暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

たつの市・葎菴の茶事ー3

2014年02月21日 | 思い出の茶事  京都編
               (写真がないので以前のものです)

道具を拝見してから、広間の立礼席へ座を移し、薄茶となりました。
先ほど懐石を頂いた部屋ですが、再び「あっ!」と声をだしました。

金屏風の前に大壷が置かれ、桃の花があふれんばかりです。
池川流活花は、大きなキャンパスにダイナミックに描かれた季節の歓び
・・・とでも云うのでしょうか、清楚で侘びた茶花とは違う魅力に溢れ、
私の心を掴んで揺さぶりました。

たしかさっきは「茶道」(須田剋太書)のお軸だったけれど、
「内裏雛」の額絵が掛けられています。
豊かな色彩の個性的な絵は丸投三代吉画、
あとで姫路市に住んでいた画家と知りました。

いつの間にこれだけの設えを調えたのかしら?
まるで手品か、魔法のようでした。

薄茶はNさまが表千家流のお点前で点ててくださって、
ご亭主も一緒になごやかに干菓子と薄茶とお話を愉しみました。

・・・一番心に残った話を書いておきます。

花入、水指、茶入、懐石の器など、どれも素晴らしい作品なので、
ぜひ個展を開催して欲しい。
他の作品を鑑賞したいし、購入もしたいし・・・と皆でお願いしました。

       

すると、みどりさんは
「手びねりで作品を少しずつ作っているのですが、
 窯に火を入れるまでには身体が回復していないのです。
 大変でも火入れを人に頼んだのではだめなんです。
 全部自分でしなくては納得いくものはできないし、
 達成感、充実感は得られません。

 それに個展は、手元にある作品を並べるのではなく、
 例え、一つでも気に入った新しい作品が出来上がってからでないと、
 とても個展をする気にはなれないの・・・」

(・・・そうですね。よくわかります・・)

どうぞ今の治療を続けられ、より一層元気になって、
揖保川焼へ取り組んで下さい。
ご自身で窯に火を入れて、一つでも納得のいくものを造りだし、
その作品でまた個展と茶事をなさってください。
・・・それが池川さまにとっても作品にとっても一番好しと思いました。

私も池川さまの作品を茶事で使うたびに、きっと今日の茶事のことを
思い出すことでしょう。

            

心に残るお茶事をして頂き、ありがとうございました!
茶事の準備を存分に楽しまれたと伺って、私まで嬉しくなりました。
また個展でお会いできますように。
                                 

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たつの市・葎菴の茶事-2

2014年02月20日 | 思い出の茶事  京都編
             
後座の席入、
障子を開けた途端、佳い薫りが漂ってきました。
誘われるように中へ入り、「あっ!」と息を呑みました。

「天下泰平群仙遊楽」の軸は飾り残したままですが、
見事な花が床柱にダイナミックに生けられています。

須田剋太の書に負けない、生命の輝きを感じさせる花は、
柳、ネコヤナギ、そして紅い椿が一輪、
角笛を連想する花入が豊かな空間をピリッと引締めていました。

ヤナギのしなやかな動きは春の女神が戯れているようで、
待合の色紙「・・春の水 しょろり」を思い出します。
唐銅の香炉が書と花の邪魔をしないように、
控えめに置かれているのも心憎く・・・香銘は「花の花」とか。

古色ある釜と炉縁が以前からのお気に入りで、
炉の季節にこの釜を囲んで濃茶を頂くのが夢でした・・・。
古芦屋釜の蓋が殊更味わい深く、歳月を感じる炉縁は法隆寺古材です。
垂涎の二つですが、葎菴にぴったり納まっています。

             

湯相もよく、濃茶点前が始まりました。
久しぶりとのことで心配していたのですが、きちんとお点前されて、
唐物茶碗に濃茶をたっぷり練ってくださいました。
芳しく甘味と苦味のバランスが程よい濃茶をたっぷりと頂戴しました。
姫路・小林松壽園の「豊昔」です。

渡岸寺(滋賀県長浜市)の十一面観音の腰のひねりを連想させる、
織部釉のかかった水指も素敵でしたが、茶入に魅せられました。
笠地蔵のような、かわいらしい、赤みがかった土色の茶入ですが、
手に取ると、印象が一変しました。

池川作品らしい微妙な歪みのある形、
廻すと土色の中に繊細な釉薬の模様が次々と現れ、
雲母のような煌めきが見えます。
香雪美術館の利休丸壷を思い出しながら、しばし見惚れました。

土は池川家の畑の土と信楽の土を混ぜて使っているとか、
釉薬の話や還元焔の使い方など・・・
陶芸のことを静かに話されるみどりさんも輝いて見えました。

仕覆は古紫ちりめん、上品な花の絵柄があり、
席入で見た瞬間から気になっていました。
古い着物からやっと仕覆分だけとれたそうで、
古布の持つ柔らかくやさしい手触り・・持ち主の愛情を感じます。

