万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

人民元のIMFの主要通貨入り-時期尚早では?

2015年10月31日 13時06分43秒 | 国際経済
「IMF(国際通貨基金)」のニュース
 先日公表されたレポートによれば、IMFは、人民元のIMF主要通貨入りを認める方針のようです。マスコミなどでは、既に決定済み事項のように報じていますが、この方針を危惧する声は決して小さくはありません。

 人民元をIMFのSDRの構成通貨に加えることは、中国の長年の悲願であったとも伝わります。人民元を米ドルに並ぶ”国際基軸通貨”に育てることができれば、政治・経済の両面において超大国の地位を固めることができますし、一路一帯構想に付随する”元通貨圏構想”の実現にも一歩近づくことができるからです。しかしながら、こうした壮大な”中国の夢”は、”正夢”となるのでしょうか。第二次世界大戦後、ブレトンウッズ体制の下で米ドルが”国際基軸通貨”の地位を確立し得たのは、米ドルと金との兌換性に基づく一種の金為替本位制が成立していたからです。今日、中国は、焦るかのように金保有を積み増しているものの、ドル・ショックを機に国際通貨制度がそのものが管理通貨制度に転換しているため、人民元がかつての米ドルの”国際基軸通貨化”と同じ道を歩むことは最早出来ません。今日の管理通貨制度では、金保有は通貨の信頼性を支える多様な要素の一つに過ぎませんし、そもそも人民元には金兌換が保障されてもいないのです。また、中国は、”調整可能な変動相場制”という名の通貨制度、即ち、実質的には固定相場制を採用しており(一定の変動幅の設定…)、人民元取引には規制がかけられています。人民元の主要通貨入りの背景には、IMFが、近年の中国当局による投資や為替取引に関する規制緩和策を評価したためとも、あるいは、中国が、将来的な完全自由化を各国に確約したため、とも指摘されていますが、今後、IMFや国際社会が望む方向に中国が向かう保証はどこにもありません。

 中国経済の現状を見ますと、公共事業を柱とした財政拡大政策での躓きに加えて、上海市場のバブル崩壊や景気減速を受けて金融緩和政策を実施したことから、人民元相場も下落傾向にあります。本日も、中国が、為替市場において大規模な市場介入を実施したと報じられております。中国の自由化を評価して主要通貨入りを支持したIMFとしては、面目を潰さる形となりましたが、中国側は、IMFでのSDR通貨採用に向けた”為替相場安定化策”と嘯いています。WTOにおいても、固定相場制を残す形で中国の加盟を許したため、著しい貿易不均衡や中国への生産拠点の集中などが生じ、国際経済・国内経済の両レベルにおいて混乱要因となりましたが、IMFにおいても、時期尚早という同じ轍を踏んではないないと思うのです。

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中国国民向けに”南シナ海領海化は国際法違反”の広報を

2015年10月30日 10時09分25秒 | 国際政治
中国主席、ベトナム訪問へ=南シナ海情勢を協議
 米イージス艦ラッセンによる南シナ海での”航行の自由作戦”の遂行に対して、中国国内では、習政権に対する批判の声も上がっているようです。中には、”撃沈すべきであった”とか、”侵略に対して対応が手ぬるい”といった過激な意見も見られます。

 中国世論が反発する主たる理由は、中国による南シナ海における人工島の建設と領海の設定が、国際法に違反していることを知らないからです。尖閣諸島についても、中国政府は、自国民に対してあたかも”中国固有の領土”かのように説明してきました。このため、中国国内で対日強硬論が主張され、報復的な激しい反日暴動も起きたのです。南シナ海問題をめぐっても、中国国民の大半は、海洋における”航行自由の原則”さえ耳にしたことがないかもしれません。この状態では、中国国民は簡単に煽動され、”政権批判に向わないよう、国内の不満を外に逸らす”という、政府側の思惑通りに動かされることになります。しかしながら、ここで、中国国民が、中国政府こそ国際社会からの中止要請を無視し、南シナ海で国際法違反の行為を断行していることを知ったとしたら、どうなるでしょうか。中国国民は、自国の政府が違法行為を働き、国際的な批判に晒されていることを知るわけですから、南シナ海問題に対する認識は自ずと変化するはずです。結果として、国民の批判の矛先が政権側に向うとすれば、中国政府は、内外両面からの批判に挟まれ、計画放棄に追い込まれる展開もあり得ないことではありません。

