暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

潮香る町の名残りの茶事 (1)

2011年09月30日 | 思い出の茶事
九月末の或る日、
茶友Kさんに同行してY先生の茶事へ伺いました。
Y先生とは初対面ですが、素敵な方と伺っていましたので、
正客のKさんとご一緒に私も・・・とお願いしました。
詰のOさんはY先生のお弟子さんです。

総武線に乗ると、市川、船橋あたりから松林が多くなり、
海が近く、砂丘上にある街の匂いを感じるのは私だけでしょうか。
Y先生のお宅はその先にありました。
昔は海の近くで、先代は海苔の養殖を生業にしていましたが、
今は海も埋め立てられて遠くなり、漁業とは縁が切れてしまったそうです。

風土にまつわるお話を興味深く伺いながら茶事が進みました。
待合には月を眺める座禅を組んだ一人の僧。
洒脱な雰囲気の画でしたが、
京都の亡き師匠に頭の形が似ていらっしゃるとか・・・。

床の軸は、「白珪尚可磨」(はっけい なお みがくべし)。
若き日に京都へ茶の修行へ出掛けられたというご亭主の
気概が感じられる、厳しい禅語です。
点前座には五行棚、黒の紅鉢、雲竜釜が設えてありました。

「やっとお目にかかれました」・・と挨拶を交わしました。
初対面とは思えない、くつろいだ雰囲気が四畳半の小間を満たします。
それはきっと、ご亭主の自然体から成るもののようです。

               
            
懐石はお弟子さんと一緒に手づくりされたとのこと。
煮物椀に浮かんでいる月は卵豆腐かしら?と思いましたが、
上が黄身、下が真蒸になっていて、味好く、青菜、椎茸の煮物、
青柚子が添えられたシンプルで美しい一品です。
名産物のあさりが八寸に登場し、潮干狩りができたという海浜の様子を
思い浮かべながら賞味しました。
懐石は簡素に一汁三菜とのお話を、頷きながら伺いました。

五行棚の初炭手前が始まりました。
炭斗はしっかりと編まれた白竹の籠です。
Kさんがお尋ねすると、
「塩籠です。大相撲で力士が仕切りながら塩を掴みますが、
 その塩を入れる籠で、この近くで作られています。
 中に和紙を貼ってみました・・・」

             

さらに、中の炭を見て、びっくり!
「紅鉢を使いましたので、どうしても火床が浅く狭くなります。
 それに合わせて小さな炭を切ってもらいました」
特注された炭でした。
丈が短く、かわいらしい枝炭も入っています。
心尽くしのご準備にKさんと感じ入りました・・・。

香合は、扇形の木地に螺鈿の鈴虫、露芝の黄金色の露が
キラキラ輝いています。
蓋を開けると、中につけ干しが1個入っていました。
この時期になると、つけ干し香の話がよく出ますが、
茶事で拝見したのは初めてです。
作り方を教えて頂き、座が大いに盛り上がり、
一気に名残りの風情が増したようです。

        ( 潮香る町の名残りの茶事(2)へ )      



「茶道具 仕覆展」へのご案内

2011年09月28日 | 茶道具

 「茶道具 仕覆展」のご案内

   小さな、茶籠や茶箱の中からとりどりの布に
   くるまれた宇宙をお楽しみ下さい。
   会期中、一部販売もいたしております。 
                    小林芙佐子 

   会期  2011年10月18日(火)~31日(月)
   会場  ギャラリー伯楽 (古美術 伯楽)
       11:00~17:00
       横浜市神奈川区神奈川町1-14-7 丸二ビル1F
       (横浜逓信病院の東側隣り)
       TEL 045-322-2979

   アクセス  JR東神奈川駅より徒歩3分
           東横線東白楽駅より徒歩3分

                
                
                         (編み袋   暁庵作)
     
小林芙佐子先生に仕覆を習い始めて2年足らずですが、
先生の魅惑的な仕覆と布の世界を覗けるのが楽しみで、
せっせと通っています。
先生にお教えいただいて、私も茶籠など数点の茶道具と仕覆を展示します。
ぜひ、見にいらしてください。
(会期中会場にいることもありますので、お声かけください)
  
                       


