暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

特別稽古  一客一亭にて

2010年06月29日 | 稽古忘備録
先日のお稽古は私一人の特別稽古でした。

床のお軸は「雲悠々水潺々(くもゆうゆう みずせんせん)」。
(独り言・・どこかの山の頂きで漂う雲を眺め、谷川の水に喉を潤し、
 雲や水の流れにこの身をしばし預けてみたい・・・)

茶室の外は五月雨がシトシト降っています。
初炭、長緒で濃茶、後炭は省略して薄茶点前を
一客一亭の形式でお稽古してくださいました。

淡々斎お好み蛍籠炭斗に炭を組み、火箸、鐶、羽根と用意し、
「曳舟」蒔絵の香合に白檀を三枚湿らせて入れました。
切合風炉でしたので灰器は無しです。釜敷を懐に入れ
「お炭を置かせていただきます」
炭斗を持ったところで
「蛍籠なので手の平がつかないように持ってください」
と、ご指導がありました。

溜精棚に葡萄の染付けの水指、天板に老松茶器、
水指前に内海を長緒に入れて荘りつけました。
蓋置はサザエ、細い先端を客付に向け定座へ置きます。
(棚へ荘る時は返して先端が火付きに向きます。)

             

縁高に「青梅」を入れてお出しし、私も水屋で相伴しました。

長緒点前にて二人分の濃茶を練りお出ししてから
水一杓汲み入れて、すぐに相伴席へ入り総礼。
正客の一口でお服加減を尋ねました。
お相伴すると、よく練れていて美味しく安堵しました。
茶碗を置くと、茶銘、詰、菓子のお尋ねがありました。

問答が終わってから拝見がかかり、茶碗を清めて正客へ運び、
点前座へ戻って袱紗をつけます。
茶碗が戻り、総礼。
茶碗についてお尋ねがありました。

               

後炭省略で薄茶点前になりました。
老松茶器は表千家流六代覚々斎のお好みで、「老松割蓋茶器」といい、
割蓋の蝶つがいを縦にして置きます。

平棗のように扱いますが、蓋は「り」の字に二引きで清めます。
茶を入れるときには扱って左手のひらに載せ、左側の蓋を
左手親指で上から押さえ右側の蓋を開けて茶を掬います。

ニ服目の薄茶をお出しすると、干菓子盆が既に客付へ運ばれていて
「どうぞご自服で・・」と声がかかりました。
「それではお相伴させていただきます」
と挨拶し、客付へまわり、お菓子を頂いて(干菓子器は客へ向けておく)
薄茶茶碗の向こう側を右手で取って左手のひらに載せ、
お相伴しました。

飲み終えた茶碗を持ったまま居前へ戻り、
いつも通り点前を続けました・・・。

その日は軸荘も見て頂き、充実した特別稽古に感謝しています。

                         


   写真は、「夏椿」 「鉄線の花のあと」 「蛍袋」です。
       (今日の写真は雨の中で撮りました)

仙桃庵の茶事 (2)

2010年06月25日 | 思い出の茶事
火相湯相が整えられて
松風を聞きながら濃茶点前が始まりました。

釜の蓋をずらして音を聞かせる瞬間も堪能しました。
裏千家流ではなるべく音を立てぬように・・となってますが、
とても斬新な趣向だと思いました。
きっと釜や蓋の材質や形によって音が微妙に違うのでしょうね。

音といえば、中立で後座の案内は喚鐘でした。
久し振りに聴く喚鐘の音色は澄んだ高音で、
ソプラノの独唱を連想しました。
響きがいつまでも耳に残りました。

濃茶は出し袱紗が添えられましたが、粗相があっては・・と思い、
古袱紗を出して一同裏千家流の所作で美味しく頂戴しました。

主茶碗は黒の湖東焼、かわいい耳付の茶入は高取焼、
ペルシャ更紗の仕覆がステキで、つい更紗の話が弾みました。
楽浪古材の茶杓は、小野沢寛海和尚の作で銘「知者楽水」
・・到達できない憧れの境地です。 