 当然に、中国当局は情報統制を強化し、海外からの情報流入を遮断しようとするでしょうが、国外で生活する中国人も多く、”中国は国際法違反”の情報は、口コミなどで拡散されることでしょう。中国国民を対象とした広報活動は、中国以外の全諸国で一斉に行うことができれば、相当な効果が期待できます。日米政府は、対中広報活動への参加と協力を国際社会、並びに、マスメディアに呼びかけるべきではないかと思うのです。

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日本国も南シナ海に自衛艦を

2015年10月29日 15時17分19秒 | その他
豪、軍艦派遣も選択肢=南シナ海問題で
 アメリカの「航行の自由作戦」は、中国に対して、南シナ海における一方的な”領海設定”は無効であることを改めて見せつける結果となりました。中国の反発を激しく、”アメリカこそ国際法に違反している”といった、中国流のオウム返しの批判も聞かれます。

 ところで、中国国内では、アメリカのイージス艦ラッセンの航行について、大国アメリカの艦船であるから黙認されたのであって、より小国であれば、こうした”侵犯”は許されないはず、との意見があるそうです。航行の自由は、アメリカ限定であると言わんばかりです。しかしながら、南シナ海は国際水域として全ての諸国に対して航行の自由が保障されていますので、アメリカであれ、他の国であれ、中国に対する通告なくして航行できるはずです。オーストラリアは、既に、南シナ海への軍艦覇権を検討していると報じられておりますが、日本国政府をはじめ、他の諸国も、南シナ海での航行の自由をより明確にするために、南シナ海への軍艦派遣を検討すべきです。否、アジアの未来のために、日本国こそ、このリスクと紙一重の任務を引き受けるべきなのかもしれません。仮に、中国が、航行の自由を妨害する行動に出たとしても、むしろ、中国の国際法違反行為がより明白となり、国際社会における対中制止・制裁行動に関するコンセンサスが形成しやすくなります。

 それにいたしましても、中国は、”アメリカが国際法に違反している”と批判するならば、何故、国際司法手続きに訴えようとしないのでしょうか。尖閣諸島についても、領有権は一方的に主張しても、日本国に対して国際司法の場での解決を求めようとはしません。今後、中国が提訴される可能性もあるのですが、中国を応訴を拒絶するとしますと、航行の自由は、実力を以って実現するしかない状況に至るのではないかと思うのです。

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南シナ海の緊張は中国が諦めるまで続く

2015年10月28日 15時10分39秒 | 国際政治
米、中国の領有権認めず…南シナ海緊迫化の恐れ
 昨日、アメリカが中国の南シナ海における領有権主張を否定するために敢行した”航行の自由作戦”に対して、中国は、あたかも自らが権利を侵害された被害者の如くにアメリカを批判しております。南シナ海での米中一触即発の事態を受けて、今後の展開について様々な憶測が飛び交っております。

 こうした憶測の中には、米中は、正面からの衝突を望んではおらず、アメリカも、適当なところで元の鞘に納まるのではないか、とする中国側に立った楽観的な見通しも見られます。しかしながら、アメリカは、今後とも南シナ海でのオペレーションを継続すると宣言していますので、早期に緊張が緩和するとは思えません。否、緊張緩和が中国の違法な”領海化”を既成事実化として認めることを意味するとしますと、それは、”ミュンヘンの融和”に匹敵する禍根を歴史に残すことにもなります。領土的野心を抱く国に安易に妥協しますと、それは、”侵略のゴーサイン”と受け取られかねないからです。しかも、中国による一方的な”領海設定”を認めることは、戦後、構築してきた海洋法秩序の根本的な崩壊をも意味します。中国は、自国が「海洋法に関する国際連合条約」の締約国であることを忘れているのでしょうか。明々白々な違法行為を黙認しますと、法はあってなきが如しの状況となり、世界各地の海に人工島が出現し、野心的な諸国が領海設定に乗り出すことでしょう。この問題は、決して米中間の二国間対立ではなく、その本質において国際秩序全体の問題なのです。

