WALKER’S 

歩く男の日日

遍路宿情報

2013-05-17 | 13年四国の旅

 最初の宿さくら旅館の夕食時、同宿の方に自作の遍路宿情報を渡すと、向かいに座った人が「この宿全部に泊まったんですか」と訊かれました。「4分の1も泊まっていません、ほとんどがネット情報を参考にしたものです」と答えると「インターネットの情報って信用できるもんですかねぇ」とちょっと懐疑的な表情をされました。
 確かにネットの情報を鵜呑みにするのは危険なこともあるし、何より宿の善し悪しの判断は人によって違うことも多いから、どちらの意見を参考にしたらいいのか迷うこともあります。ぼくが主に参考にしているのは「遍路宿ランキング」です。多くの人の意見を4段階に分けてポイントにしているのでかなり公平な評価として見ることができます。ここで、△や×のポイントが一つでもあるとお薦めの宿にはなかなかできません。逆に◎だけにポイントがある宿は安心してお薦めの宿に登録できます。
              ◎    ○  △     × 
青空屋         25  0  0  0
ふれあいの里さかもと  21  0  0  0
うまめの木       10  0  0  0
生本旅館         9  0  0  0
道しるべ           6  0  0  0
なずな            6  0  0  0
民宿兵藤           6  0  0  0
えびすや旅館(砥部町)  6  0  0  0
みき旅館         6  0  0  0
大鶴旅館         5  0  0  0
遍路宿もやい       5  0  0  0
土佐民宿大平       4  0  0  0

 昨年までこの内4つの宿に泊まったことがあるのですが、今年は新たに3つの宿に泊まることができました。この評価通り、あるいはそれ以上であることが判りました。

 黒潮町の内田屋は◎=16、○=3、ですが全部◎と見てもいいほどの宿です。ふれあいの里さかもと、うまめの木、土佐民宿大平、内田屋と特に評判の高かったこの4つの宿に初めて泊まるのが今回の旅の大きな目的の一つでした。
 4軒ともに期待を全く裏切ることのない最高ランクの遍路宿でした。文句なしの95点以上、ベストテンに入ることは確実でしょう。ぼくはまだ金剛頂寺宿坊、遊庵、いさりび、なずな、仙遊寺宿坊、和佐路、笛ヶ滝などに泊まっていないので簡単にベストテンを決めるわけにはいかないけれど、それくらいのいい宿でした。この宿に戻ってくるためにもう一度四国を歩きたいと思わせるほどの宿と言ってもいいでしょう。「ふれあいの里さかもと」と「うまめの木」は絶対もう一度泊まってみたい、来年は今年の続きから歩くしかないので2年後になってしまうのですが、今から2年後が楽しみなくらいです。
 この4つの宿には、全ての歩き遍路さんに泊まってもらいたい、歩く距離を多少伸ばしたり縮めたりして無理をしても泊まってもらいたいという気になります。ところが、悲しいかな「うまめの木」は歩き遍路さんがすごく泊まりにくい場所にあります。手前の宿「徳増」からだと16.4km、どんなにゆっくりな人でも5km先の津照寺の近くの宿まで行けてしまうのです。もっと手前となると徳増から21km手前の東洋町役場の近くの5つの宿からということになり、37km以上歩くことになります。これだけの距離を歩こうという人はかなりの少数派になりますから、うまめの木を楽しめる歩き遍路さんはごく一握りの人たちになってしまいます。事実今回同宿だった人は自転車遍路さんと車で来た観光客のご夫婦でした。歩いている人でも23番から24番までは電車やバスでスキップする人が多いから、そういう人はスキップする距離を調節してぜひともこの最高の宿を味わって欲しいと思います。

