暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

茶友の古希をお祝いして・・・その2

2017年10月31日 | 茶事・茶会(2015年~自会記録)
            
                   後座の床・・・・薄紫の小菊を献上飾りにして

(つづき)
ハレの席なので懐石は佐藤愛真さんにお願いしました。
9月末に打ち合わせを済ませ、すっかり安心していたのですが、長雨と台風の影響で鱚(喜びの魚)が手に入らず、向付が小鯛の湯引きに変更になりました。
それに前日、怪我したそうで・・・・あとで知ってびっくり! そんなことは微塵も口に出さず、最後まで立派にやり遂げてくださいました(涙)。
茶事にはハプニングがつき物ですが、懐石も同じでいろいろありますね。
佐藤愛真さんが一生懸命考え、作ってくださった懐石は随所にお祝いの気持ちが込められている、素晴らしいものでした。
お客さまも堪能してくださったようで、亭主としても趙!嬉しいです。

献立を記念に記します。
  向付   小鯛の湯引き 黄菊 水前寺海苔 山葵加減酢
  飯    一文字  
  汁    紅白結び麩  小豆  白味噌  辛子
  飯    二回目の飯器は赤飯  三回目は白飯
  煮物椀  鯛の菊花椀  隠元  青柚子
  焼物   かますの松茸包み焼き
  強肴   茄子  石川芋  鴨治部煮  紅葉麩  針柚子
  箸洗   岩梨
  八寸   車海老  若桃の蜜煮
  香の物  沢庵  小茄子  柴漬け
  湯斗
  酒    千寿(久保田酒造)

            
                ハレの器・古伊万里にかますの松茸包み焼き(絶品でした!)を盛りました

初炭は炭所望、申し合わせでHさまが炭を置いてくださいました。
たぶん下火はほとんど落ちていたのでは・・・と心配していたのですが、すぐにパチパチとはぜる音が聞こえ、流石ご名炭でございました。
香合は、裏千家流茶道を学んだご縁でKさまや皆さまに出会ったことに感謝して、裏千家八代・一燈好みの「つぼつぼ香合」です。
香は桜の落葉の付け干し香、付け干しの香は半東Fさんのお香の先生から頂戴したものなので名香ぞろいです。
やがて、得も言われぬ芳香が茶席や廊下を漂い始めて、期待以上でした。

           
              一燈好み「つぼつぼ香合」と付け干し香

           
               (実際には縁高ではなく菊の蒔絵の蓋物でお出ししました)

主菓子を菊の蒔絵のある蓋付き漆器に入れ、運び出しました。
淡い紫とクリームの掛け分けのきんとん、金箔が飾られています。
こちらも佐藤愛真製で、菓子銘は「紫の上」としました。


中立の後、銅鑼を5点打ち、後座の席入りです。
後座の床は、「七事式偈」をそのまま残し、薄紫の小菊を献上飾りにしてみました。
昔は11月3日の明治天皇の誕生日をお祝いして菊をこのように飾ることを神戸の茶友Mさんから教えて頂きましたが、今はすっかり目にしなくなりました。
せめて茶席にその習わしを残しておきたいし、11月誕生日のKさまのお祝いに献上飾りを・・・と思いました。

           


点前座は長板二つ置き。
風炉は唐銅道安、一之瀬宗和造です。
釜は桐文車軸釜、総糸目の胴に団扇、中に桐文が鋳込まれていて優雅な趣きがあります。
この釜は和づく釜と言い、日本古来の和鉄で造られた特注のお気に入りです。
作者は長野新氏(茶友長野珠己さんのご主人さま)、喜びの席に桐文車軸釜を掛けれて好かった!です。

水指は青磁太鼓胴(富田恒峰造)、本歌は静嘉堂文庫に所蔵されている「青磁牡丹唐草文水指」(14世紀元時代、龍泉窯)です。
この日が初使いでしたが、歴史と存在感を漂わせる青磁水指は茶席の雰囲気を格調高くしてくれるように思います。
複雑な蓋のつまみは美しいのですが立てかけにくく、蓋は長板上に置きました。

           


濃茶器は凡鳥棗、かつて横浜に住んでいた庸軒流の茶人・伊藤庸庵が作らせたものの一つで
「凡鳥之棗 反古庵好ミ写也  庸菴」と箱書に書かれています。
これも頂戴したものでして、姫路のSさんから
「横浜に縁のある庸軒流茶人・伊藤庸庵の箱書があるので、横浜へ帰る暁庵さんに使って頂きたい」
と託された棗でした。
仕覆は茶地唐華鳳凰文緞子、お仕覆をお習いしていた小林芙佐子子先生の仕立てです。
この仕覆を扱う度に、紐の柔らかさ、つがりと紐の塩梅などとても使いやすく、先生のお心入れを深く感じます。


