました。
ありがとうございました! 

末筆ながら、いつも私を支え、無言で励ましてくれた主人に感謝いたします。
  
                                 

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灑雪庵・名残りの茶会-2

2014年11月10日 | 茶事  京都編
                        錦秋の京都
(つづき)       
名残りの茶会を書き進める前に11月1日のお客さまについて記しておきます。

お正客は昨年10月に如庵茶会へお連れ下さったSさま、お詰は同門社中のYさま、
次客のKさまと三客のHさまはYさまの茶友です。
13時待合集合、用意が調いましたら玄関のカギを開け、「在釜」の札を掛けておきます
・・・とご案内しました。

火入の灰形に手間取って12時半に門を開けると、全員が待っていらして、もうびっくり!
あわてて、中へお入り頂きました。
皆さま、茶事形式の茶会は初めてで、緊張のあまり早くに来てくださったとか。
それを伺って、またまた感激に胸を熱くしたのでした・・・(アリガトウ!)

              
              31日は晴れでしたが、1日はときおり時雨が・・・

昼食がなごやかに終わり、ほっとしながら炭を置かせて頂きました。
中置ではなく、あとの薄茶点前の都合で常据えとしました。
釜は桐文真形で高橋敬典造、風炉は唐銅道安、一之瀬宗和造です。
炭斗は認得斎好みの松山籠、菊頭四方透かしの飾り火箸、羽根はフクロウなど、
いつもの炭道具ですが、珍しく灰形を遠山とし、お香を工夫してみました。

鴨川べりの桜紅葉に沈香をつけた「つけ干し香」を2枚焚きました。
そのあとで風炉中を拝見していただくと、ちょうど枯葉と沈香の薫りが立ちこめて
名残りにふさわしい秋の景色が部屋いっぱいひろがりました。ヤッタね!
香合は、妙喜庵古材の錫縁香合です。

              
                      桜紅葉のつけ干し香

手づくりのきんとん「錦秋」を縁高でお出しし、中立をお願いしました。
(写真を撮る余裕がなかったのが残念・・・)

後座の案内は銅鑼です。
灑雪庵の茶事で銅鑼を打つのもこれが最後かしら・・・一抹の寂しさを覚えながら
大・・・小・・中・中・・・大 と打ちました。  

いつもより2時間遅いスタートなので、部屋は早や真っ暗です。
床の間の燭台に灯りを入れ、破れ壷「仙石原」に花を入れ、諸飾りとしました。
花は矢筈ススキ、吾亦紅、アブチロン、孔雀草、射干玉(ぬばたま)です。

蝋燭の灯りが揺らぐ中、濃茶をたっぷりのんで頂きたくて、2碗点てました。
濃茶は「北野の昔」一保堂詰、京都限定だとか。
「お服加減いかがでしょうか?」
「薫り高くまろやかで、美味しゅうございます」
お客様の一言にほっとして、濃茶の緊張感が心地好く緩んでいきました。

              

手燭をお出しし、道具を拝見して頂きました。
主茶碗は高麗御本三島、古帛紗は紺地吉祥文金襴です。
もう一碗は、黒楽の長次郎「喝喰(かつじき)」の写しです。

慣れ親しんだ道具の中で特筆すべきは茶入でしょうか。
たつの市・揖保川焼の池川みどり作、Kさん所有の魅力あふれる茶入で、
ゴツゴツした黒い土肌、なぜか円周率を連想する歪んだ形状が気に入っています。
ステキな茶入は振りだしに使われていました(なんと!もったいない・・)。

Kさんからある日突然、
「京都滞在中は永久貸与します。どうぞ茶入を使ってあげてください」
と、2つの仕覆とともに送られてきました。
時々茶事で使わしていただきましたが、最後の出番です。
使うたびにKさんと池川さんの顔や思い出が浮かんできて、存在感のある茶入でした。

              
                      茶入・銘「背負い水」と茶杓

湯相、火相もよく、続いて薄茶を差し上げました。
箕に干菓子3種(南都七大寺、つみ小菊、栗納豆)をお出ししました。
薄茶の趣向はナイショ、参加者だけの楽しみとさせていただきますね・・・。

準備を楽しみ、お客さまとのお出会いを待ちわびた茶会でしたが、
和やかに楽しくあっという間に時が過ぎていきました。

・・・こうして灑雪庵・名残りの茶会が終わってしまいました。


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灑雪庵・名残りの茶会-1

2014年11月07日 | 茶事  京都編
                     吉田山(左京区)にて

灑雪庵・名残りの茶会が10月31日(金)と11月1日(土)に無事終了しました。
2年半続けてきた灑雪庵での茶事もこの茶会が最終でした。
・・・なんか、卒業式が終わったような気分でほっとし、ぼんやりしています。