 ぼくが「うまめの木」のことを初めて知ったのは家田荘子さんの遍路日記を読んだときでした。3組限定の宿で一人一人お風呂のお湯を換えてくれることに感激していました。四国の民宿や旅館では家族風呂とほとんど変わらないようなところも多く、そういうところに男性が何人も入った後はとても入る気にはなれないと彼女は言っていたし、他の女性のお遍路さんが言っていたのを読んだこともあります。ぼくは男でもあるしそういうことは全く気にならない方ですが、確かに見ず知らずのおじさんたちが何人も使った後のお湯にそのまま入るのはとても気持ちが悪い、我慢ならないという気持ちも十分理解できます。うまめの木の奥さんはお遍路の経験者で、そういう女性の気持ちが充分判った上で3組限定で十分なお接待ができる宿を作られたようです。ぼくが一番風呂で用意ができたときに「上がられるときにお湯を落としておいて下さい」と言われました。このことを知らないと、何のことかと聞き返していたかもしれません。一人ごとにお湯を換えてくれる遍路宿は見たことも聞いたこともありません(遍路宿もやいは換えてくれるかもしれません、今まで同宿の人がいなかったので確認できていません)から。
 食堂には家田さんの写真と色紙が飾ってありました。その隣には椎名誠さんの写真と色紙もありました。色紙には「たいへんここちよく。」とありました。全くの同感です。

 ぼくは男だから水回りのことに関してはあまり気にならないけれど、6年前に泊まった高知県のとある宿だけはちょっとまいりました。洗面がトイレの中にあってとても狭くて使いにくいばかりか、すぐ後ろに男性の小用の便器がある。洗面で閉口したのはこの宿だけではなかったかと思います。この宿は応対もよく料理もよくておにぎりのお接待もありかなり評判のいい宿だけれど、ぼくは素泊まりだったこともあり、次の年からは近くのもう一つの宿に泊まるようになりました。その宿は新しくてトイレと洗面は完全分離、お風呂も個人用でゆったりしていました。
 最近見た女性のブログでもこの宿の洗面ではたいへん困ったと書かれていました。女性だとぼくが感じた以上に嫌な思いをしたのは容易に想像できます。こういうところで、宿の評価が大きく分かれてくることもあるのだと実感します。たしかにトイレの中にしか洗面がない宿も多いし、小用の便器がある男女共用のトイレも少なくないし、お風呂の脱衣場にしか洗面がない宿もありました。男が全く問題としなくても、女性だと気になったり嫌な思いをすることもある、うまめの木は個室が二つあるだけで洗面も完全に分離、脱衣場も余裕があり当然鍵もかかります。そしてそれぞれが新しく清潔感があります。あらゆることに文句のつけようがありません。

 20番札所鶴林寺への登り口から西へ6.5kmの所にある「ふれあいの里さかもと」がオープンして11年になります。最初の3~4年は知らない人が多く、お遍路の間でもあまり話題にもならなかったような気がします。へんろ地図には04年の版から載ってはいたけれど、地図の後半の別格用の地図にしか載っていなかったし、別格3番慈眼寺にお参りしない人は往復13kmも余分に歩かねばならない(送迎バスがあることも地図を見ただけでは判らない)から鼻もひっかけなかったに違いありません。ネットでその評判が上がってきたのはこの5~6年のことでしょうか。だれもがその素晴らしさを熱く語るので今ではベテランの人では知らない人がないくらいで、初めて巡る人にもこちらに泊まった方がいいとアドバイスするのが普通に行われているようです。昔は二つのお山に登るのにこの宿しか選択肢がなかったという老舗の宿は、現在では宿泊客がかなり減っていると聞きました。たしかに、一度「さかもと」を味わってしまうと、もう一つの宿にはたとえ料金が半額になったとしても泊まりたくないと誰もが思うことでしょう。これだけいい気分にしてもらうと本当にお遍路が楽しくなります。嬉しい気持ちでお山に登ることができます。
 ぼくが泊まった日は同宿の人は9人、送迎バスの運転手さんは、団体なしでこれだけの人が泊まるのは珍しい、と言っていたから、普通は4~5人というところなのかもしれません。17番札所井戸寺門前の宿から32.5km(鶴林寺登り口まで)、徳島駅近くの宿から25.5kmですから。「うまめの木」とは違って多くのお遍路さんが利用できます。

 ふれあいの里さかもとのお風呂は大浴場と小浴場、ぼくが泊まった日は男性ばかりだったので小浴場はお休みだったけれど、女性が泊まる場合は両方が動いて待ち時間なくいつでも入れるようになると思います。ぼくが到着した15時50分にはすでに入っていた人がいたから15時30分には入れるはずです。トイレ洗面も完全に男女別になっています。元々小学校だからスペースには余裕があります。料理は当日のブログにも書いたように、本当のおもてなし、ご馳走と言っていいでしょう。品数の多さに加えてそれぞれの味わいの深さ、朝食のおかゆの美味さはいまだに忘れられないくらいです。この宿に素泊まりで泊まるのは全く意味がないといえます。2食付き6300円、素泊まり3675円です。

