暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

長屋門公園・正午の茶事(2)

2009年08月31日 | 茶事
床には「四国八十八ヶ所巡拝御宝印譜」を掛けました。

遍路中、般若心経を唱えながら一寺ずつお参りし、
御宝印を書いていただいた、思い出多きお軸です。
我家の床ではお軸が立派すぎて落ち着かないのですが、
荒壁の床にしっくりと合い場所を得たようでした。

釜は和田美之助作の「真形 霰唐松」で、釜の摘みは梅、
炉縁は朱竹の入った黒掻きあわせで、松竹梅を表わしました。

初炭では丸管と割管が上手につかめず、もたもたしましたが、
すかさずお正客さまとお詰さまが湿し灰のことなどを
お話してくださって、そのフォローが心に沁みました。

香合は太田垣蓮月香合の写しで
 「おりたちて朝菜あらひし加茂川の 岸の柳に鶯のなく」
という蓮月の歌が釘彫りで書かれています。
香は彩雲(松栄堂)です。

拝見では香合と一緒に鶯笛をお出ししました。
この笛は、囲炉裏の天井で燻された煤竹を使って、
長屋門公園の竹細工教室で小学生が作ったものです。

拝見の香合を引く折に、
「ホーホケキョ ホーホケキョ」
と鶯笛を吹いてみました。
でも、鶯のようには上手に鳴けません。

「この鶯は亭主と同じでまだ未熟でございまして、
 うまく鳴けません。
 鶯も亭主もこれから練習を重ねて上手に鳴けるように・・
 と思っております」

どっ~と笑いが拡がり、なごやかな空気に包まれました。

懐石は五十嵐さまが腕を振るわれて、四国産のものを含め
早春の味覚と香りを味わっていただきました。
特に平目のお向う、蛤真蒸の煮物椀、白魚の卵とじなど・・
とても好評でした。

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  荒壁に遍路の宝印場所を得て 
        拙き点前の吾を励ます

                            

長屋門公園・正午の茶事(1)

2009年08月29日 | 茶事

まだ夏なのに冬の茶事のお話で恐縮です。
それに記事とは関係ありませんが、今日は誕生日です・・・。

 
平成20年2月17日に横浜市長屋門公園にて正午の茶事をしました。
その後の茶事の原点となった、貴重な体験をさせていただきました。
今でも思い出すと、なぜか目がウルウルしてきます・・・。
茶事に興味がありましたら、どうぞお付き合いください。

          

この茶事を行うにあたり、
① 長屋門公園の築三百年の古民家は私のお気に入りの場所で、
  ここで茶事をしてみたいと長年思っていたこと

② 平成19年3月に丸三年かかった四国遍路が結願したので、
  「遍路(早春)」をテーマにした茶事をしたかったこと

③ お客さまはインターネットのお仲間で、ご縁があった茶事同好の
  方々をお招きしました。
  始めてお会いするお客さまが多かったのですが、
  どんな時にもどなたにも平常心で、おもてなしの心に
  徹することを自らの目標としました。
  背伸びせずに今の自分にできる精一杯のおもてなしを・・とも。

④ 敬愛する師匠がかつて言われた、「楽しい、笑いのある」茶事を
  目指しましたが、これはとても難しい課題でした。

さて、実際は・・・・?

藁葺き屋根の母屋の前庭には白梅の古木が五分咲きくらい、
品の良い花をつけていました。
赤々と炭火が焚かれた囲炉裏ばたが待合です。

その日は晴れていましたが、とっても寒い日でした。
古民家なので隙間風も入り、
「着物を一枚余分に着ていらしてください」とお願いしました。

待合の掛物は大徳寺前管長の教堂和尚の筆で「喜無量」、
お客さまを長屋門公園の茶事へお迎えできた喜びを表わしています。

板木の音が聞こえてきました。
さあ、茶事のスタートです。

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思い出の茶事  正午の茶事

2009年08月24日 | 思い出の茶事
蓮見の朝茶事で正客をお願いしたKさんからメールが届きました。
今年はじめ、大寒の頃です。

早い春を感じながら、そして、昨年の「蓮見の朝茶事」のお礼の
気持ちをこめまして、粗茶一服差し上げたくご案内申し上げます。

半東をしてくださったTさんと私を茶事に招いてくださったのです。
蓮見の朝茶事より既に半年過ぎており、私は母の介護をしながら
時折の茶事で心のバランスを保っていました・・・。
そんな時だったので、Hさんのお招きがとても嬉しく、久しぶりに
心が躍りました。

茶事はHさんの茶友Gさんの茶席で行われました。
床には百人一首の札がステキな額縁に飾られていました。

  君がため春野に出でて若菜つむ
     わが衣手に雪はふりつつ (光孝天皇)

  忍ぶれど色にいでにけりわが恋は
     物や思ふと人のとふまで (平 兼盛)

ご亭主が私とTさんのためにそれぞれ選んでくださった歌です。
光孝天皇の一首は私の大好きな歌で、中学生の頃、
若菜つむ光景と歌を描いたことがありました。
亡き父がその絵を気に入って、長い間実家に飾られていましたが、
その家も処分され、今は実家も絵も私の心の中だけの風景です・・・。