表千家流のお点前にも興味津々でした。
きっと御連客様も同じ思いだったことでしょう。

袱紗さばき、濃茶の練り方、釜蓋の音、そして
最初の挨拶の後、すぐに風炉と釜を清める所作にも
興味を持ちました。
「八寸をお客へお見せするのはどのような意味なのでしょうか?」
お尋ねするのをうっかり忘れました。

最後に、茶筅荘ではなかったのですが、
席入から気になっていた水指と、蓋置の拝見をお願いしました。
急な所望に少しも動ぜず、新しい白布にのせて対応してくださり、
ご亭主の修業の深さに触れた思いがしました。

五彩で描かれた色絵が素晴らしい四方水指は林探幽造です。
一閑人蓋置は初代寒雉作、ご主人お気に入りの渋い一品でした。
お道具は一からお二人で集められた由、
時には好みがぴったり一致し、時には口論ありで、
さぞや楽しまれていることでしょう。うらやましい限りです。

ご亭主の想いが届かぬ拙い正客でしたが、皆様のおかげで
良い経験をさせていただきました。
心温まる愉しい一会となり、感謝いたします。

         (1)へ         その日は入梅なのに 




仙桃庵の茶事 (1)

2010年06月24日 | 思い出の茶事
梅雨入りの頃、仙桃庵の茶事へお招きいただきました。
仙桃庵は、ご亭主のMさんとご主人のIさんが昨年2月に建てられた、
お二人の茶の湯への想いが随所に溢れる茶席です。

ご亭主は表千家流、半東(ご主人)と客五名は裏千家流です。
ずっーとお伺いしたいと思っておりましたので
浮き浮きと出かけました。

    迎えつけ表流にていたしたく
        心ときめき露地につくばう  暁庵

待合の田植えの掛物に、田も人もしっとり溶け合う五月雨の音を
本席の醒が井の画賛に、浮世の中に濁らない清らかな水の流れを
・・・聴きました。

懐石では、向付の胡麻豆腐の水無月に目を奪われ、
時代を感じる雅な煮物椀で初物の鱧を堪能させて頂きました。
寄せ杯と李朝粉引の徳利がだされ、お酒に弱い正客に代り
次客さん、三客さんがホクホクしていました。

炭手前で拝見した「風神雷神」香合とご亭主とのお出合いの話・・
「昨年の水無月の茶会の折
 香合はどうしても風神雷神を・・と思いました。
 インターネットで調べて作者へ直接お電話したのです。
 すると、今その香合を手に持っているところです・・
 と云われました」

鳥肌が立つような不思議なご縁に驚き、風神とイカズチの蒔絵に
ご亭主のほとばしるエネルギーを思ったことでした。

後座では、花好きのご亭主ゆえ、どのような・・と期待が膨らみます。
伊賀焼の逆傘(さかさ)花入に利休草、黄ソケイ、矢車草が生けられていました。

「花は直前まで迷いました。
 逆傘は柄の部分を見せて生けるのがポイントだそうですが、
 稽古不足でお恥ずかしい限りです (・・とんでもございません)」

露打たれた花は再び活力を得て、野にある如く清楚でした。

         (2)へ続く                    
                       その日は入梅なのに 




きりりと夏衣

2010年06月22日 | 稽古忘備録
   堂守の老女きりりと夏衣

四国遍路の折、第5番札所地蔵寺で詠んだ句です。
五月初旬、五百羅漢堂で九十歳前後の品の良いご婦人が
夏衣を着てらして、清々しくも気合を感じました。

涼しげに夏衣を着こなしたい・・と思いますが、
五月から六月にかけてどんな着物や帯を着たらよいか?
大変悩ましい時期です。

六月半ばに正式な装いで出席する茶会があり、
無地紋付の単衣(ひとえ)に合わせる帯で大いに悩みました。
袷用の袋帯、紗袋帯、平絽の名古屋帯、絽綴れの名古屋帯・・?
ぴったりのが今一つありません。
二本用意してその日の気候で決めようかしら?