でも、どんな茶会を? と案じている方のためにも思い出すままに書いておきます。
よろしかったら、お付き合いください。

名残りの茶会なので、菓子茶事の形式でゆっくりおもてなししたいと思いました。
当初の「吸物と八寸」の予定が、13時待合集合なので「おしのぎ」を・・と変り、
「松花堂弁当、汁椀、一献、煮物碗(土瓶蒸し)」をお出しすることになりました。
それで、お昼は食べずにいらしてください・・・とご案内しました。

10月31日のお客さまは「暁庵の茶事クロスロード」の愛読者の、
山口県柳井市のOさま、京都市のIさま、埼玉県新座市のWさま、西宮市のSさま、
全員初対面でした。
さぞや、申込みに勇気が要ったのでは?とお尋ねすると、
「前回、申し損ねたので、この機を逃がしては・・・とすぐに申込みました」
と思いがけない答えです。伺っただけで感激し胸が熱くなりました(アリガトウ!)。

そして皆さま、お見合いの様に初対面にときめき、すぐに打ち解けてくださったのです。
お互いを知る者同士の茶事も深い味わいがありますが、
初めてのお客さまとの茶事もまた新鮮で、新しいご縁を結ぶ喜びがありました。

             

待合には紅葉画賛で「舞秋風」、矢野一甫和尚筆を掛けました。
準教授拝受の折、お祝いにN先生から贈られた思い出のお軸です。
京都でも楓や銀杏が色づき始めました。錦秋の到来を待ちわびて・・・。
31日はハローウイン、それでカボチャの火入、煙草盆は溜塗の菓子盆です。

             

本席の床は「心静寿年長」、西垣宗興和尚筆です。
心穏やかに、次々と生じる困難に立ち向かい乗り越えて、
その年が寿年であるように、その寿年が長く続くようにありたい・・と。

ご挨拶の時、お正客のOさまから
「美味しい白湯を頂戴しました。どちらのお水でしょうか?」
白湯の水についてのお尋ねは初めてでした。嬉しく思いながら
「鴨川近くの松井酒造の仕込み水をいつも頂いています。
 自転車で10分くらいでしょうか」

              

自己紹介を兼ねたご挨拶が終わり、香盆を持ち出しました。
香を焚き、全員でまわして、身心を浄め、心を一つにする
・・そんなお話をし、Oさまの焚かれた香を聞きました。

   奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の
      声聞くときぞ秋は哀しき   よみびとしらず

優しい香は伽羅、上記の歌より香銘「小牡鹿(さおしか)」です。
香盆を床に飾り、遅めの昼食(前述)をお出ししました。
                                   

             灑雪庵・名残りの茶会-2へつづく


神の月の茶事ー2

2014年10月10日 | 茶事  京都編
(つづき)
懐石献立は萩の月の茶事とほぼ同じなのですが、
栗とキノコ類(松茸、なめこ)が実りの秋の懐石を彩ってくれました。
最初は一文字、二椀目は栗ご飯を飯器でお出ししました。
さらに「もう一度飯器をお出ししますが、どちらにしましょうか?」
すると一斉に「栗ごはんでお願いします!」 超嬉しいリクエストです。

懐石、初炭と進み、主菓子を縁高でお出しし、中立をお願いしました。
主菓子は虎屋の「栗蒸羊羹」、この季節になると食べたくなる、お薦めの菓子です。

中立の間に湯相を調え、お軸はそのまま荘り残して、
釣り花入へ利休草、あけぼの草、桔梗をいけ、座を清めます。
水指は、神の月の茶事なので清浄感のある木地釣瓶を選び、茶入をかざりました。
今、シンプルで清々しい木地釣瓶がお気に入りで、風炉ではこれだけでも良し・・・
と思うほどです。
            

銅鑼を5つ打って、後座の迎え付けです。
まもなく、絹づれの音が聞こえてきました。
席入の様子を窺いながら温めた茶碗を二つ用意し、茶道口へ座ります。
呼吸を調えてから静かに襖を開け、茶碗を運び出し、濃茶点前が始まりました。
帛紗を捌くと、見守るお客さまの緊張感が伝わってきて、私の緊張と増幅し、
座が一体となるような心地好さを覚えながら点前をしました。

4人のお客さまに美味しい濃茶をたっぷり飲んで頂きたくて、
重茶碗ではなく茶碗二つを持ち出し、先ず2名様分を練ってお出ししました。
お服加減を尋ねてから、もう一つの茶碗へ濃茶を入れ、後の2名様へ。
点前順序は二椀目を建水と一緒に持ち出す以外は重茶碗とほぼ一緒です。