ここまで書いてふぅ~~う! ちょっと休憩します。   
少ない茶道具の中から一生懸命選んだり、無い知恵を絞ったりしたものですから、つい力が入ってしまって・・・。(つづく)


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茶友の古希をお祝いして・・・その1 

2017年10月30日 | 茶事・茶会(2015年~自会記録)
                          
                          朝採りのススキを待合に・・・

10月は長雨が続き、今しも台風22号が通り過ぎようとしています。 

10月26日、茶友Kさまの古希をお祝いする茶事をしました。
その日は、お客さまの日頃の行いが良いせいでしょうか、久しぶりの快晴でした。 
前日が大雨だったので庭の落ち葉や手入れ不足が気になっていたのですが、潔くあきらめました。
席入りは11時、板木が4つ打たれ、桜湯が入った志野の汲み出しを半東Fさんが運び出し、腰掛待合へご案内しました。

待合の掛物は画賛(矢野一甫和尚)
   紅葉(画) 舞秋風
とあり、Kさまと一緒にお習いした恩師N先生から頂戴した思い出のお軸です。 
煙草盆は竹張香座間透、火入れは染付冠手です。

                 

                 

蹲踞で心身を清め、前日の大雨でしっとりと佳い具合に濡れた露地で迎え付けをしました。
やがて、襖越しに耳を澄ませていると衣擦れの音が静かになり、気を引き締めて襖を開けました。
「Kさま、おめでとうございます。
 なにかお祝いをしたいと思っておりましたが、茶事でお祝いするのが一番私らしい・・・と思いましてお出まし頂きました。
 たいしたことはできませんが、お楽しみいただければ・・・と思います。」

相客はAさま、Hさま、Yさま(詰)、長年お茶を通して親しくお付き合い頂いている方々なので、皆さまとご一緒にKさまの古希をお祝いできることがとても嬉しいです。


                 

本席の掛物は「七事式偈」(両忘庵・大木宗玄師書)です。
このお軸は、Kさまと初めて出会った東京・高田馬場の某茶事の会でご縁があり、私の手元へ来たものでした。
加えて、七事式はKさまや相客の皆さまと一緒に修練を重ねた思い出があり、今日のお祝いの席にふさわしいと選んだのです。
七つの禅語はどれも厳しい修練を重ねて得られる究極の境地を示唆していますが、員茶の禅語が一番心に残っていました。

   員茶   老倒疎慵無事日  
         閑眠高臥対青山

   (ろうとうそようぶじのひ  かんみんこうがしてせいざんにたいす)

6月に恩師N先生のお宅に伺った折
、先生はじめ80代の先輩方が和気合いあいと茶の稽古に励んでいる様子に感銘を受けました。
・・・・・こんな風にお茶に励み、仲良く一緒に年を重ねて行くのは、なんて素敵なことだろう!
そのことをお話しし、出来る事ならKさまや皆さまとこのような禅語の境地を目指して齢を重ねたい・・・と。 

折据の乗った香盆を運び出すと、「ギョッ! 本当に七事式をするのですか?」と皆さま。
折据を回し、本香はKさま、次香は暁庵と香元が落ち着きましたが・・・次香がモタモタで失礼いたしました(汗)。
香は火加減がとても難しいのですが、まもなく馥郁とした優しい香りが席を満たし、香が回され、ゆっくりと心や身体を清めていきました。

香の十徳(伝・一休宗純作)より
  感格鬼神  清浄身心 (霊魂や神と感応をし、心や身体を清める)


本香は伽羅、火相も程よく(半東Fさんに感謝!)上品で心安らぐ香りを楽しんで頂けたようです。
香銘は「紫雲(しうん)」(古希の色は紫なのに因んで)です。
暁庵のむらさき茶会の香席でIさまが焚いてくださった香を記念に頂戴したのですが、これが最後の一片でした。
次香は、大学時代からの親友Mさんのアブダビ土産でアラビア語が読めず香木がわかりませんが、伽羅とは違う香りを味わって頂きました。

                

京都を去る時にSさまから餞別に頂戴した優雅な蒔絵の重香合が皆様のお目に留まり、嬉しいです
頂戴したいろいろなものがお祝いの茶事を華やかに彩り、力強く後押ししてくださって、感謝!です。 


            茶友の古希をお祝いして・・・・その2へつづく


長月と神無月の教室だより・・・お茶の力!

