prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「女帝 エンペラー」

2007年06月26日 | 映画
「ハムレット」の翻案というのが興味だったが、原作ではなく「原案」というだけあってかなり違う。
それも悪く違う。

「ハムレット」の役名で書くが、ここではガートルードとハムレットが母と息子ではなく元恋人で、皇帝が息子の恋人を取り上げて皇后とし、息子が島流しになっているところに、皇帝が弟に暗殺されて、という設定(セリフで語られるので必ずしもわかりやすくない)から話が始まるわけで、キャラクターとして最も強烈なのは息子の恋人を奪ってしまう父親である前皇帝、ということになるはずだが、話が始まった頃すでに暗殺されていて出番はまるでない。

息子=ハムレットは父親に恋人を奪われているのだから、当然その仇を討とうとする動機はありえず、およそ何しに出てきたのかわからない茫漠としたキャラに成り下がった。仮面つけてふらふらしていたりするのも余計にもったいをつけた印象。

シェイクスピアでは、ガートルードは夫の弟クローディアスとデキて義弟に夫を殺させる、少なくとも殺したのを見てみぬふりをするわけで、一方で息子に対してもかなり「男」に対する「女」の匂いを発散されているわけだが、ここでのチャン・ツィイーは、皇帝から皇帝、権力者から権力者に流されているだけで、さして女を使う迫力があるわけでもない。
結局、兄を殺して権力を簒奪した現皇帝役が変にいじられてない分、一番面白さを損なわれないでいる。

ツィイーがやたら若い(ハムレットより若いガートルード、ということになる)のでこういう設定になったのか知らないが、こうも水っぽい人物設定では、本来なら中国お得意のはずの宮廷劇のどろどろした迫力など、ありゃしない。
演技的にも貫禄不足、表情に乏しく、感情表現が不十分で、カメラも照明もメイクも淡白でさほど力を入れて美しく見せようとしているとは思えず。

代わりにこってりと詰め込まれたのはムダに豪華な美術・衣装と、何で必要なのかわからない長々とした立ち回りと、もったいぶったスローモーションの多用といった、「英雄 HERO」「LOVERS」以上に空疎な事大主義ばかり。
(☆☆★★★)





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