 物事には、決して妥協してはならないものもあるものです。南シナ海での緊張は、如何なる形であれ、中国が、軍事利用を目論む人工島建設計画を諦め、同時に、領有権、並びに、領海設定の主張を取り下げざるを得なくなるまで続くものと、覚悟すべきではないかと思うのです。

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国際法の守護者としてのアメリカと支離滅裂な中国

2015年10月27日 16時57分10秒 | 国際政治
中国、米艦を「監視、追尾」=12カイリ進入に「強烈な不満」表明―南シナ海
 遂に、アメリカのイージス駆逐艦ラッセンが、中国が人工島に一方的に設定した”領海12カイリ”を航行したと報じられております。国際法上、人工島には領海を設定することはできませんので、アメリカは、敢えてこの海域で航行の自由を実行して見せることで、中国の領海ではないことを示したのです

 このアメリカの”航行の自由作戦”に対しては、予想された通り、中国は、”強烈な不満”を表明しています。しかしながら、中国の反論は、支離滅裂としか言いようがありません。何故ならば、自らの人工島建設については、”航行・飛行の自由に影響を及ぼさない”と主張する一方で、実際に、アメリカが航行の自由を実行すると、”航行の自由を名目に中国の主権と安全を損なうことには断固反対する”と批判しているからです。航行の自由を認めた前言と、航行の自由を中国の主権を損なう行為と見なした後者との間には、明らかに矛盾があるのです。領海とは主権が及ぶ範囲ですので、中国は、人工島に領海を設定した時点で、航行の自由に対する制限を宣言したようなものです(国内法である領海法の適用…)。にも拘らず、中国は、人工島の建設と領海の設定に対する国際社会からの批判をかわすために、航行の自由は保障されていると”嘘”と吐いたのであり、この”嘘”が、矛盾に満ちた苦し紛れの言い訳として現れているのです。

 中国は、国際社会の一員、かつ、国連の加盟国として、国際法を誠実に順守する義務を負います。そして、中国による違法な領海の設定は、国際社会において、決して認められることはありません。南シナ海問題については、国連が沈黙する中、国際社会の法秩序の守護者として、行動で中国の違法行為を阻止しようとしたアメリカに正義があるのではないかと思うのです。

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韓国の謝罪要求は”蝙蝠外交”の手段?

2015年10月26日 15時09分58秒 | アジア
【慰安婦問題】韓国が安倍首相に謝罪要求 首脳会談の調整難航  日中韓は共同宣言へ
 来月初旬にも、日中韓三カ国の首脳会談の開催が予定されていると報じられておりますが、三カ国会議に先立って、日韓二か国間の首脳会談の場も設ける方向で調整を進めてきたそうです。ところが、韓国が安倍首相に慰安婦問題で謝罪を要求したことから、頓挫の可能性も指摘されております。

 慰安婦問題に関する韓国側の謝罪要求は、日本国にとりましては、決して受け入れることができない要求です。韓国の国家情報院に情報収集と分析能力があれば、日本国内の世論が圧倒的に謝罪に否定的であり、かつ、対韓感情が著しく悪化していることは分かっているはずです。朝日新聞社の記事撤回が示すように、慰安婦問題に関する韓国側の主張には虚偽の部分が多いことに加えて、韓国側が国際プロパガンダを大々的に展開し、日本国に汚名を着せたことに対する憤慨もあるからです。しかも、二年後のユネスコ記憶遺産への登録準備や米マグロウヒル社の教科書問題など、未だに日本国は、韓国の反日活動に苦しめられています。韓国に対して謝罪を要求したいのは日本国側であり、その逆などあり得ないのです。ですから、韓国側の謝罪要求は、日韓首脳会議がご破算となった場合に、その責任を日本側に押し付けるための策略であるとする推測も否定はできません。しばしば韓国には、自国の責任を回避するために、相手国が自らが望む行動をとるように仕向ける場面が見受けられるからです。日本国側が拒絶すれば、アメリカの日韓改善要求に応えなかったとしても、日本国に批判の矛先を向けることができますし(もっとも、アメリカが日本側に非があると見なすとは限らない…)、中国に対しても、”歴史問題”で共闘をアピールできます。韓国の対日謝罪要求は、いわば、”蝙蝠外交”の手段なのかもしれないのです。