 送迎バスは最初勝浦川に架かる横瀬橋を渡ったところで停車します。ここで、6人が降りていきました。残りの3人は逆打ちなのでコンビニまで、金子やさんの前の登り口で降りたのはぼくだけでした。横瀬橋から西側の登山道を行くと近いような感じがしますが、実際は金子やの前から登るより5~10分余分にかかります。初めての人は金子やから登るのがいいでしょう、でも勢いがすごかったのでそういうアドバイスをする余地は全くありませんでした。

 ふれあいの里さかもとに泊まって送迎バスで登り口まで送ってもらうと、ほとんどの人が22番札所平等寺まで歩きます。距離は21kmほどだけど500mの山二つを登って下って最後に大根峠もあるから平地の30kmに相当する時間と体力を使います。平等寺のすぐ横にある山茶花はとても評判のいい遍路宿だけれど部屋数が多くないので、予約が取れないことも少なくありません。その場合は駐車場に看板が出ている宿(送迎してくれる)もいいのですが、今回ぼくが泊まった宿がおすすめです。12kmも先の美波町由岐駅の近くにあるのですが、当たり前のように気軽に送迎してくれます。ぼくと同宿だった男性は立江寺の近くの鮒の里から歩き始めたので、山越えの30kmで平等寺でダウン、車で迎えてもらって、翌日はまた平等寺まで送ってもらうと言っていました。もう一人の人はやはり鮒の里からで、時間がかなり遅くなって宿の人が迎えに行きましょうかと言ったところ、どうしても歩きにこだわりたいということで、19時過ぎにやっと到着したのでした。山越えの42km、ぼく以上の無謀な計画です。

 JR由岐駅から700m、港の端っこにある民宿ゆき荘はネットでは2食付き7350円になっていますが、実際は6500円でした。お遍路割引なのかもしれません。チャイムを押すとすぐに出てきてくれた女将さんはとても元気で明るい。「前に来てもらったことあるよね」「いいえ初めてです、橋本屋さんには一度お世話にはなりました」この受け答えでいっぺんに和みました。いい宿に当たったと直感しました。遍路宿はこの応対の良さというのが本当に大きいと思います。部屋は土佐民宿大平と同じで2つ分の部屋でしきりの壁が取り除かれていました。オーシャンビューでとても居心地がいい。お風呂もすごいオーシャンビュー。
 料理担当の息子さんもとても感じのいい好青年です。ぼくが金子やの前から来たと言うと、金子やから歩いて4時前に着くのはめちゃくちゃ早いですね、とびっくりしていました。

 「ゆき荘」のトイレは男女共用で洗面も同じところにあるので女性の中には少し気になるという人もいるかもしれませんが、男性には全く問題にならないでしょう。お風呂の脱衣所もきっちり鍵がかかります。男性には文句なくおすすめできる◎の遍路宿です。女性だと◎と○が半々くらいに分かれるかもしれません。由岐の宿は太龍寺下の龍山荘、坂口屋から20kmくらいで、薬王寺まで国道を歩けば27kmだからほとんどの人が薬王寺まで行ってしまいます。金子やからだと山越えの33kmだからなかなかたどり着けません、結果ここに宿をとる人はかなりの少数派になってしまいます。それでゆき荘は気軽に送迎に応じてくれるのかもしれません。平等寺の横の「山茶花」はよい宿ですが、もう一つその横に「ゆき荘」があると考えてもよいのではないでしょうか。

 27番札所神峯寺の下の3つの宿には昨年まで一度も泊まったことがありませんでした。奈半利の宿(ホテルなはり、山本旅館)に泊まって、翌日は安芸か香南市まで歩いてしまうので7回いずれも通り過ぎていました。今回は室戸岬の「うまめの木」に泊まったので、初めて神峯の下に泊まることになりました。3つの宿の評判は少ないながらいろいろと聞いていました。その評判と遍路宿ランキングのポイントが絶妙に合致しているようでした。
                  ◎   ○   △      ×
  民宿きんしょう  6500円  0   6   3   0
  浜吉屋       6500円    1   21    5   3
  ドライブイン27  6000円    5   7   3   0
いろんな考え方や計算の仕方がありますが、◎=9、○=7、△=5、×=3、で計算すると「きんしょう」と「浜吉屋」は6.3、「ドライブイン」は7.3になります。値段も安いしぼくが聞いた評判でもドライブインはおおむね好評だったのに対し、きんしょうはちょっとお茶を濁したような評価しか聞けなかったし、浜吉屋はシビアな評判を二つほど聞いていたので、迷わずドライブインに予約の電話を入れることになりました。

