暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

紅葉の奈良・同窓会・・・(2)室生寺へ

2019年11月29日 | 

          室生川の紅葉  

つづき)
今年の同窓会は、幹事組が「日本一長い路線バス」に乗って熊野方面へ行きたいとのことで、朝食後に自由解散になりました。

晴れていたら室生寺へ・・・と決めていました。
予報の雨を吹き飛ばして、その日は秋晴れになりました。
室生寺への大人の遠足に付き合ってくださった参加者は総勢7名、京都のK氏、名古屋のA氏(亀香合の作者)、大阪のYさん、東京のYさん、静岡のMさん(待合掛けでお馴染みの布絵作家さん)、横浜のI氏(別名ツレ)と暁庵です。

近鉄大阪線「室生口大野」駅で降り、バスで室生寺まで20分くらいでしょうか。シーズンなので臨時バスが出ていました。


          室生寺仁王門

バス停から門前町の店屋が並ぶ通リを進み、室生川に掛けられた赤い橋を渡ると室生寺です。
紅葉が美しい参道を進むと仁王門があり、仁王門をくぐると、鎧坂と呼ばれる急な石段が続きます。
杖を借りて、果敢に石段を上っていきましたが、五重塔の先の奥の院まで行けるかどうか、まあ~行けるところまで行ってみましょう~っと。

室生寺には国宝がたくさんあって、有名な五重塔の他にも素晴らしい仏像や仏殿があります。
鎧坂を上ったところに在る檜皮葺の金堂(国宝)のたたずまいに魅せられ、高床式の縁を巡りながら、中におわします御仏を拝ませてもらいました。
中央の釈迦如来立像(国宝)は室生寺のご本尊で、榧(かや)の一木造り、平安初期の作です。光背に帝釈天曼荼羅図が描かれているのが珍しく、こちらも国宝です。


         金堂(国宝)へ

釈迦如来立像の向かって左側に文殊菩薩像、右側に薬師如来像(いずれも重文)がおわしましたが、金堂内の五尊のうち、十一面観音像と地蔵菩薩立像(いずれも国宝)は現在、東京国立博物館へ出張中でお目にかかれず、心残りです。

・・・それでも、大きな金堂の内陣を圧するごとく、息遣いが感じられるごとく、慈悲に溢れ威厳のある御仏たちを目の前にすると、極楽浄土にだどりついた感がありました。
今、宝物館が造られていますが、この金堂で御仏たちを拝める崇高感、神秘感は何とも有難く、得難いものだと思いました。十一面観音像と地蔵菩薩立像を拝みにまた金堂へ来たいものです・・・。


 五重塔(国宝) 美しい檜皮葺の屋根の勾配と軒下の木組み


弥勒菩薩(重文)の祀られている弥勒堂、さらに石段を上った本堂、そしてさらに石段を上っていくと、あの丹塗りの五重塔(国宝)がゆっくりと目の前に現れてきました。
平成10年の台風で痛ましいほど破損した姿をテレビで見て、心を痛めたのが昨日のことのようです。
平成12年に修復が完成したそうですが、想像していたより華奢で小ぶりの五重塔が期待通りの優美な姿で聳えていました。
下から見上げると檜皮葺の屋根の勾配や軒下の木組みが美しく、階段の途中で止まってしばし魅入りました。

「こちらから見ると、五重塔がまた違って好く見えるよ」とツレの声がしました。
奥の院へ続く石段を少し上ると、確かに違って見えるのですが、私の膝も前と違っていました。左膝が痛み出していたのです・・・奥の院はあきらめて戻りました。


        別の角度からの五重塔

昼食は門前のお店で山菜とろろそばです。
京都のK氏夫人から頂戴したシフォンケーキを、7人で仲良く食べたのもよき思い出になりました。


   龍穴神社の入り口にある杉の巨木
   (その幅は7人で手をつなぐ程の太さでした)

バスの時間まで、室生川の上流1キロにある龍穴神社へ行くことになったのですが、とても清々しく気持ちのよい神社で、お勧めです。



室生寺よりも古い歴史をもつ古社で、水の神、竜神を祀っています。渓谷の奥には雨や雲を支配する龍王が住むという龍穴があって、雨乞いが行われているそうです。
杉の大木に囲まれた境内は清冽な気が満ちていて、思わず深呼吸しました。



帰りは近鉄大阪線に乗り、名古屋、京都、大阪、静岡、東京・・・それぞれの方向(人生)へバラバラになりましたが、ツレと奈良へ戻りもう1泊しました。


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紅葉の奈良・同窓会・・・(1)亀の香合

2019年11月26日 | 

      金色の鴟尾が輝く東大寺大仏殿を望む


11月17日に大学の同窓会が奈良であり、3泊4日の関西の旅へ出かけました。
毎年この時期は茶人にとって忙しくやり繰りが大変ですが、今年は奈良、しかも口切の茶事をしないことに決めていたので、浮き浮きと出かけました。