 もっとも、考えようによりましては、日中韓三国の首脳会談という場こそ、”蝙蝠”の巣であるのかもしれません。アメリカは、日中韓の三カ国首脳会談に期待しているとも伝わりますが、南シナ海を見れば、既に米中関係は一触即発の状態にあるからです。日中韓の枠組みには、思わぬ”罠”が仕掛けられているかも知れず、日本国政府は、首脳会談のお流れも致し方なし、とすべきではないかと思うのです。

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中国経済を占うロンドンでの”人民元建て公債”の発行

2015年10月25日 14時21分49秒 | 国際政治
ロンドンで人民元手形発行…国外初
 急速に経済関係を強めているイギリスと中国。金融面でも、中国は、国外としては初めてロンドンで50億元(950億円)相当の人民元建ての中央銀行手形を発行すると共に、将来的には国債の起債をも予定しているそうです。

 相次ぐ人民元建て公債”の発行の狙いは、人民元の国際通貨化の促進であり、IMFのSDR構成通貨入りに向けた戦略的一環と説明されています。しかしながら、”元建公債”は、金融機関、並びに、債券市場において引く手あまた、あるいは、人気商品となるのでしょうか。実のところ、表面利率は3.1%であり、日本国債と比較しますと利率は大きく上回ります。中国国債の格付けも日本国債より凡そ高評価を得ていますが、中国経済が曲がり角にあることを考慮しますと、元相場下落のリスクは否定できません。上海株式市場での株価暴落に際しては、下落防止を目的とした大規模な量的緩和策が既に実施されていますし、昨今の報道によりますと、中国人民銀行は、公開オペ以外の手段による資金供給も行っているそうです。しかも、輸出入とも中国の貿易額は減少しているとの情報もあり、貿易決済通貨としての元需要も縮小傾向にあるようです。中国当局が、7月から9月にかけて23兆円にも上る大規模な人民元買い支えの介入を実施したのも、こうした一連の人民元下落傾向の現れでもあります。その一方で、元相場維持のために今後とも政府が市場介入を継続するとしますと、外貨準備の減少を招くと共に、国際通貨化の道も遠きます。

 以上の諸点からしますと、為替市場における元安傾向に歯止めがかかるとも思えず、”人民元建て公債”は、利回りにおいて損失を被る可能性が高いのではないでしょうか。国際的な金融センターであるロンドンでの”人民元建て公債”の売れ行き、あるいは、買い手の素性は、中国経済の将来をも占うことになるのではないかと思うのです。

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中国の”ダブル緩和”は逆効果?

2015年10月24日 14時11分50秒 | 国際経済
再び異例のダブル緩和=中国経済、出口見えず
 中国の中央銀行である中国人民銀行は、国内のデフレと資金の国外逃避に歯止めをかけるために、”ダブル緩和”を実施したと報じられております。貸出金利の追加利下げに次いで、預金準備率も引き下げたというのです。

 この点について思い起こされるのは、米国FRBの利上げ時期をめぐる議論です。先日、FRBは低金利政策の転換時期ではないとして、利上げを見送っております。その際、指摘されていた理由の一つが中国の景気減速であり、”このタイミングでFRBが利上げを実施すれば、中国からの米国市場への資金還流が加速され、中国経済に致命的な打撃を与える”というものでした。つまり、中国経済の救済のために、米国は、自国の利上げを控えたことになります(中国の実態が、巨大な債務国であるとすると、破綻も懸念される…)。この説が正しいとしますと、中国の利上げは、まさに、FRBの利上げ見送り効果を台無しにするような政策です。アメリカの金融市場との間で、資金流出要因となる金利差を自ら広げたのですから(欧州市場との間では、ECBの金融緩和で相殺されると考えているかもしれない…)。あるいは、貸出金利の利上げで資金流出を招いたため、慌てて流出効果が比較的弱い預金準備率下げに転じたのでしょうか。

 中国経済は政府部門も民間部門も弱含みであり、短期的には投機的な株価の上昇は見られるかもしれませんが、中国人民銀行の緩和策による長期的な国内経済押し上げ効果は未知数です。果たして、この”ダブル緩和”、期待通りの効果を発揮するのでしょうか。少なくとも、資金の国外逃避予防策としては、逆効果もあり得ます。政策が裏目に出た場合、中国経済は、さらに混迷を深めることになるのではないかと思うのです。

