WALKER’S 

歩く男の日日

20日目 5月13日 

2009-07-14 | 09年四国の旅

 6:20
20日目の始まり、夜明け前から雨が降っている。5日続きの晴天で、あれだけ気温が上がれば当然のことだろう。ただ、雨は一時的なもので午前中の早い時間にあがってしまうと天気予報は伝えている。今日は45番を打ち戻って、松山まで下りていく。例年だと46番浄瑠璃寺までだけれど、今年は納経するので47番八坂寺まで今日の内に打っておく。そうしないと明日の出発時間が1時間近く遅くなってしまう。ということで今日の道のりは例年より1.3km長い39.1kmになる。大宝寺の納経時間に合わせるので、出発は例年よりやや遅く6時19分。


 6:23
昨年民宿磯屋の女将さんから名刺をもらって紹介されたときは、こういう場所にあっても利用のしようがないなあ、と思ったけれど、よく考えてみれば普通の歩きの人にとってはかなり有用であることが分かった。というのも、三坂峠を下った46番浄瑠璃寺から51番石手寺までの14kmの間に宿が全くない。昔は49番の近くにいくつかあったけれどすべて廃業してしまった。故に、久万高原の宿に泊まった人は浄瑠璃寺までしか行けない。ところが、桃李庵からだと、少し頑張れば道後温泉までいける。行程にバリエーションが増えた。新しい地図には載っているようだし、評判も上々だ。


 6:31 大宝寺
雨に濡れた参道、久万の雨は4回目、7回の内4回雨。でも今日は傘は必要ないだろう。この時間だから参拝客はいないと思いきや、車のカップルが一組やってくる、でもお遍路ではなかった、納経所を素通りして駐車場へ戻っていった。7時5分前に納経所へ行く。7時3分過ぎに女の人がやってきて滞りなく終了する。


 7:07
ぼくはいつも7時前に来るので、朝参りは自分一人だけれど、いつもこの季節なので銀杏は散り敷くことはない。


 7:25
大寶寺からの山道は標高差155mを800mの距離で登る。時速3kmも出ない険しい山道が続く。


 7:33
大寶寺から峠御堂トンネルの出口まで1.4kmを26分でやってきた。下りも思ったほどスピードは出ない。


 7:48
評判の遍路宿和佐路、ぼくは今まで一度も泊まったことはないけれど、来年はお世話になる予定。トンネルからここまでの間に3人の歩きの人とすれ違う、二人は野宿、そのうち一人は昨日スーパーで休んでいた人だった。


 8:00
県道を離れ山道に入る。この山道は八丁坂までは大した登りはなく途中から下りもある。


 8:25
ここからが本当の登り坂、八丁坂へ向かう道、でも今回は右へ折れず、直進して古岩屋荘へ向かう。だらだら下る楽勝の道、左と右は天国と地獄。八丁坂は4回登ったし、直進する道は一度も行ったことがなかったのでタイムを調べておきたかった。


 8:31
古岩屋荘、岩屋寺その名前の由来となった奇岩が見られる。岩屋寺ではこれと同様の奇岩そのものがご本尊として祀られている。


 8:35
県道からの分岐から32分で到着、県道をそのまま来た2年前のタイムと比較したかったけれど、その時は岩屋寺までのトータルのタイムしかとっていなかった。結局正確な比較はできない。でもそんなに変わらないとは言える。せいぜい1~2分の差でしかない。打ち戻りの場合もほとんど差はないようだ。でも、行きか帰りかどちらかは八丁坂を味わっておくべきでしょうね。あの最後の行場を歩かないことには岩屋寺を全部味わったことにはならない。


 8:46
古岩屋荘を過ぎてしばらく行ったところから、県道を離れる歩道があるけれど、少し遠回りになるので今回はずっと県道を行く。


 8:54
岩屋寺の麓までやってきた。ここから境内まで600mの距離で標高差は220mもある、八丁坂を避けたつけが最後に回ってくるということでした。バスツアーの人たちが橋を渡り終えるところだ。車遍路の人もすべてこの220mを登らねばならない。ここには太龍寺のようなロープウェイもなければ八栗寺のようなケーブルもない。焼山寺や横峰寺のように山の上に駐車場はない。


 8:59 岩屋寺
これは山門だけれど、まだ着いたわけではない、まだ半分も登っていない、時計はまだ止められない。ここから7分登ってようやく水屋の前に出てくる、そこがゴール。大寶寺から1時間55分かかった。2年前ずっと県道を来たときより7分遅く、3年前八丁坂を来たときと同じタイムだった。最後の坂道は時速3kmだから結局大して変わらないということのようだ。


