暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

名残の茶事・・・同じ心の友からと (2)

2012年10月26日 | 思い出の茶事  京都編
初炭となり、気になっていたお釜をお尋ねすると
「作者はわかりませんが、釜の形は束柴でございます」
やつれぶりが好ましい風炉と詫びた釜の取り合わせに感じ入り、
炭道具に見とれていましたら、
ここで初炭所望となり、不肖、暁庵がさせていただくことに・・・。

改めて藁灰を敷いた風炉中を拝見しながら、下火を直すと
藁灰の燃える匂いが立ち上り、稲わらを燃やす秋の光景と重なって、
一層秋の深まりが感じられます。
西国札所・圓教寺(?)古材で作られた香合がお似合いでした。

中立をし、銅鑼の音に耳を傾け、後入りしました。
床には秋の草花が溢れるように背負い籠に生けられています。
矢筈ススキ、紅白の水引、白秋明菊、ホトトギス、白桔梗、
桜蓼(写真1)の七種でしょうか。
みるみる三畳の小間に秋野の風景が広がっていきました。

              
                         ホトトギス

濃茶点前が始まりました。
初炭をしたので案じていましたが、火相湯相も良さそうでホッとしました。
高麗の詫びた茶碗で濃茶を美味しく頂戴しました。
添えられた古帛紗は堺更紗、模様と色合いがシックでステキです。
更紗好きとしては嬉しく使わせて頂きました。
まろやかな濃茶は丸久小山園の慶知の昔です。

一つまた一つと、手元に集められた道具との出会いの物語が楽しく、
子供のように聞き惚れ、それらの道具たちに魅せられました。
古丹波の茶入と手づくりの仕覆、すすきが画かれた爽やかな水指・・・。

後炭では座掃きはありませんが、初炭の時に忘れたとかで、残念に思い、
座掃きを所望させて頂きました。こんなハプニングも愉しいです。
そして・・・いつも思うのです。
サラサラ何事もなく進む茶事より、多少デコボコがあった方が楽しいし、
ご亭主の個性あふれる趣向やハプニングはいつまでも心に残る茶事になると。

              
                   ススキの穂  白沙村荘にて

薄茶になり、煙草盆と干菓子が運びだされました。
一人亭主で煙草盆を用意するのはとても年季のいることですが、
ついつい省略してしまう暁庵と違い流石でして、とても刺激になります。

薄茶は、二つのステキな茶碗を鑑賞しながら二服ずつ頂戴しました。
主茶碗は、時代を感じさせる御本手の名椀、持ち帰りたい一つでした。
替茶碗は、粟田焼の作家さん(名前が・・)で、なかなかの魅力です。
最後に、ご自服して頂き、棗と茶杓の拝見です・・・。

心を合わせ、ものがたりして過ごした名残の茶事も
こうして終わりとなりました。
ご亭主さま、Hさん、Kさん、ありがとうございました。

帰りの高速バスの時間が迫っていて、拝見したいものばかりの
調度や骨董を横目で見ながら、Kさんの車でバス停へ向かいました。
渋滞に巻き込まれ、京都の自宅へ8時半着となりましたが、
「また皆でものがたりできたら・・」と思いながら書きとどめています。

                                 

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名残の茶事・・・同じ心の友からと (1)

2012年10月24日 | 思い出の茶事  京都編
                   一面のセイタカアワダチソウ

10月21日、JR高速バスに乗り、西を目指しました。
紅葉にはまだ早いのですが、野一面の黄色いセイタカアワダチソウの花や、
秋風に揺れる谷戸のススキの穂波が目を楽しませてくれます。
ある町でバスを下り、相客のHさんとKさんと無事合流でき、安堵しました。

11時30分、約束の時間に何とか間に合い、辺りを見まわすと、
初めて伺うGさん宅は、趣のある古い箪笥や調度、骨董品がさりげなく
置かれていて、ゆっくり拝見したいものばかりです。
寄付には、薄い紫色に花模様が優美な、大正浪漫の付け下げが
衣紋掛けに掛けられていて・・・思えば、ここから始まりました。