 牟岐駅のボックス(今回は携帯電話は持っているけどテレホンカードが3000円分くらい残っているのでなくなるまでは携帯は使わない)からドライブイン27に予約を入れると、先ず前日の宿を訊かれました。室戸岬の「うまめの木」ですと答えると、「神峯寺は翌日の朝ですね」という、山に登らず宿に入ると35km、山に登ると42kmだから、室戸岬の宿からだと圧倒的に翌日に登る人が多いようです。「その日の内に登ります」と答えると、一瞬間があってびっくりされたようでした。「では先に宿の方に来て荷物を置いて登ってください」と優しく言われました。予想通り感じのいい応対でした。
 でも、ぼくは宿に寄らずそのまま登ってしまいました。頭陀袋は持っていないし荷物は全部で5kgだから預かってもらうほどのものではありません。宿に寄るとタイムの比較もできなくなります。

 神峯寺でお参りを終えて、ドライブイン27に着いたのは16時ジャスト、もう山に登ってきましたと言うと、女将さんはまたびっくり。傍らに今山に登っている同宿の人のザックが二つ置いてありました。お茶を入れてもらってしばし一服、その後おばあちゃんが車で宿舎の方へ案内してくれました。200~300mの距離のところに2階建ての家があったのですが想像していたのとだいぶ違っていました。かなり古い感じでぼくが選んだ2階の大きな部屋は3面がガラス障子で確認はしなかったけれど鍵はかからないようでした。廊下を挟んで二つの部屋があって、そちらは部屋のしきりがガラス障子でした。そして、一番の問題はお風呂でした。脱衣所のしきりがカーテン1枚、洗面もトイレもその前を通るので、女性にはかなりきついはずです。もちろん男にはほとんど問題にはなりません。このあたりで評価が大きく分かれるのも納得がいきます。料理と応対は最高ランクだから、男性の中には◎をつける人もいるし、女性の多くは△をつけるかもしれません。ぼくも男性にはおすすめできるけれど、女性には躊躇せざるを得ません。

 28番札所大日寺の近くの民宿喫茶きらく、遊庵から32番札所禅師峰寺の6km先にある海老庄旅館まで33.8kmの遍路道沿いには遍路宿がほとんどありません。30番の近くの宿は何かと良くない噂がありますし、基本相部屋なのでとてもおすすめできないし、サンピアセリーズは料金がすごく高いので遍路宿として認めるわけにはいきません。
 土佐電鉄後免線を越えて国道32号を東側に800mほど行ったところにあるホテル土佐路たかすを利用する人は多いようです。朝食付き4100円(ネット予約の場合)ですが、普通に予約するといくらなのかはっきりしません。はっきりしないのでこの宿を語ることはほとんどありません。
 故に、遍路道を大きく西へ離れて高知駅の近くのホテルに宿をとる人も多いようです。ぼくも今まで、グリーンホテル、四國屋、鏡水旅館、福城旅館の4つの宿に泊まったことがあるのですが、今回はその中で一番料金が安く居心地も良かった福城旅館に予約を入れました。

 今回は後免駅から高知駅まで電車に乗ったのですが、電車に乗らなくても後免駅の近くに安い宿があってかなり迷いました。南国ビジネスホテルが遍路割引で2食付き5000円であることを知ったのは今年の初めでした。四国ではできるだけホテルは避けたいと思っているのですが、この料金は魅力的です。でも朝食が7時から、というのに引っかかりました。宿を出るのが7時半になると次の宿に到着するのが17時を過ぎてしまう、到着時間は基本16時までと決めているので、1時間以上遅れるのはちょっと受け入れがたい。福城旅館は素泊まり3000円、電車賃を加えても3520円、今回の前半は食事付きで泊まる宿が多いので、電車に乗ることにしました。
 福城旅館はへんろ地図に載っていないのでほとんどのお遍路さんが知らないはずです。8年前と7年前に泊まった宿が良くなくて、帰ってからさらに安い宿を探していたところ,iタウンページで発見しました。そのときは素泊まり3500円でした。ビジネスホテルでも4000円未満の宿はいくつかありましたが3500円はなかなかありません。しかも旅館で駅からも近い、そして6年経って料金がさらに安くなっている。高知ユースホステルの会員料金で3360円ですからそれよりも安い、おそらく高知市内で最も安価な宿泊施設(通夜堂、善根宿を除く)です。
 高知駅から南へ250m、高知橋を渡らず左折、川沿いの道を350m行くと大きな交差点の南東の角にファミリーマートがあります。そのすぐ向こう(東側)にあります。

