暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

霜月の稽古だより・・・歌銘の茶杓

2016年11月30日 | 暁庵の裏千家茶道教室
                   
                      やっとコナラが色付いたのに雪が・・・(11月24日)

霜月もつごもりとなり、あわてて稽古だよりを書いています。
その日(23日)は午前中にKさん、午後からFさんとAさんの稽古でした。

27日の口切の茶事にKさんが半東見習いとして茶事デビューすることになり、
足指負傷の亭主に代わり薄茶点前を担当してくださいます。
それで、口切の茶事の茶道具を使って薄茶点前をお稽古しました。
(・・・茶事当日、いつものようにきれいなお点前でデビューを無事果たしました。
 きっと本人は大変だったと思いますが、一生懸命のおもてなしはお客さまに心地良く伝わったことでしょう。
 見習いの文字が取れるのを目標に頑張りたいとのこと・・・頼もしく思っています)

                   

午後はFさんの初炭手前から始まりました。
炉になって初めての初炭なので、ベテランさんとはいえ基本に返って細かく指導します。
特に歩き方、座わる位置、湿し灰の撒き方、炭の置き方でしょうか。
香合は朱色が鮮やかな柿、持つとずっしりと重く、高岡銅器です。
香は鳩居堂の黒方(くろぼう)でした。

Fさんの台天目、Aさんの唐物と薄茶平点前と稽古は続きます。
風炉と違い、炉では外隅と内隅があり、足の運びや座る位置が難しく、
身体が慣れ親しんだ頃に風炉へ変わるのはいつものことです。

                   

Aさんの薄茶の茶杓銘が素敵で、毎回伺うのを楽しみにしています。
この日の茶杓銘は「常盤(ときわ)」、歌銘とのことなので
「どうぞお歌のお詠み上げを・・・」とFさん。

「お歌は
   常盤(ときわ)なる松のみどりも春来れば  今ひとしほの色まさりけり

 作者は源宗于(みなもとのむねゆき)、古今和歌集でございます」

有名な歌ですが、Aさんがお詠み上げくださると一層みやびに聞こえて、うっとり。
食いしん坊の暁庵はこの歌からいつも表千家の常盤饅頭(ときわまんじゅう)を連想しています。
常盤饅頭は、千年変わらない松の翠(みどり)を寿ぎ、白い薯蕷饅頭に緑色に染めた白小豆を包んだ、お正月用の菓子です。

歌銘の茶杓に刺激を受けた暁庵はさっそく文庫本・万葉集(三)を購入し、何か心に留まる万葉の歌はないかしら? と読んでいます。

                   

                   
                        ・・・こんなに積もりました

ところで、「常盤なる松の・・・」の源宗于(みなもとのむねゆき)ですが、
調べてみると、他にもお気に入りの和歌がありましたので、記しておきます。

    
    
    山里は冬ぞさびしさまさりける  人めも草もかれぬと思へば   (古今集)


    
    
    人恋ふる心は空になきものを  いづくよりふる時雨なるらむ

   (人を恋する心は我が胸にあって空ではないのに、どこから降ってくる時雨(涙)なのだろうか)


翌日(24日)の未明から雪になり、11月の雪景色にびっくりでした。   


        暁庵の裏千家茶道教室   前へ    次へ    トップへ


五葉会・唱和之式・・・晩秋の花を詠む

2016年11月29日 | 暁庵の裏千家茶道教室



11月11日に五葉会が開催され、久しぶりにN先生にお出まし頂きました。

科目は軸荘付花月、唱和之式、昼食後に茶通箱付花月です。
とてもハードな内容でしたが、N先生のご指導の下、新鮮な気持ちでお勉強ができました。
中でも唱和之式が大好きでして、1年ぶりにワクワクしながらお稽古しました。



唱和之式は、全員で花を活け、亭主が香を焚き、全員で香を聞き、亭主が濃茶を点て、全員で濃茶を頂きます。
(思い出すままに、ポイントだけ書きますが、詳しくはコチラをご覧ください
最初は八畳ですが、亭主が香を最後に聞き、香盆を床(書院)へ荘り、立つと同時に連客一同四畳半へ進みます。

亭主が濃茶を点て、仮座へ入り、亭主も一緒に濃茶を頂き、拝見の茶碗を正客へ持っていき、亭主は点前座に戻ります。
「薄茶は花月で」の亭主の挨拶で客は帛紗を付け、(菓子付)花月となります。
薄茶が終わり、拝見物が出され、亭主が取りに出て、総礼の後、亭主は拝見物を持ち、正客は干菓子器を持って、連客一同立って、亭主は水屋へ下がり、客は八畳に戻ります。

