万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日産のイギリスに対するEU離脱損失補償要求は無理筋では

2016年09月30日 09時24分07秒 | 国際経済
英政府は損失補償を=EU離脱後の関税負担―ゴーン日産社長
 EUからの離脱を選択したイギリスに対して、欧州市場への輸出関税が復活すれば損失を受けるとして、日産のカルロス・ゴーン社長が損失補償を求めているとの報道があります。この要求、サンダーランド工場への投資拡大の条件ともされていますが、事実上、補償に応じなければイギリスからの撤退も辞さない構えのようです。

 イギリスの離脱問題で驚かされるのは、欧米では、政府に対するビジネス側からの一種の”脅迫”がまかり通っている現実です。国民投票においても、残留派の主たる手法は、経済的マイナス効果を並べ立てる露骨な程までの脅しでした。尤も、イギリスにおけるEU加盟のメリットは経済効果に集中しているため、残留を訴えようとすれば、経済的マイナス効果に偏らざるを得ないのかもしれません。日産のゴーン社長の要求も、まさしく”脅し”なのですが、この要求には、幾つかの点で無理があります。

 第1の理由は、対英損失補償要求には、何らの法的根拠がないことです。EUの諸条約には、脱退に際して民間企業に損失を補償する旨を記した条項は存在していません。また、日産がイギリスに製造拠点を設けるに際して、EU離脱に予め備え、英政府の損失補償を約する契約を結んでいたわけでもないことでしょう。条約締結権は、国家の主権的権限でもありますので、特段の定めがない限り、加盟であれ、離脱であれ、それから生じる民間企業の経営上の特損について、政府は何らの法的義務を負ってはいないのです。

 第2の理由は、仮に、日産の要求を受け入れて損失補償を認めるとしますと、以後、EU離脱によって損失を被る他の全ての企業に対し、英政府は、同様の措置を認めざるを得なくなります。イギリスに拠点を設ける全世界の多国籍企業からの損失補償要求ラッシュともなれば、イギリス財政の負担能力を超える可能性があります。

 そして第3に挙げるべき点は、日産工場があるサンダーランドこそ、61%という高率で離脱派が勝利した都市であったことです。イングランド北東部の北海に面した港湾都市であるサンダーランドには、日産のみならず、エレクトロニクスや化学関連等の企業が犇めいています。当然に外国人労働者の数も多く(2011年の統計では市の南側に位置するMillfieldでのアジア系(インド人、バングラディシュ人、中国人、パキスタン人…)住民数が17.6%…)、進出した外国企業が、現地の国民ではなく、外国からの移民を積極的に雇用する構図が伺えます。サンダーランドにおける英国民の離脱支持の高率は、イギリス国民をEU離脱決定へとに導いた一因が、こうした外国企業の行動にもあることをも示しております(自ら蒔いた種…)。この点、日産は、自身の行動に対して無自覚であり、かつ、移民問題に対して無理解であると共に、進出先の国や国民に対して無責任でさえあるかもしれません。

 以上に三点ほど指摘してみましたが、EU離脱は、イギリスばかりが責めを負うべきものでもありませんので、日産が、自らの損失のみに拘泥し、その補償を脅迫まがいの手法で求める態度はエゴイスティックにも見えます。今日、グローバリズムへの反感が吹き荒れる理由を考慮すれば、企業に対して、より他者に対する”思いやり”や配慮を求めても罰は当たらないと思うのです。

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ドゥテルテ大統領の来日ー日本国政府は米比関係改善に一役を

2016年09月29日 15時17分44秒 | 国際政治
アジアのリーダー続々来日 安倍外交、実りの秋目指す
 強硬な麻薬取締政策をめぐり、アメリカから人権侵害の批判を受けたフィリピンのドゥテルテ大統領は、アメリカとの間に距離を取り始めたと指摘されています。その一方で、来月の訪日に先立って中国訪問を予定しており、親中路線への転換との見方もあります。

 中国人の血を引くドゥテルテ大統領の親中路線は今に始まったことではありませんが、南シナ海問題が人類の未来を左右しかねない状況での対中接近はリスクに満ちています。今年7月12日の仲裁裁定を拒絶する姿勢を崩していない中国に対して、提訴側であるフィリピンが”棚上げ”に同意することにでもなれば、国際法秩序を維持しようとする国際社会の維持の努力も水泡に帰しかねないからです。ここは、何としてもフィリピンには踏みとどまってもらい、国際法秩序を擁護する国際社会の一員であり続けていただきたいものですが、先行きは不透明です。

