暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

お茶と断捨離

2020年08月22日 | お茶と私

   夜明け  (8月20日4時40分撮影)

 

遠く四国・宇和島市に住む裏千家流の先輩Kさまから最後(?)の段ボールが届きました。中に手紙が入っていました。

   残暑お見舞い申し上げます

   好物のカステラと水羊羹をありがとうございました。

   最後の「ガラクタ」を送ります。

   ご迷惑と存じますが、どうぞよしなにお取り計らいください。

   たくさんのご協力に感謝します。      Kより

 

お茶の師匠をなさっていた母上様を看取り、その後も母上様の茶友や後輩と月に1度の研究会を続けていました。その方たちも病気になったり、お亡くなりになったりして、3年前にその研究会を閉じられ、お茶の道具を少しずつ整理していったとか・・・。

Kさまのお宅に2度伺ったことがあり、1度はその研究会にお邪魔して茶室でお茶を頂いた思い出があります。母上様も研究会の皆様も元気にお稽古を積まれていて

「今日は横浜からお越し頂き、ありがとうございました。お客さまがいらしてくださって、皆さん、少し緊張していつもよりお稽古に気持ちが入っているようでした。またいつでもいらしてください」

90歳を超えてなおかくしゃくとお茶に対峙している母上様から嬉しいお言葉を賜りました。

あれから10年以上が過ぎ、母上様は白寿をお祝いした後にお亡くなりになったそうです。

 

 

コロナ禍の中でKさまは茶道具の断捨離を思い立ち、我が家に段ボールが次々と届くようになりました。

実は私も断捨離をしたい・・・とあこがれていたところでしたので、社中の方々にお声掛けをして有効利用していただくことにしました。すっかり片付いたと安堵していたら・・・

「最後のガラクタ」として段ボール3個が届いたので、もうびっくり!

中を開けると、釜と風炉、懐石名人だったという母上様遺愛の煮物椀や吸物椀、物相、飯器に加え、「日日是好日」のお軸や短冊など。あわてて電話しました・・・。

「あのお軸を掛けて、日常のお茶をまだまだ楽しんで頂きたい!と思いました・・・」

「アッハッハ・・・大丈夫よ。父母の大事にしていたお軸2つと色紙数枚を残してあるから・・・。お陰様でお茶道具の断捨離をすることができました。ありがとうございました」

「こちらこそ、貴重なお品をありがとうございます。皆で大切に使わしていただきますね・・・」

・・・私もいつの日か、「Kさまに見習って茶道具の断捨離をしたい!」と密かに決意しています。 

 

  (勝沼産のピオーネとシャインマスカット・・・嬉しい到来物です)

 

それにしても思うのです。お稽古や茶事をしていると、どうしても茶道具が増えてしまいます。

ささやかな我が茶道教室に適切な茶道具とは? 自分で管理でき、必要な茶道具の量とは?

う~~ん!  うっう~~ん!

今は猛暑なので(茶道具は冷房のない書斎を占拠中)涼しくなったら整理しながら考えようっと・・! 

 

 


ヨコハマトリエンナーレ2020・・・(2)アートに触れる

2020年08月18日 | 美術館・博物館

                              「からみあい」

 

(つづき)

見る順番があるのかもしれませんが、思いつくまま記します。

1.エヴァ・ファブレガスの作品「からみあい(Pumping)」

「なに! これ?」と思うポップな巨大アートです。赤、白、ピンク、黄の明るい色調と作品の持つ力強いエネルギーがコロナ禍の抑圧された心に安堵感をもたらします。アルコールで手を消毒して触ってみると、意外としっかりとした素材で出来ていて、空気でパンパンになったゴムまりのような弾力がありました。見る角度によって違う印象のオブジェになり、つい写真をたくさん撮りたくなる作品です(写真自由なのも好いですね)。

できることなら、作品にダイビングして作品とからみあいたい、この中で癒されまどろみたい・・・と。

 

2.映像を使った作品がたくさんありました。

    レボハング・ハンイェ  「今もここにいる」

白と黒のコントラストの映像が不連続に映し出されます。モノクロの活動写真を見ているようなノスタルジックな映像ですが、ある黒人家庭の日常生活を描いているように思いました。記念に・・・と思ってシャッターを押した写真がこれでした。

 

      チェン・ズの作品(作品名 ?)

