WALKER’S 

歩く男の日日

23日目 5月16日

2009-07-23 | 09年四国の旅

 6:33
23日目の始まり、今日の行程は横峰越えの36.8km。距離は短い方だけれど、山越えなので6時間半は歩かねばならない。札所も5つあるので3時までに宿に入るのは難しいかもしれない。5時58分に宿を発つ。天気は曇り、予報は一時雨だったけれど、登りきるまでは持ちそうな感じがする。
 昨年はこの分岐を西の方に行った。


 7:22
前を行く人の歩はやや緩やか、6時半頃に栄家旅館を出たと思われる。62番近くの宿に着くのは5時近くになりそうな感じがする。橋を渡ると、いよいよ山が近くなってくる。


 7:44
橋を渡ると国道11号との交差点、右の方から、昨日道の駅で追い抜いた野宿の人がやってくる。国道の右の方には「湯の里小町温泉しこくや」という宿がある。大きな荷物なので野宿かと思ったけど宿に泊まる人だったのかもしれない。妙雲寺の横を通るとすぐ松山自動車道の下をぬける。200mくらい前を行く二人のお遍路が見える。内一人が立ち止まって地元の人と何か喋っているようだ。ぼくがその近くを通ると、そばの畑で作業をしているおばさんが声をかける「お遍路さん、ちょっと待って」と言って袋に入った苺を差し出す「お接待しようと思って持ってきたの」。「え、こんなにいっぱい貰っていいんですか」度肝を抜かれながらも丁寧にお礼を言う。すごく嬉しくてありがたいけれど、いいのかなという気持ちもどこかにある。ザックの中には入れられないので、左手にぶら下げて次の休憩ポイントまで持っていくことにする。


 8:34
横峰寺の登山口にある遍路小屋まで宿から15.9kmを2時間33分で到着した(もちろんこの間休みなし)。片手に苺をぶらぶらさせていたのにベストタイムを出してしまった。理由ははっきりしている。松山道から先、二人の人を追い抜いたけれど、その一人が荷物を持っていないせいもあってかなり速かった。栄家に泊まると次の宿まで荷物を運んで貰えるのかもしれない。その人に引っ張られて自然にスピードが乗ったと思われる。この小屋に着くすぐ前にももう一人前を行く人がいて、追い抜けはしなかったけどほぼ同時に着いたという感じだった。合計5人に会ったことになる。


 8:49 村上さん
横峰寺の登り口には湧き水が汲めるようになっていて、いつも地元の人がここまで車で来ている。その順番待ちをしている人がぼくの向かいに来ていろんな話を聞かせてくれた。先ず、びっくりしたのが彼のお母さんの話。お母さんはすべて車遍路ではあるけれど100回以上四国を巡った、真っ赤に染まった50回分の納経帳が2冊あるそうだ。83歳の時金剛福寺で骨折をして、それからは家族に止められて、ようやく打ち止めにしたけれど93歳の今も元気だということだ。村上さん自身も3回車で巡ったけれど、足の調子がよくないので歩いて巡ることは考えられないと言う。でも、歩数計で東海道と山陽道は踏破して、現在は四国を巡っている最中だ、と笑う。ぼくの話も少しさせて貰うと、へぇ~、そんな人がいるのかと目を丸くしてびっくりすることしきりだった。自慢するようなことではないけれど、お母さんとの話の種にして貰えれば嬉しいと思った。


 9:13
村上さんとは20分くらいお話をして、8時56分に登り始める、石鎚橋で抜いた人以外の4人はここでは休まずすでに山の中へ入っている。宿からここまで9kmはあるはずなのにどうして休まないのか不思議だった。この山登りは5回目になる(2回は自動車道を行った)けれど、昨年気合いを入れすぎてすごい記録を出してしまったので、到底それ以上のタイムを出せるとは思えなかった。でも、できるだけ普通以上には登りたいと思う。登り始めて17分で、04年の秋の台風で起きた土石流の跡にやってきた。この部分だけは当時のままで迂回路が設けられている。