奈良出身&大阪在住のTさんの案内で、興福寺(金堂、南円堂、五重塔、国宝館)、東大寺、二月堂、春日神社などをぶらぶらし、ささやきの小径を通って宿舎到着。


        大好きな東大寺二月堂を見上げて・・・

総勢23名が夕食を囲みながら近況報告やら、同窓会の今後について真剣な議論(?)が交わされました。
近況報告ではどちらかというと女性の方が元気そう、まだ仕事を楽しく続けているという人が結構いたりして、元気づけられます。

隣りに座ったH氏は久しぶりの出席でした。
聞けば鬱病を発症して数年間大変だったとのこと。やっと長いトンネルから抜け出ることができて、今回参加したそうです。
5年前にお会いした時は仕事も趣味の絵画も充実した様子で、まさかそんなことになっているなんて・・・思いがけないお話でした。
今回お互い元気で参加できたことを喜び合い、来年の同窓会での再会を約しました。





もう一方お隣のA氏、去年の幹事さんです。
去年の同窓会(恵那峡、苗木城跡、岩村城跡など)での誠実なおもてなしが思い出されました。
A氏の趣味は陶芸です。3年前の汲出しから始まって、ご恵贈頂いた茶碗などの作品は我が家の茶事や稽古で大活躍しています。

昨年の同窓会で「亀の香合」をお願いしたのですが、忘れずに持参してくださいました。
後で渡された香合を見て、もう感謝感激!でした。 
大きさ、色合い、顔の表情や雰囲気が違う「亀の香合」を4つも創ってくださったのです。
・・・今まで見た亀の香合とは違う豊かな味わいがあり、とても気に入りました。どれから使おうかしら?と迷ってしまいます。



「4つもステキな亀香合を創ってくださって、ありがとう! 大事に使わせていただきます」
すると、
「全部で10個ほど創ってみたのだけれど、4つ選んできた・・・」そうです。


    

いつも我儘な注文を受けてくださって本当にありがとう・・・
「いやいや・・・けっこう楽しんで創ったし、展示会に出品したりして良かったよ」と言ってくださいました。・・・ヨカッタ!(ほッ!

              感激しています   


      紅葉の奈良・同窓会・・・(2)室生寺へ つづく



2019年「炉開き&口切の会」・・・(3)

2019年11月23日 | 暁庵の裏千家茶道教室


    奈良・室生寺の紅葉  (2019年11月18日撮影)


    後座の床に紐飾りされた茶壷が置かれました

つづき)
M氏に棚の濃茶点前で4人分の濃茶を練っていただきました。
寿棚や桶川の水指を運び出し、茶入と棗を莊り付けると、お客さま4人が六畳に入りました。
正客KTさん、次客N氏、三客SYさん、詰Uさんです。

縁高に入れた主菓子(猪子餅)が運び出され、
「お菓子をどうぞお召し上がりください」

静かに襖が開けられ、袴姿も清々しく、M氏がゆっくり穏やかな歩調で茶碗を運び出し、濃茶点前が始まりました。
建水が運ばれ、内隅ねらいで座り、柄杓を蓋置に引いて総礼。
炉の濃茶点前の始まりですが、客一同も見学者もM氏の動きや所作に呼応するように緊張気味に見守ります。
紫色の袱紗が捌かれ、茶入や茶杓が清められていきます。
茶碗に湯を入れると中蓋がされ、ここでも炉での濃茶点前が実感されます。

炉の初点前と思えないほどリズムの好い点前は心地好く、茶入から緑の抹茶が回しだされ、再び釜蓋が開けられ、湯が茶碗に注がれると、早や茶香が薫り立ちました。
しっかりと練られたようでしたが、「お服加減はいかがでしょうか?」
「大変美味しゅうございます」と正客KTさん。この声できっと安堵されたことでしょう。中仕舞いをして濃茶点前が続きます・・・。


       濃茶の点前座

濃茶は松花の昔、小山園詰です。
茶碗は魚屋(ととや)、韓国・山清窯のミン・ヨンギ作です。M氏の古帛紗が添えられたのですが・・・?。
茶入は織部肩衝、佐々木八十吉造、仕覆は十二段花兎金襴です。
茶杓は銘「紅葉狩」、雲林院の寛道師の作です。
この茶入と茶杓は、愛媛県宇和島市に住むお茶の先輩Kさまから頂戴したもので、有難く使わせて頂いてます。