             
               雰囲気が似ている大正浪漫の着物

支度を調え、待合へ入って床の掛物を拝見、
最初に大きく書かれた「友」と最後の「大綱」だけ何とか読めました。
紫野大綱和尚の筆で、心惹かれる和歌が短冊に書かれていたことを
あとでご亭主から教えられ、今日の茶事の表題(心)といたしました・・・。

     友   我がいほに 同じ心の友からと
         つきゆきはなの ものかたりせむ   大綱

ワレのある根来塗の煙草盆、灰が整えられた火入にも心躍りました。
火入は、揖保川焼の池川みどりさんの作で、
赤楽のような暖かい色合いの胴に良寛さんの歌が書かれています。
たしか(?)
  
  形見とて、何残すらむ 春は花 夏ほととぎす 秋はもみじ葉

             
                     秋はもみじ葉

寄付の着物とよく似た、優雅な古典柄の着物をお召しのご亭主と
無言の挨拶を交わしました。初めての御目文字でした・・・。   

席入りすると、本床には紫野大亀和尚筆で「一期一会」、
点前座には、鉄のやつれ風炉に濡れ釜、
縦じわのような釜筋に水が溜まって、美しくも清々しい風情でした。
「名残り」の一会にふさわしく、風炉には黒々と藁灰が敷かれていて
お心入れに感激一入でした・・・。

藁灰はつくるのも、風炉中に並べるのも、とても手間のかかることで、
暁庵は一度やったきり、その大変さに身震いしてやっておりませんの。
名残の茶事で風炉の藁灰を拝見したのはその時以来かと・・・。

               
                 雁がね草   季節の花300提供

Kさんによると、伺うたびに茶室がどんどん変わったそうですが、
八畳和室から始まって、蹲を工夫し、三畳小間の茶室を改築するなど、
進化させていったというご亭主のお話しは面白く興味深いものでした。

懐石はぜんぶ手づくりでなさいました。
煮物椀の卵豆腐の柔らかさ、初松茸に舌鼓し、イチジクの揚げ物も珍しく、
ヌカ漬け談義に耳を傾け、嬉しく三人で賞味させて頂きました。
骨董屋めぐりやネットで入手されたという懐石道具は垂涎の的で、
三人三様の寄せ向うにも話題沸騰です。
                                   
               (2)へつづく



左京区カフェ探検  みもざ荘

2012年10月22日 | 京暮らし 日常編
八月頃から気になっていたカフェがありました。
自転車で通りがかり、偶然発見した「Tearoom みもざ荘」です。
看板があるのでカフェらしいのですが、洋風の普通のお宅です。
どうやら、お店は右手奥の方にあり、「close」の札が掛けられていました。
それから何度か訪ねたのですが、いつも閉まっていました。

                 

9月半ばになって「みもざ荘」へPさんと探検に出かけました。
あいにく予約がありランチは売り切れでした。
あきらめきれず、紅茶とケーキをお願いすると、オーナーの女性が
「せっかくランチにいらしてくださったのにごめんなさい。
 メインディシュは無いのですが、スープ、サラダ、トーストの
 簡単なランチをお出しできます。紅茶とケーキを含めて1000円です」
「それをお願いします!」

                 
     
                              

・・・その時は、ランチも紅茶とケーキも美味しく、満足したのですが、
あれから1ヶ月が経ったある日、Pさんと再びランチをリベンジしました。
今度は午前中に予約して出かけました。
10月から表に花屋さんが開店して、前庭にもハーブや花木の鉢が置かれ、
外見がだいぶ変わりましたが、奥の「みもざ荘」はそのままでした。

前庭に大きなミモザの木があったので、「みもざ荘」と名づけたとか。
みもざの樹齢は15年前後と短く、今は二代目の若木です。

                 

                 

ドアを押して入ると、そこはイギリス風のお部屋になっていて、
ストーブにはハローウィンの南瓜が飾られています。
オーナーのご主人がイギリス大好きで、コツコツとお店を今のように
造って行ったそうで、家具やインテリアもイギリスの香りが満ちています。
本箱には、ジェーン・エアの映画のパンフが置かれていて、
この部屋で大好きなブロンテ姉妹の本を読みたくなりました。

