万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘最後通牒’に聞こえてしまうトランプ大統領の発言

2018年08月31日 17時37分37秒 | 国際政治
 北朝鮮による非核化作業が遅々として進まず、6月12日の米朝合意の行方も不透明感を増す中、トランプ米大統領は、米韓共同軍事演習の再開について興味深い発言をしております。次に同演習が再開される時は、それは、‘かつてない規模になるだろう’と…。

 トランプ大統領の発言に先立って、マティス国防長官は米韓合同軍事演習の予定通りの実施を示唆しておりましたので、同発言は、トランプ政権内の不協和音ではないかとする憶測もあります。11月に実施される中間選挙を前に、米朝トップ会談の成果を外交実績としてアピールしたいトランプ大統領にとりましては、米朝合意の破綻はマイナス材料となるからです。そこで、早々に、マティス発言を打消したというのが、‘足並み乱れ説’の見解です。

 確かに、トランプ大統領は、金正恩委員長に対する個人的な信頼感から北朝鮮に対して与えた約束、即ち、米韓共同軍事演習の中止を維持しようとしているように見えますが、信頼一辺倒でもないことは、上述した言葉から分かります。同発言は、マティス国防長官、並びに、アメリカ国内のみに向けられているのではなく、北朝鮮、そして、同国を背後から支える中国に対しても強力なメッセージとなっているからです。

 それでは、どのようなメッセージであるのかと申しますと、まずは、北朝鮮に対しては、仮に、現状のまま非核化を遅らせて時間稼ぎに終始するならば、‘かつてない規模の演習’を実施すると言うものなのでしょう。そして、この‘かつてない規模の演習’とは、軍事制裁=対北軍事行動そのものを婉曲に表現したのではないかと推測するのです。乃ち、国内向けを装った同発言は、北朝鮮に対する事実上の“最後通牒”、あるいは、決断を迫ると言う意味おいて同様の効果を狙っていたこととなります。そしてそれは、名指しで批判された北朝鮮の後ろ盾である中国に対する重大な警告でもあるのかもしれません。軍事力行使をも厭わない、アメリカの断固たる決意を示す…。

 今般の発言では、北朝鮮と中国は一体化されて捉えられております。果たして、北朝鮮、そして中国は、トランプ大統領の発言に対して、どのような反応、あるいは、具体的な行動を示すのでしょうか。仮に、アメリカの要望に沿う形での対応があった場合には、アメリカの軍事力が、中国、並びに、北朝鮮に対する強力な抑止力をなおも保持していることとなります。そして、逆のケースの場合、即ち、アメリカからのメッセージを両国が無視した場合には、東アジアにおける軍事的緊張は、数段に高まるのではないかと思うのです。

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隠しても現わるる中国の軍事的野心

2018年08月30日 16時24分22秒 | 国際政治
ソ連邦の存在は、高いレベルの科学技術を備えていない国でも、持てる資源を軍事部門に集中的に注ぎ込めば、短期間の内に軍事大国になり得ることを示しています。第二次世界大戦が始まった時、ソ連邦がナチスドイツからの‘解放’を口実に周辺諸国を自らの勢力圏に収め、戦後は、世界を二分してアメリカと覇を競う超大国として君臨するとは、誰もが予想しなかったはずです。そして、今日、中国は、ソ連邦と同じ道を歩むが如く、僅か数十年の内にアメリカに迫る軍事大国に成長しています。
 
 中国を軍事大国に押し上げた推進力は改革開放路線による経済大国化にあり、この経緯こそ同国の躍進が‘平和的台頭’と称される理由でもあります。しかしながら、その本質において中国が共産主義国家であり、経済よりも政治的支配の拡大を本能的に追求する傾向にあることを考慮しますと、早晩、‘軍事的台頭’への移行することはソ連邦の前例により疑いなきことです。それにも拘らず、13億の市場を有するその巨大な経済力に目を奪われている人々は、‘平和的台頭’から‘軍事的台頭’へのシフトについては半信半疑になりがちです。中国は、豊かさに満足し、覇権主義的な野心など忘れるに違いないと…。

 こうした平和国家としての中国に対する期待は、今や幻滅へと変わりつつあります。とりわけ南シナ海をめぐる常設仲裁裁判所による裁定を無視した態度は、国際的な対中認識を脅威へと転換させる分水嶺となりました。この海域における中国の行動は、既に侵略の域に達しているのです。そして、今般、さらに警戒すべき事案が持ち上っています。それは、ASAN諸国とともに作成を試みている南シナ海における「行動規範」です。

 同「行動規範」については、今年6月に草案が纏められましたが、8月29日付の産経新聞朝刊によりますと、中国側は、「参加国は域外国との共同軍事演習は行わない」とする一文を設け、「例外には通知を受けた関係国の賛同を義務付ける項目を提案」したそうです。領有権が争われている段階での軍事演習にまで踏み込んだ内容は、いささか唐突なように思えるのですが、この提案に、権謀術数に長けた中国の長期的戦略が潜んでいるとしますと、その意味するところが見えてきます。

 即ち、仮に上記の中国案を取り入れた形で「行動規範」が成立した場合、同協定が発効したその瞬間に、南シナ海は事実上‘中国の海’、あるいは、‘中国の海上要塞’となります。‘域外国’とは主としてアメリカを意味しており、たとえ中国による南シナ海全域の軍事的掌握や諸島の領土化に対してASEAN諸国が強く反発し、アメリカの支援の下で自らの権利を取り戻そうとしても、「行動規範」の条文に縛られて、もはや手も足も出せない状態となるからです。現在、フィリピンは、曲がりなりにもアメリカの同盟国でもありますが、この同盟も空文化するになりましょう。

 仮に、中国が真に平和国家であるならば、「行動規範」の草案作成に際しては、自国を含む全ての当事国の軍事行動や軍事拠点化を禁じる項目を提案することでしょう。ところが、中国は、自らの覇権主義的な行動は棚に上げて、「行動規範」という美名の下でASEAN諸国を封じ込めようとしているのです。もっとも、中国の提案は、それが他国との軍事演習の禁止にまで及んだが故に、逆に、自らの野心的なアジア、並びに、世界戦略を露わにしてしまったとも言えます。こうした中国の横暴、かつ、不誠実な姿を目の当たりにすれば、何れの国も、中国に対して最早楽観的ではいられなくなるのではないでしょうか。

