暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

蓮華院・名残の茶会 (4)銅鑼を打つ

2011年10月28日 | 三溪園&茶会
蓮華院・名残の茶会もいよいよ最後になりました。

茶入、茶杓、仕覆、棗が道具畳に並べられました。
茶入は、一昨年のGWに唐津で出会った朝鮮唐津の胴締
鏡山窯の井上東也造です。
仕覆は、茶入に添っていた小真田付吉野間道です。

茶杓は、藤井誡堂和尚の「たんぢょう(誕生)」です。
実は銘「たんちょう(丹頂)」を読み変えて遊んでみました。
平大棗は、輪島の宗水作、扇面に花野の蒔絵です。

どれもご縁があって手元にやってきた、身の丈に合った可愛い道具たち。
今、一つひとつ「ご苦労さん」と言って撫でてあげたい心境です。

                    
                    (竹 葉々起清風) (季節の花300)               
はや最後のご挨拶になりました。
言葉にならないもどかしさを感じながら、お正客様はじめお客様全員と
一言ずつ挨拶を交わしました。
( いろいろお世話になりありがとうございました。
 共に元気で、またお会いいたしましょう
 いつまでも名残はつきませんが、本日はこれにて・・・)

退席されたお客様が外で送り礼を待っていらっしゃいます。
送り礼に代り、銅鑼を打ちました。
万感の思いを胸に
    大・・小・・大・・小・・中・中・・・大・・・・


・・・こうして、蓮華院・名残の茶会は終わりました。

                   
                         (蓮華院の土間)
茶会と拙い席主を温かく支えてくださった、
半東のKさん、香席のIさん、
案内兼水屋の長野珠己さん、水屋のSさん、
ありがとうございました!
終了後、蓮華院茶席で御茶一服差し上げられてよかったです。

                             

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蓮華院・名残の茶会 (3)花と薄茶

2011年10月26日 | 三溪園&茶会
煙草盆、干菓子が運ばれ、Kさんの薄茶点前が始まりました。
しばらくして替え茶碗を持って席へ入りました。
濃茶では静かに拙い点前を見守ってくださったので、
お正客さまよりいろいろお尋ねがありました。

数珠玉と野紺菊をひさごの花入にいれました。
花のテーマは、「祈りと再生」でしょうか?
可憐な野紺菊に野生のエネルギーを託して・・・。

花は最後まで迷っていましたが、Sさんの茶花の話にヒントを頂き、
蓮華院には数珠玉がふさわしいと捜しました。
近所の畑で見つけたときの嬉しさ・・・。
数珠玉をよく採りに行った幼き日の思い出をお客さまとお話ししました。

                  

風炉は唐銅の道安(一之瀬宗和造)、
釜は桐文車軸釜、桃山から江戸初期の伊予芦屋釜の写しで、
和づく釜の釜師・長野新氏に特注したお気に入りです。
繊細な総糸目になっていて、胴を団扇形に抜いて桐文が格調高く描かれています。
優雅さと粋を感じる風炉釜です。

水無月の茶事に続いてお披露目するのは二回目ですが、
和づく釜は使い込むほど味わい深い釜肌になるそうで、
使い育てるのが楽しみです。

                  

棚は円相棚、水指は高取焼です。
円相棚はどこの流派の棚かわからなかったのですが、
煤竹が使われていて詫びた雰囲気が気に入っています。
お客さまから煎茶の棚のようだと教えられ、調べてみようと思っています

蓮華院の歴史、お道具や京都行きのことなどを楽しくお話ししている間に
薄茶が点てられ、続き薄茶なので次客さまからのんで戴きました。

薄茶の茶碗に、今の心境を託してみました。
主茶碗は利陶造の志戸呂焼、形が州浜のように少し変形しています。

長年の念願かなって京都(京焼)へ向けて準備中ですが、
横浜(神奈川焼)にも未練があって、
ちょうど真ん中の静岡(志戸呂焼)あたりでうろうろ
・・・といったところです。
替茶碗は神奈川焼・井上良斎造の「うずまき茶碗」、
四客さまの茶碗は、京焼の三代三浦竹泉造の祥瑞にしました。

                  
                  