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「劉論文」から読み解く中国の国家戦略

2015年10月23日 09時15分55秒 | アジア
 最近、中国人民解放軍の上将にして習主席側近とされる劉亜洲国防大学政治委員が、人民ネットなどで日中関係に関する論文を発表したそうです。中国にしては珍しく忌憚なき見解が綴られており、「劉論文」は、中国の国家戦略を知る手掛かりとなりそうです。

 「劉論文」から読み解くことができる第一の点は、中国は、本気で尖閣諸島における武力行使を計画していたことです。当論文が、中国国内で驚きを以って迎えられたのは、”尖閣問題で日中衝突なら退路はない”と述べ、敗戦による一党独裁体制崩壊の怖れから、従来の”武力衝突も辞さず”の方針を転換したからです。この転換は、日本国内の左翼勢力が懸命に否定してきた中国の脅威、即ち、”尖閣諸島侵略計画”が、国家戦略上のシナリオとして実在していたことを裏付けてもいます。第二の点は、武力衝突で勝利しても、中国が、尖閣諸島の正当な領有権を得ることは出来ないことを自覚していることです。「劉論文」では、”日本が負けても、尖閣諸島の実効支配の主導権を中国に渡すだけで実質的な損失はほとんどない”とする見解を示しています。つまり、中国は、尖閣諸島問題がいわば”竹島問題化”すると予測しており、武力占領後も、日中間の紛争が継続すると見ているのです。ある意味、この認識は、中国側が、国際法上において法的な正当性が認められない限り、尖閣諸島の領有権は確立しないことを認めたことを意味します。その一方で、尖閣諸島を武力で奪取することが、日本国に対する”侵略”に当たるとする認識が欠如していますので、日本国政府は、尖閣諸島領有の正当性をより強く、かつ、明確に中国、並びに、国際社会に対してアピールする必要があります。第三に「劉論文」が示す国家戦略は、中国が日本包囲網の形成を試みようとしていることです。劉氏は、対日政策として、対米関係の改善や韓国・台湾との連携強化を提唱し、さらには、日本国内の親中勢力との協力にも言及しています。内外両面から日本国を包囲することで、日本国の動きを封じようとしているのです。日本国は、覇権を追及しているわけではありませんので、対日包囲網は、中国がアジアに覇権を打ち立てるための”抵抗者排除戦略”として理解できます。

 「劉論文」は、尖閣諸島と南シナ海との二正面作戦を避け、当面は後者に集中したい習政権の意向を受けたものとする指摘もあるそうですが、南シナ海においても、上記の諸点については基本的に変わりはありません。否、第三の点からすれば、尖閣諸島での緊張緩和の演出で日米との関係改善を図り、フィリピンやベトナム等の抵抗を孤立化によって排除しようとする可能性もあります。油断は大敵であり、決して「劉論文」に安心してはならないと思うのです。

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南シナ海「航行の自由作戦」-法の支配の分水嶺か

2015年10月22日 14時37分26秒 | 国際政治
既成事実化を許すな 米国は人工島12カイリに入れ
 南シナ海で進められていた中国の人工島建設は、中国側が、12カイリの領海の設定を宣言したことから抜き差しならぬ状況に至っております。アメリカは、遂に重い腰を上げ、「航行の自由作戦」を遂行する決断を下したと伝わります。

 南シナ海での中国による人工島建設は、国際法違反のオンパレードです。係争海域において一方的に埋め立て作業を強行したこと、軍事的な目的の施設を建設したこと、そして人工島に領海を設定したことなど、どれもが重大な違反ばかりです。そこでアメリカが立案した作戦とは、中国を試すかのように、中国が主張する人工島の”領海”に艦船を航行させるというものです。国際法上、原則として、領海でも無害通航は許されていますが、中国は、領海法を制定しているため、外国船舶が中国の領海内を通航するには中国当局に対する事前通告が必要です。当然、アメリカは、この海域を中国の”領海”とは認めていませんので、事前通告なしで艦船を航行させることになりましょう。ここで中国は、あくまでも自国の”領海”と主張するならば、米艦船に対して領海法を適用し、警告や強制退去といった措置をとらざるを得ません。仮に、米艦船の自由な航行を黙認するとなりますと、中国は、自らの”領海”ではないことを認めたことになるからです。それでは、中国が、米艦船に対して領海法を執行しようとした場合、何が起きるでしょうか。「航行の自由作戦」と名付けている以上、アメリカ側は、決して、中国側の指示・命令に従うはずはありません。米中間に軍事衝突が発生するとしますと、まさにこの時であり、それは、米艦船に対する中国の出方にかかっているのです。