「きものに強くなる」(世界文化社)本を広げてみました。
夏のフォーマル・セミフォーマルの項に
「単衣の時期に単衣の衣装がないときは、六月は盛夏のものを、
 九月は袷を着ると落ち着きます・・」
さらに
「・・着物のお洒落は季節に少し先駆けるのがよいとされ、
 その一例が夏の帯に描かれる秋草です・・」

ムムッ!なるほど・・
やっと秋草模様が織り込まれた紗袋帯に決めました。
ところが当日は4月下旬の気温だったので、急遽袷の袋帯に変更しました。

                

茶友のIさんから貴重なアドバイスを頂きました。
「引次の茶事など真の点前がある場合は、紋入りの無地の着物、
 できたら袋帯、そして白の帯締めが正式です。
 昔(?)は、真のお稽古は全員白の帯締めでいったものです・・
 師よりへりくだるという意味で、扇子は塗ではなく竹が良いと思います」

真の点前の時は白の帯締め・・・始めて知りました。
Iさんは今でも真の稽古や茶事の時は白の帯締めで行くそうです。
お話を伺っただけで身が引き締まる思いがしました。

その日は、丸洗いした藤紫系の無地紋付の単衣、袋帯の二重太鼓、
新しい赤い袱紗、竹の扇子、白の帯締め、新しい帯揚げと足袋、
私としては精一杯、気合を入れて出かけたことでした。


                       その日は  で 

    写真は、「裏庭(公園)の花菖蒲」
          「赤い袱紗、竹の扇子、白の帯締め」

伯庵茶碗 「宗節」

2010年06月19日 | 美術館・博物館
以前ブログ「伯庵茶碗」に記した「宗節」の行方がわかりました。
高橋箒庵が所持し、一時、井上世外の手に渡り、
世外亡き後、再び箒庵の手に戻り、大正5年の嬉森庵茶室披きで
使われた、あの伯庵茶碗です。

大正9年ごろ、住友春翆の懇望により高橋箒庵より住友家へ譲渡されていて、
折しも6月20日(日)まで開催中の
2010年泉屋博古館分館展覧会
泉屋博古館創立五十周年記念 住友コレクションの茶道具
に展示されていたのです。

             

閉会間近いので、昨日あわてて重い腰をあげ、
泉屋博古館分館にて「宗節」と対面してきました。
五島美術館で拝見した「冬木」と「朽木」は大振りで湾曲した井戸形でしたが
「宗節」は多少小振りで、反りが小さく井戸より椀形に近い形です。

全面に掛けられた枇杷釉が伯庵独特の、落ち着きと優美さを
醸し出しています(高台部分は土見せ)。
胴の周囲1/2弱に横筋を入れて鉄釉を塗りこんだ様子が見て取れました。

そこから鉄釉と灰釉が混ざって生じた海鼠(なまこ)釉の景色は個性的で、
なだれが大きく、微妙な混ざり具合が美しい茶碗です。
茶碗内側にある赤味を帯びたしみ?も魅力的でした。

嬉森庵茶室披きの茶会で、益田鈍翁が一目見て
「あれは伯庵ならん・・・」
と、井上世外へ手渡した「宗節」であることが
わかったのも頷けました。

展示されていた住友春翆(1864-1926)ゆかりの茶道具の中には
高橋箒庵が東都茶会記に記した、
住友春翆の「茶臼山好日庵」茶会(大正8年(1919))で
使用された茶道具も多くあり、
もっと早くに訪れるべきだった・・と後悔しています。

素晴らしい茶道具とのお出合いが沢山あったので、
又ゆっくり書きたいです・・・。

帰りに学芸員の方に
「伯庵茶碗 宗節」の高橋箒庵以前の伝来をお聞きしました。
 17世紀江戸時代の作で、
 伝来がわかっているのは次の通りだそうです。

伝来
かいふ屋宗節-土屋相模守(又は大文字屋宗積)-溝口家-高橋箒庵-住友家

これで、「宗節」の行方がわかり、一件落着です。
あと一つ所在不明は「天王寺伯庵」でしょうか。
ご存知の方、是非ご一報ください。
  
                           

   写真は、「泉屋博古館分館近くの紫陽花」
         「泉屋博古館分館の入り口」