亭主が重硯箱を持ち出し、客は懐に忍ばせていた短冊に、最初に活けた花に因む和歌をしたためます。
亭主が文台を持ち出すと、正客から順に短冊の和歌を二度読み上げ、短冊を文台に置いて回します。
和歌をひねり出し、短冊に書き付け、唱和するシーンが何とも言えず優雅な雰囲気です。
自分はさておき、皆様の様子を拝見して、いつもうっとりしています・・・



花も季節によって違いますので、炉と風炉と、時季を変えて楽しみたい唱和之式です。
記念に和歌を記しておきます。


  ほととぎす
     ほととぎす亡き人しのぶ花なれば
         幼き我を重ね思ほゆ     宗真



  野紺菊
     雨に濡れ心も寒し野紺菊
         永遠の別れの友をしのぶ   宗里




  もみじ
     風ふけば落つるもみじば水きよみ
         ちりぬ影さえ底に見えつつ   宗智



  つわぶき
     虫の音も百花も絶えてそののちに
         庵なぐさむつわぶきの花    宗曉




  石蕗
     照葉には心うつろふ様々と
         石蕗凛とまっすぐに立つ    宗悦




  
     菊の香に昔の教え忍びつつ
         我が行く道に思いおこせば    宗厚




     暁庵の裏千家茶道教室   前へ   次へ   トップへ


鎌倉円覚寺の風入と呈茶席

2016年11月25日 | 暮らし

11月3日~5日まで鎌倉円覚寺で宝物風入がありました。
最終日5日の午後、5年ぶりに円覚寺を訪れました。
円覚寺は正式には瑞鹿山円覚興聖禅寺といい、臨済宗円覚寺派の大本山です。

                    

お目当は円覚寺の開山・無学祖元(仏光国師)の所要品を入れた開山箪笥と国宝・舎利殿です。

開山箪笥は背負えるくらいの小さな箪笥のため、火災などの難を免れ、今に伝えられています。
繊細な鎌倉彫や自然木の払子(ほっす)、水晶の数珠、団扇、精密に彫られた酔翁亭図堆黒盤や椿梅竹文堆朱盤がガラスケースの中に展示されています。
開山箪笥の中には九条袈裟や法具を包んだ帛紗があって、遠く中国の南宋や元時代の織物、染色、刺繍の素晴らしさが垣間見られます。
それにしても開山・無学祖元が使用した物たちのなんと繊細で優雅でオシャレなことか・・・当時の仏教文化の質の高さにびっくりしました。

                                          
                    
                          開山所用と伝えられる茶道具

九条袈裟(たぶん「白茶地団龍文紋羅九条袈裟」だと思う・・・)が一枚展示されていました。
しっかり見ようとして、右足指を防御柵にぶつけ、おもわず「痛いっ!!」 
すると、目の前の廊下に座っていらした3人の御坊様から声が掛かりました。
「あぁ~痛かったね。痛いのは生きている証しや・・・」と。
「・・・・(痛みでしばし絶句のあと)なぜ九条袈裟と言うのですか?」とお尋ねしました。

お坊様が通常着用している袈裟の大きさが一条、九条とはその9倍の長さ、約4メートルの大きな袈裟が九条袈裟です。
四ツ頭など正式な儀式には九条袈裟を着用しますが、大きな袈裟のため着用が大変で難しく、円覚寺では七条袈裟を用いることも多いとか。

風入なので、どの部屋にも素晴らしい墨跡、書状、仏画などが所狭しと掛けられています。
足指の痛みをこらえながら見て回りましたが、いささか疲れてきたころに
「茶席で抹茶を一服いかがでしょうか? 最終のお席になります」とお声が掛かりました。
喜んで第二展示場(大書院)の呈茶席へ入りました。

                    
                              大書院から庭を見る

床には無準師範像(南宋時代の高僧、無学祖元の師)、無学祖元像、夢窓疎石像の3幅の肖像画が掛けられています。
点前座には風炉釜、染付の水指が置かれた高麗卓があり、私は点前座に近い末座に座れたのでじっくりお点前を拝見させて頂きました。
お点前は若い雲水さん、裏千家流です。
文字で表現するのは難しいのですが、歩き方、茶碗の運びだしから魅了されました。
所作の一つ一つが基本を守りつつ、指の先端まで神経が行き届いているような繊細な美しさを感じ、
1つも漏れさじと見つめます。

