暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

壬辰年のトリ  除夜釜

2012年12月31日 | 献茶式&茶会  京都編
今日は大晦日、今年のトリは除夜釜です。
暮れも押し詰まった27日に除夜釜へお招き頂きました。

「除夜」とは大晦日のこと、大晦日の夜に釜を掛け、
今年一年を静かに振り返り、我が身についた塵を祓い清め、
無事に新年を迎えられることに感謝しながら茶を点て、
客にふるまい、我ものむ・・・そんな除夜釜に憧れていましたので、
とても嬉しいお招きでした。

13時にお宅へ伺うと、いつもと違い雨戸が閉められていました。
ほの暗い待合へ入ると、丸行灯が柔らかい光りを投げかけています。
床には「富士越しの龍」、今年の干支にちなむ軸が掛けられ、
書院棚には伏見人形の辰が飾られ、ちょっぴり寂しそう。
火鉢の黒い藁灰と紅い輪胴の火に見惚れていると
奥様が甘酒を運んでくださいました。

             

六畳の本席へ入ると、二つの灯りがありました。
早や暗闇に慣れた目にはとても明るく感じられるから不思議です。
正面の床に和歌が書かれたお軸を小灯(こともし)を頼りに、
一字でも読めたらとAさんと目をこらしましたが・・・。

寂蓮法師の歌で、筆は南山陰士とあとで伺いました。

     ふりそむる今朝だに人の待たれつる
           深山の里の雪の夕暮

朝早くから除夜釜の準備をされ、天気を心配しながらも
雪の夕暮の風情を愛で、客を待ちわびているご亭主のお姿が重なります。

            

向切の炉の傍に雀瓦をのせた菊灯台(了入造)が置かれています。
雀瓦の蓋は外されていて、夜咄の茶事の後座の設えでした。
炉には炭火が赤々と炉縁を照らし、大きな姥口の釜が掛けられ、煮えがついています。
仙叟好みの柏釜は寒雉造、正面に柏葉の文様があるそうですが・・・。

「大したことはできませんが、一年間の感謝の意を込めて
 毎年除夜釜を掛けさせていただいております。
 一年間いろいろお付き合い頂き、ありがとうございました・・・」
とご亭主はお心こもる挨拶をされて、待合や本席の設えについて
お話してくださいました。
それから興味深い茶のあかりのお話もたくさん・・・。

お菓子が運ばれました。
塩芳軒の「雪もち」、黒糖餡が珍しい大好きな一品です。
菓子器は、永楽和全の菓子鉢、豊楽焼の高坏、椰子の実手で、
どれも存在感がありますが、久しぶりに豊楽焼に遭遇して感激しました。
豊楽焼は焼物ですが、塗が表面に施されていてキンマになっています。
ごろんと不安定な椰子の実が面白く、青海苔味の丸い干菓子が入っていて
美味しく頂きました。

               
 
             
「薄茶を差し上げます」
水指が運び出され、薄茶点前が静かに始まりました。
総勢九名の薄茶を二服ずつ、さらさらと、なごやかにお話ししながら
美味しく点てて下さって至福のひと時でした。

ひしゃげた形の水指は、古田織部の指導を受けた初期の高取で、
内ヶ磯(うちがそ)焼というそうですが、ひしゃげた形の蓋も見事でした。
次々と薄茶が点てられる茶碗がどれも趣き深く、愉しく拝見させて頂きました。
主茶碗は八代大樋、それから替は暦手(道八造)、
八代焼と尾戸焼の茶碗も渋い味わいで、印象に残りました。
私のは三人の合作という凝った茶碗でしたが、聞きもらして残念・・・。

             

待合へ戻り、豪華なお弁当とご亭主手づくりの汁椀に舌鼓を打ちました。
お酒はえーと、熱燗の灘の・・・?です。
そして、待合の設えがガラリと変わっていたのにびっくり!

暗い床の中釘に何やら箒らしきものが?・・と思っていましたら、
「箒と言われると悲しいかな・・・。
 払子(ほっす)と言って煩悩を振り払う力を持つ仏具です・・・」
もう一つ、伏見人形が辰から巳へ変わっておりました。
こうして、壬辰年から辛巳年へバトンタッチされ、
「先今年無事 目出度千秋楽」です。

水屋は奥様と次男さんでした。
ご家族であたたかくおもてなし頂き、感謝しております。
ありがとうございました!