 国際法違反の行為を黙認することは、法秩序の根本的な崩壊を意味しますので、手段を尽くして阻止する以外に、海洋における法の支配を救う道はありません。アメリカの「航行の自由作戦」は、海洋における法の支配の分水嶺であり、それ故に、日本国は、アメリカを全面的に支持すると共に、最大限の支援を行うべきです。アメリカは、やはり、”世界の警察官”なのではないかと思うのです。

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英中”黄金時代”-”二つの顔”を持つイギリス

2015年10月21日 13時35分13秒 | 国際政治
英中関係強化訴え=習主席、議会で演説
 イギリスを国賓として訪問している習近平主席は、エリザベス女王夫妻主催の歓迎式典をはじめ、破格の待遇を以って迎えられているそうです。その背景には、英中双方の経済的な思惑の一致があるようです。

 習主席の訪英は、英中”黄金時代”の始まりとも称されていますが、国際社会における中国の暴力主義的な振る舞いを考慮すれば、イギリスの対中接近には失望の声も上がっています。イギリス国民も歓迎一色ではないようです。イギリスと言えば、立憲主義や議会制民主主義の発祥の地であり、かつ、自由主義経済の先導役をも務めてきました。そして、洗練された礼儀、マナー、文化を大事にしてきた紳士淑女の国でもあります。一方、中国は、暴力革命で成立した共産主義一党独裁体制を堅持しており、経済面においても、改革開放路線を採用しつつも、習政権下では”国家独占資本主義的”な側面を強めています。このことから、一見、イギリスと中国は水と油のようなものであり、英中接近は意外な印象を受けます。しかしながら、イギリスには、”二つの顔”があることに思い至りますと、英中接近も理解に難くはありません。イギリス外交は”二枚舌”でも知られておりますので、”二つの顔”も尤もなのですが、イギリスには、マグナ・カルタにも象徴される、中世以来の民主主義、法の支配、権利・自由の保障、権力分立…といった自由主義的な系譜がある一方で、17世紀以降、大ブリテン島に渡ってきたユーラシアン系の人々によって全体主義的な系譜が持ち込まれているようにも思えます。ユーラシアン系の思想とは、おそらく、金融界を牛耳ってきたユダヤ人の思想を核としているのでしょうが、基本的には、遊牧民系(移動民…)の思想であり、国民の管理と統制を是とするものです。ユーラシアン系の思想は、カール・マルクスの共産主義に色濃く出ていますし、ジョージ・オーウェルが『1984年』を執筆したのも不思議ではなくなります。イギリスの金融界は、大富豪にしてユダヤ系貴族出身のアイヴァー・モンタギューが”ピンポン外交”で名を馳せつつ、ソ連邦のスパイであったように(ヴェノナ・ファイルで判明…)、国際共産主義とも密接な結びつきがあります。そして、大英帝国の建設が、世界大に広がっていたユーラシアン系、あるいは、ユダヤ系の人脈と資金に支えられていたとしますと、イギリスの二面性は、帝国化の代償であったとも言えるのです。

 既に大英帝国の全盛期は過ぎ去ってはいるものの、イギリスの二面性は、パレスチナ紛争をはじめ、時にして国際社会に解決困難な問題や悲劇をもたらしてきました。近年の急速な英中接近は、議会での討論を経たというよりも、オズボーン財務大臣の意向が強く働いたと指摘されていますが、今日のイギリスが、ユーラシアン系優位にあることを示しているようにも思えるのです。