 9:41 横峰寺
今回は前に行く人がいたりして、あまり時間を感じることなく山門の下までやってきた。まだまだだと思っていたところに急にその姿が見えたのでびっくりした。タイムは昨年より2分も早かったのでさらにびっくりした。やはり、村上さんといっぱいお話ししたので、余分な力や毒素が抜けて自然と元気が出てきたに違いない。普段はずっと一人で歩いているからどうしても精神が解放されない。お話しすることによって、精神のいずれかの部分が解き放たれて、それが動きにも影響してくることは間違いないと思う。実際何度も経験してきたことだ。


 9:43
昨年は土台のコンクリートしか見えていなかった新しい納経所が完成間近のたたずまいを見せている。今年も納経は靴を脱いで本堂の中でして貰う。バスツアーや車遍路の人で境内はにぎわっていたけれど、納経は待ち時間なくすっきり済ませることができた。


 10:08
納経が終わると一休み、この新しい休憩所は昨年からできていた。納経所より先に建てたというのは、本当に参拝者、登山者のことをおもんばかったことだと思われる。でも、ぼく以外に休んでいる人は一人もいない。それもそのはずで、山門、休憩所、水屋、工事中の納経所と並んであって、本堂と大師堂は一段高いところにある。車の人は裏の駐車場から入ってくるので本堂の高さの所から入ってくるので、わざわざこの低いところまで下りて休もうなどとは思わないし、歩きの人の出口は裏側なので、これまたここまで下りて休むと、また登ることになるので面倒なことになる。車の人などは水屋を使わずそのままお参りする人も多い。でもトイレは山門を出た先にあるので仕方なく階段を下りてこの休憩所の前を通ることになる。
 10分ちょっと休んで10時19分に発つ。下りだと思って気を緩めている場合ではない、ここからが本当の横峰寺なのだ、いつも思い知らされる。


 11:05
改めて横峰の下りが一番きついことを思い知る。三坂峠とは段違い、三坂峠は後半の急傾斜の舗装道は相当負担がかかるけれど、前半はハイキング気分で下れる。この横峰はそれよりずっと負担がかかる、足場がゴロゴロして落ち着かないしスピードも出せない、そして何より、途中で登りも待っている。細かい区間でも下りの途中に登りが入ると気持ちが折れそうになる。ハイウェイオアシスへ向かう分岐点には、以前のような標識がなくなっていた。こちらの方も相当険しいけれど、登りはなくて下るばかりなので、少しは楽に下れるかもしれない。


 11:22
これから下りていく小松の町が見える。1時間下り続けてまだこんなにも下らねばならない。半ばがっくり。


 11:40
1時間20分かかってようやく自動車道まで下りてくる。本当にこの下りは楽なところはほとんどなかったといっていいくらいだった、常に膝や足首に負担のかかる油断のできない所ばかりだった。そしてこの自動車道も容易ではない。少しスピードを上げようものならたっぷり膝に負担がかかってくる。


 11:56
4時間ぶりに松山道の下を通過する。ここまで来るともう余裕を持って歩けるけれど、この先にはまだちょっとした登りが待っている。最後の最後まで横峰寺は許してくれない。


 12:11 香園寺
最後、高鴨神社の中の道は5年ぶりに歩く、そこの手前の道はほとんど記憶に残っていなかった。横峰寺から9.6kmを111分で下りてきた。同じ道を歩いた5年前よりは2分ほど早かったけれど、松山道から乙の道を歩いた2年前よりは9分も遅かった。乙の道は距離もほとんど変わらないし、登り坂は甲よりもきついくらいだから、完全に負けたという感じ。2年前は登りが全然力が出なかったけれど、下りはかなり復活していたということかもしれない。ちなみに、ハイウェイオアシス=丙の道を歩いた昨年のタイムは2年前と全く同じだった。納経を終えて少し休もうとしたらぽつぽつと雨粒が落ちてきた。山登りが終わればいくら降られてもどうってことない。