そして、忍ぶれど・・の歌は、婚約中のTさんにまさにぴったりでした。

懐石は、Hさんが心をこめて作り、運んでくださったものです。
Tさん、Gさんとなごやかに歓談しながら、
早春の味覚を味わいました。

後座で、丁寧に練られた濃茶を美味しく頂戴しました。
チューリップ模様のような仕覆に入った小振りの茶入、萩の茶碗、
素晴らしいお道具をご用意されて、楽しませていただきました。
古袱紗は赤い荒磯緞子、亡きお母様の形見のお品だとか。
きっと何処かで喜んで、ご亭主を見守っていたことでしょう。

半東のYさんのお点前で、薄茶を頂戴しました。
Yさんにお目にかかるのも蓮見の朝茶事以来です。
あの時のお軸「清流無間断」のように、
皆様とご縁が続いていることがとても嬉しいです。

初々しく真摯なお点前、お心がこもったおもてなし、
チームワークの素晴らしさが清々しく思い出され、
心と体がほのぼのと温まるお茶事でした。

                      

茶箱三昧 ?

2009年08月21日 | 稽古忘備録
八月の稽古の課題は茶箱です。

裏千家流では、雪、月、花、卯の花、和敬、色紙、
全部で六種類の茶箱の点前があります。
和敬点を除いて、拝見ありとなしがありますので、
全部で11通りでしょうか。

それを八月に集中して全てお稽古してくださるとのこと、
八月はのんびり・・と思っていましたが、吹っ飛びました!

自宅の稽古だけでは心もとなく、茶友のKさん宅で
点前を分担して、一日中、合同稽古?しました。

「茶箱はお支度ができれば、半分はできたと同じそうよ」
・・・むむっ・・なるほど納得です。
合同稽古のお蔭で、それぞれの点前の特徴も掴め、
茶箱の楽しさを感じはじめました。
「Kさん、ご協力ありがとう!楽しかったね」

六種類の中で、雪点前は私にとって思い出深い点前です。
四国遍路の折、雪点前にて御堂で献茶し、
茶箱を持参したおかげでいろいろな方と自然体で
交流することができました。

月点前は、香、器据やウグイスの扱いなどがあり、
優雅で大好きな点前です。
「月の夕去りの茶事」にどうかしら?・・考慮中です。

色紙点。これが目下の課題です。
御所籠に入ったセットが高価なので、なかなか買えません。
色紙点を半ばあきらめていましたが、今度はそうもいきません。

「どうしょう?」と考えていたときに、
あるブログで色紙点の道具の写真を拝見して
「これだ!」と思いました。

茶箱は旅行カバン?(PELICAN 1300 亜米利加製)です。
中にその方(Dさん)が集められた珠玉のお道具が詰っていました。
しかも、一客一亭の茶事や旅先での茶会を色紙点でなさっていました。

茶杓はご自作で銘「海揚がり」。
茶巾入は錨文砲金凾(英吉利製)、
振出しはギヤマンインク壜(英吉利製)

海の香りのするお道具揃いです。

Dさんからメールをいただきました。
旅行カバン?と思った茶箱(PELICAN 1300 亜米利加製)は、
ヨット乗りたちがカメラなどを収めて運ぶ、
プロ仕様防水・対衝撃性のプラスチック製ケースだそうです。

今は、お気に入りの入れ物(茶箱?)や道具との出会いを信じて、
時間をかけて揃えたいと思っています。

                         

三渓園 春草廬 (2)

2009年08月19日 | 三溪園&茶会
春草廬は三畳台目の茶室です。
有楽作の国宝「如庵」は二畳半台目ですから、
半畳ほど広くなっています。
夏の公開中なので、障子は開けられ、一部外されていました。
九つの窓と床が開放的な空間を作り出しています。

夏は 涼しく
風が 窓から窓へ
戯れながら吹き抜けて
季節の匂いを運んだことでしょう。

冬は 小間ゆえ温かく
障子に差し込む淡い光は、
色や影のうつろいを
朝な夕なに映したことでしょう。

刀掛けがにじり口近くにあり、
ガイドのAさんに教えていただくまで
「これは何なのかしら?」と思うほど簡単な作りでした。
台目席が見にくく、かろうじて釣り棚が見えました。

今回の公開で、春草廬に近づくことが叶いましたが、
茶室はそこに座して一服の茶を味わってこそ、
その良さがわかるのでは・・・と思いました。
重要文化財ですが、貸出施設となっていますので、
茶会などして使いながら桃山時代の茶室を味わいたいものです。

春草廬の周りに配置されている石や石造物が見事です。
露地の苔むした手水鉢は、京都天竜寺にあったもので、
禅僧・夢窓国師の手洗い石と伝えられています。
広間の方には、四方仏が浮彫りされた石に水穴を穿った
手水鉢があります。

他にも奈良東大寺・大仏殿の礎石であったと伝えられる伽藍石、
奈良海竜王寺付近で出土した大きな石棺、法華寺付近で
出土された舟形石棺蓋などが置かれています。

春草廬には一本の大銀杏があり、黄葉に埋め尽くされて、
これらの石が生き生きと存在感を主張しだす、
秋の終わりもステキです
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          写真は「春草廬」と「夢窓国師の手洗い石」