2017年10月28日 | 暁庵の裏千家茶道教室
 
 「虫の音」   山本和夫画(ツレの京都の水墨画の恩師)         
      

例年ですと明月が楽しみな長月や神無月ですが、中秋の名月は10月4日でした。
後の月の十三夜は11月1日、十五夜は11月3日、なんとも間延びしてしまいそうな名月とブログアップですが・・・。

長月最初の稽古日は9月6日、Tさん、N氏、Fさんが張り切って(?)いらっしゃいました。

諸事情で久しぶりにいらしたTさん、風炉の平点前をしっかりお稽古しました。
それに長期間大変な日が続いていらっしゃるご様子なので、暁庵に居る時くらい肩の荷を下ろして、のんびりお茶を楽しんで頂きたい、お茶にしばし没頭して頂ければ・・・と思いました。
その気持ちはTさんへ伝わり、お茶を点てたりお茶をのんでゆったりする時間を楽しんでくれたみたいです。
「今日はお茶の持つ力を実感しました。お稽古に来れて本当にヨカッタです・・・」
帰り際のTさんの顔が晴れやかに、そして一際美しく見えました。

普段と異なる環境に身を置き、普段と異なる人と異なることをし、異なる会話を交わす(・・・そして自分自身の時間を実感する)・・・そんなごく普通のことだけれど、それによって癒しや活力をもらい、明日へ立ち向かう勇気が出て来ます。
いろいろな場面でお茶の持つ力を実感する日々です。


   杜鵑(ホトトギス)を黒亀甲竹の花入に

10月末、風炉の最後のお稽古はTさんでした。
その日は薄茶平点前のあと、初めて濃茶をお教えしました。
もっと早くにお教えしたかったのですが、大変だった日々が一段落されたようなので取り組んで頂きました。
茶事の席でお客様として濃茶を喫んで頂いていますが、濃茶の稽古をすると、ご挨拶のタイミング、約束ごと(詰が飲みきりですするなど)など、客の心得が一層わかるようになると思います。
急がなくっていいですから濃茶を基本からしっかりお稽古しましょうね・・・・お教えするのが楽しみです。 


                   

それからもう一つ、家庭内の揉め事ですが・・・。

茶事の前に掃除や片付けなどの手伝いをよくツレに頼むことがあります。
気持良く率先してやってくれることもありますが、その日は虫の居所が悪かったのでしょうか。
「茶事は君の仕事で好きでやっていることなのに、どうして僕が掃除などを手伝わなきゃいけないのか・・・」と。

たしかに、狭く考えればおっしゃることはごもっともなれど、
「あらっ! たしかに茶事やお茶の稽古は私が好きでやっていることだけど、お客さんや生徒さんが我が家に来てくださるのはとても有難いことだと思いませんか。
他人様がいらっしゃるからこそ、普段より少しでも家の中を整理しよう、掃除しよう、気持ち良く過ごせるようにしようと思うし、そのお蔭で気になるところがきれいになっていくし、2人で元気に掃除出来ることが素晴らしい!と思いませんか・・・」

「・・・・・・ 」
YesともNoとも言わずに黙々と頼まれた仕事をやり出したツレ。
きっと何か感じることがあったようです。 



翌日の茶事の準備はとてもスムーズに運び、ただ感謝です。 

・・・これもお茶の神様のお力だと思っています。

        
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お祝いの茶事支度に勤しんで・・・

2017年10月23日 | 暮らし
         
                  名残の花がいっぱいです

近々、茶友Kさんのお祝いの茶事を行うので、茶事支度に勤しんでいます。

どのように茶事でお祝いのおもてなしをしたらよいか・・・
どうしたらお客さまに楽しんで頂けるか・・・
ちょうど良い機会なので茶事の原点に戻り、いろいろ考えてみました。

すると、分野の違う方の話やなかなか読み切れない本からヒントを頂くことができました。
つきつめてみれば、何も「茶事」(茶の湯)に狭く限定することではなく、究極はどの分野でも同じということかもしれませんね。


     新幹線「浜松」駅にて

先日、テレビで橋幸夫さんが映っており、デビューまでのいきさつ、ヒット曲が生まれた背景など、歌手・橋幸夫を育てた恩人の作曲家や先輩歌手との出会いや交流を収録した内容でした。
すぐにチャンネルを切り替えるつもりが、何か心に感じるものがあり、そのまま見続けていました。
すると、作曲家の先生や歌手の先輩から橋幸夫に発せられた「言葉」が心に響き、急いでメモしました。
忘れないように書き留めておきます。