 12:52 宝寿寺
香園寺から1.3kmを13分、例年より1分遅れ、写真は撮らなかったけれど誤差の範囲とする。確かに横峰寺の下りで相当痛んでいるという感じもある。狭い境内は団体の人でごった返していた。お参りを終えて納経所に行くと、案の定、その団体の記帳で大わらわだった。その後にも車の人数人、歩きの人も並んでいる。納経所で待つのは、初日の2番極楽寺以来だったかもしれない。待つといっても、お参り納経を含めて19分しかかからなかったから、ほかの札所と比べて2~4分くらい余分にかかっただけだった。ぼくの前の歩きの人はイライラして「歩きだから先にしてくれ」と言っていたけれど、本当にさもしい行為に見えた。たった数分のことじゃないか。他人を押しのける行為は他人に迷惑をかけるに等しい。遍路にあるまじき醜い行為だった。


 13:16
小松駅を過ぎたところにあるこのコンビニでいつも食料を仕入れていたけれど、もっと宿に近いところにコンビニがあるのでまだ買わない。まだ札所が二つ残っているのでほっとしていられない。


 13:24 吉祥寺
宝寿寺から1.4kmを13分、例年より1分遅れで到着、誤差の範囲とする。それより何より、びっくりしたことがある。ぼくはこのお寺に山門があることを今の今まで知らなかった。というのも、国道からすぐこのお寺に入れるようになっていて、迷うことなく一番の近道で境内に入り込んでしまっていた。ところが、今年はその入り口には紐が渡してあって、ここは入り口ではありません、と看板があった。それでようやく初めて山門の前に立つことができた。すごく恥ずかしい。7回巡ったとてまだまだ偉そうなことは何も言えないと自分を戒めた。
 納経の後、ベンチで軽食を摂っていたら雨足がはっきりしてきた。山門を出ようとしていた歩きの人が、思わず立ち止まってザックの中から合羽を出し始めた。この程度の雨で合羽を着けるのは本当に面倒だと思う、傘を持っていて本当に正解だと改めて納得する。


 13:52
「お四国巡拝者様 甘夏御自由にお食べ下さい!(持帰り可)」
余程一つ頂いて持っていこうかと思ったけれど、躊躇してしまった。なぜか余裕がなかった。


 14:14 前神寺
吉祥寺から3kmを31分で到着、例年より3分遅れ、これは誤差の範囲とは言えない、雨のせいとも言えない。横峰の後遺症がじわりと押し寄せてきたか。山門をくぐると宝寿寺で一緒だったバスツアーの人たちが戻ってくるところ、納経は完全に終わっているはずだ。トイレに金剛杖を忘れた人がいて、添乗員の人が慌てて走って取りに戻るところだった。


 14:44
前神寺を出て10分で国道に合流、へんろ道は国道に合流せずこのすぐ手前から農道を行くことになるけれど、今日の宿はへんろ道を外れた西条の駅の近くにあるので、国道を行くしかない。


 14:52
距離はものすごくあるけど徳島の文字が現れた。1巡が近いことを実感する。伊予の国も明日、明後日を残すのみだ。


 14:56
3年前にあることは確認していたけれど、つぶれている可能性もあるのでひやひやだった。パン4つとかりんとうを購入。


 15:06
白いアーチではなくて、その少し下から覗いているピンクの橋が、四元さんが迷演奏を聞かせてくれたメロディ橋。へんろ道はあんなに南側を走っている。国道より遠回りになるけれど歩き心地は段違いに良い。


 15:12
加茂川橋を渡って二つ目の信号を左折、伊予西条駅方面へ向かう。


 15:18
踏切から右を見ると伊予西条駅が見える。市の中心とはいえ大きな駅ではない。


 15:21
前神寺から4kmを38分で到着、3年前より3分早かった。でも今年が特別早いということではなくて3年前が余程ばてばてだったと思われる。何といっても平地で時速6.3kmだから標準以下という感じ。でも一応はベストなので気分は悪くない。
 にぎたつ旅館は3年ぶり2回目の投宿、へんろ道からは少し外れてしまうけれど、何といっても素泊まり3000円という料金が嬉しい。ビジネス旅館小松の3675円、石鎚温泉の3800円もいいけれど、600円以上安いと、どうしてもこちらということになってしまう。でも、この宿は風呂の時間が遅い。5時過ぎにようやく入ることができた。それでもこの値段なら我慢するのも仕方のないところ、風呂にすぐ入れれば文句なし◎の宿になる。