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憂慮すべきワシントン・ポスト報道の日米離反効果

2018年08月29日 15時01分38秒 | 日本政治
7月の北との極秘接触報道 菅義偉官房長官コメントせず トランプ「真珠湾」発言は否定
マスメディアの大方の報道ぶりでは日米首脳間の関係は比較的良好であり、国際社会で孤立しがちなトランプ大統領は、安倍首相のアドヴァイスを頼りにしているとの情報もあります。ところが、今般、これらの情報を覆すようなニュースを米紙ワシントン・ポストの電子版が報じております。

 ワシントン・ポスト発の記事は、(1)日本国政府が7月にアメリカ政府に通達することなく、ベトナムにおいて北朝鮮側と極秘会談を行った、並びに、(2)6月の日米首脳会談の際に、トランプ大統領が、日米間の貿易不均衡の是正を促すに際し、安倍首相に対して“真珠湾を忘れない”と語った、とする二つ情報から構成されています。日本国政府は、後者はきっぱりと否定しつつも前者については口を濁しておりますので、おそらく、後者はフェイクニュースなのでしょう。

 トランプ大統領による対日威嚇発言が意図的に流される背景としては、まずは、米中対立を背景とした中国側によるマスメディアに対する工作活動が推測されます。米中貿易戦争は軍事面での緊張をも招きかねず、劣勢にある中国は、あらゆるルートを用いて同盟関係にある日米間に楔を打ち込もうとするはずです。アメリカの大統領が“リメンバー・パールハーバー”を口にして日本国の首相に凄んだとする情報が日本国内に伝われば、日本国内の世論を反米に傾かせる、あるいは、これまで醸成されてきたアメリカに対する日本国民の厚い信頼感を失わせることができるからです(修正:もっとも、トランプ大統領が真珠湾を持ち出したのは、’当時の日本国のように毅然として武器をとり、アメリカと共に戦うべき’という意味であったする情報もあります。)。背後に日米離反効果を狙った工作活動が展開されていたとすれば、フェイクニュースが流された意図は容易に理解されます。つまり、日本国民の多くは、易々とフェイクニュースには騙されない、ということになるのです。

 ところが、上記の推測はトランプ大統領の真珠湾発言にあっては説明が付くのですが、前者のベトナムでの北朝鮮との極秘接触については、どこかで腑に落ちないような感覚が残ります。両者が共にフェイクニュースであるならば、菅官房長官は、前者の方も同時に否定するはずです。となりますと、日本国政府が、アメリカ政府にも黙って北朝鮮と極秘に接触したとする情報はフェイクではなく‘事実’と考えざるを得ないのです。マスメディアやプロパガンダの手法として、フェイクニュースを人々に信じさせるために、敢えて事実を混ぜる、とものがあります。今般のニュースにこの手法を当て嵌めるならば、フェイクである真珠湾発言を信じさせるために、事実である日朝極秘接触を組み合わせたのでしょう。

 以上の推測からワシントン・ポスト側の意図と背景は見えくるのですが、一つ問題が残されているとしますと、それは、事実とされる日本国政府による対北極秘接触です。米朝首脳会談後の微妙な時期にあって、アメリカに知らせることもなく極秘に交渉を行ったとしますと、アメリカ側からすれば、それは日本国側による背信行為ととられかねません。乃ち、ワシントン・ポストの記事は、世論を含めたアメリカ側に日本国に対する不信感を抱せるに十分な内容なのです(アメリカが騙し討ちに遭ったとされる真珠湾攻撃を思い起こさせてしまう…)。トランプ大統領の真珠湾発言がフェイクニュースである可能性が高いため、日本国側では安堵が広がっても、もう一方の記事が事実であれば、アメリカ側の対日不信は強まり、結局は、日米離反の効果をもたらします。日米離反を仕掛けた側の目的は、半分ではあれ、達成されてしまうのです。

日米同盟弱体化のリスクを考慮すれば、日本国政府は、再度アメリカ側の信頼を失うことがないよう、今後は、北朝鮮との交渉については同盟国であるアメリカに対して誠実に通知するとともに、中国をバックとした北朝鮮の策略に嵌らないよう、対北政策はより慎重であるべきなのではないでしょうか。日本国民にも隠していた政府の‘隠密行動’が日米同盟を危うくしたとなりますと、日本国民の政府に対する信頼は著しく失墜するのではないかと危惧するのです。

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米中貿易戦争-‘本物の戦争’より100倍以上‘まし’

2018年08月28日 15時04分00秒 | 国際政治
米中貿易戦争が激しさを増すにつれ、‘戦争被害’も取り沙汰されるようになりました。日本企業も無傷でいられるわけはなく、被害予想の試算に慄いて早期の‘終戦’を望む声も少なくありません。

 米中貿易戦争において最も被害を受けると予測される日本の企業は、中国に製造拠点を設け、アメリカ市場に輸出している企業です。国境を越えた最適配置を試みた結果として構築してきた多国籍サプライチェーンの鎖の一つが、事実上外れてしまうのですから、その再構築には時間もコストもかかります。例えば、製造拠点を中国から東南アジア諸国などに移転させようとすれば、工業新設のための新たな設備投資、あるいは、移設のための移転費を要することでしょう。しかし、もっとも、近年の中国での賃金上昇やロボットを含む工作機械の技術向上を考慮すれば、日本国内や中国以外の別の地域への工場の移転は、長期的にはコスト減となるかもしれませんし、コスト増は、日本企業のみならず、米企業を含む中国生産にシフトした全ての企業に降りかかる運命ですので、アメリカ市場での競争条件において、日本企業のみがとりわけ不利となるわけでもないかもしれません。

 何れにしても、米中貿易戦争には相応の‘被害’を覚悟しなければならないのですが、この被害、長期的に見ますと、最小の被害である可能性がないわけではありません。何故ならば、中国が、巨額の貿易黒字を計上し続け、知的財産を侵害しつつ先進国の先端技術を貪欲に吸収しながら「中国製造2025」を実現する事態に至るならば、同国の軍事的脅威は現在とは比にならない程飛躍的に高まることが予測されるからです。「中国製造2025」は産業戦略として発表されていすが、それは同時に、先端的軍事技術における優位性の確立をも意味しています。