窓のある壁に映像が映し出されています。壁の向こうにいる観客のシルエットが作品を生き生きと変化のあるものにしています。

 

    サルカ―・ブロティク  「光線」       」

「からみあい」の近くの廊下の壁にスクリーンがあり、気が付かないで通り過ぎてしまう作品です。

黒いスクリーンは何もない空間のようでしたが、光がもたらす映像が次々と映し出され、このような光の捉え方があるのか・・・と思わず見入りました。花火のように消えては現れる映像は儚い、つかの間の生命や物体の輝きを伝えているのでしょうか。

 

3.仕切りのもたらす空間の美

大きな会場は壁、スクリーン、蚊帳のような囲いなどで仕切られていて、その空間が「光と影をとらえて」魅力的な作品となっていました。

 

(作品とそれを見る人々が新たな魅力的な空間(作品)を生み出しています)

 

4.フィギュア/203

2Fの回廊のような廊下にある作品「フィギュア/203」、作者は金地徹平。

壁面いっぱいの抽象画とアクリルケースの中のフィギュアたち。フィギュアには白い石膏が塗られ、わからないなりに惹きつけられました。

実存の否定なのか、次なる変化の過程なのか・・・きっと重苦しいテーマなのだろうと思いながら、フィギュアの軽みが救いとユーモアさえもたらしている。

この作品をお気に入りの1つにしようっと。

 

 

5.作品に込められたメッセージ

終わり近くなり、頭も足も疲れてきた頃、回廊の壁面に砂時計と鍵束が展示されていた。

「砂時計とガラスの鍵束? これも展示品なのかしら?」

 タイスィール・バトニジ  「無題」(上) 「停止した時間」(下)

解説を読んで作品に込められたメッセージを知り、襟を正して、再度作品を拝見しました。

作品解説から・・・

砂はこぼれて、土地を分ける危険な境界線を越える。わたしたちはバリケードを超え、検問所を通過する。鍵を使っていくつもの壁を通り抜ける。

この鍵の束は、バトニジがアンマンから故郷ガザに帰ろうとしてかなわず、パリにたどり着いたときに持っていた11本のカギを複製したものだ。

鍵を持っていても、それを使って空間を獲得したり、その空間内を移動したりできないなら時間は静止する。

砂時計の中を見てごらん。 沈黙してしまった。

 

「ヨコハマトリエンナーレ2020」(現代アートの国際展)は、作品を通して作者のメッセージを伝える場でもあります。

そのメッセージをきちんと受け取るのも、同じ地球に今を生きる者としてとても大切なこと・・・と思いました。

あまりの暑さに「プロット48」(徒歩7分かかる別会場」は残念ながらパスして帰途につきました。  

 

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ヨコハマトリエンナーレ2020・・・(1)エントランス

2020年08月15日 | 美術館・博物館

 「ヨコハマトリエンナーレ2020  AFTERGLOW  光の破片をつかまえる」 

   (2020 7.17ー10.11  横浜美術館、プロット48)

 

家に居て何もしなくても汗が吹き出します。倒れるような暑さ、横浜でも連日猛暑日です

そんなある日、横浜美術館で開催中の「ヨコハマトリエンナーレ2020」へ行きました。

ヨコハマトリエンナーレは3年に1度開催される現代アートの国際展です。

今回のアーティスティック・ディレクターは、ラスク・メディア・コレクティヴ(以下ラスク)と称する、インド出身の3人組のアーティスト(ジーベシュ・バクチ、モニカ・ナルラ、ジュッダブラ・セングプダ)です。

ラスクが発信するたくさんのメッセージの中から次のメッセージを紹介します。

「わからないを楽しむ」 (ガイドのパンフより)

壁には作品解説(注:ラスクの解説、作者のメッセージ、美術館からの鑑賞ヒント?の三部構成)があります。しかし詩のような謎めいた文章で、作品の見方を簡単には教えてくれません。

ラスクはこの「わからない」状態を楽しんでほしいと願っています。この作品はこういうことを言いたいのかな・・・と想像し、連想を広げる--このわくわくをぜひ味わってください。

 

一昨年直島のベネッセ・ミュージアム家プロジェクトで現代アートに遭遇して以来、わからないなりに面白さを楽しむ、自分の中に眠っている感性や五感を刺激したい・・・と関心を持つようになりました。

それに、社中のIさんがこの展示に関わっていることもあって、どのような現代アート国際展が繰り広げられるのか・・・興味津々でした。

コロナ禍なので電車ではなく車でツレと出かけました。

「先生、駐車場から入り口直行ではなく、美術館の正面に廻って大きな作品を先ず見てくださいね」

言われた通り正面の広場へ廻ると、美術館全体が工事中のようにグレイ(黒?)の幕に覆われていました。どうやらこれが作品らしいです。

 

(気が付かなかったけれど・・・写真を見ると、羽を広げた妖(あやかし)みたい!)