 9:15
大師堂に向かって左側に山門がある。八丁坂から来るとこの山門をくぐって境内に入る。こちらにはちゃんと仁王様がいるから、こちらが正式な山門だろう。昔は県道の方から来る道はなかったのかもしれない。道はあったかもしれないけれど、お遍路は皆八丁坂を登ったのかもしれない。
 団体の人で本堂の前はごった返している、整理する先達の人の声が響き渡る。邪魔にならない隅っこでなんとかお参りを済ませる。大師堂の前は比較的まばらでいくらか落ち着いてお参りできる。これだけの団体だから納経は大変なことになるかもと懸念したけれど、うまく間隙を縫って待ち時間なしですぐ済ますことができた。水屋でペットボトル2本に水を補給、前のベンチでパンを食べる。お参り、納経を含めて32分の休憩、でも、いつもと違って何か落ち着かない変な休憩だった。でも時間に余裕はないから深く考えることもなく前に進むしかなかった。


 9:52
打ち戻りも八丁坂を行かず、県道に下りてきた。こちら側に下りてくるのは5回目、2回は川沿いの歩道を歩いたけれど、今年は県道を行く。雨が降った後で歩道は歩きにくくなっているところがあるかもしれない。


 10:06
この少し前で夫婦遍路とすれ違う。軽装だったから宿に荷物を預けて、連泊するのかもしれない。往復で20kmくらいだけれど厳しい山道が二つあるから、連泊する人も多い。少し頑張って三坂峠の手前の桃李庵まで行けば翌日は道後温泉まで行けるからだいぶ差が出てしまう。久万の宿から道後までは30kmあるし、その間札所は6つあるから1日で行ける人は多くない。


 10:23
古岩屋荘からもそのまま県道を行く。この県道を打ち戻ったのは6年前の最初の時以来になる。その時はタイムをとっていなかったので今回初めて計測する。
 その途中にあるこれはバス停なのか遍路小屋なのか、いずれにせよ、最高の野宿場所になっている。入り口も窓もサッシでぴっちり締まる遍路小屋、バス停などここ以外に見たこともない。


 10:57
このすぐ手前、河合の交差点で女の人とすれ違う、すぐ後に男の人。ともに砥部町(旧広田村)の宿から来たと思われる。砥部町の宿は新しい地図からは切れてしまったのに、未だ利用する人もいるみたいだ。ぼくも、来年はたちばな旅館に泊まる予定にしている。
 この標識を右に折れると、高野休憩所、千本峠の山道を行くことになる、一見県道より近道のように見えるけれど、県道より150mも高い峠を行くので、時間は余計にかかることになる。ぼくは5年前に歩いて大変な思いをした。2度と歩く気になれなかった。


 11:06
大寶寺から来ると左の坂を下りてくる。このトンネルは歩道がなくてやや狭くて中にカーブもあって、トンネルを苦にしないぼくが一番恐れ、緊張するトンネル。


 11:12
何とか無事にトンネルを通過する。トンネルを出たすぐの所に左へ折れる短絡路山道があるので、トンネルの中で右から左へ横切らねばならない、しかも出口に近いところはカーブになっているので、さらに緊張する。


 11:18
短絡山道が県道に合流するところだけど、この道中で大変なことが起こった。めまいがして倒れ込みそうになった。古岩屋荘の手前でもその兆候はあった、そのときは歩道の模様が影響したと思い、すぐ顔を上げて歩くと持ち直すことができたのでそのまま歩き続けた。トンネルを出てこの下りに入ると、ぐるぐる世界が回り始めた、気持ちがすごく悪い、休憩ポイントはすぐ先なので、そこまで必死で耐えることにする。


 11:20
ほとんど倒れ込みそうになりながら、久万公園の入り口にある東屋に到着、椅子に腰掛けると改めて大きなめまいがする。この時点でほとんど理性は失われつつある。何をどうしていいか分からない。とりあえず渇きを癒そうと水を飲む、気分が悪くなってすぐ全部戻してしまった。岩屋寺で食べたパンは完全に消化が終わっているようで、戻ってくるのは水だけだった。水も飲めない、食料も口にできない、どうすればいいのか分からない。あと16kmも歩けるのだろうか。途方に暮れるばかりだった。
 今まで四国でこんな目にあったことはない、普段でもない、でも、何ヶ月か前に一度同じようなことがあった。その時と今との明確な共通点もあった、でもそんなことを思い出す余裕もなく、貧血ならどうすればよいということも考えられなかった。考えたのはとにかく口に入れるものを買うこと、こういうときには栄養価が高くて消化吸収のよいもの、アイスクリームがいいとぼんやり考えた。1300m先のコンビニまでなんとか我慢して歩いてアイスを食べる、先のことはそれから考えればいい。

 12:04
久万公園で30分休み、ふらふらと歩き始める、めまいは何とか治まっているけれど、普通の状態ではない。こんな状態でも前を行く若い野宿遍路を追い抜いた、例年より1分遅れでなんとかコンビニに到着、メモをとるのが精一杯で写真を撮るのは忘れてしまった。予定通りアイスクリーム(正確にはラクトアイス)「爽」を籠に入れる。アイスはこの1年で本当に高くなった。昨年までは四国でもよく買ったけれど、今年は全く手が出なくて、今日が最初だった、そしてたぶん最後になると思う。あと、かりんとうと菓子パン3つを買う。今日の道中ではほかに買うところはない。
 野宿遍路さんがコンビニの正面にへたり込んでお弁当を広げ始めた、ぼくはそんな恥ずかしいことはできないので、コンビニの横に回って同じようにへたり込んだ。アイスを口に運びようやく人心地着いた。力が漲って来るという感じは全くないけれど、めまいや吐き気はほとんどなくなった。時間の余裕がないので20分休んで、そろそろと歩き始めた。普段のようには歩けない、でも倒れ込むようなことはないだろう、5km先のレストパーク明神まで辿り着けさえすれば上々としよう。