 しかしながら、幸いにして、家族旅行の訪問先に選ぶほど、ドゥテルテ大統領は、日本国に対しては好意的であるそうです。ドゥテルテ大統領も、反米が嵩じるあまりに仲裁裁定を自ら台無しに、中国のさらなる軍事敵拡張を招くことは避けたいところでしょう。大統領訪日に際しては、フィリピンを取り巻く厳しい状況を理解した上で、日本国政府は、ドゥテルテ大統領を温かく迎えると共に、訪日時を絶好のチャンスと捉えて米比関係の改善に一役買うべきではないかと思うのです。米比関係の改善は、両国のみならず、国際社会の平和と安定への確かな道となるのですから。

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『孫子』の兵法によれば中国が敗北する?ー”敵”に対する理解の欠如

2016年09月28日 14時59分21秒 | 国際政治
 中国の古代兵法『孫子』において、”戦わずして勝”に次いでよく知られている格言は、”彼を知り己を知れば百戦して殆うからず”です。この教えに従って将来を占えば、中国は、自ずと”敵”との戦いに破れるかもしれません。

 何故ならば、中国が”敵”と見なす諸国が、中国に対する理解を深めても、その逆、即ち、中国が”敵”を理解することはないからです。最近、中国国内では、”何故、日本国をはじめ国際社会が自国を脅威と見なすのか理解できない”とする論評があるそうです。それもそのはず、中国は、現在の国際社会を兵法が誕生した時代と同様に弱肉強食の無法地帯であると見なしているのですから、強大な軍事力を備えた大国中国が、戦国時代さながらに拡大主義を目指すことは、中国にとりましては、至極、当然の事として認識・理解されてしまうのです。「当たり前のことをしているのに、何故、かくも厳しい批判を受けるのか」、と首を傾げているのでしょう。

 このような中国のカオス的世界観にあっては、法の支配の原則に基づく国際法秩序は、自らの理解の範囲の外にあります。となりますと、中国と他の諸国との間には相互理解は成立すせず、両者の間には、歴然とした理解の非対称性が存在していることになります。この非対称性は、『孫子』の兵法が説く勝利条件としての”彼を知る”、乃ち、敵国への理解も、中国において絶望的に欠如していることを意味するのです。

 それでは、中国が、”彼を知る”ならば、勝利を得ることは出来るのでしょうか。今日において”彼を知る”ことは、法の支配の意義と価値を理解することに他なりません。そして、この価値を心の底から理解した時、中国の世界観は、カオスから秩序への大転換を余儀なくされるのです。この時、中国は、従来通り、国際法秩序に背を向け、他国の権利を踏みにじる拡張主義を貫くことが出来るのでしょうか。

 このように考えますと、敵を知っても知らなくても、中国は敗北を喫することになるのですが、敵=法の支配を知ったことによる”敗北”は、凡そ全ての他国を”敵”と見なす『孫子』の世界観からの脱皮を意味するかもしれません。そして、この脱皮は”敗北”ではなく、別の名で呼ばれるかもしれないと思うのです。

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リスク含みの自衛隊海上幕僚長発言ー対中抑止力が低下?

2016年09月27日 15時10分00秒 | 国際政治
米の航行自由作戦に参加せず=武居海上幕僚長
 アメリカを訪問中の自衛隊の武居智久海上幕僚長は、出席したシンポジウムの席で、稲田防衛相が示した南シナ海問題関与強化の方針に対して、始終、消極的な発言であったと報じられております。幕僚長の発言には、幾つかの意味で重大なリスクが潜んでいるように思えます。

 第一のリスクは、シビリアンコントロールが、逆の意味で蔑にされる可能性です。シビリアンコントロールの意義とは、軍部の独断による暴走を抑えるために、民主的に選ばれた政府が、軍部をコントロールするというものです。武居海上幕僚長は、南シナ海への関与については”通常の訓練”と説明し、現状では、アメリカが実施している航行の自由作戦に参加する計画も、単独実施の予定もないと述べています。この発言は、防衛相の方針の否定とも受け取られ、両者の間に方針の不一致が見られます。中国側からしますと、海上自衛隊のトップの消極的な態度は”渡りに船”であり、”日本参加の可能性”という抑止力が効かなくなり、南シナ海における活動を活発化させるリスクがあります。また、実際に何らかの軍事衝突が日中間で発生した場合、政府と自衛隊との間の隙間風が、中国側に利用されるかもしれません。

 第二のリスクは、日中関係改善に関する武居幕僚長の認識です。武居幕僚長は、”数年間行われていない海自と中国海軍の高官交流や艦艇の相互訪問を再開することが、両国の関係改善につながる”とする認識を示し、日中軍部の交流と友好促進に関係改善の効果を期待しています。しかしながら、中国の南シナ海での行動は、たとえ両国が友好関係にあったとしても、国際法を踏みにじり、仲裁判決まで無視する中国の暴挙は、到底、許容はできません。国際法秩序の問題は、中国が、違法行為を停止するまで解決することはないのです。この点、幕僚長の発言は、日中関係が改善されれば、南シナ海での拡張主義的行動が黙認されるとする誤ったメッセージを中国に与えかねません。