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”欠席裁判”と化したユネスコ記憶遺産制度

2015年10月20日 17時04分18秒 | 国際政治
 ”南京大虐殺関連資料”のユネスコ記憶遺産登録の一件は、記憶遺産の制度そのものに対する不信感を高めることとなりました。当事国双方の間で争いのある事件に関して、一方の側の主張のみを認めて登録を決定したのですから。

 ユネスコの記憶遺産制度の目的は、あくまでも、人類史に照らして価値のある遺産を保存することにあるはずです。この崇高な目的に協賛するからこそ、加盟国は拠出金を負担し、ユネスコの活動に協力を惜しまないのです。ところが、今般の登録決定のように、ユネスコの目的とは離れ、対立含みの事件に関して、特定の国の”歴史認識”を裏書きする役割をユネスコが引き受けたとしますと、この前提は、脆くも崩れ去ります。ユネスコは、国際的な合意もないまま、遺産の保存活動を担う機関から、歴史を審判する機関に”衣替え”してしまったに等しいのです。この”歴史の審判”にあって、ユネスコは、”事実認定”の役割を演じたとになるのですが、通常の裁判であれば、一方のみの主張で判断を下すことはあり得ないことです。否、それは、”欠席裁判”と称されて、近代司法制度ではあってはならない不公平な欠陥裁判なのです。

 ユネスコは、たとえ中国から有形無形の圧力や破格の厚遇を受けたとしても、不当な”欠席裁判”に加担するべきではありませんでした。ユネスコの目的を再確認すると共に、それにふさわしい姿に、再度、”衣替え”しないことには、ユネスコの信頼回復はあり得ないのではないかと思うのです。

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”慰安婦資料”記憶遺産登録問題-鍵を握るオランダ

2015年10月19日 16時08分01秒 | 国際政治
 先日、中国が申請していた”南京大虐殺”関連資料がユネスコの記憶遺産に登録された一件は、日本国に衝撃をもたらしました。同時に申請されていた”慰安婦資料”は却下されたものの、二年後の登録は確実視されているとの情報もあります。

 将来的な登録が見込まれている理由は、審査に際してユネスコ側が、中国に対して韓国やオランダといった他の諸国との国際共同申請を勧めているからです。言い換えますと、ユネスコ側は、国際共同申請の形態であれば登録ができるとアドヴァイスを与えた可能性があるのです。2017年に単独申請を目指している韓国は、政府としては慎重姿勢とも伝わりますが、ユネスコ側の本命は、オランダではないかと推測されます。何故ならば、インドネシアで起きたスマラン事件は、戦後、国際軍事裁判で有罪の判決を受けており、日本国政府も、この事件については公式に認めているからです。韓国は、自国に関しては、二転三転する元慰安婦の証言以外に証拠らしきものがないためか、これまで、慰安婦問題の”証拠”としてこの事件を利用してきました。つまり、虚実を入り混ぜることで、”20万人朝鮮人女性慰安婦強制連行説”の”事実としてイメージ流布”を図ってきたのです。記憶遺産の審査に際しても、中韓のみの資料では信憑性が低いため、オランダの裁判記録を要すると判断したとしても不思議はありません。

 この推測が正しければ、日本国政府は、即、オランダに対して働きかけを開始すべきです。戦後の日蘭関係を見ますと、1956年に議定書を締結することで、占領下にあって拘留されていたオランダ人に対して見舞金を支払っており、かつ、アジア女性基金からも、被害を訴えたオランダ人女性に対して見舞金が拠出されています。こうした過去の謝罪と償いを説得材料として、日本国政府は、オランダ政府に対して”慰安婦資料”の国際共同申請への参加を思い止るよう要請すべきではないかと思うのです。

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米韓首脳会談-”同じ声をあげよ”の意味

2015年10月18日 13時45分40秒 | 国際政治
【米韓首脳会談】「同じ声をあげよ」 オバマ政権、朴外交に足かせ  朴氏は「韓国の対中政策を米が支持」と受け止め
 南シナ海の係争海域では、今この時間にも、中国が、人工島の施設建設作業を続けていることでしょう。埋め立ての一方的な強行のみならず、人工島に領海まで設定しようというのですから、国際法に違反することは言うまでもありません。