特別注文したという蓮弁の菓子と、天目台に乗った茶碗が運ばれてきました。
菓子と薄茶を頂戴しましたが、その間もお点前が気になって目が離せません。
最初から最後までゆったりと落ち着いたテンポも、閑かなる気迫も崩さず、見事でした。
別世界のような清々しい雰囲気はお点前の雲水さんのお茶に対する心構えや日常の修練から生まれていると思うのですが、
円覚寺の風入へ来て思いがけず、自らを反省する機会を得、茶の原点に触れたような気がしています。
(きっと今の私に必要なことだったのでしょう)

                    
                    妙香池(みょうこうち)・・・夢窓疎石作と伝える庭園の遺構

日が落ちるのが早いので、せかされるように国宝・円覚寺舎利殿へ。
大好きな舎利殿と5年ぶりの再会でしょうか。
そのあとに弁天堂と「洪鐘(おおがね)」へ長い階段を登り、眼前に広がる北鎌倉の秋景を楽しみ、帰途に着きました。

                    
                              国宝・円覚寺舎利殿

足指の痛みが取れず、2週間以上が経ってから近所の整形外科へ行き、レントゲン写真を撮りました。
「ほらっここ見て。骨折しています・・・」とM先生。
湿布して、中指と一緒にテーピングしていますが、年内にくっつくかしら?? 


2016年 名残の茶事へ招かれて・・・その3

2016年11月23日 | 茶事・茶会(2015年~他会記録)
                      
(つづき)
いよいよあの変な形の茶杓です。

半泥子作で茶杓銘は「苦茶(くちゃ」とか。

川喜多半泥子は半泥子という号の他に「無茶法師」「其飯(そのまま)」などと名乗っていたそうで、「無茶法師」を連想する「無茶苦茶(むちゃくちゃ)」からの銘でしょうか、
対でもう一本「無茶(むちゃ)」という銘の茶杓がありそうですね。
茶杓「苦茶」は幅広でユニークな形状ですが、右利きの人が茶を掬いやすいように工夫して、わざと変形した形になっています。
形にとらわれない自由な発想が素晴らしく、遊び心を感じる銘と言い、半泥子の魅力いっぱいの茶杓でした。

                                          

ご亭主N氏は若くして会社を起し立派に育て上げた実業家であり、古美術の蒐集家でもあるので、
実業家そして陶芸家である川喜多半泥子(1878~1963年、明治11年~昭和38年)を大いに尊敬し、その作品を愛していらっしゃいます。
今回の茶事にはできたら半泥子作を・・・と思ったようで、待合の掛物、茶杓、さらにもう一点が登場して、私たちを楽しませてくれました。

濃茶が無事に終わり、流石のN氏も少々お疲れのようで、後炭と薄茶は半東Fさんが大活躍でした。
N氏も交え、いろいろなお話をしながら薄茶を頂きました。
干菓子はいちょう煎餅と紅葉です。
主茶碗は紅葉御本、半泥子作です。
上品で優雅な姿、内側に現れた火色の美しさ、持てば手にしっとり馴染む感触・・・好いですねぇ。
「秋の風」という銘があるそうですが、四季を通じて使って頂きたい茶碗でした。

薄器は古唐津の広口茶器、大きな牙蓋が付いていて、数寄者好みの一品です。
半泥子の「苦茶」の茶杓が侘びた味わいの薄器にぴったりお似合いでした。

                      

・・・楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいますね。
こうして名残の茶事「来し方を省みて・・・」は終了しましたが、今なお茶事のあれこれを思い出しています。
N氏の堂々の亭主ぶりに安堵し、私も客として茶事の愉しさをしっかり味わいました。
一口に茶事といってもいろいろな茶事がありますが、車椅子で来てくださった茶友と過ごした、
忘れられない茶事になりそうです・・・。


最後に次客M氏から嬉しいメールが届いたので記します。(もう感謝!しながら・・・

暁庵さま
先日は茶事にお誘い頂きありがとうございました。

Nさまのご亭主ぶりには深く感じ入りました。
「正真に慎み深く、おごらぬさまを侘と云う」という言葉を思い出しました。
懐石や点前の一所懸命さ、道具の説明をするときの楽しそうなご様子に
こちらも愉しくひとときを過ごさせて頂きました。
また、Mさまの 時を過ごすにつれお元気になられる姿も印象的でした。
型にはまらぬ暖かい一座に加えて頂いた事に心より感謝申します。   Mより