中国では、日一日と習近平独裁体制が強まり、「一帯一路構想」の名を借りた中国支配圏構想、否、世界支配構想も着々と進められています。人民解放軍の組織改革を見ても、‘戦争ができる軍隊’へと変貌しており、今や、ハイテク兵器は米軍の専売特許ではなくなりました。過去におけるソ連邦の軍事行動が如実に示すように、暴力革命に自らの正当性を求める共産主義国家は‘行動’、あるいは、‘実行’を是としていますので、近い将来、中国が軍事行動の挙に出ることは現実的な懸念です。日本国もまた、中国によって戦争に引きずり込まれる可能性は高く、貿易戦争ならぬ‘本物の戦争’も絵空事とは言えない状況にあります。

先の大戦では、日本国は、戦後に締結されたサンフランシスコ講和条約に基づき、中国大陸に日本企業が残した全ての残置財産を中国側に引き渡しております。数十年に渡る日本国側の莫大な投資は水泡に帰し、在中資産を全て失ったのです。この前例を思えば米中貿易戦争における‘被害’は僅かなものであり、また、若干の時間がかかるとしても、より安全なサプライチェーンを再構築することも不可能ではありません。万が一にも中国との間で戦争になり、日米同盟の奮闘もむなしく中国が勝利することにでもなれば、日本国や日本企業の財産どころか、無残にも国土も国民も蹂躙され、国家そのものを奪われることとなりましょう。

米軍が人民解放軍に優位している現段階にあって、中国の覇権主義を経済的な手段で抑え込むことができれば、これに優る良策はないのではないでしょうか。先を見越すならば、米中貿易戦争を徒に嘆くよりも、‘本物の戦争’を回避できる絶好のチャンスの到来として歓迎すべきなのではないかと思うのです。

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北朝鮮が示す独裁国家のパラドクス-最も容易に傀儡化できる

2018年08月27日 15時34分16秒 | 国際政治
独裁国家に対して人々が抱いている一般的なイメージとは、国家権力を独占し、かつ、全国民から絶対的忠誠心を捧げられた独裁者が君臨する、易々と崩壊することがない堅固な国家というものなのではないでしょうか。あらゆる決定権が一人に集中しているのですから、権限が各機関に分散する権力分立体制とは異なり、機関間の対立や摩擦、さらには決定過程におけるデッドロック等の心配もありません。

 独裁体制と全体主義との親和性の高さも、その強固な団結性に求めることができます。国家有機体説の系譜に属する北朝鮮の主体思想も、国家を一つの生命体と見なしており、独裁者はその中枢に位置する頭部であり、国民は脳の指令を受けて動く手足に他なりません。一つの生命体である以上、国家全体が不可分・不分離に結合しており、マス・ゲームが象徴する如く、全体が一つの単体として行動するのです。

 結合力を以って強度の高さを誇る独裁国家では、そのトップは、全国民を従えるために絶対的な存在でなければなりません。自国のために闘う愛国的なヒーローであり、他の如何なる国民からの追随を許さない能力を有する超人的な人物である必要があるのです。このため、北朝鮮の歴代トップは、世界最大の軍事大国であるアメリカに対しても、対等、否、それ以上の立場から敵愾心や闘争心を露わにし、公然と罵詈雑言を浴びせてきました。小国でありながらアメリカとも渡り合っているかのように見えるトップのカリスマティックな姿は、北朝鮮国民の人心掌握には必要不可欠な演出であったのです。

 かくして独裁国家=強固な体制とするイメージが定着してきたのですが、果たして、独裁体制は、見かけ通りの‘強固な国’なのでしょうか。最近の北朝鮮の動向を観察しておりますと、このイメージは、あえなく崩れそうです。非核化問題を通して露呈した金正恩委員長の姿は、国内にあっては頂点から国民を支配する絶対的な指導者でありながら、国際的な観点から見れば、中国という大国の傀儡に過ぎないからです。

 ここに、独裁国家のパラドクスが見えてきます。それは、権力が一人の人物に集中しているからこそ、外部の国家、あるいは、勢力に極めて容易に操られやすいということです。言い換えますと、独裁者一人を籠絡する、あるいは、自らの息のかかった人物を独裁者の地位に就けることさえできれば、外部の国家や勢力は、国家権力と全国民もろともに、自らの意のままに独裁国家をコントロールすることができるのです。

一方、権力が分立しており、かつ、国民に参政権を含む権利や自由が保障されている民主主義国家では、その国を支配下に置こうとしますと、与野党含めて相当広い範囲の政治家に賄賂攻勢を仕掛けなければなりませんし、世論を操縦するにも、マスコミ各社のみならずネット空間にまで工作活動を広げる必要があります。しかも、民主主義国家では、言論の自由や報道の自由が保障されておりますので、工作活動が露見でもしようものなら激しいバッシングが起き、世論の風向きも一気に変わりかねないのです。このように考えますと、独裁国家ほど外見は屈強に見えながら、その実、脆弱な国家体制はないのかもしれないと思うのです。

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軍事面でも表面化する米中直接対立-ポンペオ国務長官の訪朝中止

2018年08月26日 15時48分48秒 | アメリカ
「米国は無責任」と非難=中国
先日、トランプ米大統領は、北朝鮮の非核化に十分な進展が見られないことを理由に、ポンペオ国務長官の四回目となる訪朝を急遽中止しました。表向きの理由は北朝鮮の合意不履行なのですが、この決断にこそ、トランプ政権の方針転換が窺えるように思えます。

 これまで、トランプ大統領は、北朝鮮問題を解決するに当たって、二国間の首脳会談を重視してきました。トップ同士が直接に顔を合わせ、タフな交渉を経て最後は握手で合意する、というスタイルは、ビジネス界出身の同大統領の得意とするところであったはずです。6月12日の米朝首脳会談は、まさにこのスタイルの典型的な事例と言えるでしょう。北朝鮮は、金王朝とも称される強固な独裁体制を敷いてきた国ですので、そのトップである金正恩委員長との間で合意が成立すれば、懸案であった北朝鮮の非核化も難なく実現するものと信じたのかもしれません。

 しかしながら、ビジネスとは些か異なり、国際政治の世界では、交渉相手の背後に様々な利害関係者が蠢いている場合が少なくありません。北朝鮮の場合には、建国や朝鮮戦争等の経緯があり、中国とロシアがその後ろ盾であることは疑いなきことです。言い換えますと、背後にあって北朝鮮を操る国家が控えている場合、金委員長は真の政策決定者ではないわけですから、トップ会談重視のトランプ流外交は通用しなくなるのです。