○ 歌に魂をこめろ
 ・・・・上手にやることではない。その人なりの魂が感じられること。


 作曲のポイントについて
  イントロに作曲のすべてのイメージを込める。


○ 歌はいつか”詠み人知らず”になる。

○ 自分流の表現をみつけなさい
 ・・・・その時の客に応じた奇想天外の表現で客を喜ばすこと。(美空ひばり)


○ 事を成すには気を集中し、そのこと以外の事を排除して臨むべし。(幸田露伴)

まだまだ続きそうですが、茶事前なのでこのへんにて・・・。
短い言葉ですが、含蓄があり、すべて茶事の真髄に繋がるように暁庵には思われました。

最後の言葉にあるように、茶事前の1週間はなるべく用事を入れず、茶事に没頭したいと思います。
それも忙しく立ち働くばかりではなく、ゆったりした取り組みの中にポロッとひらめいたり、自分の考えを確認したり、それによって内容が大幅に変化したり、もとに戻ったり、もういろいろですが、茶事に一番必要な充実した充電時間です。


 一面、黄金の田圃が続いていました・・・「直虎」のふるさと、井伊谷にて

              
茶事は主客共にともに愉しくあれ・・・と思っています。

「お出ましを心からお待ち申しております・・・」  


神無月の教室たより・・・炭所望

2017年10月13日 | 暁庵の裏千家茶道教室




神無月(10月)の或る日、N氏とFさんがお稽古にいらっしゃいました。

Fさんの盆香合の予定でしたが、近々茶事を控えているN氏の炭所望から始まりました。
茶事では葦棚(よしだな)を使うそうなので、瓢棚を左右反対にして設え、棚に羽箒と香合を荘りつけます。
炭所望なので亭主は紙釜敷を懐に入れて炭斗を運び出し、釜を下ろし、初掃きをしてから羽箒を炭斗へ置いて下がります。
灰器を持ち出し、踏込畳へ灰器と帛紗を畳んで置き、茶道口へ戻り
「どうぞ お申し合わせの上 お炭をお願い致します」



Fさんがお受けして、帛紗を付け、灰器を持って風炉前へ座り、羽箒を炭斗前斜めに下ろしてから炭を置きました。
中掃きをし、灰器を取り、月形を切り、灰器を戻してから後掃き、灰器を持って踏込畳まで戻り、元のように灰器と帛紗を置き、席へ戻りました。

「ありがとうございました」
N氏がFさんへ挨拶があり、N氏が風炉前へ進み、風炉中を拝見します。
「どうぞお直しの上お香を・・・」とFさん。
「結構に置いて頂きましてありがとうございます」とN氏。
香が焚かれ、香合の拝見が掛かりました。
「どうぞお香合の拝見を」とFさん。
香合を拝見に出し、釜を下ろした場所まで引き鐶が置かれました。
「どうぞ風炉中の拝見をお願い致します」と私。

初炭では風炉中拝見はありませんが、炭所望では風炉中拝見ができるので、灰形、月形、炭の置き具合を拝見できる炭所望は茶事でどんどん取り入れてほしい・・・と先日お話したばかりでした。

風炉中拝見をし、正客は帰りに香合を引いて席へ戻ります。
やがてN氏が腰黒薬缶を持ち出し、釜を浄め(この風情が大好き!です)、薬缶を持ち帰りました。
釜が掛けられ、炭斗を引き、亭主は水屋へ戻ります(小間なら座掃きをします)。
茶事の時、落ち着いて香合を拝見して頂きたいので、風炉の時期でも私は襖を閉めます・・・亭主の働きでどちらでも・・・と指導しています。

香合拝見が終わり、香合が返され、亭主が取りに出ます。
風炉正面に座り、土風炉なら胴拭きをしますが唐銅なので、袱紗を捌き、釜蓋を浄め、蓋を切って、袱紗を腰に付けます。
茶事の時、香合は初座を印象付けるお道具の1つだと思いますので、香合拝見と主客の問答は「こころするように・・・」と話しています。
その日は「初雁香合」(春斎作)でしたが、茶事にお招きされているのでN氏の本番が楽しみです・・・。


  盆香合・・・香合はFさんのお持ち出し

N氏の続き薄茶に続いて、Fさんの盆香合と薄茶(瓢棚)とお稽古は続きます。
その日の主菓子は「栗蒸羊羹」(和作製)、ボリュームが凄いのですが甘みが押さえられているので、栗の風味が引き立ち、好評でした。(お口に合ってヨカッタ!)


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