この日(10月16日)は前線の通過後で、くもりのち晴れ。
30℃近くまで気温が上がり、蒸し暑い日でした。
横浜三溪園の紅葉はまだまだ先のようですが、
もう一服、紅葉の数茶碗で薄茶を愉しんで頂きました。

                            のち 

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蓮華院・名残の茶会 (2)而生吾心

2011年10月25日 | 三溪園&茶会
                     ( 竹林の中の茶室 蓮華院 )

お正客さま、次いでお客様全員と挨拶を交わしながら、
日々の稽古、花月の修練、茶事の主客、懐石、茶会の水屋など、
共に過ごしたワンシーンがフラッシュバックしていきました。
もう二度と戻れない大切なシーンの数々。

床の軸は「応無処住而生吾心(おうむしょじゅう にしょうごしん)」。
読み下しは、応(まさ)に住する処を無くし 而(しか)もその心を生ずべし。
筆は足立泰道老師、茶会のために書いていただきました。

昨年の茶飯釜の茶事で、松永耳庵翁の筆なるこの禅語に出合ったとき、
心の奥で深く感じるものがありました。
師匠や茶友に恵まれた今の環境を離れて、京都へ旅立つ・・・
まさに「応無処住 而生吾心」。

心をとらわれることなく、あるがままに自由自在にその心を向けよ
「金剛経」の一節です。
                  
                  
琵琶床には観世音菩薩と渦模様の釜敷に一蓮弁香合。
その昔、道元禅師を水難から救ってくださったという一葉観音にご臨席賜りました。
蓮華院に集ってくださった皆さまの安らかな人生行路を願って・・・。

緑と金の彩色が鮮やかな一蓮弁香合は、
明治末に東大寺大仏殿の修復古材で作られ、鉄光作です。
三溪園の茶会には、創設者・原三溪翁に敬意を表して一蓮弁香合を使っています。

                  

主菓子を運び出し、襖を閉めました。
いよいよ濃茶です。
美味しい濃茶を・・・そう思うと胸がドキドキしてきました。
姿勢を正し、緊張感を持って、いつも通りの点前を心がけたつもりですが・・・。

重茶碗で二服お点てました。
(お服加減はいかがでしたか?・・)

濃茶は伊藤園の万歴の昔。
主菓子は栗きんとん、和作製(横浜市旭区)です。
先の茶碗は黒楽、長次郎の喝喰(かつじき)の写しで、昭楽造です。
後の茶碗は大井戸(一行釜)、
小林芙佐子先生に仕立てて頂いた古帛紗「紺地吉祥文金襴」を添えました。

茶碗が戻り、お正客様へ
「刻限が過ぎましてはご迷惑と存じますので
 続いて薄茶を代点にて差し上げます」
と型どおりの挨拶をし(舌がもつれました・・)、
茶碗、建水を引いて、半東のKさんに薄茶をお願いしました。

                              

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蓮華院・名残の茶会 (1)香席

2011年10月22日 | 三溪園&茶会
                       (三溪園 臨春閣)
10月16日(日)に三溪園蓮華院で名残の茶会をしました。

蓮華院で残り少なくなった茶の時季を愉しんで頂くとともに
来春、一時横浜を離れ、京都へ行く予定があり、
ご指導頂いた先生方、親しみ励んだ茶友との名残の一会でもありました。

どんよりした曇り空の下、三溪園へ着くと、
正門前には車と着物姿の女性がずらり並んでいます。
茶会シーズンで淡交会横浜支部茶会があるとか・・・。
8時30分に開門し(茶会当事者のみ)、各茶席に別れて準備を始めます。

蓮華院水屋では、スタッフ五人が運び込まれた荷物を解き、
役割に応じて支度を始めました。
半東のKさんは一番に運ばれた風炉で灰形を整えています。
Iさんは火を熾し、香席の準備をしています。
案内兼水屋のNさんは動線や蹲を確認し、茶を掃いています。
水屋のSさんは荷を解きながら湯を沸かし、
水屋を使いやすいように整えてくれています。
そして、私は本席である広間の設えです。

               
                        (三溪園 蓮華院)
茶会は第一席が10時~12時、第二席が13時~15時、
各席八名さまです。
準備開始1時間が経ったころ、最初のお客様がいらっしゃいました。
Nさんが小間(二畳中板)の寄付へご案内し、そこから土間の待合へ。

