暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

雪の夕去りの茶事-3 灑雪庵にて

2013年02月15日 | 茶事  京都編
お正客のYさまと手燭の交換をし、後座の席入りです。

楽茶碗を温め、茶巾、茶筅、茶杓を仕組み、茶道口に座りました。
襖を開け、ゆっくり点前座へ進みます。
建水を運び、点前座に座り、主客総礼。
夜のとばりの中に蝋燭がゆらぎ、
緊張の中にも閑かさを感じる一瞬です。

茶入の仕覆を脱がし、帛紗を捌いて茶入、茶杓と清めていきます。
何か自分も一緒に清められ、
静かに見つめているお客さまも一体となって清められていく
・・・そんな、濃茶の大好きな過程でもあります。

釜の音だけが聞こえる中で濃茶を練り、お出ししました。
濃茶は「壷中の昔」、祇園辻利の詰、
黒楽茶碗の銘は「灑雪」、昭楽造です。

             

お正客様より後座の床の掛物についてお尋ねがありました。
「喜 無量」 
前大徳教堂和尚の書です。
このお軸について次のようなお話をさせて頂きました。

茶事を初めて間もないころ、茶事へお客様が来てくださるのが
ただ嬉しくて嬉しく、この書を掛けました。
今もその気持ちに変わりはありませんが、
無量についていろいろ考えるようになったのです。

茶の湯を学び、携わる無量の喜びを何と表現したらよいのでしょうか?

茶の湯を学び合う友と過ごす、豊かな時間、
汲めども尽きせぬ多くのことを学び、研鑽を積んでいく充実感、
そして到達できない高み(境地)を自覚することの嬉しさ・・・。
そんな「喜 無量」を感じています。
「お茶に再び出会えてよかった!」

・・・そんな亭主の思いをぶつけられて、お客さまはさぞや・・・。

              

続いて薄茶にいたしました。
続き薄ではお客さまお一人ずつ、茶碗を替えてお点てしました。
茶碗は、大好きな金子みすずの詩 「雪に」 から選んでみました。

      雪に          金子みすず作詩

     海にふる雪は 海になる
     町にふる雪は 泥になる
     山にふる雪は 雪でいる
     空にまだいる雪
     どれがお好き

「海の雪」は次客のHさま、神奈川焼井上良斎の「うずまき」茶碗。
「街の雪」はお正客のYさま、大地から力強く生えている梅の木(京焼)。
「山の雪」は三客のSさま、玉藻焼の赤楽。
「空の雪」はお詰のYBさま、瑠璃ガラスに銀河のような空の雪です。

              

わいわいと薄茶を愉しんでいるうちにお別れの時間が迫ってきました。
Sさまのお話を楽しみにしていたのですが、時間が足らず、ごめんなさい。
次回にぜひお聴きしたいと思っています。

また、素敵な皆さまとご縁がありますように・・・。 
「仕事もお茶もがんばってね! 心から応援しています」

                                 

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雪の夕去りの茶事-2 灑雪庵にて

2013年02月13日 | 茶事  京都編
初炭を終えて、一番の課題の懐石です。

一人亭主なので、20~30分ほど常より多く時間を頂戴していますが、
思うようにいったり、失敗ばかり・・・の繰り返しで、いまだ要領を得ません。
それに風邪をひいたあとなので、臭覚と味覚に自信がありませんでした。
味見役の主人に、「少し濃いみたい」と言われ続けました・・・

こだわっていることは炊き立ての一文字でしょうか。
お鍋で別炊きしています。
今日はお香の前にガスの火をつけ、
初炭で座掃きを終えたときに焦げる匂いがしたのであわてて火を止めました。
毎回おこげができるので湯斗に使っています。
一文字以外のご飯はタイマー付電気釜で炊きます。

もう一つは水でしょうか。
いつものように自転車に乗って、梨の木神社・染井の水を汲んできました。

                      
                    梨の木神社の染井

今回は、自作の懐石をお出ししましたが、
もちろん一部、市販品や戴き物を応用しています。
食材や市販品を求めて、錦市場、デパ地下、老舗をぶらつくのも楽しく、
京都をより深く知る、好い機会になっています。