 実際に、中国は、既に国連の制裁決議を無視して対北支援に動いており、習近平国家主席は、訪中した金委員長に対して莫大な経済支援を申し出たとされています。また、東シナ海等における北朝鮮船舶による‘瀬取り’は、中国の黙認のもとで行われているとされ、制裁決議違反行為も相次いでいるのです。北朝鮮側も、8月25日の「先軍節」にあって、国営メディアは非核化問題には全く触れず、経済再建を強調していたとされますので、中国からの支援を期待しての変化なのかもしれません。

北朝鮮が中国のコントロール下に置かれている現状を見れば、ポンペオ国務長官が訪朝し、たとえ非核化に向けた具体的な措置を採る約束を北朝鮮から取り付けたとしても、中国の介入によって反故にされる可能性は極めて高いと言わざるを得ません。となりますと、北朝鮮の非核化問題を根本的に解決するには、中国こそ、アメリカが直接に対峙すべき相手国となります。

この推測を裏付けるかのように、中国外務省は、アメリカがポンぺオ国務長官の訪中中止と中国の非協力的態度を絡めた点を取り上げて、「米国の言い分は基本的な事実に反しており無責任だ」とする非難の談話を発表しています。おそらく、中国もまた、アメリカ側の方針転換を敏感察知し、逃げ道を模索しているのかもしれません。北朝鮮と同様に中国もまた、トランプ流の交渉術が通じる相手ではないことを考慮しますと、米中対立は、貿易戦争のみならず、軍事面においても表面化する可能性が高いのではないかと思うのです。

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‘新世界秩序’はバベルの塔か?

2018年08月25日 15時08分25秒 | 国際政治
 本日の日経新聞朝刊の「読書」欄に、ジャック・アタリ氏の近著『新世界秩序』が紹介されておりました。グローバリズムの先に現れる世界統治機関を以って‘新世界秩序’と表現し、アタリ氏は、人類の救済を同構想の実現に託しているかのようです。

 アタリ氏が提唱する世界統治機関の設立に至るまでの経緯は、論理展開としては単純明快でもあります。‘経済が主導するグローバル化の進展は、各国の主権を無力化する。その結果、世界同時的に人々が治安の悪化と混乱に見舞われてしまう。ところが、もはや国家の統治機能が失われているので、人類は、犯罪者の為すがままとなる。そこで、統治機能の不在問題を解決するためには、世界規模の統治機関を設立しなければならない’という筋立てであるからです。この展開、理路整然としている故に、論理的に正しく、かつ、合理的なようにも思えてしまいます。

 しかしながら、しばし頭の中で氏の主張を吟味してみますと、自ずと疑問も湧いてきます。経済分野におけるグローバリズムの深化が政治分野における国民国家体系を侵食しているとする現状分析が正しくとも、それが、必ずしも‘新世界秩序’なる国民国家体系に取って替る世界統治機関を帰結するとは限らないからです。つまり、結論部分において必然性が見当たらないのです。

 例えば、アタリ氏は、‘新世界秩序’を以って「民主主義的な世界秩序」と見なしているそうですが、全世界的レベルおいて民主主義は成り立つのでしょうか。善き民主主義を実現するためには自由闊達な議論が許される環境を要します。しかしながら、人類の言語の多様性はこの条件とは合致しません。エスペラント語のような共通語を創設するのでしょうか、あるいは、グローバル化の時代にあって最も使用頻度の高い英語を共通語として定めるのでしょうか(もっとも、この問題は、高性能の自動通訳機の出現で解決されるかもしれませんが…)。また、自由討論の要件は、‘新世界秩序’の創設に先立って、中国といった言論弾圧を是とする国家体制を崩壊させる必要性をも要請します(アタリ氏には、是非とも、中国に対して体制移行の必要性を説いていただきたい)。

 加えて、民主主義体制では、統治に関する決定に際し、原則として多数決が採用されています。仮に、世界レベルで民主的な統治を行おうとすれば、人口に優る集団が決定権を握ることとなります。民族集団からすれば、全世界に移住した華僑も併せて中国人が最大の政治勢力となりましょうし、宗教集団であれば、イスラム教徒が‘世界政治’を左右するかもしれません。‘数の力’にものを言わせれば、世界統治機構に付与された強制力を以って、特定の宗教や慣習等、さらには、財政移転さえ他の人類に強要することができるのです。

 こうした疑問点を踏まえますと、喩えアタリ氏が提唱するように、‘民主的な世界統治機構’が設立されたとしても、そこにあるのは、本来の意義を失った空虚で危険に満ちた民主主義に過ぎないように思えます。また、治安の悪化が世界統治機構設立の根拠であるならば、世界各地で頻発する犯罪や紛争を力で抑え込むことのみを任務とする、警察国家ならぬ‘世界警察機構’の設立こそ、同著の結論となるはずなのです。

アタリ氏の主張が非現実的である理由は、同氏が、共産主義的な発想に基づく政経一元論の立場にあるからなのでしょう。一元論から離れ、多元主義的な観点に立脚すれば、‘新世界秩序’とは別の人類の未来が描けるはずです。それは、国家の、そして、国民国家体系の消滅でもなく、政治体系と経済体系とが相互に調和した、‘善き世界秩序’ではないでしょうか。かくして、‘世界統治機構’という名の現代のバベルの塔は、崩壊するように思えるのです。

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5Gの日中共同開発は中止すべきでは?-陣営形成の予兆

2018年08月24日 15時09分29秒 | 国際政治
アメリカが意を決して臨んだ米中貿易戦争は、米中間の貿易不均衡の是正のみが目的ではないことは確かなようです。中国の覇権主義に対する国際的な警戒感の高まりは、アメリカを中心とした対中包囲網の形成をも促しています。

 特に情報・通信分野では顕著であり、本日の日経新聞の記事に依れば、アメリカの要請を受け、オーストラリアも華為技術とZTEの5Gへの参入禁止を決定したそうです。この動きにイギリスも同調しており、対中警戒感は具体的な政策として既に実行に移されているのです。情報・通信分野において中国が締め出される理由は、情報統制や国民監視、あるいは、内政干渉のみならず、防衛や安全保障にまでリスクが及ぶからに他なりません。自由主義諸国は、中国の手口を知り尽くしており、それ故に、事前に防止策を講じているのです。