 

 

正面から入口へ近づいていくと、それはしっかりとした金属の網のようなもので作られていました。丁度風が強い日だったので、金網のような強く聳え立つカーテンがしなり、風に揺れてかすかな音をたてました。なぜか巨大なハーブを小人のような私が弾いているような錯覚を覚えました。

ヨコハマ名物の浜風にしなって、様々な縞や波模様が浮き出てきて、音をかき鳴らし、妖のように千変万化の不思議なアート作品です。見上げると網状の構造物が幾重にも重なり、光の破片をつかまえて、天へ導くような荘厳な空間を生み出しています。

この壮大なアートの作者はイヴァナ・フランケ、作品名はわかりませんが、勝手に「浜風と妖(あやかし)のエチュード」と名付けました。

この作品は同行のツレにはまったく駄目だったみたいです。遠近感がなくなって気持ちが悪くなってパスしたとか・・・。このように人によって感想が異なるのも面白いところです。

 

 

美術館へ入ると、思わず「綺麗!」と心の中で叫びました。中央の大広場にステキな作品がきらめいていて、どうやら異次元空間に迷い込んだみたい・・・。

作品はニック・ケイヴの「回転する森」。

天井から無数の「ガーデン・ウインド・スピナー」(アメリカの家庭で好まれる庭用の飾り物)が吊るされ、回転したり、留まったり、互いに光を反射したり共鳴し合ったり・・・。初めて体験する夢のような煌めきの世界に圧倒され魅せられました。鏡のような床に光やスピナーが映り込んで、点滅する光には何かを伝えたいという意志を感じます。

 

 「ウ~ン? 涙?」  作者の思いを伝えるオーナメントがあるそうですが・・・

「ガーデン・ウインド・スピナー」の中には作者の思いを伝えるオーナメントがあるそうですが、多すぎてすぐに探すのを諦めました。現世の意識を超えたこの空間にしばし身をゆだね、「ガーデン・ウインド・スピナー」の1展示物のように溶け込んでいたい・・・。

 

作者・ニック・ケイヴのメッセージから

「・・・前略・・・こころ奪われ、目を見張りながら何百というオーナメントの間を歩いていくと、私たちの意識の端に、他にもなにかうつろいやすいものが立ち現れてくる。銃、涙、弾丸、標的。

私たちは、人種隔離、公民権運動、国家による暴力など、数百年に及ぶ衝突の歴史の空間にいる。

現実とは何かを生み出しながら、同時に何かを覆い隠すものなのだ。」

 

    (2Fからみた「回転する森」)

 

エントランスの強烈なシャワーを浴びてから、やっとチケットを渡して入場し、2Fへ向かいました。そこには紹介したい、見てもらいたい作品が次々と展示されています。その時の印象や感想を反芻しながら書いておきたいと思っています。 (つづく)

 

    ヨコハマトリエンナーレ2020・・・(2)へ続く

 


コロナ禍の許状式

2020年08月10日 | 暁庵の裏千家茶道教室

(床に許状式の設えをすると、いつも身が引き締まる思いがします)

 

2020年7月30日に許状式をしました。

Iさん、SYさん、Aさんが中級(四ヶ伝、和巾点、茶箱点)の許状を拝受しました。

誠におめでとうございます!

3人とも忙しくお仕事をしながら茶道をめざしています。(残念ながらSYさんは仕事があり欠席です)


立会人として社中を代表してKさんとKTさんに参加して頂きました。

許状式でこれから習う四ヶ伝のお点前を拝見するのも今後の励みになるのでは・・・と、Kさんに唐物点、KTさんに台天目のお点前をお願いしました。しっかりお稽古して許状式に備えてくださって感謝しています。きっとお二人にも新鮮で好い経験になったのでは・・・と思っています。

 

 

10時から許状式を始めました。

床に利休居士の画と鵬雲斎大宗匠の賛のある御軸を掛けました。
花入、香炉、燭台の三具足をかざり、菓子とお茶をお供えします。花は庭の水引と秋海棠です。

利休居士が見守る中、坐忘斎御家元に代わって許状をお渡しするのでいつも襟をただし、緊張感を持って臨みます。

 

(利休居士の画像と鵬雲斎大宗匠の賛)

鵬雲斎大宗匠の賛は
  今日親聞獅子吼  
   他時定作鳳凰兒        宗室(花押)


  読み下しは、
    今日(こんにち)親シク獅子吼(ししく)ヲ聞ク
    他時(たじ)定メテ鳳凰ノ兒(ほうおうのこ)ト作(な)ル

  (今日、利休居士に繋がる茶道の門を敲き、その教えを聞くご縁ができたことを嬉しく思います
   いつの日か、茶道の修練を重ね茶道の真髄を体得できることを願っています)