広い土間は最も蓮華院らしい魅力的な空間で、簡素な椅子席を用意しました。
真ん中にある大きな円柱は宇治平等院翼廊の古材、
三溪翁の自筆「蓮華院」という扁額が掛かっています。
円柱の奥に半間四方の石の露台(ろだい)があります。
露台とは方(宝)形造の建物の屋根の頂きに置かれる部材だそうです。
露台を囲んでIさんに香席をお願いしました。

               
                 (蓮華院 土間にある露台)
               
                           ( 香席 )
明かりとりの窓はありますが、扉を閉めると薄暗く、
まるで寺院にいるような荘厳な別世界となりました。
Iさんが香炉の灰を整え、お客様はIさんの手元を静かにみつめます。

茶の点前のように無駄のない所作で灰筋を入れていくのですが、
真行草があるそうで、今回は草です。
試しの香を聞いてから、香炉がお正客へ回されました。
順次手渡しで、香をゆっくり聞いて頂きました。

香の十徳(伝・一休宗純作)より
   感格鬼神  清浄身心 (霊魂や神と感応をし、心や身体を清める) 

香は伽羅、香銘は三夕の一つ、藤原定家の歌から「浦の苫屋」です。

    見渡せば 花も紅葉もなかりけり
        浦の苫屋の 秋の夕暮    藤原定家

                 
                        (蓮華院の風流な蹲)

扉を開けて、半東のKさんが迎え付けです。
土間席前の蹲を使って、広間へ席入して頂きました。

    (蓮華院・名残りの茶会(2)へつづく))       その日は のち 



   

隣花苑の蓮華飯

2011年09月18日 | 三溪園&茶会
              
9月16日に蓮華飯(れんげはん)を食べに隣花苑へ行きました。
偶然ですが、原三溪翁の月命日でした。

七月の終わりとは違い、残暑の中にも秋の気配が漂っています。
白い芙蓉、紅白の萩、ススキ・・・
野趣豊かな庭に咲く花々も風情がありますが
一歩中へ入ると、古民家の持つぬくもりと懐かしさが満載。
それに部屋のしつらえがとても素敵なのです。

燈明寺三重塔が見える座敷が予約できてラッキーでした。
親しい友人と秋色の庭や空を眺めながら、料理に舌鼓を打つひと時・・・
めったにない貴重な時間です。

                
                
                

鎌倉円覚寺四ツ頭之式を思い出させる、朱の丸い足高膳、
その上に次々と運ばれる器も吟味されていて料理が映えています。
季節の野菜を中心にしたヘルシーな料理は、
一皿一皿が一味ちがう工夫がされていて、
みな主婦(つくる人)なので材料や調理法まで探究しながら賞味しました。

三溪そばと蓮華飯は原三溪翁が考案した名物料理です。
三渓そばは特注の細いうどん麺を乾煎りしているそうで、
しっかりした歯ごたえです。
錦糸たまご、味噌風味の豚ひき肉、長ネギ、椎茸などが乗っていて、
見た目も味も中華風なのが特徴です。

                

最後に運ばれてきた蓮華飯は三渓そばと対称的でした。
蓋をあけると、白飯に青紫蘇の千切りがたっぷり載り、
薄緑の蓮の実が十数個ちりばめられて、出汁が掛けられていました。
とてもシンプルで清々しい第一印象でした。

蓮の実を一つ食べてみると、淡白な味の中に幽かな苦味がありました。
でも、ご飯や汁と一緒に茶漬けのようにサラサラと食べると、
全く苦味がなく、薄い塩味の出汁にとけ合って絶妙な味わいでした。
今まで食べたことのない逸品、それが蓮華飯でした。
全員がその端麗で爽やかな味わいに魅せられ、異口同音に
「朝茶事にぴったり!」

松永耳庵が蓮華飯を食べた時の驚きが実感できました。

  「其香味歯牙を爽やかならしめ思はず数椀を傾けた・・・」

女将の西郷槇子さんが挨拶に見えられ、蓮の実は四度皮を剥いて、
あく抜きするので下拵えに手間がかかる話や出汁の秘密など、
いろいろ話してくださいました。
帰りに乾燥した蓮の台をおみやげに頂きました。

毎年、7月末から9月に季節限定の蓮華飯だそうですが、
来年も食べたいわね・・・と話し合いながら、三溪園へ移動しました。