 そして、第二のリスクに関連して指摘し得る第三のリスクとは、日本側の無理解です。”彼を知り己を知れば百戦して殆うからず”と述べた『孫子』の兵法によれば、中国の思考や行動パターンに対する理解の欠如は、日本側の敗因となりかねません。即ち、日中交流を深めれば敵対関係が解消すると信じる日本側の甘い姿勢は、日本国を”敵”と定め、対日勝利を唯一の目的として行動する中国にとりましては、表面的な友好を演出し、相手を油断させるチャンスでしかないのです(もっとも、幕僚長が”裏の裏をかいている”可能性も否定できませんが…)。

 以上に述べましたように、武居海上幕僚長の発言には、南シナ海において法の支配を確立すべき重大な時期に、対中抑止力を低下させてしまうリスクがあります。否、これまでの日本国の努力に水を差しかねないのです。常々自衛官の発言を無視するマスコミが、今般の発言に限って積極的に当発言を報じるのも、自衛隊が中国寄りであることをアピールしたい中国側の意向が働いているとも推測されるのです。

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”ハンガリーの乱”の行方ーEUの”人の自由移動問題”の第二弾

2016年09月26日 13時41分42秒 | 国際政治
ハンガリー 首都で爆発 国民投票前に意図的か
 EUからの離脱を問うイギリスの国民投票では、移民問題を主因として離脱派が勝利を収めました。イギリスの決定は、EUが掲げてきた”人の自由移動”の原則に対する拒否を意味していますが、この選択の第二弾は、EUが推進している難民受け入れ割り当ての是非を問うハンガリーの国民投票です。

 ハンガリーでの国民投票は来月初旬に予定されていますが、現状を見ますと、難民受け入れ反対派が優勢なようです。オルバン・ビクトル首相も、”EUの政策立案の根幹にナショナル・アイデンティティを取り戻す”と息巻いており、政府も国民も反移民・難民の姿勢では一致しています。仮にハンガリーでの国民投票の結果、事前の予想通り難民受け入れ反対派が勝利した場合、EUにはどのような影響が及ぶのでしょうか。

 EUの仕組みからしますと、たとえハンガリーが難民割当を拒絶しても、EUを枠組みとした人の自由移動の原則がある限り、他のEU加盟諸国からの難民流入を防ぐことは困難です。言い換えますと、難民受け入れ拒否は、当分の間の気休めに過ぎず、難民流入を防止する決め手とはならないのです。結局は、国民投票の結果に拘わらず、ハンガリー国民が現状に甘んじる結果となるかもしれませんが、真の意味で国家主権としての国境管理の権限をEUから取り戻そうとするならば、ハンガリーもイギリスと同様に、EUからの脱退まで歩を進めなければならないことになります。ここに、第二の離脱国が出現する可能性が見えてきます。

 ハンガリーの脱退は、イギリス以上にEU離脱のドミノ倒しの可能性を高めますので、EUとしても、ハンガリーの離脱を望まないことでしょう。しかしながら、仮に、イギリスに対して示した厳格な条件と原則を貫くならば、EU側の態度は既に決まっています。ハンガリーに対してのみ妥協すれば、ダブル・スタンダードとする批判は避けられないからです。もっとも、EU側としても、この二者択一が、”人の自由移動の原則”と”欧州市場”との二者ではなく、前者と”EU崩壊”との間の二者択一にまで発展するとしますと、ハンガリー側との交渉において、人の自由移動の原則、即ち、国境管理権について譲歩を示すかもしれません。そしてこの譲歩は、イギリスとの離脱交渉にも影響を与える可能性がないとも言えないのです。

 既に独自にセルビアとの国境にフェンスを設置しているハンガリーに対して、ルクセンブルクのジャン・アセエルボーン外相は、”ハンガリーを締め出すべき”と批判し、ハンガリーの脱退を容認する発言も見うけられます。先の臨時首脳会議でも、人の自由移動の原則の堅持が確認されたようですが、”ハンガリーの乱”は、あるいは、EU側の教条主義的な原則堅持に、修正を促す機会となるかもしれないと思うのです。

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アメリカ大統領TV討論会ー国民の関心はどこに?