いちねん会  一二三之式

2011年09月24日 | 七事式&いちねん会
9月になっても蒸し暑い日が続きました。
それでも気合いを入れて、全員着物でKさん宅へ集いました。

床には「江月照松風吹」が掛けられ、
溜精棚に朝鮮唐津の水指が置かれ、秋の趣き満載です。

九月の課目は、仙遊之式、一二三之式、貴人清次花月でした。
Aさんが急用でお休みでしたが、
仙遊之式では、花寄せにしたので半東が二つの花入に花を入れ、
次客が炭と次香の二役をこなし、スムーズに行うことが出来ました。
仙遊之式を積み重ねてきた成果ですね。

              
              

一二三之式で花(東、亭主)を引き、大津袋の点前をしました。

一二三之式の偈頌は、
   修証即不無 染汚不得
   (しゅうしょうすなわちなきにしかず せんおすればえず)

   修証などあっても無いのと同じである 
   修行を怠れば真理を得ることはない
   ・・・意味するところは深く厳しい禅の教えです。

亭主が点前をし、客が亭主の点前を評価します。
評価は、上から月の一、月の二、月の三、花の一、花の二、花の三、
一、二、三となっていて、十種香札を用います。

亭主(私)は迎えつけの挨拶ののち、
十種香札が入った箱(客札三枚を上方に置く)と折据を盆にのせ、
正客前へ運び出し、一礼をして水屋へ下がります。
茶碗を運び、建水を運び、大津袋の濃茶点前をしました。
評価のことは気にせず、美味しい濃茶をのんで戴きたいと
いつも通りの点前を心がけました。

一二三はわからないことばかりで、いろいろ教えて頂きました。
その一つ、一二三之式は花月ではなく普通の点前として行います。
それから、もちろん大津袋の扱いが出来ているかどうかも
重要なポイントになります。

いよいよ評価の段階になりました。
「月の一をお願いします・・」と冗談で言いましたら
「月の一はお家元以外は入れてはいけないそうで、
 できたら月の札は遠慮した方がよい」とのことです。

                 
                 
思いの外、良い評価を頂きホクホクしてると、
Kさんがとても良いお話をしてくださいました。

Kさんが伺った或る花月の会の話です。
一二三之式でいつも「花の一」を入れていたら
「誰ですか? 花の一を入れた方は?
 点前にはポイントがあり、
 そこがきちんとできているかを正しく評価することが
 一二三之式では大事なのです。
 亭主にとっても客にとっても厳しい修練の場なのですよ」
と言われ、無難に札を入れていたことを深く反省したそうです。

ホクホクと何も知らずに喜んでいたことが恥ずかしくなりました。

                 

いちねん会から1週間ほど後に、先生から評価について伺いました。
「客の札を入れることもありますよ」
「えっ? どのような評価でしょうか?」
「感動を与えるような感慨深い点前だった時、
 それから、もう一つ問題外・・・という意味もあります」
 (・・・奥が深いですね)

いろいろなことを伺って、
敬遠がちだった一二三之式が好きになってきました。

                      & 



真之行・台子点前の悩み

2011年09月21日 | 稽古忘備録
                (萩   隣花苑にて

               
                (我が家なので不備にて候)

7月、8月と体調不良のため、先生宅の稽古を休みがちでした。
9月に入って久しぶりに伺い、真之行・台子点前を見て頂きました。

先ずは真の炭手前からです。
順番だけはわかるようになりましたが、所作はまだまだです。
特に羽根の清め方や風炉の清め方が自分でもダメ!と思います。
上の点前になるほど清めが多くなり、意味するところも違うような気がします。

終盤になって釜をかけてからも清めが続きます。
釜敷を清め、火箸を清め、火箸を杓立へ戻します。
灰器、続いて神折敷を下げると
「座掃きをしてください」、先生から声がかかりました。

我が家に小間がないので、座掃きも久しぶりです。
最後に左手に渡して斜めに丸く掃く時に
「座箒の裏を客に見せないように。
 掃出口が実際にあると思ってやってください」
と、前回と同じご指導がありました。
「小間がない、座箒がない・・」なんて言い訳してないで
掴み羽箒で毎回座掃きをしなくっちゃ・・と反省しきりです。

香合が拝見から戻ると、再び風炉前に座り、
土風炉の胴を清め、火窓を清め、帛紗を捌き直して蓋を清め、蓋を切ります。
香合は、唐物・独楽でした。

               
               (ホトトギス  石槌山にて)   