 高知市の次は35番清滝寺の3km手前、土佐市の宿です。04年から6年連続でお世話になった喜久屋旅館が廃業になっていました。この10年で、泊まったことのある宿が廃業になったのはこれで15軒目です。
  民宿坂本屋(阿波市)       星空(土佐清水市)
  ビジネスホテル双葉(吉野川市)  民宿北村(土佐清水市)
  飛厳荘(室戸市)        ビジネスホテル桂月(宿毛市)
  山本旅館(奈半利町)      内海リゾートホテル(愛南町)
  国民宿舎海風荘(香南市)    ハイプラザうちこ(内子町)
  伊予屋旅館(四万十町)       コスタブランカ(松山市)
  民宿わかば(黒潮町)      月の家旅館(今治市)
この中には二度と泊まりたくないと思った宿もありますが、無くなって本当に残念だと思った宿もいくつかあります。喜久屋旅館はその中でも特別でした。昨年まで泊まった宿の中でベスト5に入るお気に入りの宿でした。

 喜久屋旅館の女将さんは玄関から30m先の曲がり角までずっと見送ってくれます。曲がるときに振り返ってまた一礼すると、今度は両手を頭の上で大きく振ってくれる、こちらもそれに答えて大きく手を振り返します。また一礼してやっとお別れです。こういう送り方をされると自分が本当にお遍路なのだと自覚します。そしてしっかり歩かなくてはと気合いが入ります、そしてまた戻って来たくなる。6年連続でお世話になった遍路宿は喜久屋旅館と柳屋旅館(須崎市)だけです。
 そういう宿が無くなるのは本当につらいです。その代わりに予約を入れたビジネスイン土佐は客観的に見ればかなりいい宿です。安い方の部屋で5250円、ぼくが今まで泊まったビジネスホテルの中では広い方だし新しくきれいな感じもするし、荷物を広げるのに十分なスペースもあるし居心地もいい。多くのお遍路さんが納得すると思います。でもぼくは納得できない。接客応対は普通のビジネスホテル以下だったし喜久屋旅館より2250円も高い。白石旅館はシーズン真っ最中だというのに不定期に休業するということは全く当てにならないから、もうこれから先この地に宿をとる理由が無くなってしまいました。
 次に来るときには、 ドライブイン27ー(41.5km)ー遊庵ー(37.2km)ー高知屋ー(35.4km)ーなずなー(47.5km)ー村の家
 という感じになると思います。まだ泊まったことのない最高ランクの宿に3日続けて泊まれるのでこれはこれで楽しみではあります。

 土佐市の次に宿泊する予定だった須崎市の宿、柳屋旅館も泊まることはできませんでした。廃業でも休業でもなく満室だと思われます。「その日はだめです」としか言われなかったのではっきりしません。今まで7回予約を入れて一度も断られたことはなく、同宿の人も多くて3組までだったから何があったのか全く判らず一瞬当惑してしまいました。今まで一番多く泊まった宿に2日連続で断られて本当に落ち込んでしまいました。でも落ち込んでばかりいても先に進めないので、次の候補「民宿ひかり」に予約を入れました。前日の宿は土佐市だと答えると、同宿の人が15人以上いるので早く来ないとお風呂に入れなくなるかもしれないと、おどかされました。予約を入れたのは宿泊する3日も前なのに、それだけの宿泊者がいるということはお遍路ではなく工事関係者だと思われました。柳屋旅館とは1100mしか離れていないから柳屋旅館も工事関係者でいっぱいなのかもしれないとそのときは思っていました。