              

家に帰ってから調べてみると、
兵庫県ゆかりの芸術家の作品が随所に使われていたことに気が付きました。

  池川みどり・・揖保川焼・陶芸家、たつの市在住
         小柄で細身の佳人ですが、作品は驚くほど力強い。

  須田剋太・・・洋画家、書家、埼玉県鴻巣市に生まれる。
  (故人)   具象から抽象画へ進み、力強い奔放なタッチが特徴。
         司馬遼太郎「街道をゆく」の挿絵を担当。
         西宮市に住み、そこで亡くなる。

  丸投三代吉・・日本画家、姫路市で生まれ、
   (故人)  出征からシベリア抑留の4年間を除き、生涯姫路で暮らした。
         激しい筆遣いで描く作品は「鬼筆仏心」とも呼ばれた。

これって、とても大切なことですよね。
最近、郷土の色や香りを感じる茶会が少なくなった気がしています。
郷土、郷土の芸術家、住む家や家族、そしてお茶の仲間を大切に思う
ご亭主の心意気を今頃になって感じながら、書いています(汗)。

                                 

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たつの市・葎菴の茶事-1

2014年02月19日 | 思い出の茶事  京都編
             
              (良寛さんの五合庵とひそかに呼んでいた)
               茶室「葎菴」(むぐらあん)
               (写真は以前のものです)

急なことですが、たつの市・葎菴(むぐらあん)の茶事のお招きを受けて
2月9日、京都駅から西へ向かう新快速に乗りました。

昨日までの雪模様の天気がウソのように晴れ上がり、
神戸を過ぎると海が見え、陽光をあびてキラキラ輝いています。
姫路に近づくと、屋根や畑に雪がまだ残っていました。

竜野駅へ迎えに来てくださったKさんと合流し、葎菴へ向かいました。
菴主の池川みどりさんは揖保川焼の作家です。

5年ほど前、Kさんから葎菴の茶事の話を聞いた時から、
いつか伺えたら・・・と憧れていたのですが、
体調を崩されて陶芸も茶事も休業中とのことで、あきらめていました。
ところが体調が少し良くなったとのこと・・・まるで夢のようです!

             

待合で客4名が顔を合わせ、なぜか正客の指名が・・・。
次客はKさん、三客はSさん、詰はNさんで、
私以外は池川さんを中心に結成された「山賊茶会」のメンバーでした。

待合に掛けられた色紙が読みにくかったのですが、
幸田露伴の詩句で、「・・・・・・春の水 しょろり」

外腰掛に座って迎え付けを待っていると、
「みどりさんの本格的茶事は何年ぶりかしら?」とKさん。
外腰掛や蹲をつかって、葎菴へ席入するのは久しぶりのようで、
相客も嬉しそうでした。

まばらな庭木の向うに春を待つ冬枯れの畑が広がっています。
「ここに座って見る、この庭、この畑の景色が好き・・・」
と、つぶやくKさん。
一同頷き、何とも言えない幸せを感じながら眺めました。

               

ご亭主が迎い付けに出られ、無言の挨拶を交わしました。
蹲踞は、香狭間の水穴があり、水が青竹の筧から流れています。
実は前から気になっていた自然石の蹲踞でして、
今日初めて使うことができた喜びを伝えると、
「気に入って頂けて嬉しいです。
 残念石と呼ばれていて、築城の時に播磨から大阪城へ
 運ばれたのですが、使われずに戻ってきた1つです」とご亭主。

               
                蹲踞・・・以前に気に入ってパチリ。

席入すると、一間半の床がある四畳半でした。
「天下泰平群仙遊楽」
大きなお軸は、陶芸家・池川みどりが生み出す作品のように生命力がみなぎり、
ご亭主がそこにいらっしゃる・・・と思いました。
そして、群雄割拠する三国志の時代、生死を賭けて戦いながらも
風流を遊び楽しむ英雄たちを思い描きました。
圧倒されるような須田剋太の書です。

              
               広間に掛けられた「茶道」、
               こちらも須田剋太書です。

葎菴でご挨拶を交わしてから広間(洋間)へ移動し、懐石となりました。
「素」を心掛けている私にとって、全て参考になる手料理の懐石でした。
特に九十歳を越した母上さまとの共作「里芋の煮っころがし」が絶品で、
帰ってから奮闘中ですが、あのようには出来ません・・・。
                                    

          たつの市・葎菴の茶事-2へつづく


     

祝!100万頁目前です-読者プレゼント

2014年02月16日 | 閑話休題
          (京都マラソン2014・・・トップのランナーです)

今日は京都マラソン2014、先ほどまで応援してました。
「京都マラソン」には1万6,000人の市民ランナーが参加して、
今、頑張って大勢走っていらっしゃいます。

数あるブログの中から「暁庵の茶事クロスロード」を御愛読いただき、
ありがとうございます!

