prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「スパルタの海」

2015年10月15日 | 映画
戸塚ヨットスクールを扱って82年末に公開予定だった映画なのだが、1980~82年にかけて訓練中に訓練生2人が死亡2人が行方不明になって、ことが刑事事件化したのに伴い公開中止になったのがかなり最近になってビデオやCSで見ることができるようになった。

校長の戸塚宏が傷害致死罪で懲役6年の実刑判決を受けて出所後また校長職に復職したのを扱ったドキュメンタリーに「平成ジレンマ」があり、このブログでも取り上げた。

すでに問題が起こっている状況での火中の栗を拾うような製作で、プロデューサーは「ポルノ映画」第一号の作り手というかポルノという言葉を作った人である東映出身の天尾完次、配給は東宝東和の予定だった。ともに火中の栗を拾いそうなメンツ。

といってもかなり各方面に配慮した描き方で、シゴキで海に生徒を蹴落とすといった描写は何度も出てくるものの、「フルメタル・ジャケット」といったアメリカ映画の軍隊ものを見慣れている目にはさほどとも映らず、戸塚側が一方的に良く、あるいは悪く描かれているかというとどちらともいえない。

家庭内暴力をふるっている生徒がテレビで評論家が言うようなことをそっくりそのまま口真似するのを聞いて戸塚が呆れてしまったりとか、「あっ、手が勝手に動くんや。あ、足も」とか言って生徒をボコボコにするシーンなど、「嗚呼、花の応援団」的なギャグで、思わず笑ってしまう。
やられる側にしてみれば笑いごとではないし、蚕棚みたいに二段ベッドに押し込められて鍵をかけられるなど、完全に監禁罪であることは明白だが、生徒側の甘えや悪知恵にも目を配っている。

親たちの描写もバラエティをつけてあって、東大出の父親(実際に東大出で三菱商事に勤務していた平田昭彦がやっているというのが楽屋落ち的興味)の家庭はとにかく金だけ負担して厄介な息子を預かってもらうとしか考えていない一方で、両親ともに目が不自由な家庭で息子を預けざるをえないあたりの人情的な扱いなど上手いもの。

ただ良くも悪くもドラマ的に均衡に気を使って処理しすぎという感じも受ける。問題になりそうなのは明白なのでずいぶん気を使ったのだろうが、いざことが大きくなると内容云々の話ではなくなってしまったのだろう。

とはいえ、現実には戸塚ヨットスクールは存続しているし、戸塚校長を支持する勢力はなくなっていない。ただしメディアに取り上げられることはごく少なくなっている。何が変わったわけでもないのだが。相変わらず子供を預ける親も、自殺する生徒もいなくなっていない。



本ホームページ


スパルタの海@ぴあ映画生活

映画『スパルタの海』 - シネマトゥデイ

10月14日(水)のつぶやき

2015年10月15日 | Weblog

アポロ13 #1日1本オススメ映画 敗戦処理の話なのに、というかだからこそ想定外、マニュアル外の出来事に対するアメリカの対応力の強さを見せる。宇宙に行けなかった補欠転じて救出作戦のキーマンになるゲイリー・シニーズが恰好いい。 pic.twitter.com/j4EZNw599z

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