2016年09月25日 11時38分27秒 | アメリカ
米大統領選のTV討論会、過去最高の1億人が視聴か
 先日9月11日、アメリカ同時多発テロ追悼式典の最中、民主党のクリントン候補は、体調を崩して途中退席しています。これまで燻ってきた健康不安説が表面化したわけですが、26日に予定されている第一回TV討論会には、元気な姿を見せるそうです。

 今回の大統領選挙は、”2人の悪者からより悪くない方を選ぶ選挙”と酷評され、国民の熱気も冷め気味なそうですが、TV討論会では、過去最高の1億人が視聴すると予測されいます。両者の基本的な政策方針については、既に選挙キャンペーン演説において繰り返し主張されてきましたので、過去最高を記録するほどの国民の強い関心は、別のところにありそうです。おそらく、この別の関心とは、クリントン候補にあるのではないかと推測されます。

 テロ追悼式典の途中退席の原因は、公式には肺炎を患ったためとされており、公表された医療記録でも重大な健康問題は見当たりません。しかしながら、以前より、クリントン候補には、肺炎といった一過性の疾病ではなく、パーキンソン病の初期症状、認知症、脳梗塞の後遺症といった脳疾患が疑われています。仮にクリントン候補が、重い脳疾患を抱えているとしますと、政治的判断を要する大統領職が務まるとは思えません。国民は、TV討論会を視聴することで、クリントン候補が、舌鋒鋭いトランプ候補の質問を正確に理解し、的確に返答する能力を有しているのか、見極めようとしているのかもしれないのです。仮に脳疾患を患っていれば、討論での受け答えは支離滅裂となるはずです。

 アメリカのネット上では、クリントン候補の奇妙な表情を捉えた動画がYoutubeでアップされたり、同候補が最近耳を隠すようになった点を指摘して(耳の形状は一生変化しないため同一性の証となる…)”替え玉説”が流布されるなど、クリントン候補個人への関心が、嫌が応でも高まっているようです。アメリカ大統領は、人類の未来をも左右しかねないだけに、アメリカ国民のみならず、全世界の人々が、TV討論会を固唾を飲んで見守ることになるのではないでしょうか。

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無力化する『孫子』の兵法ー読まれる中国の戦略

2016年09月24日 13時45分46秒 | 国際政治
 中国の古典的兵法、『孫子』を初めて西欧に伝えたのは、闘う教団であるイエズス会の宣教師、銭徳明ことジョセフ・マリー・アミオです。以来、同書は、第一次世界大戦の敗北により亡命を余儀なくされたウィルヘルム2世が称賛するなど、一定の評価を得てきました。今日あっても、ビジネス書の衣を纏ったり、子供向けの解説書まで登場しています。

 ”孫子ブーム”といった様相も呈しているのですが、本書の極意は”戦わずして勝つ”にあり、勝者となるためには、兵力のみならず、平時における情報収集や謀略の重要性をも説いています。「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」の教えもこの基本方針の一環であり、孫子の現実主義的な思考を表わしています。ところで、かくも『孫子』が内外に知れ渡るようになってまいりますと、むしろ、兵法としての効力が低下するという逆効果現象が現れるようになるのではないでしょうか。

 第1に、『孫子』を読めば、『孫子』を信奉する人々の思考や行動パターンをも読むことができるようになります。「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」という孫子の兵法は、そのままに、孫子信奉者にも返ってきます。

 第2に、孫子兵法が編まれた春秋戦国時代とは戦乱の世であり、孫子の兵法を指南書として実践しようとしている国や人の世界観もまた、無秩序な戦いの世なのかもしれません。現代という時代は、春秋戦国時代とは異なり、ルールや法が存在していますので、孫子を信奉する国や人には”無法者”と見なされるリスクがあります。

 第3に、『孫子』が教える敵方に対するスパイや工作活動の重要性は、『孫子』に従って行動する国や人に対する警戒感を呼び覚まし、対策の必要性を痛感させます。『孫子』が老子の思想の影響を受けていると指摘されるのは、まさに、敵と見なす相手の姿を的確に捉えながら、自らの姿は相手に察知されないよう、上手に身を隠しながら融通無碍に行動することを推奨したからであり、この作戦は、今日においてなおも、表面に見える事象の裏側に存在する策略を見抜く洞察力の必要性を物語っています。

 『孫子』の故郷である中国が、古代の兵法に忠実に行動しているとしますと、今日の国際社会とは、自らの姿を隠しながら巧みに陰謀を企む勢力が暗躍している舞台でもあることになります。奇しくも今日流行る”孫子ブーム”は、”孫子信奉者対策”としてこそ有効なのかもしれません。

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2島返還最低条件案ー”最低条件”は北方四島の日本帰属確認では?

2016年09月23日 09時57分57秒 | 国際政治
北方領土、2島返還が最低限…対露交渉で条件
 北方領土問題は、戦後70年を経て、俄かに動き出す気配を見せています。全面解決には至らないまでも、先に歯舞諸島と色丹島の二島返還を実現し、日ロ平和条約締結後に、残りの択捉島と国後島については継続協議とする案が浮上しているからです。

 この案で最も警戒すべきは、結果的に、択捉島と国後島がロシア帰属となることです。日本政府としては、まずは、二島の返還を”最低条件”として交渉に当たるとされていますが、この”2島返還最低条件案”、歯舞と色丹の二島返還さえ実現すれば、その他の条件については譲歩する余地があると述べているように聞こえます。言い換えますと、平和条約締結を優先し、択捉島と国後島の二島については、ロシアとの交渉次第では、ロシア側に割譲する用意があるという誤ったメッセージをロシア側に与えかねないのです。