 自由主義諸国間で中国包囲網が形成されつつ中、何故か、自由主義国の一員であるはずの日本国は、逆の方向に向かっているように見えます。5Gについては、5月下旬に中国側から一部共有の提案があり、日中の閣僚レベルでは技術協力に合意しています。同記事では、「日本では、ファーウェイトZTEによる5Gの実証実験が本格化し、着々と準備が進んでいる」とあり、日中合意は、恐ろしいまでのスピードで具体化しているらしいのです。

 この問題は、日米同盟をも揺るがしかねない事態に発展する怖れもあります。仮に、防衛や安全保障に関する情報までもが飛び交う日本国のサイバー空間が、中国の監視下に置かれる、あるいは、自由にアクセスできる状態に至ったならば、アメリカは、日本国政府に対する情報提供を躊躇うことでしょう。最悪の場合には、中国側にアメリカの戦略や作戦が筒抜けになるのですから、日本国は、同盟国としての信頼を失いかねないのです。

 もしかしますと、日本国政府内部に中国と内通する政治家が潜んでおり、5Gの一件も意図的に日米関係を離反させるための布石なのかもしれませんが、一般の日本国民が気が付いた時には既に手遅れであり、日本国が、中国陣営に組み込まれる事態もあり得ないわけではありません。この流れは、戦前、日本国が自由主義国と袂を分かち、ヒトラー総統の下で独裁体制を敷いていたナチス・ドイツと軍事同盟を結んだ経緯を髣髴させます。今度は、習近平国家主席の個人独裁の下にある共産党一党独裁国家、中国と手を結ぶのでしょうか。

 オーストラリアによる中国企業参入禁止措置は、G5の分野に留まらず、今後の国際社会における陣営形成の前兆とみるべきです。日本国民の多くは、日本の国を、そして、自由、民主主義、法の支配、及び、一人一人の尊厳と基本権を護るために、日米同盟を堅持し、自由主義陣営に与することを迷わずに選択するのではないでしょうか。

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中国という‘人間支配の実験場’

2018年08月23日 15時56分15秒 | 国際政治
ロシア革命に始まり1990年に崩壊したソ連邦は、共産主義体制の実験場とも称されていました。統制経済に基づくこの‘人間支配の実験場’はあえなく失敗に終わりますが、共産主義の系譜を引く中国は、自らの国を新たな実験場として提供しようとしているかのようです。最先端の情報・通信システムを活用する‘人間支配の実験場’として。

 ソ連邦の実験場では、全国民の行動や発言を漏れなくチェックするテクノロジーを欠いたため、秘密警察や密告といった国民間の相互監視に頼らざるを得ませんでした。この旧式の方法では、監視当局は、全国民を完全に監視下に置くことはできず、体制崩壊も、当局が、自由や民主主義を求める国民の動きを完全に把握できなかったところに依ります。この意味において、1989年に始まる東欧革命は、ロシアを含めて幸運であったということができます。

 ところが、ソ連邦崩壊後も共産主義体制を維持した中国は、今や、国民監視に有効な最先端のテクノロジーを手にしています。国民各自は、出生とともに、その一生を全て記録保存されてしまうのです。国民は、出生地や出生年月日に留まらず、両親や先代の家系(遺伝子情報…)、幼児教育から高等教育までの全ての成績、社会活動、学歴、交友関係、人物評価(共産主義の浸透度が評価基準)、取得した資格、就職した企業、並びに、その役職、給与、退職理由、資産の詳細、そして、犯罪歴や信用度に加え、病歴や死亡に至る経緯まで、全ての個人情報は当局によって把握されてしまうことでしょう。街を歩けば、スマホによる位置情報によって自らの居場所が特定されると共に、随所に設置された監視カメラで捉えられた映像は、即時に顔認証システムにかけられ、本人が確認されます。ダブル・チェックが働くのですから、国民の位置確認は完璧です。言論を見ても、スマホのチャットは言うまでもなく、ソ連邦でさえ盗聴器を仕掛けていたのですから、家庭内での会話であっても安心はできません。スマホや家電製品にバックドアを忍ばせれば、あらゆる音声は当局によって収集されてしまうのです。僅かに国民に残されていた内面の自由さえ、脳波測定により脳内の思考を読み取る技術の開発が進めば(生体へのチップの植え込み?)、早晩、失われかねないのです。

 中国国民の大半は、個人情報の保護よりも利便性を優先し、現体制を受け入れているそうですが、あるいは、既に、反対を表明できない状況にあるのかもしれません。当局によって身柄を拘束される、あるいは、ブラックリストに記載され、行政サービスから排除されたり、資産凍結といった厳しい制裁を受けるのですから。想像しただけでも身の毛がよだつのですが、中国が、‘人間支配の実験場’、否、実験場に過ぎないとしますと、仮に、この実験に成功すれば、中国モデルを模倣しようとする支配欲に塗れた為政者、あるいは、私人が出現するかもしれません。そして、独裁国家のみならず、技術力に優る故に、先進国もこのリスクから逃れることはできないのです。

 誰かに常時ウォッチされている状態は、極度のストレスと恐怖感を与えますので、人々の心身を蝕む‘静かなる殺人行為’とも言えます。そしてそれは、人の尊厳のみならず、自由、民主主義、法の支配、基本権の保障といった近代国家の原則をも踏み躙る蛮行でもあるのです。先端技術が野蛮に奉仕する時代の到来は、同時に、忍び寄る魔の手から脱出する方法を見い出すべく、人類の叡智が問われる時代でもあるのではないかと思うのです。

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訪日中国人観光客増加を素直に喜べない理由

2018年08月22日 15時45分43秒 | 国際政治
観光庁によると、今年は外国人観光客の数が過去最高を記録し、8月中には2000万人を突破する見込みなそうです。その大半は爆買いでも知られた中国人観光客なのですが、この増加、素直に喜べない理由があります。

 NHKのBS1の番組であるワールドウォッチングでは、世界の放送局をピックアップして各国で話題となっているニュースを報じております。CCTV、並びに、上海東方衛視の二局が中国の放送局であり、NHKのホームページでは、前者について「広大な国土に暮らす13億人の国民に、政府・共産党の方針を伝えるための重要なメディアと位置づけられ、国家戦略と密接に連携しながら海外発信も積極的に展開。」と紹介しています。

