暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

茶事のサウンド・スケープ (6)  銅鑼と喚鐘

2009年10月31日 | 茶事のサウンド・スケープ
亭主から中立をお願いすると、正客は
「用意が整いましたら、どうぞ鳴物でお知らせを・・・」

「鳴物」には通常、銅鑼または喚鐘が使われます。
三味線、琴、尺八、笛、鼓なども趣向によっては
使われるようですが、未だ経験はありません。
いつか経験したい、使ってみたい・・と思います。

陰陽で言えば、鈍く低音の銅鑼は陰、高音の喚鐘は陽です。
「鳴物」で案内をする場合、陰陽でどちらを使うかを決めます。

例えば、正午の茶事は昼間(陽)行われるので、
鳴物は陰の銅鑼です。
夜咄や夕去りの茶事では中立は夜間(陰)なので、
陽の喚鐘を鳴らします。

お招きを受けた正午の茶事で、
途中で雨(水・・・陰)になりました。
その時の鳴物は喚鐘でした。
思いがけない喚鐘の音色に一段と風情を感じ、
「雨もまたよし~」と思ったことでした。

夕去りの茶事が好きでよく致しますが、
手燭交換をしたいのでいつも迎え付けに出ます。
それで、喚鐘は夜咄の茶事で一度鳴らしただけです。

雨の喚鐘の趣が忘れられません。
「喚鐘をもっと使うようにしよう・・・」
と書きながら思いました。

銅鑼の音、いいですよねぇ~。
毎回、とても楽しみに聴きます。
寺社にある鐘と同じで、銅鑼によって音色がちがいます。
それに、余韻の長さも・・・・・・。

音も大事ですが、心したいのは打ち方でしょうか。
裏千家流では銅鑼は七つ、喚鐘は五つ打つのが基本ですが、
流派やご指導の先生によって違うようです。

私は、客が五名までは大小中中大の五つ、
六名以上は大小大小中中大の七つを打つように
習いましたので、今はそのようにしています。

音の大きさの打ち分けは実際にやってみると
なかなか難しいものです。
間合いは、最初の大でお客さまは腰掛から立ち、
つくばって銅鑼を聴くので少し長くとります。
それから、小を打ち、少し開けて中・中を2回打ち、
間を開けて最後の大を打ちます。

  大・・・小・・中・中・・大
  大・・・小・・大・・小・・中・中・・大

小さめの銅鑼でも打ち方(音の大きさと間合い)が
良いと、心に響く味わい深い音色に聞こえます。

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茶事のサウンド・スケープ (5)  懐石

2009年10月30日 | 茶事のサウンド・スケープ
懐石は茶事の楽しみの一つです。
亭主は懐石中のいろいろなサウンドに
耳を傾けています。

懐石中に茶道口の襖が三度閉められます。
その間亭主は、中の様子を音で判断して、
運び出す間合いを計ります。
「お箸お取りあげを」で襖を閉めます(一回目)。

最初の一献は、一文字と汁を食べ終わった頃に
お出しするのがベストです。
飯碗と汁碗の蓋を閉める音が聞こえたら、
すぐに持ち出すようにしています。

「水屋にてお相伴させていただきます。
 御用の時はお手をお鳴らしください」
と言って襖を閉めます(二回目)。

相伴の時間は10分から15分位でしょうか。
「和やかに歓談しながら召し上がっていらっしゃるかしら?」
席中の会話や様子を水屋で聞きながら相伴します。
手を鳴らす音がして酒の追加を頼まれることもあります。

器を茶道口へ返す音で襖を開けるタイミングを計りますが、
用事もあり、しばしばこの音を聞き逃します。
その時は時間を見て襖を開けています。

「水屋にて相伴いたしましたが、お口に合いましたか?」
「とても美味しく頂戴しました」(ニッコリです!)

湯斗と香の物が出て、懐石も終わり近くなりました。
「お湯が足りないようでしたら、お手を鳴らしてください」
と、襖を閉めます(三回目)。

そういえば、
「タクアンを音をさせずに食べるように・・」
と、ご指導を受けたことがありました。
皆で高らか?に音をたてて食べながら
「タクアンを音なしなんて無理よねぇ~」

タクアンに隠し包丁を入れて、音なしで食べれるように
工夫されていれば大丈夫です。
隠し包丁なしだったら
「どうぞ音をたててお食べください」ということかしら?

湯漬けを食べ終わった頃を計らい、
亭主は襖の前に座り、音を待ちます。
お客さまは正客に合わせて箸を落します。
箸の音で、一呼吸おいて「サッ」と襖を開けます。

このタイミングが空くと、間が抜けた感じになるので、
懐石中の音のポイントだと思っています。

「お粗末さまでございました」
「ご馳走さまでした!」

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茶事のサウンド・スケープ(4)  点前

2009年10月28日 | 茶事のサウンド・スケープ
濃茶点前で竹の蓋置に柄杓を引く時の
「カッ」という音が好きです。
「喝」に通じるように聴こえ、
身が引き締まる思いがするからです。

高からず低からず、良い音を出すのは難しいことです。
師匠から稽古でも水屋で竹の音を吟味して、
蓋置を決めるくらいの心構えで・・と言われたことがあります。
なかなか出来ないことの一つですが、今でも忘れられないお言葉です。