 工事の人たちが帰ってくるのは17時前後だと思われたけど、何があるか判らないので目標は15時にしてせっせと歩いた結果、青龍寺までは1分遅れ、大善寺の大師堂の前までは2分早く(ベストタイムより)到着し、民宿ひかりには14時40分に到着しました。玄関の横にいたご主人(還暦前後)が、「お遍路さん?早かったねぇ~」とにこにこ出迎えてくれました。そして中に向かって「お遍路さん着かれたよぉ~」と声をかけました。この二言で二つのことが判りました。今日お遍路はぼく一人だということ、そしてこの宿がお遍路に敬意をもって優しくもてなしてくれる宿だということ。

 民宿ひかりは本館と別館に別れているようでした。建物の中ではつながっているのですが、別館の方にも入り口とお風呂、トイレがあるようでした。ぼくが入った本館の1階には客室が2つ、隣の部屋との仕切りは襖が1枚だったけど隣は空室だったので静かで落ち着けました。2階には3~4室、工事の人が入ったのですが、お風呂を使った人は数人だったので、別館の方にもお風呂があることは確実です。トイレは共用、洗面は脱衣所にあって鍵もかかるので誰かがお風呂に入っていると使えません、珍しいケースです。ご主人がぼくの部屋の外に干してあった布団を取り込んだりお茶を持ってきたりこまめに働かれています。夕食は温かいビーフシチューがメインで嬉しくて飛びつくようにいただきました。工事の人が入れ替わり立ち替わり食堂にやってきて、たしかに20人近い人の食器が並んでいました。ぼくは一番隅っこで邪魔にならないようにおとなしくいただきます。明日の旅立ちが早いので朝食は断っていたので、夕食が終わると支払いを済ませます。客用の広い食堂を出てぼくの部屋に戻る間に宿の人の食堂を通ります、そこに貫禄のある大女将が座っていました。ご主人のお母さんと思われます、80歳前後、おそらく50年近くお遍路さんの世話をしてきた、その慈愛が自然と感じられました。夕食付き5500円、この次来るときには宿泊ポイントがずれてここに戻ってくることはないけれど、そのことがすごく残念なくらい気持ちの良い遍路宿でした。

 この次に泊まった黒潮町の内田屋はポイント以上に素晴らしくきれいな宿でした。料理は本当に最高でした。ふれあいの里さかもとと甲乙付けがたい、温かいクリームコロッケは忘れがたい味わい、そしてカツオをたたきではなく刺身で出す自信、本当に美味いカツオはたたきではなく刺身で食うものだと地元の人は言うようです。この宿は岩本寺から20kmなので泊まる人は少数派(25km先にも30km先にも宿がある)ですが、余裕のある人はぜひとも泊まってもらいたい特Aの遍路宿です。2食付き6000円です。


豊かなお遍路

2013-05-13 | 13年四国の旅

 今年のお遍路で最も印象に残ったこと、嬉しかったことはオランダから来たエリーさんとたくさんおしゃべりできたことです。お遍路に出ると毎回外国の方には何人か出会うのですが、挨拶を交わすくらいでほとんど会話することはありません。今まで2回ほど試みたのですが、相手の方が全く日本語が解からず、かつ英語圏の方だったのでほとんど意志疎通はできませんでした。今回もそのつもりは全くなくて、薬王寺の本堂の前で挨拶を交わしてそれっきりになるだろうと思っていたのですが、お参りを終えて納経所の前まで来ると彼女がベンチで休んでいたので、ブログのための写真だけお願いしたところ、思いがけずいろんなお話ができたのでした。
 彼女は自国でかなり日本語を勉強したということもあり、こちらも安心して返答したり質問したりできました。そして複雑なことは解りやすい簡単な英語で喋ってくれたのでほとんど全て理解することができました。

 エリーさんは3月21日から歩き始めて5月21日まで、丸2ヶ月かけて四国を一巡します。順調に進んでいるのであれば今日は善通寺のあたりを歩いていることになる。ぼくが宿毛から帰ってきて丸1ヶ月になるのにまだ四国にいるなんてうらやましい限りです。
 ぼくが出会ったのは4月3日、前日は日和佐駅前のホテルに泊まったというから、11日くらいかけて薬王寺まで来たことになります。60日で一巡ということは1日20kmのペースだからここまではそのペースよりさらにゆっくりのんびり。でもそんなことは意に介する様子もなく昨日薬王寺まで来たのに今朝も改めてゆっくりお参りに来ています。今日は国道ではなく海岸線の道をゆっくり牟岐まで歩くといいます。英語版のへんろ地図には日和佐から牟岐まで海岸線の道(県道147号日和佐牟岐線)があってびっくりしました。ぼくの持っている地図には牟岐まで国道以外の道がないのです。歩こうにも歩けなかった。おそらくその道こそが昔の遍路道だったのかもしれない。7回も歩いている日本人が本当の道を知らず、初めて歩くオランダの人が遍路道を行く、ちょっと複雑な気分です。