 13:11
コンビニから47分かかってレストパークに到着した、例年より3分遅れだった。例年が時速6.4km、今回は6km、歩くのが辛かった。普段はそんなことはほとんど感じないのに、この間は頑張ってる、無理してる、耐えている、そういう感じが常にしていた。でも何事もなく辿り着けたので本当によかった。あと10kmで宿に着ける、何とか迷惑をかけずに済みそうだ。でも、まだタイムをメモするのに精一杯で、また写真を撮るのを忘れてしまった。全然余裕はない、逆打ちの野宿遍路さんが到着したところだったけど、挨拶するのが精一杯で一言も声をかけられなかった。


 13:46
レストパークから緩やかな登りを2kmほどいくと国道から山道へ入っていく。写真を撮る余裕は戻ってきた。この少し前でうるさいワンコがいっぱいいる所があったけれど、それを避ける余裕も出てきた。


 13:51
峠を少し下りてきたところで、今から落ちていく下界の風景が見えてくる。この山の中もすでに松山市内だ。


 14:10
この少し先の所で年輩の男性を追い抜いた。「元気だねえ」と声をかけられた、さっきまで調子が悪くて大変だったんですよ、と答えたけれど、下りを歩いている内に本当に元気になっていた、言われてやっと気がついた。「今日はどこまで」「長珍屋までです」「じゃあもうすぐじゃないの、ぼくは膝を痛めててね、登りは問題ないけれど、下るのがきつくてねぇ」「ここの下りが一番きついですもんねぇ」。二言三言交わしただけでいっぱい元気を頂いた。このあとはもういつものように普通に元気に歩くことができていた。


 14:36
下りが一段落してしばらく行ったところにある、伝説の奇岩。この岩は本当に不思議で、どんな伝説が語られても納得するしかないと思われる。この前で一休みする人も多いけれど、調子がいいのでもちろん休まない。


 15:00
浄瑠璃寺のすぐ手前にある郵便局でお金をおろす。ここまでの支出は90851円、財布に2万円近く残っているから3万円おろせば最後まで行けるだろう。それと納経料の百円玉を20枚おろす、明日の札所は6ヶ所。


 15:14 浄瑠璃寺
レストパーク明神から10kmを102分で下りてきた。例年より2分遅れ、撮影の時間を考慮に入れると誤差の範囲といっていい、峠のあたりから完全に復活したといっていいだろう。まだ八坂寺を往復しなければいけないので落ち着いてもいられない。納経のあと冷水器の水をペットボトルに詰めて一気に飲み干し、すぐ次に向かう。同宿のバスツアーの人たちが、八坂寺まで歩いている。往復で1800m、束の間の歩き遍路を味わっている。


 15:36 八坂寺
せっかく元気が戻ったので、短い距離でも例年と同じタイムを出したいと思って、力が入る。力を入れすぎて1分早く着いてしまった。バスツアーの人たちの横をすり抜けてお参りを済ませ、納経所に行くと、今朝トンネルを過ぎたところですれ違った野宿の若い人がいた。古岩屋荘のあたりから来たとしたら23kmくらい、ぼくの顔を覚えていたようで、びっくりしたようなまなざしをこちらに向けている。あそこから岩屋寺を往復するということは、ぼくは彼の12km後ろを歩いていたことになる。7時間半でその差をゼロにした。


 15:59
何とか目標の4時までに本日の宿長珍屋に到着した。一時はどうなるかと思ったけど、結局のところ例年とあまり変わらない歩きができていた、岩屋寺から久万公園までもあとから計算してみるとベストに近いタイムだった。よく歩けなかったのは久万公園から明神までの6kmの間だけだった。
 長珍屋は6回目の投宿、昨年だけ「坂の上の雲ミュージアム」の見学をしたので泊まれなかった。美人の若女将が出迎えてくれて旧館の方に通してくれた。2年前3年前はエレベーターのある新館だったけれど、それぞれ長所短所がある。今年の部屋は5年前、2回目の時と同じ部屋だった。その時と決定的に違うものがあった。地デジ対応液晶テレビがデ~ンと居座っていた。Panasonic VIERA TH-26LX80HT だった。初めは32型だと思ったけど、よく見ると26型。4畳半くらいの部屋では26型で十分だとはっきり認識できた。電気屋さんでは何度となく見てきたけれど、改めて落ち着いて見ると本当にきれいだ。このタイプはフルハイビジョンではないようだけれど、全く問題は感じない。これ以上の何が必要かというくらいの満足感がある。