 北方領土については、歴史的経緯、並びに、国際法に照らしても、明らかに日本領です。戦争による領土拡大は、ロシア革命の指導者であったレーニンでさえ否定しています。仮に、日本側が、”最低条件”をロシア側に提示するとすれば、それは、国際法上、北方四島全島の日本国帰属の確認となり、その後の継続協議の対象とすべきが、残る2島の引き渡し時期となるはずです。北方領土の日本帰属を両国で確認した上で、先に二島が日本側に返還され、その後、残りの二島が、時機を見計らって日本側に引き渡されることが確約されるのであれば、日本国民のみならず国際社会も、日ロ合意に納得することでしょう。

 択捉島と国後島は当面の間はロシアの租借地、あるいは、委任管理地等としてでも、北方四島全島が日本領として返還される道筋を付けることこそ、対ロ交渉に求められる基本路線なのではないでしょうか。

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”女工作員”はヘイトスピーチではないのでは?-怖れるべきは言論統制

2016年09月22日 14時59分02秒 | 国際政治
「蓮舫氏 出自偽った女工作員」 琉大准教授が中傷投稿
 民進党の代表に選出された村田蓮舫氏は、日本国の国籍法では二重国籍を許していないため、台湾との二重国籍のまま、その事実を国民に開示することなく政治活動を行っていたことが問題視されております。こうした中、琉球大学の准教授の方が、”出自を偽った女工作員”とtwitterに投稿したところ、ヘイトスピーチ対策法に触れる可能性があるとして大学側から削除の指導を受けたと報じられています。

 しかしながら、この大学側の処置は、ヘイトスピーチ対策法を利用した言論封じの怖れがあります。同法では、ヘイトスピーチ(本邦外出身者に対する不当な差別的言動)の定義として、「専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するものに対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。」と定めています。この定義に従えば、準教授のtwitter投稿は、ヘイトスピーチ対策法におけるヘイトスピーチの定義には当て嵌まらないのです。

 第1に、準教授のtwitter投稿は、差別意識の助長や誘発を目的としたものではなく、政治家としての信頼性や国家安全保障上のリスクを考慮しての政治的批判です。政治家でありながら、法律に違反して二重国籍を維持し、しかも、虚偽の説明を繰り返したのですから、特定の民族を対象とした差別発言ではないのです。

 第2に、同投稿の政治的批判の矛先は、台湾ではなく、対外的に工作活動を展開してきた中国共産党政権に向けられているようです。実際に、twitterでは”彼女のうそ偽りと裏切りは台湾と台湾人の自尊心や自意識をひどく傷付ける”と述べており、むしろ、”一つの中国”を支持する村田議員に対する台湾人の怒りを代弁しています。中国をはじめとした共産主義国は、諸外国に対して工作員やスパイを潜入させてきた歴史があり、アメリカのCIAやイギリスのMI6といった情報機関の活動が示すように、今日でも現実的な脅威です。歴史的に見ましても、政策決定に工作員が関わった事件は枚挙に遑がありません。かの「ハル・ノート」の草案作成に関わったハリー・ホワイトもソ連邦のスパイでしたし、東方外交を展開した西ドイツのヴィリー・ブラント首相も、個人秘書であった東ドイツのスパイに操られていたとする指摘があります。工作員の潜入は、それが男性であれ、女性であれ、自らの正体を明かすことなく活動する故に、どこの国にとりましても重大なる国家安全保障上の脅威なのです。

 第3に指摘すべき点は、村田蓮舫議員場合には、国籍法に反して二重国籍を維持しておりましたので、同法の保護対象となる”適法に居住する者”に当たるのか、この点も疑わしくなります。

 この一件で怖れるべきことは、民間におけるヘイトスピーチ対策法の恣意的な解釈により、正当なる政治批判やリスク指摘が封じられてしまう事態です。ヘイトスピーチ対策法は、日本国にも言論統制を及ぼしたい中国にとりましては、言論封じのカードになり得るのです。仮に、この一件が裁判沙汰となったとしますと、同twitterの内容がヘイトスピーチと判断されることはないでしょうから、ヘイトスピーチ法を根拠とした言論統制にこそ、警戒すべきではないかと思うのです。

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移民問題の理解ーイスラム教は移民奨励宗教

2016年09月21日 15時14分26秒 | 国際政治
NY周辺爆発事件、「テロ行為」として捜査=米司法長官
 ニューヨークで発生した爆破事件は、過激派テロ組織との関係は確認されていないものの、アフガニスタン系米国籍イスラム教徒であるアハメド・カーン・ラハミ容疑者による犯行とされています。リンチ米司法長官も、テロ行為として捜査を進めていますが、宗教が絡む事件については、まずはその教義の理解が必要です。

