8月15日は、日本国では、終戦の日としてその長きに亘る歴史に刻まれています。その8月15日付けの日本経済新聞の1面に、大変、興味深い記事が掲載されておりました。実のところ、先の戦争とは全く関係ないのですが、グローバリズムの実体、並びに、日本国の今後に進むべき道を考えるに際して、重要な判断材料を提供しているように思えます。
この問題の記事とは、「量子・AI 国際規格主導へ」というタイトルのものです。サブタイトルとして「政府 海外認証機関 買収後押し」が付してあります。同記事は、「政府は先端技術や製品規格を審査する国内の認証・試験機関による海外の認証機関の買収を後押しする。」から始まっており、日本国政府が、政府系ファンドが国内の認証機関に買収資金を融資する方針を示したとする内容です。融資機関としての政府系ファンドは、産業革新投資機構(JIC)が有力とされ、国内の認証機関としては、‘日本品質保証機構(JQA)などの関連団体’としています。本決まりではないようなのですが、既に国内の認証機関への聞き取りが開始されているそうです。
量子コンピュータ、脱炭素、AIといった先端技術の分野では、その先端性故に未だにグローバル・スタンダードが確立しているわけではなく、日本国政府としては、先手必勝といわんばかりに、他国に先んじることでグローバル・スタンダードを征しようというのでしょう。この筋書きを読みますと、読者は思わず納得してしまうかもしれません。しかしながら、グローバリストや新自由主義者達が、自己弁護のために説明してきたグローバル・スタンダード確立プロセスを思い起こしますと、頭の上に大きな疑問符が付くこととなります。
何故ならば、グローバリストや同系統の経済学者達による説明では、グローバル・スタンダードとは、国境を越えた企業間のテクノロジー競争の結果として成立するとされているからです。各国、各地域の企業の夫々が、新たなテクノロジーを開発し、これらのテクノロジー間の優劣を軸とした競争がグローバルレベルで展開される結果、自ずと最優秀のテクノロジーが唯一のグローバル・スタンダードとして生き残るというものです。つまり、最も優れた技術が、最終的にグローバル・スタンダードの栄冠を獲得するというプロセスなのです。
ところが、同記事から読み取れるグローバル・スタンダード確立のプロセスは、テクノロジー間の優劣に基づく競争の結果ではありません。他国の認証機関の買収が手段であり、グローバル・‘スタンダードは、M&A、即ち、お金で買える’と言っているようなものなのです。このことは、資金力に勝る国がグローバル・スタンダードを獲得できることを意味します。
日本国政府は、自国の資金力に自信があり、日本企業も自らの技術開発力を自負していますので、この点を問題視する必要はないとする意見もありましょう。しかしながら、当然に、技術力ではなく、マネーがグローバル・スタンダードを制すとなりますと、必ずしもグローバル・スタンダードが最も優れているわけではなく、消費者やユーザーは、半ば強制的に同技術を用いた製品を使わされてしまうこととなります。
また、資金力の規模がグローバル・スタンダードの決定要因であれば、‘買い負ける’ということもあり得ます。日本品質保証機構自体は一般財団法人の形態ですが、2022年に無線通信機器の認証機関である株式会社ディーエスピーリサーチを子会社化しています。同子会社化は、政府系認証機関による自国企業の買収ですが、他国の認証機関や認証事業を手がける民間企業によって自国の認証事業を行なう企業が買収されるケースもあり得ることを示しています。実際に、同記事に因りますと、既に、民間企業であるスイスSGSが温暖化ガス排出量やサイバー・セキュリティーの分野で、フランスのビューロベリタスもAI分野で買収を開始しているそうです。ルクセンブルクに本社を置くユーロフィンに至っては、既に日本市場に参入しており、環境関連の分野で日本企業を買収しています。
何れも必ずしも製造業に強みを持つ国ではありませんので、他国の認証企業の買収は、自国産業のグローバル・スタンダードの後押しではなく、別の目的があるのでしょう。全世界の認証企業を傘下にしたグローバル・スタンダード制定機関ともなれば、全ての企業に対して優越的なポジションの獲得できるのですから。
そして、かの中国が参入してくれば、グローバル・スタンダードの買取競争は、資金力に勝る中国に有利に働くことでしょう。中国は、既に「「中国標準2035」を公表し、チャイナ・スタンダードのグローバル・スタンダート化を目指していますが、目標年の2035年に向けて、この動きはさらに活発化してくることでしょう。
かくして、同記事から、グローバル・スタンダードというものの問題性が浮かび上がってくるのですが、マネー・パワーをコントロールすべく、効果的な対策が必要であることは言うまでもありません。認証制度については、国際レベルでの見直しを要するのです。そして、同記事を深読みしますと、もう一つの問題も見えてくるのです(つづく)。