 先日、この番組において背筋が寒くなったのは、新疆の今を伝える報道です。新疆ウイグル自治区と言えば、200万人ともされるイスラム教徒の住民が強制収容所に連行され、共産主義への‘再教育’が施されているとして、目下、国際社会から問題視されている地域です。中国の弾圧手法はウイグル人の民族性の抹殺という意味でジェノサイドに近く、人権弾圧問題として、国連のみならず、アメリカも批判を強めています。この問題は、ウイグル人の独立問題でもあるのですが、CCTVが伝える新疆とは、驚くことに、中国人観光客が押し寄せる観光地であり、経済的にも潤っているというものなのです。この報道姿勢からしますと、北京政府は、ウイグル人の独立要求など一顧だにせず、自らが実行している過酷な弾圧政策をも隠し、一般の中国国民に対しては、率先して訪れるべき観光地としてアピールしているのです。

 こうした報道に触れますと、日本国を訪れる中国人観光客の増加は、中国政府が、自らの‘支配地’を拡大するために推進している国策である可能性も否定はできないように思えます。ウイグルは、現在、中国によって既にその版図に組み込まれていますが、今日のウイグルは、未来の日本国であるかもしれません。乃ち、中国の戦略は、相手国の独立性を奪いつつ、異文化を観光資源として活かし、かつ、経済的にも自国依存を高めることで身動きがとれないようにする、というものなのかもしれないのです。仮に、日本国もまた、中国の支配を受ける事態に至るならば、日本人に対しても、宗教や思想を含めて徹底的な洗脳が施され、‘私は神や仏の存在を信じています’と話しただけで、強制収容所に送られることでしょう。

 偶然に目にしたTV番組によって、観光客が大量送り込まれる現象の意味を察したのですが、このリスクは、猜疑心による考え過ぎ、あるいは、杞憂に過ぎないのでしょうか。ウイグル人の身に起きた現実があまりに過酷なだけに、否が応でも警戒せずにはいられないのです。

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水道民営化問題-‘何でも民営化’は危ない

2018年08月21日 15時21分51秒 | 日本政治
1980年代以降、公営事業の民営化は一つの世界的な潮流となってまいりました。特に、ソ連邦の崩壊が、経済発展の原動力を欠く‘何でも公営化’の手法が誤りであることを証明したことは、失敗例を以って民営化に根拠を与えてきたのです。

 しかしながら、‘何でも公営化’の道が間違えであるならば、その逆の‘何でも民営化’の道を歩めばよいのか、と申しますと、そうではないように思えます。昨今、地方自治体レベルにおいて水道事業の民営化が試みられ、国会においても法整備の動きがありますが、この分野、果たして民営化に相応しいのでしょうか。

 民営化に際して、常々唱えられている‘呪文’は、市場の競争メカニズムを導入すれば、効率的な経営が可能となり、コスト削減で使用料金も下がるため、消費者が恩恵を受けると言うものです。この説明を聞けば、大半の人々は、民営化に対する警戒心が解けてしまいます。しかしながら、水道事業分野において競争メカニズムが十分に働くのか、ともうしますと、これには疑問があります。何故ならば、水道事業とは、元より独占事業であるからです。

 一般の製品市場では、時空の制限を受けませんので、複数の事業者がそれぞれ自社製品を競合的に提供することができます。こうした分野では、価格の低下や品質向上を伴う教科書通りの競争メカニズムが働くのですが、公共サービスとなりますと、製品市場と同列に論じることはできなくなります。もちろん、国鉄分割民営化、電電公社民営化、郵政民営化等の事例を挙げての反論もあるでしょうが、鉄道は、バス事業者やトラック運送事業と競合しますし、通信の分野では複数の事業者が通信ネットワークを敷くことが技術的に可能となり、技術の発展が競争状態をもたらしました。郵政民営化についても、郵貯をはじめ何れの事業部門も民間事業者が存在しています。これらの公共性の高い事業分野では、再考の余地あるとはいえ、一先ずは、複数の事業者による競争が存在しているのです。一方、水道事業はと申しますと、まずは、水源や地下に張り巡らされた上下水道の施設を見れば一目瞭然であるように、複数の事業者が水道インフラを同一地域に敷くことはできません。水道事業は、時空の制約を受けるのです。

日本国政府は、水道施設の老朽化を根拠として、より低コストでの建て替えが見込める民営化を進めようとしているようですが、仮に、水道施設が民間所有、あるいは、一部であれ民間出資となり、メンテナンスのみならず料金設定も含めた事業権も民間に譲渡されるとなりますと、水の使用は人の生命維持に不可欠なだけに、国民は、事業者による一方的な使用条件を受け入れざるを得なくなります。このため、日本国内での動きとは反対に、民営化による水道料金の値上がりなどを理由として、再公営化が試みられている国もあるそうです。

民営化とは、民主主義の及ばないところに自らの生命や生活に関わる権限を明け渡してしまうことを意味します。北海道における中国資本による水源の買い占めも問題視されておりますが、今日の民営化は、凡そ市場の対外開放をも伴いますので、‘プチ植民地’の怖れさえあるのです。国民の生命維持に関わる基本的な事業が国民の手から離れても構わないのか、と問われれば、大半の人々は、NOと答えるのではないでしょうか。‘何でも民営化’でも、‘何でも公営化’でもなく、官民の間の適正な境界線を見つけることこそ、重要なのではないかと思うのです。

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‘米中構造協議’と言わない理由とは?