 かれくささんのブログによると、山河内駅から国道を離れて白沢川沿いの道を南下、峠を越えて県道に入るのが昔の遍路道だと打越寺の住職が言われた、と書かれていました。でも昔は日和佐トンネルがなかったから日和佐トンネルの手前から白沢に向かう道を多くの人が歩いたのかもしれません。さらにもっと手前からも入る道があって本当のところはよく分かりません。県道に下りてからも、平行して南側に細い道があってそちらが昔の道で県道は遍路道ではなかったということも考えられます。

 エリーさんの言葉で一番印象的だったのは、「笑顔の絶え間がないくらいなの」。
 山を見ても海を見ても鳥の声を聞いても魚が泳いでいるのを見ても新鮮で刺激的でついつい笑顔になってしまう。何を見ても嬉しくなって笑顔の絶え間がないくらいなの。
 彼女の言うことを聞いて、ちょっと衝撃でした。笑いながら歩いている人がいるなんて・・・、そういえばほとんどの日本人が苦しみながら辛い思いをしながら歩いているのではないか。ぼく自身も明るく元気に歩きたいと思いながら歩いているし、お遍路さんと出会ったときはとびきりの笑顔で挨拶するように心がけてはいるけれど、今回ばかりは暗く沈んで追いつめられたように歩いていることが多いような気がしました。もちろん道中の景色を楽しむような余裕などほとんどありません。ぼくがたくさん歩くのは元々歩く速度が速いということもあるけれど、宿泊数を減らして倹約したいというのが大きな理由です。でも、費用を押さえている分、それに比例して味わいも貧しくなってしまっている。今まで何度もこのブログに書いてきたことですが、今回はそれを実感することが本当に多いような気がしました。

 今回の旅に出る3ヶ月くらい前にブログを通じて知り合うことになったSさんも1日20kmのペースで歩かれているのですが、彼女もぼくの歩きに比べると本当に豊かなお遍路さんだと感じることが多かったです。
 その実例は最初の宿「さくら旅館」の夕食の時に見られました。同宿の二人連れの女性のお遍路さんは区切りで、何年もかけてこの日ようやく結願し88番から戻ってこられたところ。そのお話の中で、ある札所で鎖場があってそこを滑落して大けがをされたお遍路さんがいた、もう何年も前のことだけれどそこがどこだったか思い出せなくて、僕たち同宿の人に尋ねられたのです。尋ねられてぼくは無言になりました。鎖場というと歯長峠か女体山くらいしか思いつかない、女体山は1回しか登っていないから鎖があったかどうかもはっきり覚えていない。他の人も複数回巡っている人が多かったけれどはっきり答えられなくて結局解答は出ないままでした。帰ってからSさんのブログを見ているとその解答が写真付きで出ていました。45番札所岩屋寺の山門の手前、三十六童子行場の手前にあるせりわり行場が解答に違いなかったのです。ここは希望者は鎖場を登ることができるそうです。ぼくはこの前を4回は訪れているのに全く記憶に残っていませんでした。説明書きを一度も読まなかったはずです、こういうところが速足遍路の貧しいところです。


宿毛市小筑紫 大島屋旅館にて

2013-05-05 | 13年四国の旅

 土佐清水から月山神社を経て宿毛市に入る昔ながらの遍路道を歩くには、宿泊ポイントが限られているので、区切り方も多くはありません。
 1日に25kmくらい歩く人であれば、〔大岐マリン〕 25km 〔民宿夕日〕 25km 〔民宿叶崎〕 25km 〔大島屋旅館〕 20km 〔米屋旅館〕 ・・・、という風になり、
 30km歩く人は 〔足摺岬の宿〕 33km 〔民宿叶崎〕 33km 〔秋沢ホテル〕 という風に少し無理をするか、25kmに押さえるかのどちらかになります。
 20kmくらいしか歩けない人は 〔足摺岬の宿〕 14km 〔土佐民宿大平〕 19km 〔民宿叶崎〕 20km 〔安岡旅館〕 19km 〔民宿嶋屋〕 という風にかなり楽な1日を挟むことになります。
 いずれにせよ、民宿叶崎がいかにありがたい場所にあるかが判りますし、大月町の宿も、最後にぼくが泊まった大島屋旅館も本当にありがたいと思います。この道を歩くお遍路は本当に少ないのに、ちゃんと守ってくれている、こういう宿がなくなってしまうと歩く人はいなくなってしまいます。遍路道を守ってくれている宿の人たちには本当に頭が下がります。