 イスラム教徒は、ユダヤ教、並びに、キリスト教と同様に『旧約聖書』をベースとした宗教ですが、幾つかの点において著しい違いがあります。イスラム教の権威の源泉がモーゼ以前のアブラハムに求めらられていること、三位一体説を否定していること、そして『旧約聖書』の記述に異同があること(何らかの外伝を元にしたのでは)…などの相違が見受けられます。そして、今日の移民問題を考えるに際して重要となるのは、信者の居住地に関する認識の相違です。

 『旧約聖書』には、ユダヤ教徒が”約束の地”であるカナンに辿りつき、国家を建設するまでの苦難に満ちた歴史が刻まれています。この意味において、ユダヤ教徒には”約束の地”に対する強い執着心があり、第二次世界大戦後においては、ディアスポラ以来、およそ2000年近くに亘って消えることなく灯されてきた執念が、イスラエルの建国(再建)を実現させました。その一方で、イスラム教の土地に対する認識は、ユダヤ教とは全く逆です。イスラム教では、自らが生まれ育った土地への愛着心はむしろ望ましくなく、信者に対して積極的な移住を勧めているのです。例えば、『コーラン』の女人の章の第100節には、「神の道のために移住する者は、地上に幾らでも土地を見出すだろう。…」とあり、また、戦利品の章の第74節には、「信仰に入り、移住し、神の道のために戦った人々、避難所を与えて援助した人々、この人たちこそ真の信者である。彼らのためには、お赦しと貴重な賜物がある。」と記されています。こうした教えは、信者の兵士達に征服地を与えることで勢力を拡大させたイスラムの歴史と共に、移住に対するイスラム教徒の肯定的な認識をも説明しているのです。

 イスラム教徒が、宗教的勢力拡大を伴う移住は神の御心に沿うものであると考えている限り、受け入れ国において、イスラム教徒と非イスラム教徒との間に社会的摩擦が生じることは避け難くなります(イスラム教徒の政教一致の容認により政治的摩擦に発展する可能性さえある…)。こうした信仰から発する問題は、内面の問題である故に外部から解決することは難しく、イスラム教徒自身が、自らが信じる教義が抱える問題を深く自覚し、非イスラム教徒の懸念を理解すると共に、今日の国際社会における相互尊重-他の国、民族、国民、宗教…の尊重-の原則との整合性を図るべく、真摯に努力すべきではないかと思うのです。

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グローバル時代に呼び覚まされたイスラムの戦闘性

2016年09月20日 14時49分00秒 | 国際政治
連続テロ狙いか=アフガン系容疑者、動機解明へ―NY爆破
 ニューヨークで発生した爆破事件の容疑者として、FBIは、アフガン系のアフマド・カーン・ラハミ容疑者の身柄を拘束したと報じらております。現時点では、ラハミ容疑者とイスラム過激派組織との関連性は確認されていませんが、イスラム過激派によるテロ事件は一向に減少する気配がありません。

 グローバル時代には、国境を越えた人々の交流を通して全世界の人種、民族、宗教等が相互に理解し合い、戦や争いのない平和な時代が訪れると信じられてきました。しかしながら現実は逆であり、特にイスラム系組織の活動は世界大に活発化してきております。その要因を探ってみますと、やはり、イスラム教の聖典である『コーラン』の教えに行き着くように思えます。

 『コーラン』を読みますと、同書が、マホメット(ムハンマド)が生きた6から7世紀の時代を色濃く映していることが分かります。預言者として新興宗教の教祖となり、教団をも率いたマホメット(ムハンマド)は、アラブの伝統的多神教徒、ユダヤ教徒、並びに、キリスト教徒と激しく対立し、そして、これらの異教徒の諸部族と間で激しい戦いを繰り広げました。『コーラン』こそ聖戦のための教典であり、信者である兵士達の信仰心を征服戦争へと駆り立てる精神的な支柱となったのです。イスラム帝国、並びに、その継承諸国が、アラビア半島から北アフリカ、イベリア半島、そして、中東欧に至るまで勢力範囲を拡大させた要因は、まさに、イスラム教に内在する戦闘性と排他性にあります。イスラム教が”平和の宗教”と称されるのは、イスラム教一色に塗り潰された世界にこそ言えるのであり(異教徒でも、イスラムに納税していれば共存できる…)、実際に、20世紀初頭当たりまでは、イスラムは、辛うじてその世界の内に平和を保っていたのかもしれません。

 しかしながら、グローバル時代ともなりますと、石油パワーを背景にイスラムの影響力が増したことに加え、イスラム教徒が移民等として世界に散らばりますと、イスラム教徒自身も、他の宗教や宗派に触れることとなります。そして、この新たなる”異教徒”との出会いは、イスラムに潜在してきた戦闘性を呼び覚ましてしまったのかもしれないのです。イスラム教徒は、『コーラン』の教えに忠実であろうとすればするほど、非イスラム教徒に対して攻撃的とならざるを得ないのですから。

 グローバル時代には相互理解が重要とされながら、非イスラム教徒も、そして当のイスラム教徒さえも、イスラム教について十分な理解があるとは言えないように思えます。世界宗教の一角を占めるイスラム教が真に平和の宗教となるためには、イスラム教徒自身が、その戦闘性と排他性の問題に取り組む必要があるのではないでしょうか。

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ドイツの反移民政党躍進はイギリスのEU離脱交渉の追い風に?