       2016年 名残の茶事へ招かれて・・・その2へ戻る      その1へ戻る


2016年 炉開きの会・・・・・その3

2016年11月07日 | 暁庵の裏千家茶道教室

               
(つづき)
銅鑼が7点打たれ、後座の席入です。
亭主Fさんが昼休みに紐飾りしてくださった茶壺が床に荘られています。
点前座には吉野棚、水指は平戸焼・色絵四方で久しぶりの登場です。
京都・鷹ヶ峰に吉野太夫ゆかりの常照寺があり、遺芳庵(吉野席)という侘びた茶席があります。
今頃は紅葉が綺麗でしょうね・・・。
吉野棚を選んだのは、吉野窓と言われる丸窓から眺めると、色絵の水指が一段と美しく映えるからです。



    
    京都・鷹ヶ峯にある常照寺の遺芳庵(吉野席) 

濃茶は、先ずはN氏の台天目です。
N先生の炉開きでは濃茶は台天目、懐かしく思い出しながらそれに習いました。
釜の蓋が南鐐なので、N氏初めて(20年ぶり?)の帛紗使いとなりました。
炉に変わり中蓋、中仕舞なども半年ぶりですが、すらすらと点前が進んでいきました。
湯相もよろしく、美味しい濃茶を練って頂き、3名で頂戴しました。
濃茶は「初昔」(柳桜園)です。
天目茶碗は葵天目、天目台は真塗、茶入は薩摩焼の胴締、象牙茶杓は利休形、仕覆は大黒屋金襴でした。

次いで、Mさんに長緒の点前で濃茶を練って頂き、4名で頂戴しました。
茶碗は井戸茶碗、高麗御本です。
(1639年から1717年まで釜山にある窯で、高麗茶碗と呼ばれる日本の茶人向けの茶器が焼かれました)
とても大きい茶碗なので、茶杓は京都で特注した約21センチの竹元節を使ってもらいました。
茶入は膳所焼の内海、仕覆はペルシャ裂です。
茶杓銘がステキでした・・・。
銘「小男鹿(さおしか)」、歌銘とのことなのでMさんに和歌をお詠み上げいただきました。

   わが岡に 小男鹿来鳴く 若萩の 
             花妻問いに 来鳴く小男鹿       大伴旅人(万葉集





薄茶はKさんです。
久しぶりの炉の薄茶平点前ですが、すらすらと点前が進みます。
牡丹銀杏が描かれた京蒔絵の棗から薄茶が掬いだされ、湯気の上がる釜から湯が汲まれ、軽快に茶筅が振られました。
茶碗は祥瑞、人形手、黄瀬戸の3種、薄茶は「五雲の白」(上林春松)です。
濃茶の後なので、細かな泡立ちの薄茶がすっきりと美味しく、喉を潤してくれました。
途中、Fさんと交代し、茶碗を替え、楽しい談笑が茶席に満ちていました。


(11月7日・・・今日は立冬。今朝は冷え込みました)

こうして「炉開きの会」が無事終了しました。
「炉開きの会」で初めて稽古デビューされたTさんから翌朝メールが届きました。

 
おはようございます。
昨日は大変貴重な炉開きの会に参加させて頂き、本当にありがとうございました。
初めて目にすることばかりで、新鮮な発見と感動の連続でした。
お庭や床の間の草花の美しさ、口切の茶事、掛け軸や万葉集からのお言葉、茶釜の湯気やお香の香り、美味しいお茶とお料理、そして素敵な社中の皆様のお茶を愛するお気持ち・・・・まだまだ初心者の私ですが、大いに五感に刺激を受けて素晴らしいお時間を過ごすことができました。
(今朝もまだその幸せな余韻に浸っております)心より感謝申し上げます。   Tより

 
嬉しいメールを頂き、ありがとうございます。
初めての上、茶事形式でしたので大変だったと思いますが、これもめったにない経験だと思いますし、
私からみて違和感なく皆さまの中にとけ込んでいたように思えました。 皆さま、いい方でしょう・・・
昨日の炉開きの会が幸せなひと時になったようで、ヨカッタ!です。
心配していましたが、お迎えが間に合って、こちらもヨカッタ!です。   暁庵より


     2016年 炉開きの会・・・・・その2へ戻る    その1へ戻る


     暁庵の裏千家茶道教室   前へ    次へ     トップへ