 中国の国際法違反行為は、係争の相手国をはじめ、国際社会から厳しい批判の声を浴びてきましたが、アジアにあって、韓国だけは、黙認するかのように中国批判を控えてきました。その背景には、政治・経済両面にわたって中国との関係強化を強めてきた朴政権の親中政策がありますが、中国配慮の他に、もう一つ理由があるとしますと、韓国自身の無法体質が挙げられるのではないかと思うのです。韓国には、サンフランシスコ講和条約の発効を前にして、違法に李承伴ラインを設定すると共に、竹島を不法に占拠した過去があります。また、政府のみならず、韓国企業もまた、お世辞にも順法精神が高いとは言えず、知的財産権を侵害した廉で訴えられる事件が後を絶ちません。スマホをめぐるアップル社とサムスン社との係争はよく知られていますが、先日は、新日鉄住金に対してポスコが和解金の支払いに応じています。韓国の警察・司法制度についても、法を無視した”政治判断”としか言いようのない、耳を疑うような判決も少なくありません。つまり、韓国では、法の支配の価値が欠如しているのです。

 こうした韓国の体質を考慮しますと、米韓首脳会談におけるオバマ大統領の”同じ声をあげよ”の要求は、韓国に対して法の支配の価値を持つよう求めたのではないでしょうか。先だって、日本国政府も、外務省サイトや「外交青書」などにおいて、韓国に関する記述から価値観の共有を削除しましたが、価値観を共有しない形での日米韓の連携は絆なき脆き関係にならざるを得ません。そしてその一方で、中韓の接近も、”人治”という価値観の共有に基づく結束として理解できるのです。果たして、韓国は、法の支配に向けて自己改革に踏み出すのでしょうか。

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韓国軍ベトナム人虐殺・暴行問題-韓国は事実に耐えられるのか?

2015年10月17日 13時34分22秒 | 国際政治
【朴槿恵大統領訪米】ベトナム戦争時に韓国軍兵士から性的暴行 被害女性らが朴大統領に謝罪求める
 韓国が主張する第二次世界大戦時の”慰安婦問題”は、近年の朝日新聞社による強制連行記事の撤回が象徴するように、様々な角度からの検証を経たことで、実像が明らかになりつつあります。その一方で、被害を言い立ててきた韓国は、立場が替わって、ベトナム女性からの虐殺・暴行の加害者として糾弾される側となりました。

 朝鮮半島出身の慰安婦の中には、少数ながらも民間事業者による人身売買の被害者がいたようです。警察による悪徳事業者の取締については、新聞等で頻繁に報じられおりますので、この点は、事実です。しかしながら、この被害に尾びれ背びれ付き、さらには、占領地で起きたスマラン事件などと混同されることで、日本政府が、国策として朝鮮女性20万人を動員し、慰安婦として戦場に強制連行したとする説が造られるようになりました。しかしながら、近年、検証を経ることで、長らく信じられてきた”日本軍20万人朝鮮女性強制連行説”は、捏造や偽証を多々含む虚像であったことが判明してきたのです。この結果、韓国側の被害性が低下する一方で、ベトナム戦争時の韓国軍による虐殺・暴行事件には、動かぬ証拠が数多く残されています。訪米中の朴大統領を念頭に、ワシントンでの記者会見でベトナム人女性が韓国に対して謝罪を求める一幕がありましたが、ベトナム人女性達が訴えていたのは、ライダンハン(混血児)問題でした。支援活動を行ってきたノーム・コールマン元上院議員の説明によれば、被害者数は「数千人」であり、生存者は、「約800人」なそうです。もっとも、一頃は、ライダイハンの人数は、最大で2万人とも指摘されていましたので、正確な被害者数や被害の詳細については把握されていないのかもしれません。韓国軍によるベトナム人に対する非人道的行為については、今後の調査結果が待たれるところです。

 中国も韓国も、これまで”歴史問題”を武器として国家戦略を遂行してきました。しかしながら、この種の戦法は、実証主義が広まった現代と云う時代に採用すると、事実に耐えうる方に自ずと軍配が上がります。”慰安婦問題”では既に韓国の旗色は悪くなってきておりますが、”ベトナム人虐殺・暴行問題”でも、韓国は、事実を証明する証拠を前にして、自らが加害者であることを認めざるを得なくなるのではないでしょうか。

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