                 

ランチは毎日六食、予約の場合は十食まで用意できるそうで、
この日は小カブのクリームスープ、メインディシュはイギリス名物・スコッチエッグ、
どちらも美味しく頂きました。(写真をクリックすると少し大きくなります)

                 

食後は、紅茶か珈琲と、自家製ケーキが選べます。
Pさんはリンゴのタルト、私は秋のケーキ(栗、サツマイモ、葡萄入り)、
そして珈琲を注文し、ランチ代は1400円でした。

                 

その日は、なんと!二人だけの貸切でした。

みもざの花言葉は「友情」だそうですが、Pさんとランチを愉しみ、
お手製のケーキと薫り高き珈琲を味わいながらの尽きない会話、
静かに流れる時間・・・
ここを訪れる多くの人たちはそんなひと時を慈しんで、
友情を育てているのでしょうね。
                                 &  

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    Tearoom みもざ荘
    〒606-8265 京都市左京区北白川東小倉町36-2
     電話 075-888-1566
     営業時間 11時~18時ころ
     定休日  水曜、木曜日、最終金曜日


北村美術館 「追憶の茶」

2012年10月20日 | 美術館・博物館
どこからともなく金木犀の香が漂ってくる秋の日の午後に、
ぶらりぃ自転車で北村美術館へ向いました。
9月25日~12月9日まで秋季取り合わせ展「追憶の茶」が開催中です。

9月28日の夕去りの茶事で茶入「廣澤」写をつかったので
遅ればせながら本歌「廣澤」を観ておきたいと、出かけたのですが、
とても見ごたえのある展示でした。

             
                   (北村美術館・四君子苑)

「追憶の茶」は、無学祖元禅師の墨蹟「鎖口訣(さくけつ)」を中心に
蒙古襲来の当時を偲んで・・・と企画された茶会形式の展示です。

無学祖元禅師(1226~86)は、南宋時代明州慶元府に生まれ、
中国臨済宗の法を嗣ぎ、弘安2年(1279)に執権・北条時宗の招へいで来日。
鎌倉五山一位の建長寺第五世として住し、弘安5年、鎌倉円覚寺を開山、
仏光(ぶっこう)国師の諡号があります。

「鎖口訣」とは、言葉で説明できない仏法の真理を文字に記さず伝える秘伝
というのが本義だそうです。

墨蹟「鎖口訣」は、後半に段を下げて、次のように書かれているそうです。
   右の鎖口訣は 元軍の難を逃れて雁山能仁寺にいた頃の作であって・・・
   (中略)・・・「参同契」に倣って少しだけ自身の見解を述べたのが
   この鎖口訣である 時に弘安9年(1286)7月25日
   無学祖元 建長寺得月楼において書す

肝心の「鎖口訣」の真理の解釈は謎のままで、
どうも、「鎖口訣」自体が寸断されている・・・らしいのです。
墨蹟は読むものではなく拝むものである・・・とも言われるそうで、
これ以上の詮索は無用なのかもしれません。

             
               鎌倉・円覚寺の舎利殿(開山堂 国宝)

茶事形式の展示は、寄付、濃茶(小間)、続き薄茶、懐石(広間)、番外
と分けられていますが、濃茶(小間)のいくつかを記します。

  掛物   円覚寺開山 無学祖元筆  鎖口訣   関戸家伝来

  花入   鍍金経筒  鈍翁受筒添        益田家伝来

  釜    古天明   霰傘地文

  水指   南蛮内渋芋頭 ハンネラ・青磁蓋添   益田家伝来

  茶入   中興名物 広沢手 本歌 不昧公文添  酒井家伝来
        袋   萌黄地撫子金襴  丹地筋金入
             剣先緞子     紺地唐草龍紋金襴

茶入「廣澤」と念願の対面を果たしました。
釉薬のなだれが池の面に映る月影のようにも見て取れ、さすが本歌です。
四つの仕覆はどれも時代を感じます。
特に、剣先緞子は上部が擦り切れ、緑色の裏地が見えるほどで、
一番好まれたのでしょうか?

