prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「SHADY GROVE」

2022年10月31日 | 映画
出だしでなんでもないような野原と林の風景が写る。
そのうち、ヒロインの部屋に貼られている写真の風景であることがわかる。
一週間+その一か月後という構成をとっているのだが、その合間に林の風景が挟み込まれる。
どういうわけか、もっぱら捻じれたりひねこびたりした木が写される。
この野原と林が世界というもののひとつの象徴らしい。

そう思えるのは、上映後のトークで脚本で製で監督部の佐藤公美氏が朗読した黒沢清監督が本作の封切り時のパンフレットに寄稿した文章から。同時に黒沢監督の発想の方も物語っているよう。
木の捻じれ方がなんともいえず刺激的。

終盤の自動車の後部座席にヒロインを乗せて走らせながら一方的に話し続ける、そのえんえんたる長セリフにひたすらヒロインのアップが暗くてよく見えないのも構わず長回しで捉え続ける演出がすごい。撮影は田村正毅。16ミリフィルムだろうか。
あるいは終盤で唐突に脇のキャラクターの探偵のナレーションに入れ替わる、などなんだろ、これと思わせる話法。

恋愛ものというより、それが始まる前の話といった意味のことを言っていたと思う。
ちょうど1999年とバブルがはじけた頃の製作で、ワインがどうたらといった
話題はまだ景気が良かった名残ということになるか。出てくる携帯がアンテナのついたタイプのガラケーで、しかもJ-PHONEという今ではソフトバンクに受け継がれて消滅したブランドというのが時代です。

地に足がつかないままふらふらしていて一方で不安感が貼りついているいるような空気は時代のものであるとともに、監督のものでもあり、今でも受け継がれているところがあるという話になる。

トークで、ディレクターズ・カンパニーが潰れるちょっと前、万田邦敏監督になぜかセクシー系のビデオを撮らせる話が来て承諾したのはいいが、主演の女性グループをばらばらにして別の屋上でバックダンサー入れて撮りだしたものだから依頼主に拒否されて完成していないとか、宮坂進社長がすまんギャラは払えない、と頭を下げられて普通は逃げるから偉いともいえるけれど、いささか腹立ったとか、笑いごとではないのだけれど笑ってしまう。

佐藤氏が脚本・製作で関わった青山作品が十五本とかあるというのだが、お蔵入りしたのが何本もあるらしい。おそらくディレカン全体ではもっとあるのではないか。黒沢清監督のカラオケビデオで出来が良すぎて(つまり歌うのにジャマになるので)納品拒否されたのとか。青山作品の「こおろぎ」みたいに発掘できないものか。

ふたりの男の名前が小野と甲野と韻を踏んでいるみたいなのが、英語字幕だとONO KONOともっと端的にわかる。

探偵とヒロインが話す背景に自由の女神(のレプリカ)が見えるが、あれは1998年にお台場に建てられたものらしく、つまり製作当時とすると最新に近いスポットだったわけだろう。バブルっぽい建造物でもある。