麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第38回)

2006-10-22 16:04:55 | Weblog
10月22日


立ち寄ってくださって、ありがとうございます。

更新が遅くなってすみません。

風邪をひいて、昨日と今日寝込んでいます。

新しいものは、何も書けませんが、やはり22~23歳のころに書いた「世界がその本質を露呈する瞬間の物語集」というのがノートにあり、その中の2点は、一応最後まで書いているので、そのひとつ「酒宴」を書き写して読んでいただこうと思います。これは、前に読んでいただいた掌編「酒宴」と同じ材料を扱っているのですが、書き方が違う、つまり別バージョンといったところでしょうか。たぶん、掌編を先に書き、あまりに短いので、解説めいたことも加えてもう少し延ばそうとしたのだと思います。とともに、どこか「パリの憂鬱」の影響もあって、思索と物語を混ぜ合わせてみたいというようなことを考えていたんだと思います。

それともうひとつ、「マチ」という詩のようなものをノートから写しました。
これは、とてもはっきり憶えていますが、予備校時代に、広島の路上で、突然、陰毛がわさわさとアスファルトから生えて伸びていく幻を見たときに作ったものです。まるで世界が陰毛の原始林のように見えました。――というと狂人のようですが、子どものころから20代の前半くらいまでは、私はこんな幻を白昼見ることも多かったのです。

のどが痛いです。
皆さんも風邪に気をつけてください。

では、また来週。
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酒宴

2006-10-22 16:03:10 | 創作
 人間の悲惨さは、彼が自分の悲惨さを、子どもが風船につけられたヒモを握りしめるのと同じように、しっかりつかんで放さないことにある。人間は悲惨さを愛している。なぜなら悲惨さにこそリアリティがあるからである。悲惨さに身を投じることで、彼はリアリティを得ようとする。悲惨にがんじがらめにされることで、彼は「不自由」という快楽を手に入れるのだ。「自由」ほど彼らをおびえさせるものはない。なぜなら「自由」には、リアリティがないからである。リアリティのないものを彼は恐怖する。彼らの言葉で言えば、「自由」は現実ではないからである。しかし、宇宙の知る唯一の現実とは「自由」であり、宇宙にはリアリティなど存在しない。リアリティのないことが宇宙のリアリティであり、人間の言うリアリティは幻にすぎない。――私はそんなことを考えながら、夜中の2時に部屋を出て、街灯の中に紫色の霧が浮かぶ都市を歩き始めた。ゆるやかな坂道をのぼり、向こうに高層ビルの照明が見える交差点まで来た。私は月を見たいと思ったが、今夜は彼は非番であるらしかった。あるいは私自身が彼だったのかもしれない。というのも、その夜、私にはふだん聞きなれない、さまざまなものたちの話し声が聞こえたからである。闇は獣のように生き生きしていた。広い道路をはさんで、ビルがビルにささやきかけていた。「こんなマネをいつまで続けるのだろうか」と。私は彼らに「もういいよ」と言った。すると彼らは一瞬のうちに薄いベニヤ板に戻り、後ろへ倒れた。つぎに「夜」のひとり言が聞こえた。「昼は不潔だ」。彼はそう言ったようだった。「そのとおりだ」と私は言った。私たちの共感を祝して、彼は自分の体をうす紫色に透き通らせた。「よけいなことを言うのは誰か」と、ふいに大きな声が響いた。「いまは、酒盛りの最中だ。卑小な人間のくせに、風景を許すのは誰か。じゃまをするな」。私は悲しくなってこう言った。「どうして俺を仲間はずれにするのか。俺は人間の仲間ではないのに」。大きな声の主は笑った。「たしかにお前は人間の仲間ではない。が、われわれの仲間でもない。お前も酒のサカナにすぎない」。私は再び悲惨さのリアリティにとりかこまれた。「夜」は急に、不幸に陥った友人を無視するように、私を見捨てた。ビルは知らん顔をして建っていた。一分のスキもなくリアリティを取り戻した風景は、もう私とは無関係なものとなっていた。私は霧の中をつまずきながら、悲惨さのほうへ戻っていった。
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マチ

2006-10-22 16:01:36 | Weblog

男はコートで性器をかくしている

町には
にせものの陰毛が あふれている

なぜ にせものか?
昼間の マチだから

にせものの陰毛を
少しずつ むしりとっては
生活というものが 成り立っている

良い日だ
いつも
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