朽木近江守へ宛てた松平不昧の文が添えられているのですが、
文をやりとりの状況がわからず、首をひねっています。
   ・・・・(略)・・・・
   広沢の月の詠めも金なくて
   たゝやミくもの かひものにする
           正月廿三日 不昧
   竜橋公 用事

茶入「廣澤」の伝来は、小堀遠州-松平備前守-土屋相模守-朽木近江守-
姫路酒井家-大原三楽庵-北村謹次郎-北村美術館 です。

                 

他にも展示の番外で、仙涯義梵筆「望蒙古山詩」の掛物が印象に残り、
次の三つの裂地が垂涎の的でした。

   裂地  宝尽唐子遊緞子    松岡家旧蔵
   裂地  花兎紫地上代紗    前田家旧蔵
   裂地  萌黄地二重蔓牡丹唐草印金

最後に、鎖口訣が吊るされている棒のことですが、
「大徳寺棒」というそうです・・・やっと拝見できました。

                                 

追記)今回の展示は、木下収館長の深い洞察と思いが詰まっており、
    詳しくは「茶道雑誌 平成二十四年十月号 追憶の茶」(河原書店)を
    お読みください。

   「四君子苑」平成24年秋季特別公開 
       10月23日(火)~28日(日)11時~15時



奈良西大寺の大茶盛-2

2012年10月18日 | 献茶式&茶会  京都編
大茶盛が終わると、副席の薄茶席へ回りました。
一席目が終わったところで、待たずに入ることができました。
50名近い大寄せですが、中置(小板)の点前座がよく見える処に
座れてラッキーです。

袴姿の男性がお点前を始めました。
すぐに席主が茶道口に座り、一礼をしました。すかさずお正客より
「どうぞ、お入りを」
「失礼いたします」

私は目を見張りました。
茶事では当たり前の挨拶も、大寄せの茶会では正客と席主の間で
このようにきちんとした挨拶で始まる茶会は少ないからです。
「なんてステキなのでしょう!・・・私も茶会でかくありたいもの」
と密かに思いました。

TYさんのお話では、席主は九十歳になるそうですが、
茄子紺地に鹿と紅葉の刺繍のある御召し物が凛とした気合いを感じさせ、
張りのある大きな声で、丁寧に話される姿に深く感じるものがありました。
でも、心配なのでしょうね。
お孫さんとお弟子さんが影のように寄り添っているのが、
好ましく印象に残りました。

              

席主に見とれて、お道具を見落としましたが、一部留めておきます。

待合の掛物は、円能斎筆「一本菊の画」、
本席は、後嵯峨天皇第一皇子・中務卿の秋の歌仙切
   「松かぜのふくにつけても とはぬかな・・・・」
香合は、中務卿が琵琶の名手だったこともあってか、琵琶香合でした。

主茶碗は、赤楽 銘「大茶盛」(鵬雲斎箱書) 六代吉向造
薄器は、菊桐大吹雪(一燈在判、淡々斎箱書) 三代宗哲造
茶杓は、井口海仙自作 銘「紅葉狩」です。

               

点心のおそばを頂いてから本堂を拝観しました。

本堂に入ると、そこは別世界でした。
暗闇の中に灯篭の明かりが美しく照らし出され、
祈りの場にふさわしい荘厳な空間でした。

お詣りした本尊釈迦如来(重要文化財)は京都嵯峨・清凉寺様式で、
流れる衣紋や杢目が美しく、清らかなお姿です。
獅子に乗った文殊菩薩(重要文化財)も見ごたえがありました。

最後に四王堂へ行き、護摩祈願をお願いしました。
正面に十一面観世音菩薩、右手に地蔵菩薩のような錫杖を持っています。
両横には四天王(持国天・増長天・広目天・多聞天)が祀られ、
護摩壇では護摩木が焚かれ祈祷が行われていました。

正面の二本の柱に次のように書かれています。
  向かって右  観音妙智力能救世間苦
  向かって左  慈眼視衆生福聚海無量

私も心に浮かんだ願いと茶名を護摩木へ書き、ひたすら祈りました。
今日の席主のように、くじけずお茶を全うできますように・・・

                              

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