2016年09月19日 15時19分22秒 | 国際政治
「反難民」党、また躍進=ドイツ国政与党、大きく後退―ベルリン市議選
 ドイツでは、メルケル首相のお膝下であるメクレンブルク・フォアポンメルン州議会選挙についで、ベルリン市議会選挙でも、反難民・移民政策を掲げる「ドイツのための選択肢(AFD)」が160議席中25議席を獲得した報じられております。第一党の社会民主党の得票率が21.6%であり、辛うじて第二党を確保したCDUが17.6%ですから、14.2%の得票率を獲得したAFDは、両党の批判票を取り込む形で二大政党に迫る勢いを見せています。

 AFDの躍進の背景には、メルケル首相の難民受け入れ政策があったことは言うまでもないことですが、ドイツ国内での政治的地殻変動は、今後のヨーロッパの政局にも影響を与えるかもしれません。先日、イギリスのEU離脱決定後、初めてのイギリスを除いた非公式のEU首脳会議がスロバキアの首都ブラチスラバで開催されましたが、この席でも、東欧諸国から難民割り当て制度に対する不満の声が上がり、結束の難しさを印象付けました。その一方で、同会議で取り纏められた”工程表”では、EUレベルでの域外との国境管理の強化が盛まれていますので、国境管理に関しては、EUの権限強化の方針が示されています。また、イギリスとの離脱交渉についても、EU側は、あくまでも欧州市場へのアクセス条件として”人の自由移動”の受け入れをイギリスに迫る方針を崩していないようです。

 しかしながら、ドイツ国内においてメルケル首相の政治基盤が揺らぐとしますと、ドイツ自身がどこまで従来のEUの基本方針を支持するのか、先行きが不透明となります。与党CDUも一枚岩ではなく、移民・難民政策についてはメルケル首相に批判的な勢力もあり、相次ぐ選挙での敗北は、メルケル首相に対する責任論にも繋がりかねないからです。そして、ドイツで民主主義が機能しているならば、政府は、世論の声を無視してまで政策を遂行することはできないはずです。

 イギリスがEU離脱を決定した際に、EU側は、他の加盟国が追随しないよう、”見せしめ”のためにイギリスに対して厳しい方針を採ったとされていますが、この”懲罰的”方針は、ドイツの選挙結果を見る限り、それ程効果を挙ているようにも見えません。ドイツにおける変化は、国境管理の権限を取り戻し、移民・難民の流入に規制を設けたいイギリスのEU離脱交渉の追い風になるとともに、EU内部においても、方針転換の契機となるかもしれないと思うのです。

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米比対立でも中国の立場は好転しないー国際法秩序の問題

2016年09月18日 14時18分58秒 | 国際政治
「中国と対話の用意ない」=南シナ海仲裁判決めぐり―比外相
 
 昨今、その過激な発言で注目を集めているフィリピンのドゥテルテ大統領。南シナ海をめぐる仲裁裁判では事実上の全面勝利を得つつも、フィリピンの立ち位置については、どこか不安定感が漂っています。

 フィリピン外交の不安定性の要因は、米中の狭間にあるドゥテルテ大統領の一種の”孤立政策”にあります。ドゥテルテ大統領の祖父は中国出身とされ、同大統領の親中姿勢もこのバックグランドに由来します。その一方で、同大統領の”フィリピン・ファースト”の方針は髄所に見られ、国際的な批判をものともせず、国民の支持を背景に麻薬取締に辣腕を振るってきました。この姿勢は”南シナにおける中国との対立でも一先ずは貫かれており、”中国に領土は絶対に譲らない”と宣言し、中国との間の距離を国民に見せつけています。対中強硬姿勢からしますと、誰もが、対中戦略上、親米政策に傾くと考えがちですが、ドゥテルテ大統領の対米政策は大方の予測とは逆に、むしろ悪化の方向に向かっているようです。オバマ大統領に対する暴言のみならず、同盟関係にありながら米軍の撤退(ミンダナオ島の米軍特殊部隊…)にまで言及しているのですから、事態は深刻です。