            
               虫明焼の茶碗・・・ピンボケですが

「お服加減はいかがでしょうか?」
「とてもまろやかで美味しゅうございます。どちらの?」
「一保堂の「北野の昔」でございます」

一碗目は高麗御本三島、二椀目は黒楽、長次郎写しです。
茶入は4年ほど前の九州旅行中に出逢った「朝鮮唐津の茶入」(井上東也作)、
その時のエピソードをご披露しました。
仕覆は小真田吉野間道です。
茶杓は黄梅院の太玄和尚の銘「秋紫雨」、微妙なしぐれ模様が気に入っています。

            

久々の後炭が楽しかったです・・。
なにせお稽古を共に励んでいる茶友が優しく見守ってくださるので、
平かな心で後炭手前をすることができました。

時が経つのは早く、あっという間に薄茶になってしまいました。
干菓子は田丸彌の「貴船菊」と若菜屋の「焼き栗きんとん」です(煙草盆は省略)。
葦に雁絵の虫明焼と京焼「御所の秋」の茶碗で薄茶をお出ししました。
薄茶は、一保堂の「丹頂の昔」です。
お稽古や茶道具のこと、炭焼きと茶炭、他流の茶会など
いろいろなお話が入り混じり、自服もさせて頂き、心あたたまる薄茶タイムでした。
お稽古の時のように、いつまでも皆で一緒にいたいような・・・。

こうして、灑雪庵・神の月の茶事が終了しました。
この日の見送りは送り銅鑼です。
いつものことですが、万感の思いを胸に銅鑼を打ちました。

・・・大・・・小・・中・中・・・大
                                   
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神の月の茶事-1

2014年10月09日 | 茶事  京都編
              吉田山(神楽岡)にある吉田神社

早や神無月(10月)も9日を過ぎ、昨日は十五夜、皆既月食、寒露でした。

10月4日(土)に「神の月」の茶事をしました。
お客さまはS先生のご指導の元、ともに稽古に励んでいる4人の方々です。
開催予定が一度流れて、この度お招きできてホッとしています。
次の歌を添えて、御茶一服のご案内を差し上げました。

   神無月 時雨もいまだ降らなくに
     かねて移ろう神なびの森      よみびとしらず(古今)

神無月とは神の月という意味だそうです。
神さまはもちろん出雲大社へお集まりになるのでしょうが、それは一時のこと、
神なびの森にも神社のお社にも神様はいらっしゃるそうです。

灑雪庵に近い吉田山は神楽岡(かぐらおか)とも言い、神さまのメッカのような場所で、
京都の節分で名高い吉田神社をはじめ、菓祖神社、山蔭神社、吉田神社斎場大元宮、
竹中稲荷社、宗忠神社などがあります。

             
              全国の八百万の神を祀る吉田神社・大元宮

             

神の月らしさを・・と思い、煙草盆は吉田神社の福枡にしてみました。
待合の掛物は富岡鉄斎の画いた草花と菊を表装したものです。
詳しいことはわからないのですが、草花が枯れたハスのようにも見え始め、
以前Kさんが名残りの茶事で掛けてくださったお軸の禅語を思い出しました。

  荷尽己無雨蓋
  菊残猶有傲霜枝
(読み下し)
  荷(はす)は尽きて己(すで)に雨を(ささ)ぐるの蓋(かさ)無く
  菊は残りて猶(なお)霜に傲(おご)るの枝有り

             

本席のお軸は、金剛経の一節で足立泰道老師に書いて頂いた
 「応無処住而生吾心」(おうむしょじゅう にしょうごしん)
(読み下し)
  住むところを無くして、しかもその心を生ずべし

捉われていることを全て無にしなさい。そして、その無の中から
湧き上がってきた自分の思いを大事にしなさい・・・とお伝えしました。

ご挨拶のあと、お香を聞いて頂きました。
予め温めておいた香炉へ紅く火のついた香炭団(山田松香木店)を入れ、
Wさまから頂戴した菱灰をふんわりと盛り上げ、空気穴と聞き筋を入れました。
正客前に香盆を運び出し、「どうぞお申し合わせでお香を・・」と香所望です。
次客のSさまがお香を焚いてくださると、まもなく薫香が末席まで満ちてきました。
お香は火の加減が微妙なのでいつもドキドキです・・・。
             

正客Tさまから順次聞き回し、穏やかで心豊かなひと時を共有しました。
「優しく雅な香りを楽しませて頂きましたが、お香銘は?」
「ご案内の和歌・・・神無月 時雨もいまだ降らなくに かねて移ろう神なびの森
 より「神なび」(伽羅)でございます。
 「神(かん)なび」とは神が隠れ籠もる・・という意味だそうです」

「まだ佳い薫りが楽しめますのでもう一巡お回しください。
 菱灰の作者さんがいらっしゃるので菱灰についてお尋ねくださいませ」
香盆を詰のWさまに託し、懐石準備のために心を残しながら席を離れました。
                               

           神の月の茶事-2へつづく