2月中に閲覧頁数が100万頁を越えそうなのに気が付きました。
「読んでくださる方がいらっしゃるかしら?」
恐る恐るはじめたので、まるで夢のようです・・・。
ここまでブログを続けてこられたのも、読者の皆様がいらしてこそです。
ささやかですが、お祝いの読者プレゼントを用意させて頂きました。

よろしかったら、応募してみてください。
どうぞ宜しくお願いします。


     「応募してね!」 

1.お名前とご住所(簡単な自己紹介があると、なお嬉しいです)

2.当ブログのお気に入りの記事(タイトルを書いてください。いくつでも)
  (簡単な感想があると、なお嬉しいです)

3.応募多数の場合は抽選で5名様にプレゼントをお送りします。
  プレゼントは灑雪庵・春の茶会券(4月29日を予定)、
  またはそれに代わるものです。

4.応募宛先:メールでお願いします。迷惑メールと間違えないように
  タイトルを「100万頁記念プレゼント」としてください。
  
5.応募期間 2月16日~2月28日

6.3月半ばのプレゼントの発送をもって終了させていただきますこと、
  ご了承ください。

                                

            
               修学院離宮の雪景色(2月15日撮影)

追伸
 100万頁記念プレゼントの応募は締め切りました。
 ご応募された方、ご応募を検討された方・・・ありがとうございました。
                           (3月1日 暁庵)
  

     

灑雪庵・節分の茶事-3

2014年02月14日 | 茶事  京都編
                  (鴨川   冬の景)
                       
今日はバレンタインデーで、朝方から雪になりました ::: 

いよいよ最後の3章ですが・・
節分の茶事次第とは離れた話になってしまい、ごめんなさい。
よろしかったら、お付き合いください。

節分の茶事を終えてから、なぜか四国遍路の日々が思い出され、
我がバイブル「四国遍路」(辰濃和男著 岩波新書)の頁をめくっています。
なぜなら、私にとって四国遍路と茶事はとても密接な関係で、
茶事は日常の四国遍路かもしれない・・と思うことがあります。

辰濃和男氏が「四国遍路」に記された次の文章に惹かれ、
何度も読み返しました。

 「素(そ)」を大切にしたいと思う。
 簡素、質素、素心、素木(しらき)の素だ。
 素という字には、根本、生地のまま、飾りのない元のままのもの、
 などの意味がある。
 暮らしの根っこにあるもの、虚飾をはいでぎりぎりの生地を現したもの、
 それが素だ。
 素という字には暮らしを律する根源的な力があるように思えてならない。
 素でありたいと思う。

 もともとお遍路の明け暮れはぜいたくとは無縁のもので、
 簡素の極みを追及するものだ。
 虚飾を拝した、生地のままの自分を見つける旅でもある。
 ことごとしく素が大切だといわなくともおのずから簡素な旅になるはず
 なのだが、この 単純なことがなかなかうまくいかない。
 それほど私自身の日常が素ならざるものに毒されている、ということだろう。

 余計なものはいっさい買わない。
 買う前にそれが本当に必要なのかどうかを
 十分に吟味するといった単純なことから始めたい。
 ものを大事に使うとか、
 暮らしの中の取るに足りない問題を切り捨ててゆくとか、
 こころの虚飾を拝するとか、そういうことも素の守備範囲だ。


        

  

今度の茶事では、できるだけシンプルに・・・を
心掛けてみましたが、お客さまには如何でしたかしら?

京都へ来て、茶事を始めた頃は、
家の動線や台所が身体になじまず、懐石など考えも及びませんでした。
某家庭茶事の会の茶事にお招きされる内に、いつからでしょうか、
自分で出来る範囲でやってみよう・・・という気になってきたのです。

懐石を作って茶事をしてみると、本当に大変でした。
でも、少しずつ工夫しながら続けているうちに、
いつしか一人茶事の素晴らしさ、愉しさにはまっていました。

        

道具はありあわせをフル稼働、自分なりの趣向を考え、
茶事を組み立てて行く楽しさ、
身体がスムースに動くようになる普段の稽古の大切さ、
そして何より茶事を通して主客の心が通い合う素晴らしさ
を知りました。

茶事の数日前から掃除、買物、水汲みで身体を動かし、
当日は、それこそ普段は眠っている細胞の隅々までたたき起こし、
総動員して茶事を進めていきます。
・・・やり遂げると、何とも言えぬ爽快感、達成感が満ちてきます。

疲れない・・と言ったら嘘になりますが、大いに疲れながらも
こんなに充実感を感じ、全身全霊が活性化される機会は滅多になく、
茶事へお出ましくださったお客さまに心から感謝しています。

もう少しだけ茶事を頑張ってみようと思っているところです。
ご縁がありましたらお付き合いくださいまし。
                         
                          

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