懐石献立は
   向付   ケークサレ(クリームチーズ添え)・・(茶友の差し入れです)
         蕪蒸し(蕪、焼穴子、白きのこ、百合根、銀杏、山葵)
   つぼつぼ 紅白なます
   飯    
   汁    しじみ   赤味噌
   煮物椀  真蒸(海老、カニ) 手鞠麩  菜の花 金時人参  柚子
    焼物   鯛
    炊き合わせ  海老芋  鳥の丸  鶯菜
   箸洗   カリカリ小梅
   八寸   スモーク鴨ロース  プチトマト煮
   香の物  二種(タクワン、赤カブ)
   湯斗
   酒     福兎    越の寒梅    

酒の用意が遅れたり、汁椀の赤だしが上手にできなかったり、
反省点ばかりですが、美味しく充分に食べて頂けたかしら?
 
縁高で主菓子をお出しし、中立をお願いしました。

              
              「もう咲いたかしら? 裏千家茶道会館にて」

主菓子は直前まで迷いましたが、
松寿軒さんに伺って、「雪餅」のイメージのきんとんに決めました。
きんとんは白小豆、中は小豆餡、
今の季節は白いきんとんの上にピンクが乗っていて、銘は「梅一輪」です。
白小豆の味わい、餡の控えめでいて毅然とした甘味が絶妙で、
お薦めの一品です。

                              

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雪の夕去りの茶事-1  灑雪庵にて

2013年02月11日 | 茶事  京都編
2月9日に雪の夕去りの茶事をしました。

「雪雨、雪下し、吹雪、雪うさぎ・・・」
と雪のことばかり考えていたせいでしょうか?
朝起きると、庭の植木にうっすらと雪が積もっていました。
今年の京都は温かく、初めて積もる雪を見ました。

幸い我が灑雪庵には雨戸もカーテンもなく、寝床から
夜の間に空から降ってきてくれた雪を眺めつつ
「雪の夕去りの茶事」のお客さまや段取りに思いを馳せました。

お正客のYさまはじめ4名のお客様は、忙しく仕事をされている女性たちです。
灑雪庵での「一期一会」のために東京、大阪、岡山から来てくださいました。
心をこめておもてなしをし、茶事のひと時を愉しんでいただけるよう・・・
と気持を引き締めました。

              

15時30分頃、玄関が開く音がし、
・・・お客様がいらっしゃったようです。

板木の音が高らかに響きました。
板木は初弘法で買った欅の木で作り、今日が初使いです。
あとで、次客のHさまが
「板木に書かれた日付を見て、心が弾みました。
 初音ですね」
板木の裏に「平成二十五年癸巳立春」と記してあります。

待合の短冊は二条后(藤原高子)の和歌、

    雪の内に春はきにけり鶯の 
        凍れる泪いまやとくらむ

寒く厳しい冬を耐えて、ようやく立春を迎え早春を感じる日々、
鶯の初音が今かしらと待ち遠しく、春を待つ喜びに満ちる歌です。

              

初座の床には、山茱萸、白とピンクの椿を尺八に入れました。
早春を運んでくる山茱萸は大好きな花木ですが、
どの枝と花を残すか、引き算が難しく、最後まで格闘しました。

お逢いできた喜びを込めて、お一人ずつ挨拶を交わした後、
香盆を持ち出し、お香を聞いていただきました。
お香はめったにしないのですが、
茶事の始まりに香を回して、静かに聞くのもなかなか好いものです。

  香の十徳より
    静中成友 (静かの中に真の友を得る)
    塵裏倫閑 (世俗の繁忙の中に憩いが見つかる)

香銘は、二条后の和歌から「初音」、香木は伽羅(鳩居堂)です。
はんなりとした伽羅の香は試し聞きではよくわかったのですが、
その後はさっぱり・・・風邪気味だったせいかもしれませんね。

              

初炭となり、置き炉の炭手前をご覧いただきました。
手順は全く同じですが、炉の炭では大きすぎるので風炉炭を使います。
湿し灰では、朔日稽古のご指導を懐かしく思い出しながら
「灰の気持ちになって・・・撒こうとする気持ちを無くして・・・」