 
皆さま、どうぞ佳い年をお迎えくださいませ。
来年も宜しくお付き合いのほどお願い申し上げます。

                              

                
       (写真はありませんで、詩仙堂その他です)


クリスマスの茶事  忘年会を兼ねて

2012年12月29日 | 茶事  京都編
久しぶりにクリスマス兼年忘れの茶事をしたくなり、
11月半ばにお声掛けしました。
親しくお付き合いして頂いている方々なので、茶事形式ですが、
懐石料理は持ち寄りです。
初めての試みでしたが、とても楽しみなものになりました。

懐石料理は一応希望をお尋ねしましたが、内容はおまかせです。
待合でお待ち頂いている間に順次、お料理を受け取り、
温めるか、冷やすかの指示を仰ぎました。

  向付はSさま、ヒラメの昆布〆をステキな古染付の向付に盛って。 
  焼物はOさま、鴨ロース挑戦の予定がさわらの西京漬けへ変更とか。
         伊万里の皿で温かく、しっかりとしたお味でした。。
  煮物はPさま、フランス仕込みのティアン、バターライスを敷いた野菜
         (ズッキーニ、茄子、パプリカなど)のキッシュ風一品で、
         熱々を取り回しました。
  和え物はTYさま、海老、アボガド、トマト、ブロッコリィの和え物、
         硝子四方鉢入りを冷やしてさっぱりと。
  煮物椀は暁庵、カニ真蒸、手鞠麩、鶯菜、京人参、柚子と定番です。

どれも美しく美味しく、写真を撮る余裕がなかったのが残念です。

            

さて、肝心の茶事ですが、
初座の床は、「無我」のお軸を掛け、クリスマスの花を荘りつけました。
クリスマスなのでいつもの茶花と違う雰囲気にしたいと、
華道小原流を学ばれているTYさまにお願いし、前日に生けて頂きました。

花は、ミニチュアグラスアスパラガス(緑)、さらしつつじ(銀)、
アンソリューム(黒)、クリスマスブッシュ(赤)、シックなクリスマスカラーで、
夏の手提げ籠の花器がステキに決まっています。

ご挨拶の後、初炭から始まりました。
四方棚に羽箒と香合を飾り、釜は責紐釜です。
赤と緑の水引を掛け、十字架のキリスト様におでまし頂きました。
釜の扱い、責紐をはずすタイミングと所作を工夫してみましたが、
その試行錯誤の過程が楽しゅうございました。

            

初炭の間に土鍋でご飯を炊きます。
初炭が終わるころに炊き上がるのですが、雑念が入り、座掃きを見事に忘れました。
イヌワシの座箒を入手したばかりでして、
子供のように座掃きするのを楽しみにしていたのですが・・・。
棗を持って香合を取りに入ってからやっと気が付き、巻き戻しをお願いして
座掃きをさせて頂きました(どっと汗)。

香合は陶器の小箱、百人一首の歌に因むもので、

  いてそよ人をわすれやはする   と下の句とが書きつけてあります。

上の句は、 有馬山猪名のさゝ原風ふけは

紫式部の娘、大弐三位(だいにのさんみ)の恋の歌ですが、
キリストさまをお慕いする歌としました。

「有馬山の猪名の笹原に風が吹き、雪が降り積もるころになると
 あの方のことを想い出します。
 どうしてあの方のことを忘れることができましょうか。
 けっして忘れはいたしません」

香は、今年1月の上田宗箇展で求めた宗箇様御伝の「清静(せいせい)」、
香元は山田松香木店です。

            

さぁ~、ちょうどご飯も炊きあがり、皆さま力作の懐石です。
一献は赤ワインをグラスでお出しし、ハンドベルのクリスマスソングが
BGMです。
「こんな茶事も楽しいわね!」と異口同音でした。

もちろん私もですが、皆さまが楽しんでいる姿を見たり、聞いたり、感じたりが
亭主として最高に楽しいことでした。
また来年も持ち寄りで楽しく相和して・・・と早や考えています。

書き尽くせませんが、今回はこれにて・・・。

                                  

            

クリスマスの茶事  いそいそと茶事支度

2012年12月28日 | 茶事  京都編
                   萬壑松風供一啜 
              (ばんがくのしょうふう いっせつにきょうす)
              (一保堂に掲げられた木版に書かれた漢詩の一節)


今年は頑張ってクリスマスの茶事を二回しました。
そんなことは初めてでして、茶事の日が近づくにつれて準備もありましたが、
何よりも気持を集中したいためブログをお休みしました。

さて、いそいそと茶事支度ですが、炉になって初めての茶事なので
湿し灰作りから始めました。
湿し灰の作り方は私流秘伝(つまり、いい加減)なのでナイショです。
灰がちょうどよい具合に乾くまで時間が掛かるので、
始めたのは茶事の2週間ほど前、1週間前にはサラサラに出来上がり、
硝子瓶へ密閉保管しました。

                