2018年08月20日 14時58分12秒 | アメリカ
【米中貿易戦争】米中、11月首脳会談探る 米紙報道、貿易対立の打開狙い
 米中貿易戦争がエスカレートする中、アメリカのトランプ政権は、第二次世界大戦後に構築された自由貿易体制を脅かす‘反逆者’として集中砲火を浴びています。しかしながら、アメリカの保護主義、あるいは、二国間通商交渉重視への回帰は、今に始まったことではありません。

 自由貿易主義が、無条件に国際収支の均衡を約束しないことは、ブレトンウッズ体制の崩壊した1970年代において既に証明されております。変動相場制への移行には国際収支の調整機能も期待されたのですが、それでも焼け石に水であり、1980年代には、圧倒的な国際競争力を有した日本製品を前に、アメリカの産業は苦境に立たされます(変動相場制への移行は、各国政府に対する対外通貨政策の解禁ともなった…)。アメリカ国内で‘ジャパン・バッシング’の嵐が吹き荒れる中、日米間で開始されたのが日米構造協議であり、国際収支の不均衡は、二国間の通商交渉によって解決されることとなったのです。

 この時、日米構造協議というスマートなネーミングによって、日米交渉による貿易不均衡の是正が、自由貿易主義からの転換であることを強く意識した人々は少なかったかもしれません。むしろ、自由貿易体制には、構造的な不均衡をもたらすメカニズムがあることを、両国とも素直に受け入れていた節さえあります。結局、日本国側が円安是正、自主規制、並びに、内需拡大等のアメリカ側の要求を受け入れたことで、日米構造協議は一先ずは一段落します。しかしながら、自由貿易体制そのものが修正されたわけではありませんので、新興国の製品が日本製品に取って替ったに過ぎず、今日では、当時の日米間よりもさらに著し貿易不均衡が米中間で起きているのです。

 トランプ大統領は、対中貿易赤字を解消するために一方的な措置をとったため、中国との間で制裁措置の応酬となったのですが、ここに来て、米中首脳会談の兆しが見え始め、米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)によれば、11月の開催が模索されているそうです。となりますと、日米構造協議ならぬ、‘米中構造協議’となるはずなのですが、何故か、米中両政府のみならず、メディアを見渡しましても、こうした表現は見られません。

 何故、‘米中構造協議’という用語が避けられているのか、その理由を推測してみますと、一つには、こうした理知的な表現を用いては、自由貿易主義、あるいは、グローバリズムに内在する不均衡のメカニズムが人々の意識に上ってしまう点を挙げることができます。特に自由貿易主義体制に向けて不断に‘前進’することで経済覇権を握りたい中国にとりましては、構造的問題であることを示す‘米中構造協議’の名称はいかにも不都合です。そして、もう一つ、理由があるとすれば、それは、中国のケースでは、解決すべき問題は経済分野に限定されない点です。経済大国化を梃子にして、中国は、目下、「一帯一路構想」を掲げるなど、全世界を視野に入れた世界戦略を強引に展開しています。経済力は、軍事、あるいは、政治的目的を追求する道具に過ぎず、中国の真の目的が世界支配であるならば、アメリカが米中貿易戦争を仕掛けた背景には、中国による覇権確立の阻止という別の目的があると推測されるのです。この観点を加味すれば、‘米中構造協議’の名称は、その本質からは外れていることとなります。

 軍事力の裏付けがあるだけに、アメリカにとりまして、中国は、同盟国である日本国よりも遥かに手強い相手でもあります。日米交渉にあって日本国側が折れた理由の一つは、日米対立の安全保障分野への波及リスクもあったはずです。少なくとも、その名称の如何に依らず、米中間の関係は、軍事や政治上の対立も絡む故に、米中首脳会談で一件落着とはいかない気配がするのです。

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対北政策に関する米中の共通点―北朝鮮は‘力’しか信じない

2018年08月19日 15時53分29秒 | 国際政治
本日の産経新聞朝刊に、中国が北朝鮮との国境付近において、‘ゴールデンダーツ’のコードネームを付された軍事演習を実施していたとする記事が掲載されておりました(’ゴールデンダーツ’は中国語で’金飛鏢’なので、’金’が標的とも解される…)。その狙いについては不明であり、対北空爆を想定したとする説が有力なようです。同演習の狙いを見極める上で特に重要なポイントとなるのが、その実施時期と場所です。

実施時期は、北朝鮮の金正恩委員長が電撃的に訪中し、中国の習近平国家主席と首脳会談を行った3月25日から凡そ一ヶ月が経過した4月18日から25日の間であり、米中関係を見れば、ポンペオ国務長官が、6月12日の米朝首脳会談を前にして積極的に対北交渉を展開していた時期でもあります。そして、その二日後の4月27日には、南北首脳会談が開かれており、このタイミングからすれば、中国が、北朝鮮が、南北首脳会談、並びに、対米交渉において3月の中朝首脳会談での合意事項を反故にしないよう、軍事的圧力をかけたとも推測されますし、高度な軍事能力を見せつけることで米軍を牽制したとする識者の見解にも頷けます。仮に北朝鮮がアメリカに靡き、一種の‘米朝同盟’が形成されたとしても、中国にはそれを撃破する軍事力が既にあることを誇示したかったのかもしれません。

加えて、演習場所が北部戦区であったことにも、意味があるように思えます。北部戦区といえば、北京に対して必ずしも従順ではなく、ロシアや北朝鮮との繋がりも指摘されてきた元瀋陽軍区を含みます。瀋陽軍を自らを頂点とする指揮命令系統に取り込むことも、習主席が独裁体制を構築するプロセスで断行した人民解放軍再編の狙いともされておりました。同演習にはH6戦略爆撃機も投入されており、北朝鮮の核施設に対する空爆能力を示す必要性を考慮すれば、演習場所が国境で北朝鮮を隔てる北部戦区であるのは当然と言えば当然です。しかしながら、記事によれば、同演習には、中国各地の航空部隊やパイロットが参加したとされ、独自性を維持してきた‘瀋陽軍’が‘解体’されている様子が窺えるのです。となりますと、同演習は、北朝鮮に対して、最早‘瀋陽軍’を頼りにはできない現実を見せつけることも、目的の一つであった可能性もあります。

一方、アメリカのトランプ政権は、北朝鮮に非核化を迫るに際し、前政権が採用してきた‘戦略的忍耐’から方向転換し、軍事制裁をも仄めかすことで米朝首脳会談まで漕ぎ着けています。そして、北朝鮮が非核化への具体的な行動を渋る中、米韓合同演習は中止しても、軍事的圧力を維持しています。米中とも、北朝鮮に対して最も効果的にメッセージを伝える手段が、軍事的威圧であることを熟知しているのです。このことは、首脳会談の場を設け、何らかの合意に達したとしても、北朝鮮に対してはその遵守は期待できないことを意味しています。米中対立が深まる中、‘力’のみしか信じない北朝鮮には、果たして如何なる未来が待ち受けているのでしょうか。

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地方自治体のLINE利用問題-非利用者に対する‘差別’となるのでは?

