prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「無頼」

2020年12月22日 | 映画
地方ヤクザを通した日本戦後史みたいな二時間半。

「仁義なき戦い」のセリフの引用があるが(エンドタイトルにも笠原和夫「仁義なき戦い」と出典が明記されている)、あれが戦中派にとっての戦後史という側面もあったのに対し、これは世代的には団塊にとっての戦後史といっていいだろう。

ケネディ暗殺、三菱重工爆破、田中角栄逮捕など大きな事件がはじめ新聞それからテレビで伝えられているのが随所にはさまるのと平行して、地方のそれほど大きくはないヤクザの組がどうシノいできたかを描く。
もとよりヤクザはその時々の儲け話に乗るわけで、自ずとその時何が流行りだったかを反映することになる。
M資金に始まり、ソウルオリンピックを控えた韓国との金の取引話、宗教団体と土建屋と政治家の癒着などなど。

時代を彩ったさまざまなアイテムの再現が楽しめる。
インベーダーゲーム、VHSがずらりと並んだビデオレンタル屋の棚、弁当箱ほどもある携帯電話(携帯が登場した頃に真っ先に使ったのはバブル期の地上げ屋。ちょっとでも早く物件情報を手にいれるため)など、おっさんにとってはあったあったと思う今ではないものだらけ。

「赤い天使」上映中の映画館で次回上映が「ウエストワールド」「シノーラ」になっているので、同じ年の公開だったっけと調べてみると「赤い天使」は1966年、「ウエストワールド」は73年、「シノーラ」は72年だからよくわからない。
考証ミスなのか好きな映画を並べたのか。

三下ヤクザが脅しに来た相手の娘が思いがけず親分の女房だったり、中学高校の同級生や足を洗った元組員が町会議員や市会議員だったりする人間関係の濃さが地方ならでは。癒着するなといってもムリ。
先述の笠原和夫がインタビューでこれからのドラマは地方をやった方がいい、日本の問題が端的に現れているのは地方だと言っていたのを実践している感もある。
実は近来の日本映画の秀作のかなりの部分は地方映画になっている。
スケールがコンパクトで人間関係が煮詰まっているからドラマ化しやすいということもあるだろう。

ヤクザがいかに下らない存在かと映画の主演俳優がとくとくとテレビで話すのを見た組員たちが不穏なことを話す場面は、明らかに伊丹十三監督の「ミンボーの女」で伊丹が顔を切られた事件がモデルだろう。監督を主演俳優に変えているが、ほぼああいう発言していたと思う。ああいうこと言われて黙っているヤクザはいないと発言した親分もいた。

木下ほうかが演じる役はマスコミに乗り込んでいって自決するあたり、明らかに新右翼の野村秋介がモデル。
脇の人物であるにも関わらずわざわざフラッシュバックで自決の場面を見せるあたり作者は奇妙に感情移入しているが、なぜなのかはよくわからない。
野村が自決したのは朝日新聞社なのをテレビ局にしたので思想的立場よりはマスコミ全般に対する反発の話になっている。
ヤクザが出所するところを見せた記者とカメラマンにそれぞれ金一封を渡して、おそらく宣伝にすべく書かせるのと対応する。

親分子分の固めの杯を交わした後、記念写真を撮るのがなんだか可笑しい。
ヤクザ映画でヤクザが並んだ儀式の写真はよくインサートされていたが、それを撮ってるところは盲点になっていた。記念写真には違いないわけね。

長尺ではあっても大河小説的なストーリーの太い流れよりはディテールの積み重ねが最終的に自ずと大きなうねりに至るといった作り。
ただ、ディテールがわかる世代の人間にはいちいちピンとくるところも、最初から知らない人にはどこまで通じるかはわからない。

俳優たちがそれらしくはあってもいかにもなヤクザ的な顔、ヤクザ的な仕草の型にはまっていない。
韓国映画の犯罪ものだったらもっと濃い凄みのある顔を敷き詰めるだろうし、昔の東映ヤクザ映画だったらヤクザらしい顔が背景に並んでいたが、今の日本人と日本映画ではムリ、ないものねだりにしかならないということもあるだろうが、安易ならしさや型にはまった見方を排していこうという意向の現れともとれる。

井筒和幸監督らしい大勢の人間がわちゃわちゃしている感じは相変わらずだが、淡泊になった感はある。
暴力描写は凄みはあるが短く簡潔。入れ墨を入れた裸の肌が銃弾を受け血が噴き出す特殊効果が効いている。

紅一点という感じの柳ゆり菜がセクシーかつ和服を含めたさまざまな衣裳を着こなして姐さんのさまざまな顔を見せて好演。

例によってこの映画で動物は傷つけていませんという断りがエンドタイトルに出るが、虎とライオンが出てくるシーンはたぶんCGだろうと思った。ちっともケンカしないので包丁つきの棒でつつくのがぎりぎりの描写だろう。
本当に強い者同士は腹が減らない限りケンカしない、というセリフは暴力団にも国同士にも応用がきく。

見た新宿のケイズシネマは、奇しくも昔はヤクザ映画専門館だった新宿昭和館の跡地。
内容からして圧倒的におっさん爺さんの客が多いのも一緒。





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