それから炭、
炭手前が好きなので炭がすぐに無くなってしまいます。
近所の炭屋さんに枝炭が置いてないので、久しぶりに横浜の丸善へ電話しました。
すると、
「ごめんなさい。ただ今炭の注文は受けられません。
 炭の入手ができずに早くから注文された先生方にもお待ち頂いています」

思いがけず関東では炭の入手が困難のようですが
「置き炉なので風炉炭をお願いしたいのですが、在庫はありませんか?」
「一箱だけございます」
・・・というわけで、枝炭と一緒に送ってもらい、一安心しました。
炭は洗って干して炭籠へ詰め直しておきます。

                 

次は楽しいお菓子の試食です。
クリスマスの特別バージョンのお菓子が出回っています。
「雪餅」などの和菓子も魅力的ですが、迷わず和のテーストの洋菓子にしようと
「一善や」へ出かけました。
縁高へ入れたいので、ツリーのような脊の高い菓子は無理のようです。
リンゴと梨のタルトをそれぞれ試食しているとご主人が店に出てきました。
ご主人とは初めてお会いしますが、お茶(裏千家流)をなさっていて
和の心に学ぶ洋菓子づくりを目指していると伺っていました。

「クリスマスの茶事の主菓子に使うものを探しにきました。
 今試食したのですが、黒の縁高にアップルクリームチーズタルトを入れて
 ヒイラギを飾ったらどうかしら?」と私。
「茶事にお使いくださって、ありがとうございます!
 とても好いと思いますが、量が多すぎませんでしたか?」とご主人。
「そうなの・・・懐石後なので少量にしたいと思いました・・」
「それでは少し小さめにカットさせて頂きます」
・・・ということで予約し、ご主人と相談できてラッキーでした。

             
        

錦小路の食材など買物はいろいろありますが、茶舗めぐりも楽しいです。
濃茶は「柳桜園」、流派お好みの指定のない「錦上の昔」を買いました。
それから薄茶は、京都へ来て初めて「一保堂」にて・・と思い、
併設の喫茶室「嘉木」で試飲を兼ねて抹茶「関の白」を注文しました。
清水焼の松の絵の茶碗でとても美味しく点ててくださって、これを選びました。

                  

最後に水汲み、
いつものように自転車の荷台へペットボトルやポリタンクを積み、
梨の木神社の染井の水を汲みました。

さあ! これでやっと茶事が出来そうです・・・。

                                   & 

            写真は、一保堂にて

苔香居-2 もみじの茶会

2012年12月09日 | 献茶式&茶会  京都編
苔香居(たいこうきょ)がお気に入りなのは、
きもの虫干しの会と同時開催の茶会のせいかもしれません。
10時の席をお願いしましたが、
すでにお客様が待っていらして三席目でした。

10分ほど待ってから、広い庭を横切り、待合へ案内されました。
そこは土間のある小さな板敷の部屋で、囲炉裏が切ってあり、
鉄瓶が自在に掛けられています。
隣りは陶房になっていて、陶芸の合間の休憩所のようでもあり、
ごく侘びの茶室のようでもあります。こちらでお菓子を頂きました。

             

             

それから外の腰掛待合へ案内されました。
風はなかったのですが、さすがに12月の外腰掛は寒く、
「コートやマフラーはそのままでどうぞ」と勧められた訳がわかりました。
寂しい山里のような露地が趣深く、これから入る茶室への期待感を誘います。

             

袴姿の男性が茶室へ案内してくださいました。
躙り口をくぐると、茶室は一畳中板台目向切、四人で満席ですが、
落ち着きのある魅力的な空間に目を奪われました。

点前座と客座の間にある幅一尺余の中板、点前座の向板、
点前座前が窓になっている、一間余の変形カーブの床、
それらが狭い茶室を伸びやかな魅力的な空間に変えています。
古色を感じる肩衝尾垂釜(浄林造)と、紅梅の古木で造られた炉縁が
茶室の主のように在りました。

床には「泰庵」と書かれたお軸、茶室の名前が書かれており、
扁額ともに淡々斎筆です。
床柱の竹花入(又みょう斎造)には、紅い実をつけた美男葛(びなんかずら)
が入れられ、思わず先ほどの若き案内人を連想しました。

              

              
             (美男葛  季節の花300提供)

先々代が遺されたという茶道具も味わい深かったのですが、
一番ステキだったのは、お点前さん、説明役の美男葛さん、半東さん、
おもてなししてくださった皆さん全員が生き生きと、お顔が輝いていました。
茶会は裏千家学園の生徒さんが受け持っているそうです。

昨日の朔日稽古を思い出しながら、伊羅保、五輪、萩、三嶋の茶碗に
上手に点てられた薄茶を頂戴し、名残惜しく茶室を後にしました。

                             

            
          苔香居-1 きもの虫干しの茶会へ戻る