     竹尺八に花水木の照葉と白玉椿をいけました

台天目と濃茶点前の次は薄茶です。
員茶之式風に十種香札を引いて、札元が読み上げた札の人が名乗ってから干菓子を頂き、薄茶を喫み、点前をします。
ゆっくり干菓子と薄茶を味わってもらいたいので、薄茶の亭主KTさんに茶碗2個を持ち出して2服続けて点ててもらい、お点前さんを一人ずらしました。


      前日の薄茶のお稽古の時に・・・

3月に入門したSYさんは炉での点前は今回が初めてでした。それで、員茶之式に備えて前日に薄茶点前をお稽古しました。
全員が点前するので、最後の仕舞い付けが誰に当たるのだろう?・・・皆の関心事です。暁庵は内心SYさんに当たると良いのだけれど・・・と。
お茶の神様がお選びになったのは、台天目で奮闘してくださったN氏でした。
今年はN氏がトリを務めて、これにて無事に炉開きと口切の会が終了しました。

緊張感あり、笑いあり、学びあり、反省あり、思いやりの優しさあり、・・・
「和敬清寂」や利休七則をどこかに感じつつ、社中の皆様と炉の時期の好いスタートが切れました。 

昨日(22日)から冷たい雨が降っており、小春日和だった炉開き&口切の日を愉しく思い出しながら記しました・・・。


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2019年「炉開き&口切の会」・・・(2)

2019年11月18日 | 暁庵の裏千家茶道教室



つづき)
次はUさんの初炭です。
大きな瓢の炭斗ですが、大きな炉の炭を置くと丁度釣り合いが取れて好い感じです。
直近の稽古日に初炭を稽古したので、炭手前はUさんに託して、Kさんと昼食の準備に取り掛かりました。

きっと席中では半年ぶりに炉を囲み、
炉縁を清める羽箒の動きに心躍り、
炭の大きさに季節の移ろいを思い、
湿し灰の撒かれる様子にご自身の手前を重ねたのではないでしょうか。


        霰唐松真形釜(美之助造) 

炭道具を以下に記します。
 炭斗  瓢(新瓢ではありませんが、友人から贈られた宝物です) 
 羽箒  シマフクロウ
 鐶   初代畠春斎造
 火箸  利休好 桑枝   清五郎造
 灰器  備前
 灰匙           清五郎造
 香合  染付木瓜     須田菁華造
 香   梅ヶ香      松栄堂
 
初炭の終了後に待合のテーブル席に動座していただき、昼食です。
四季弁当(戸塚区温石製)、煮物椀、八寸と一献をお出ししました。


        昼食の四季弁当と煮物椀

昼食後に亭主がKTさんに変わり、茶壷の紐莊りをお願いし、暁庵は後座の正客として腰掛待合へ座わります。
後座の迎え付けの銅鑼が7つ打たれました。
つくばってKTさんの打つ銅鑼の音に心をゆだね、ツワブキや小菊の咲く露地を進み、蹲の水で心身を清め、順次後入りしました。




四規七則のお軸はそのままで、上座に紐莊の茶壷、床柱に花が莊られていました。
花は白玉椿と花水木の照葉、花入は竹尺八です。
点前座には曲げの水指、その前に茶入と天目台が置かれ、台天目の設えです。
台天目は四畳半で行われ、客は暁庵、Kさん、M氏の3名です。
後方を見学席(椅子席)としました。



座が落ち着くと、襖が開き、N氏が縁高を持ち出しました。
「お菓子をどうぞお召し上がりください」
・・・早速3人で「亥の子餅」を頂戴しました。
再び、襖が静かに開けられ、台天目のお点前が始まりました。
口切の時もそうでしたが、客も見学者もN氏の流れるような袱紗捌きや清めの所作を真剣に見つめます。


       素晴らしい天目茶碗(灰潜天目)と天目台

天目茶碗(灰潜天目)と天目台はN氏のお持ち出しで、今まで蔵の奥深くしまわれていて、実際に使うのは初めてとのことでした。
いつにも増して、ゆっくりと丁寧にお点前が進み、濃茶が天目茶碗に掬い出され、天目台の上で練られました。
天目茶碗が小ぶりな上に、時代のある螺鈿が見事な天目台だったので、さぞかし練るのが大変だったことでしょう。

濃茶がたっぷり入った天目茶碗をバトラの古帛紗の上に置き、頂戴しました。
濃さも丁度好く、薫り高い濃茶が美味しく喉を潤していきます。
「お茶銘は?」
「松花の昔で、小山園の詰でございます」