Kさんに続いて真之行・台子点前を見て頂きました。
真之行(風炉)は一番好きな点前です。
なぜなら、一番シンプル(無駄がなく解り易い)であり、
これが体系の基本(現行点前の頂点)になっているからです。
それでも違和感や疑問が生じる箇所があります。

その一つ、水を汲んで釜に入れるときの角柄杓(?)の意味は?
先生にお尋ねしたかもしれませんが、いまだわかっていません。
もう一つ、違和感を感じるのは、釜の蓋を締めるときでしょうか。
「真に草あり」と、柄杓を構えて蓋を締めてから柄杓を尺立へ戻しますが・・・。

違和感があろうと、疑問があろうと、ただ稽古とは繰り返すことと
十分納得しつつも歳月で薄らぐものでもありません・・。

真之行・台子点前は端正な点前なので
繰り返し稽古することで、流れるような美しい所作を
先ずは身に付けたいものです。
Kさんの素晴らしい点前(所作)を拝見しながら
いったいどこが違うのだろうか? と考え込んでいます。

見て学び良いところは盗め・・という教えもありますが、
所作となると、なかなか盗めるものでもありません。
「あの手つき・・姿勢・・間合い・・(ふぅ~)」
ため息をついていても仕方がないので
少しでも近づきたく、今日はこれから真之行の稽古です。

9月中は台子を出しておいて稽古に励むことにしましょう。

                     たまには   ぞ!



隣花苑の蓮華飯

2011年09月18日 | 三溪園&茶会
              
9月16日に蓮華飯(れんげはん)を食べに隣花苑へ行きました。
偶然ですが、原三溪翁の月命日でした。

七月の終わりとは違い、残暑の中にも秋の気配が漂っています。
白い芙蓉、紅白の萩、ススキ・・・
野趣豊かな庭に咲く花々も風情がありますが
一歩中へ入ると、古民家の持つぬくもりと懐かしさが満載。
それに部屋のしつらえがとても素敵なのです。

燈明寺三重塔が見える座敷が予約できてラッキーでした。
親しい友人と秋色の庭や空を眺めながら、料理に舌鼓を打つひと時・・・
めったにない貴重な時間です。

                
                
                

鎌倉円覚寺四ツ頭之式を思い出させる、朱の丸い足高膳、
その上に次々と運ばれる器も吟味されていて料理が映えています。
季節の野菜を中心にしたヘルシーな料理は、
一皿一皿が一味ちがう工夫がされていて、
みな主婦(つくる人)なので材料や調理法まで探究しながら賞味しました。

三溪そばと蓮華飯は原三溪翁が考案した名物料理です。
三渓そばは特注の細いうどん麺を乾煎りしているそうで、
しっかりした歯ごたえです。
錦糸たまご、味噌風味の豚ひき肉、長ネギ、椎茸などが乗っていて、
見た目も味も中華風なのが特徴です。

                

最後に運ばれてきた蓮華飯は三渓そばと対称的でした。
蓋をあけると、白飯に青紫蘇の千切りがたっぷり載り、
薄緑の蓮の実が十数個ちりばめられて、出汁が掛けられていました。
とてもシンプルで清々しい第一印象でした。

蓮の実を一つ食べてみると、淡白な味の中に幽かな苦味がありました。
でも、ご飯や汁と一緒に茶漬けのようにサラサラと食べると、
全く苦味がなく、薄い塩味の出汁にとけ合って絶妙な味わいでした。
今まで食べたことのない逸品、それが蓮華飯でした。
全員がその端麗で爽やかな味わいに魅せられ、異口同音に
「朝茶事にぴったり!」

松永耳庵が蓮華飯を食べた時の驚きが実感できました。

  「其香味歯牙を爽やかならしめ思はず数椀を傾けた・・・」

女将の西郷槇子さんが挨拶に見えられ、蓮の実は四度皮を剥いて、
あく抜きするので下拵えに手間がかかる話や出汁の秘密など、
いろいろ話してくださいました。
帰りに乾燥した蓮の台をおみやげに頂きました。

毎年、7月末から9月に季節限定の蓮華飯だそうですが、
来年も食べたいわね・・・と話し合いながら、三溪園へ移動しました。