茶筅通しで茶筅を三度打つ音は「ラン パン ウン」。
真言密教の「灑(しゃ…はらう)水」の礼に由来した
浄めの意味があるそうです。

ラン(火)は六根清浄の義、
(六根とは眼耳鼻舌身意 げんにび ぜっしんい)
パン(水)は水火不散の義、 
ウン吽(風)は風火のよく塵を払うの義

そんなことを考えると、茶筅通しの気持ちも姿勢も改まりますね。

柄杓で湯水を汲む時のかすかな音。
釜や茶碗に注ぐときの湯水の音も味わいの一つです。

盛夏の「洗い茶巾」の点前は、見た目の清々しさとともに、
水音を聞かせて涼を演出します。
茶巾を取り上げて水音を聞かせ、茶巾を絞りながら聞かせ、
茶碗の水を建水へ捨てるとき、
それぞれ違った趣の水音をさらりと楽しみます。

それから釜の音。
炭手前で、釜の蓋を閉める時や切る時、釜環を掛ける時
裏千家流ではなるべく音がしないようにいたします。
流派によってはわざと釜の蓋がすれる?音を聞かせると
お聞きしたことがあります。
いろいろあって面白いですね。

釜といえば釜鳴り。
炭をついで湯が沸いてくると、釜の内側にあるピンホールに
湯や蒸気が入って、「ジッ・・ジ・・」という音が聞こえてきます。
これが釜鳴りです。

鳴かねという特別のものを釜底につけている釜もありますが、
芦屋や天命の古釜にはついていないそうです。
釜鳴りの音色は釜の個性と思いますが、
茶席ではこの音も味わいの一つです。

心地よい音は、松林を吹きぬける風に喩えられ、
「松風」といわれています。
低い音は「雀舌(じゃくぜつ)」とか
「怒涛(どとう)」などと表現されるそうですが、
やはり「松風」がいいですね。

火相、湯相がどんぴしゃりと決まり、
「松風」が聞こえてくると、点前座の亭主はホッとします。

しばし「閑座聴松風」をお楽しみください・・・。

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茶事のサウンド・スケープ (3)  にじり口の戸

2009年10月08日 | 茶事のサウンド・スケープ
お客さまが茶席に入る時、
にじり口より頭を低くしてにじって入ります。
最後のお客さま(お詰)が入り、にじり口の戸を
軽く「音」を立てて閉めます。

茶道口近くで様子をうかがっている亭主は、
この「音」でお客さまが全員席入りしたことを知るのです。

亭主は茶道口の襖の前に座り、
衣擦れや摺り足の音を聞きながら、
座がおさまるのを待ち、ご挨拶の間合いを計ります。
私は、「さぁ、行きます」と、
気合を入れてから一呼吸おき、襖を開けます。

中立で、再びお詰はにじり口を軽く音をたてて閉めます。
その音を合図に亭主は後座の席中の支度にかかります。
後座の席入りが終わった合図もにじり口を閉める音です。

さあ、いよいよ濃茶です。
襖の前に茶碗を置いて心静かに座し、
間合いを計って襖を開けます。

この濃茶前の一時がとても好きで、大事にしています。
支度に追われてゆとりがない時ほど、気持ちを集中して
静かに座す一瞬が必要な気がしています。

茶事が進行し最後の挨拶が終わり、
「どうぞ、お見送りなきように・・・」
「最後までお心遣いいただき、ありがとうございます・・・」
主客はお別れの時が迫ったと、
万感の思いを胸に最後の言葉を交わします。

亭主は礼をして襖を閉め、茶道口で音を待っています。
にじり口の戸を閉めた音で、煙草盆を引き、
すぐに見送りに出て、主客とも無言で礼を交わします。

茶友のYさんは
「茶事の中でこの場面が一番好き!」
 と言います。
「お見送りなきように・・・」と言われながらも、
それでも亭主はお客さまの後ろ姿が見えなくなるまで、
見送らずにはいられない・・・。

茶事の心が凝縮される一瞬でしょうか。

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茶事のサウンド・スケープ (2)  蹲の水

2009年10月06日 | 茶事のサウンド・スケープ
お客さまが腰掛待合で亭主の迎え付けを待っています。

亭主は水桶を運び出し、蹲(つくばい)の横にある湯桶石に置きます。
柄杓で蹲の水を植木や石にかけ周囲を清めてから、
水を一杓汲み、手を洗い、口をすすぎ、身を清めます。

それから、水桶の水を「ザッー」と音高く蹲に注ぎます。
滝のような清浄感、爽快感を思わせます。
この音を腰掛待合のお客さまは聴きつけて、
迎え付けが近いことを知るのです。

茶事でよくお借りする翆晶庵は、ビルの1階を
素敵な茶席に改造しています。
外露地と内露地にそれぞれ蹲があり、
雨のとき、小間使用のときは
内露地にある筧から水が流れ落ちる蹲を使います。

筧のある蹲では水桶を使わないので
水桶の音の爽快感はありません。
その代り腰掛待合で水音を長く楽しむことができます。

二つ蹲があると失敗談もあります。
急に雨が降ってきて、内露地の蹲を使うことに変えました。
頭の方が切り替わらずに水桶を持ったまま出てしまいました。
蹲まで来て、水桶がいらないことに気づき、戻りました。
持って出てしまった場合は、たとえ筧があったとしても
水を入れた方が良かったかしら?・・・あとで思いました。

水の持つ力でしょうか?

ビルの中の腰掛待合でも筧の水音に耳を澄ませると、
世俗の塵が次第に払い落とされ、
深山幽谷の静けさを、あるいは曼荼羅浄土の別世界を
思い起こさせてくれます。

あるお客さまは筧の水音を聞きながら、
「日頃、仕事の忙しさに追われていましたが、
 こんなに心静かな過ごし方があるのですね。
 水音が、忘れていた大事なことを気づかせてくれました」

亭主も客も蹲の水で身を清め、世俗の塵芥を洗い流し、
心新たに席へ入ります。

   蹲の音を待ちつつ腰掛けの
      何処からともなく鈴虫の声

           (夕去りの茶事のお客さま 2008年9月)

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