天目茶碗と天目台の拝見は全員でさせていただきました。
恐る恐る・・丁寧に扱わねば・・と思いながら、皆様、熱心かつ慎重に拝見してくださって、とても好い経験になりました。
愛蔵のお道具をお持ち出ししてくださったN氏に感謝です。

続いてM氏の濃茶点前です。(つづく)


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2019年「炉開き&口切の会」・・・(1)

2019年11月15日 | 暁庵の裏千家茶道教室




2019年11月10日は暁庵の茶道教室の「炉開き&口切の会」でした。

この日に決めたのは大安の日曜日ということもありますが、亥の年の、亥の月の、初亥の日(辛亥かのとい)だったからでした。

江戸時代から亥は陰陽五行で水性にあたり、火災を逃れるという信仰がありました。
茶の湯の世界でもその日を炉開きの日として、茶席菓子として「亥の子餅」を食べ、火災の厄除けや子孫繁栄を願います。


    主菓子の「亥の子餅」  石井製(旭区都岡)

今年の会は茶事形式とし、初座の亭主はKさん(昼食まで)、後座の亭主はKTさんに後入りの合図の銅鑼からお願いし、全員稽古ということで口切、初炭、台天目、濃茶、員茶之式で薄茶を皆さまで担当していただきました。
初座の席順は、正客N氏、次客KTさん、三客SYさん、四客M氏、詰Uさんです。



10時40分に待合集合、11時席入りです。
皆さま、素敵な着物姿でいらしてくださり、「炉開き&口切の会」らしいお目出度い雰囲気が漂います。
男性二人も茶人の正装である、N氏は十得、M氏は袴姿で、きりりと座を引き締めてくれました。
(暁庵は金茶地扇地紋の紋付に緑の森の帯・・・忘備録です)

詰Uさんが打つ板木の音で、初座の亭主Kさんが梅昆布の入った汲出しをお出し、腰掛待合へ案内しました。
待合の掛物は「紅葉(画)舞秋風」、前大徳・一甫和尚の御筆です。かつて口切を御指導頂いた恩師N先生から贈られた御軸を掛けました。

Kさんが迎え付けへ出ます。
水桶から蹲に注がれる水音を清々しく聞きながら、炉に濡釜を掛けました。



床には恐れ多くも大好きな利休居士四規七則のお軸を掛けました。
紫野・太玄老師の御筆です。

和敬清寂に始まり、
一.炭は湯の沸くように
一.花は野にあるように
一.降らずとも雨の用意
一.刻限は早目に
一.相客に心せよ
一.夏は涼しく冬暖かに
一.茶は服のよきように


四規七則は当たり前のことのようで、どれ一つとってもきちんと為すのは難しく、身が引き締まる思いでいつも拝見します。茶事はもちろんのこと、普段の稽古や暮らしでも四規七則を心に留めたいもの・・・です。

亭主Kさんがお客さま一人一人と挨拶を交わし、正客N氏からお声が掛かりました。
「ご都合により御壷の拝見をお願いいたします」
「承知いたしました」
・・・いよいよ口切が始まりました。


茶壷の拝見が終わり、口を切る頃に再び席中へ入り、口切を見守りました。

茶壷は六古窯の一つ、丹波焼で、作者は市野信水です。
小ぶりの茶壷ですが、形がきりっと小気味いい切れ味があります。
土見せの茶色、壷全体にかかった緑がかった土色の釉薬が生み出す深味、さらに濃い焦げ茶色の釉薬が掛けられ、その流れが大胆かつ繊細で、壷全体に鶉班(うづらふ)のような微妙な景色を生み出していて、深遠な壷の世界へ誘います・・・。
口覆いは笹蔓緞子です。

Kさんは緊張した面持ちで、されど落ち着いて小刀で口辺をゆっくりと切っていきます。
客一同、そして暁庵も一緒に口切しているような心持で、Kさんの所作を息をのんで見詰めます。

・・・やがて蓋が開けられ、「どちらのお茶にいたしましょうか?」
「どうぞご亭主様にお任せいたします」と正客N氏。
「承知しました」
茶の入った半袋3つのうち1つが取り出され、茶銘を読み上げ、挽家(ひきや)に入れました。
「松花の昔でございます」


      御茶入日記

葉茶上戸に開けられた詰茶をトントントットッ・・・と一方へ寄せて挽家へ、次いでトトトントン・・・という音と共に残りの詰茶がさらさらと茶壷へ流し入れられました。

口切の中で葉茶上戸の扱いと軽やかな音もステキな一瞬のご馳走です。
再び口が封印され、茶壷を水屋へ引いて口切は終わりました。



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