2018年08月18日 15時09分07秒 | 日本政治
ビデオ通話で面接試験 自治体初、大阪・四條畷市
 本日の報道によりますと、大阪府四条畷市が9月に実施する職員採用試験の面接において、全国の自治体で初めて、ビジネスチャット「LINE WORKS(ラインワークス)」のビデオ通話機能を導入するそうです。社会人や遠方の受験者に配慮してとのことですが、この取組み、公的機関の公平性を損ねているようにも思えます。

 何故ならば、LINEを利用していない受験者は、たとえ四条畷市への就職を望んでいても、同サービスを受けることができないからです。LINEは、民間企業であることに加えて、親会社が韓国系であるために、国民の中には、個人情報の流出に対する警戒感から、敢えてLINEの利用を控えている人々もいます。台湾では、政府機関によるLINEの使用は禁止されていますので、何らかの政治的問題があることは確かなようです。また、LINEの利用は10代が主流ともされており、社会人になる際に‘卒業’してしまう人も少なくないかもしれません。さらには、スマホ自体を所有していない人も存在していますので、全ての人がLINEのユーザーではないのです。もっとも、それでは、LINEの非利用者である受験者は、アプリをインストールすればよいではないか、とする意見もありましょうが、あくまでもLINEは民間サービスですので、特定の民間事業者との‘契約’を強要するような措置は(無償とはいえ、LINEの利用規約には広範囲の個人情報を提供する義務がある…)、国民の自由を侵害することとなりましょう。

 必ずしも全員がLINEを使っていない状況にあって、地方自治体であれ、公的機関がその利用を前提とした行政サービスを実施すれば、利用者と非利用者との間で当然に不公平が生じます。このケースでは、LINE利用者だけが、時間的制約のある社会人であっても、遠方に住まう受験者であっても、四条畷市の面接を受けるチャンスに恵まれるのです。日本国憲法第14条1項では、法の下の平等を定めておりますし、第15条2項でも、「全ての公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」とあり、全国民に対して公平性を確保することは公的機関に課せられた義務でもあります。こうした憲法の諸条文に照らしても、四条畷市の措置は、LINE非利用者に対する‘差別’ともなりかねないのです。

 スマホが普及し、その公共性が高まるにつれ、今般のLINEをめぐるケースのみならず、同様の問題がスマホそのものでも発生しています。例えば、地方自治体は、災害時の情報提供や行政上の申請手続き等についてスマホの利用を進めていますが、スマホの非利用者が置き去りにされる懸念があります。国であれ、地方であれ、公的機関によるスマホを介した行政サービスが拡大するほどに、全国民、あるいは、全住民に対する公平性が損なわれてゆく現象が見られるのです。

 スマホの行政利用は、その運営事業者が民間企業であるだけに、私企業による社会空間の独占的、あるいは、寡占的な‘支配’という新たな問題を提起しております(逆に中国では、国家がスマホを支配の道具としている…)。今日の状況を予見できたならば、情報通信事業の民営化に際して、国民から反対や疑問の声も上がったかもしれません。スマホをめぐる様々な問題が噴出する中、社会インフラとしての情報通信事業をどのようにすべきか、抜本的な議論があっても良いように思えるのです。

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SNSの‘どんでん返し’問題-民主主義の‘敵’か‘味方’か?

2018年08月17日 14時55分14秒 | 国際政治
グーグル、中国再参入巡り抗議 制限付き検索に社員約千人が
 ‘2010年に始まる‘アラブの春’の影の主役はSNSであった‘と評しても過言ではないかもしれません。チュニジアにおけるジャスミン革命は、当局から理不尽な扱いを受けた若者のフェースブックへの投稿が発端となり、独裁政権に怒れる人々を革命へと駆り立てたのです。

 中東諸国一帯に広がった民主化運動は、SNSがもたらした自由な言論空間が民主主義への道を開いた好例であり、この時、誰もが、SNSに拍手を送り、民主化を推し進める役割を期待したことでしょう。過去においては流血の事態を招きやすかった民主主義革命を、その情報伝達力と動員力によっていとも容易く実現させたのですから。‘アラブの春’は、SNSの全世界的な普及の加速にも一役買ったかもしれません。

 しかしながら、その後の展開は、SNSに対する人々の期待を裏切っております。もちろん、民主化したとはいえ中東諸国の政情は今なお不安定であり、揺り戻しも見られることもありますが、SNSに対する期待が急激に萎んでいるのです。その理由として、先ずは、中国におけるSNSの逆利用を挙げることができます。‘アラブの春’では、SNSは、自由と民主主義の実現を望む人々に希望を与えるツールであり、国民の‘味方’でした。ところが、中国では、今やその役割は正反対であり、国民から湧き上がる自由や民主主義への渇望を封じ込めるための道具に転じているのです。SNSは、私的な空間におけるコミュニケーション手段でもありますので、中国政府は、国民の私的領域にまで踏み込んで言論を統制することができるようになったのです。この現象は、まさにSNSの‘どんでん返し’です。

 共産党一党独裁体制を何としても堅持したい中国にあっては、SNSの役割の逆転は想定し得る事態なのですが、SNSの‘どんでん返し’への警戒感は、自由主義国にあっても燻っております。今日、フェースブックやツウィッターといったSNSサービス事業者による私的検閲が問題視されており、自らが設定した価値基準に照らして不適切とされる内容やフェークニュースと判断した情報については、一方的に削除しています。これらの基準は、民主的な手続きを経て国民的な合意の下で設定されているわけではありませんし、フェークニュースについても、これらの事業者が、厳格な調査を実施して真偽を確認しているわけでもありません。そして、利用者の個人情報も否が応でもSNSを介して事業者によって自動的に収集されてしまいます。‘通信の秘密を侵してはならない’とする近代憲法上の原則は、もはや空文でしかないのです。

SNS事業者の運営そのものが民主的ではないのですから、SNSを見つめる人々の視線も自ずと変わってきます。しかも、フェースブックの創設者であるザッカーバーク氏に至っては、中国の習近平国家主席と懇意でもあります。SNSに限らず、フランス革命をはじめ、近代以降、人々が理想を求めて行動した途端、あらゆる場面で‘どんでん返し’が起きるのは単なる偶然なのでしょうか。

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