KさんとKTさんが見守る中、お一人ずつ許状を1つずつ読み上げお渡ししました。許状の読みが難しくって舌がもつれた記憶があります。だいぶスムースに読めるようになりましたが・・・(汗だくっ)。

許状式が終わると、Kさんが唐物点をご披露しました。

唐物点は四ヶ伝(伝物)の1つで、茶入が唐物の場合の扱い方を習います。茶道発祥以来、唐物(中国産の茶入)を貴しとし、その扱いを格別に重くすることになっています。

正客はKTさん、客はAさんです。唐物点で濃茶をのんでいただきました。

 

    (唐物の拝見中)

次いで台天目をKTさんがご披露しました。正客はKさん、客はIさんです。

台天目は四ヶ伝(伝物)の1つで、、天目茶碗を台にのせて扱う点前です。台子伝法では茶碗はすべて天目茶碗を用いるので、この過程で天目茶碗や台の扱い方を十分に習得しておくことが必要です。

濃茶は松花の昔(小山園)、四ヶ伝なので菓子3種(「千代見草」の練切、「阿蘭陀」のカステラ、密豆のゼリー)を縁高でお出ししました。

 

   (台天目のお点前)

 

お昼になったので、昼食の寿司を別室で頂きました。

久しぶりに顔を合わせた方もいらしたので、マスクをしながら近況報告やお仕事の話に花が咲き、それぞれの環境で頑張っている様子を頼もしく伺いました。

その後、茶室に戻り、今度はAさんとIさんが薄茶を各服で点ててくださいました。

薄茶は金輪(小山園)、干菓子は東京・塩瀬のかわいい「都鳥」です。

夏茶碗にキメ細かく点てられた薄茶が乾いた喉を潤して、なんとも美味しく頂戴しました・・・シアワセなひと時でした。

 

(基本の薄茶平点前・・・薄茶を美味しく点ててくださいました)

 

暑中のコロナ禍でしたが、皆さま、元気に許状式へ出席してくださり、私も許状を無事にお渡しできて安堵しています。ほっ!   夏バテでやっとアップできました。 ほっ! 

 

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コロナ禍の「文月の朝茶事」・・・(4)後礼のお手紙

2020年08月05日 | 茶事・茶会(2015年~自会記録)

    (8月1日に関東地方で梅雨が明け、久しぶりに青空がひろがりました)

(つづき)

 コロナ禍の「文月」の朝茶事が無事終了しました。

茶事を何回やっても思うところは多々がありますが、片づけをしながらひたすら体力の回復に努めています。それでも、朝茶事だったし天候不順でそれほど暑くなかったので消耗は少ない方でした。

そんな折に届く後礼のお手紙は何よりの栄養剤です。いつも励まされ、茶事を続けようという力を頂戴しています。 ありがとうございます!  

 

 

 N氏より

中立ち後の席入り、床の花に思わず心を奪われました。

白のむくげの凛とした清らかさ、そしてそれを引き立てる野葡萄の蔓、長く伸びた火吹き竹に漆を塗った花入れ、あの時のものでした

緑の塗り壁には水で打った円相、そして時とともに円相は薄らいでいきます。

やがて花もしおれることでしょう。一期一会の醍醐味でしょうか。

今回の朝茶事も初めての経験でしたが、余りに床の花が強烈でした。

このような機会をいただき、深く深く感謝しております。また次の茶事を楽しみにしています。

どうぞお疲れが出ませんように・・・    Nより

 

       (薄茶の点前座)

 AIさまより

大暑の候 暁庵先生にはその後お元気でいらっしゃいましょうか。

過日は朝茶事にお招き頂きまして、ありがとうございました。

お庭の木々も雨にぬれ緑もあざやか、清々しい気持で席入りしました。

可愛い観音様から真っ白い木槿の円相まで、まるで仏様の懐に抱かれたような気持でございました。

お正客様はじめご連客の方々にも恵まれ、楽しく貴重な経験をさせて頂きました。

九月のお茶事を控えまして先生からのエールに応えられるよう、精一杯努めさせて頂きたく思っております。今後ともどうぞご指導のほどお願い申し上げます。

本当にありがとうございました。

どうぞお疲れの出ませぬよう、御身大切になさいますよう、お祈りしています。

お水屋のKさまにも御礼申し上げます。どうぞ宜しくお伝えください。 かしこ   AIより

追伸)「菊水」とても美味しく、ありがとうございました。(ヨカッタ・・・

 

 追伸     暁庵より

後礼の手紙への亭主からの返事はしなくてよいことになっています。

亭主は全身全霊で茶事にすべてを尽くしておもてなしするからです。

茶事の師匠からそのようにお習いしました・・・。  

 

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