 今年の四国の旅で一番心配していたのが大島屋旅館でした。インターネットで調べると一番新しい情報でも3年前で、そのとき女将さんが病院へ行く日だったと記述があったので、土佐市の喜久屋旅館のようになっていても全然不思議ではなかったのです。5日前予約を入れると男性が応答してくれました。ガソリンスタンドの前を左に折れて海岸に出ると右に折れて5軒目です、と丁寧に道案内もしてくれました。そのときはその必要はないと思っていたのですが、実際にバスを降りてみると、確かにへんろ地図だけでは容易に旅館にたどり着けないことが判りました。そういう人が多いので、予約した時に必ず案内をするようになったのだと思われます。
 旅館の前に行くと、全くその雰囲気がないたたずまいでした。RYOMAの休日、の幟があり、玄関灯に小さく大島屋と書かれていたので、やっとのことここが旅館だと確認できるような状態でした。時間はまだ14時だったので中には入らず海岸べりで待つことにしました。通りかかったおばあちゃんが手招きをして、旅館が分からないのかと尋ねてくれました。このあたりで迷っているお遍路さんに出会ったことがあるのかもしれませんね。

 15時になったのでようやく旅館に入ります。アルミサッシの引き戸を開けると、度肝を抜かれる光景が待っていました。桂小枝がドアを開けてストップモーションになる時のような衝撃です。全く旅館らしくない、どころか普通の家でもない。ドアから奥まで一面の土間(床はコンクリートですが)が広がっています。倉庫以外の何ものでもありません。車があればガレージですが、それもない。一瞬たじろいだのですが、びびっているわけにもいかないので声をかけました。全然応答がないので中に入って突き当たりのドアの所まで行くと、ちゃんと部屋があるようでテレビの音が聞こえています。改めて声をかけるとまだ返事がない、諦めるわけにもいかず再度大きな声を出すとようやくおばあちゃんがニコニコしながら出てきてくれました。病院に通っていたはずの女将さんに違いありません。

 お風呂はおばあちゃんがいた部屋のさらに奥にありました。リフォームされて快適です。脱衣場にも鍵がかかって女性にも安心です。部屋は2階、廊下が真ん中にずどんと通っていて両側に4部屋ずつ、一番奥の左側に入るように言われました。おばあちゃんは階段の途中までしか上がれませんでした。階段が上がりにくいのは喜久屋旅館の女将さんもそうだったので、全く気になりません。部屋は古いのですが普通に掃除されていて全く問題ありません。古い、というのと汚い、不潔、というのは全く違います。ぼくは古いということは全く気にならないしマイナスに感じることもありません。ただ、入り口はガラス障子で、鍵は簡単なフックの金具があるだけでぼくの部屋のは引っかかりませんでした。こういうのは女性は気になるかもしれませんね。トイレと洗面もリフォームされていてきれいな方です。
 夕食はボリューム十分で、やっぱり全然歩いていなかったのでちょっと食べきるのに苦労しました。台所と食堂もきれいにリフォームされていました。最初に扉を開けた時はどうなるかと思ったけど、ネットで調べた時に受けた印象通りのよい遍路宿でした。2食付き5500円です。

 バスの時間に合わせて朝食は7時からにしてもらいました。鯖は内田屋さんで食べたものほどはおいしくなかったですが、納豆がやっぱり美味かったです。今年の旅で3度味わって好きになってしまいそうでこわい。
 7時30分に食事を終え、支払いを済ませ、そのまま食堂から土間を抜けて出ていこうとすると、おばあちゃんが玄関まで見送ってくれました。国道へ出るのは右へ行く方が近道だからと教えてくれました。また来年も来ますとは言わなかったけれど心は決まっています。

  これで、歩けなくなってからの旅行記は終了です。このあとは今回の旅で感じたこと、考えたことなどを書いていきたいと思います。