続き薄茶で後炭をしないので、水次を持ち出し釜に水を注ぎ、
濡れ茶巾で釜を清めました。
香合は、赤絵宝珠、京焼の岡本為治作、
Sさまに連れられて東京美術倶楽部で入手したものです。
久しぶりに箱から出しましたが、鮮やかな赤絵の色、細かな模様が素晴らしく、
もっと使ってあげなくては・・・と反省しています。

香は松栄堂の「加寿美」で、別の香りを愉しんで頂けたようで嬉しいです。

                             朝は  のち 

             雪の夕去りの茶事ー2へつづく



京の節分(4) 聖護院界隈と壬生狂言

2013年02月07日 | 京暮らし 年中行事
                  懸想文売りの登場です
2月3日は節分です。
先ずは須賀神社へお詣りしました。
水干、烏帽子姿で覆面をしている懸想文売りが二人いて、
念願の懸想文をゲットしました。
この懸想文、開けてみると、祝詞のような文が見事で一読の価値ありです。
肝心の願いごとですが、いまさら縁談・・・というわけにもいかないしねえ~
まだ決めかねています。

朝早かったのでお客さんは少なく、茶店のおばさんたちも手持無沙汰です。
名物だという「須賀多餅(すがたもち)」を注文すると、
大豆が入った福茶と一緒に運ばれてきました。
のんびり境内や懸想文売りを眺めていると、
ぼちぼちお客さんが縁台に座りだしたので腰を上げ、聖護院へ。

            
            
                 須賀多餅と福茶 (須賀神社)

聖護院(しょうごいん)は本山派修験道の中心寺院です。
代々法親王が入寺する門跡寺院だけあって、優雅な本堂や
御所の女院御殿を移築した書院、絢爛豪華な襖絵など見どころ満載です。
節分の日はご本尊の不動明王をはじめ、本堂を開放していました。
灯明を上げると、山伏姿の僧侶が
「厄除招福、家内安全、商売繁盛、ようお詣りくださいました」
と加持祈祷をしてくれました。

            
                   聖護院の本堂

境内には赤鬼や緑鬼が闊歩し、一緒に写真を撮らしてくれます。
甘酒の無料接待所があり、参拝者で賑わっていましたが、
須賀神社は女性の参拝者が多く、こちらは男性が多いのも面白いです。

            
            
                  聖護院の甘酒のお接待

                         

夕方、バスで四条大宮へ行き、壬生寺の壬生狂言へ。
2月2日と3日の13時から20時頃まで、壬生寺節分会(え)の参詣者の
厄除・開運を祈願して、壬生狂言の「節分」が繰り返し、上演されます。
1回の上演時間は45分、観客席は500席です。

壬生狂言(正しくは壬生大念仏狂言)の歴史は古く、鎌倉時代に
壬生寺を興隆させた円覚上人によって始められました。
円覚上人の法話を聴くためにたくさんの人たちが押し寄せたそうです。
そこで、上人は最もわかりやすい方法、つまり、身振り手振りの
パントマイム(無言劇)によって仏の教えを説くことを考え付いたのです。

・・・これは、ブータンで出合ったツェチュ祭の仮面劇と全く同じ発想だと
気が付きました。
かね、太鼓、笛の囃子に合わせ、仮面をつけ、無言で演じられる宗教劇。

            

そんなわけで、興味津々、壬生狂言「節分」を観劇しました。
19時開演の回に早くから並び、正面の席へ座り、改めて舞台を眺めてびっくり。
観客席と同じ高さに古式ゆかしい舞台があり、観客席は見やすい階段になっています。
屋根はありませんが、その夜は風もなく温かな節分でしたので、
震えずに観劇することができました。

            

節分のあらすじは・・・・これは観てのお楽しみといたしましょう。
誰にでもわかりやすく、鬼のしぐさがかわいらしく、いじらしく思ったのは
私だけでしょうか?
最後に、鬼払いに豆がたっぷり撒かれ、痛快!でした。

                    

壬生狂言を伝承し、演じている人たちは専門家ではなく、
会社員や自営業の一般市民で、小学生から八十代までの男性だそうです。
しかも、この伝統ある素晴らしい壬生狂言が無料で開放されているところに
京都の懐の深さをまたまた感じてしまうのでした・・・(合掌 )。

       
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