 激しさを増す米比対立は、中国から見ますと願ってもないチャンスであり、アメリカの後ろ盾を失ったフィリピンを懐柔すれば、南シナ海の仲裁裁定も”棚上げ”、あるいは、”なかったこと”にできると読んでいることでしょう。権謀術数に長けた中国ですから、裏では積極的に米比離反工作に暗躍しているものと推測されます。『孫子』にも、戦争には詭道も必要として、”敵が親しみ合っている時にはそれを分裂させよ”とあります。

 しかしながら、中国の米比離反作戦は、狙い通りに功を奏するのでしょうか。たとえ、米比関係が悪化の一途を辿っても、アメリカが、仲裁裁定の支持を取り下げるとは考えられません。何故ならば、この問題は、中比二国間ではなく、国際社会全体に関わる国際法秩序の問題であるからです。戦国春秋時代の思考を以って現代の問題に対応しようとする中国は、時代を見誤っていると思うのです。

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二重国籍は人種差別ではなく危機管理の問題では?

2016年09月17日 11時21分36秒 | 国際政治
「二重国籍、他にも」=神津連合会長
 報道によりますと、これまでオバマ大統領に対して出生地を理由に大統領の資格がないと批判してきた共和党のトランプ候補が、この発言の撤回を表明したそうです。本選を目前にした柔軟化路線への転換とする解釈もあるそうですが、この一件は、アメリカの大統領職には、憲法上、国籍要件が存在することを示しております(アメリカ合衆国憲法第2条1節5項)。

 日本国では、民進党の代表に選出された村田蓮舫議員が台湾との二重国籍であることが問題視され、目下、世論の批判を浴びております。二重国籍批判に対して、しばしば、人種差別であるとする反批判も聞かれます。しかしながら、政治家が二重国籍ともなりますと、もう一方の国籍国の対人主権が及ぶわけですから、外国の利益を図る可能性が高く、政治的リスクは否定できません。このため、多民族国家であるアメリカでさえ資格制限があり、大統領といった公職に国籍要件や出自要件を付している国は少なくないのです。資格制限とは、いわば、安全保障のみならず、内政干渉を予防し、民主主義を守るための危機管理措置であるとも言えます。トランプ候補の発言撤回も、オバマ大統領が公式の出生証明書を提示し、自らの資格を証明したことが大きく影響しており、憲法上の資格制限そのものを否定しているわけではないのです。アーノルド・シュワルツネッガー氏もオーストリア生まれが問題視されましたし、EU離脱派のリーダー格であったイギリスのボリス・ジョンソン氏も、アメリカとの二重国籍が指摘され、イギリスへの忠誠を示すためにアメリカ国籍を離脱すると述べたそうです。これらのケースには、人種差別的要素は全く見られません。

 如何なる国であれ、外国や外国人に支配されたり(内政干渉、植民地化、属国化のリスク…)、”国民の代表”のはずの政治家が私的な事情から外国の利益のために働くこと(権力の私物化による売国リスク…)に賛成する国民は殆どいないはずです。国籍や出自に関わる情報が隠されていたならば、なおさらのことでしょう。二重国籍問題については、人種差別問題ではなく、純粋に危機管理の問題として扱うべきではないかと思うのです。

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平和条約締結でも北朝鮮は核を放棄しない

2016年09月16日 10時06分22秒 | 国際政治
北朝鮮、米国の「挑発」に新たな攻撃仕掛ける用意=外相
 北朝鮮の核実験は遂に5回目となり、実戦配備も視野に入れた行動が続いています。こうした中、北朝鮮問題の専門家の中には、同国の核・ミサイル実験の目的はアメリカを交渉の場に引き出すことにあるから、まずは、米朝交渉への一歩を踏み出すことが重要とする意見も聞かれます。中国も同様の見解を示しているようですが、この主張、鵜呑みにしてもよいのでしょうか。

 識者の解説によりますと、北朝鮮は、朝鮮戦争の休戦協定の平和条約への転換を望んでおり、合わせて”金王朝”、即ち独裁体制の保障をアメリカに確約させたいそうです。今のところ、アメリカは、北朝鮮の核放棄が”先”としてこの要求には応じていませんが、米朝交渉の場が設けられ、両国が北朝鮮側の要求に沿った線で合意すれば、核・ミサイル問題も解決されると読んでいるのでしょう。簡潔に言えば、米朝関係が正常化されれば、北朝鮮は自ら核を放棄すると見越す解決案です。

 しかしながら、この見解は矛盾しています。何故ならば、北朝鮮は、イラクのフセイン体制も、リビアのカダフィ体制も、核の保有に失敗したから潰されたと認識し、実戦用の核さえ手に入れてしまえば、同じ轍を踏むことはないと判断していると説明しているからです。核保有が体制維持の絶対条件であり、それが北朝鮮の核・ミサイル実験を加速させているとしますと、平和条約締結後に北朝鮮が自ら核を放棄するはずはありません。核を手放した途端にイラクやリビアの運命が待っていると確信しているならば、たとえ平和条約を締結したとしても、北朝鮮が、自ら核を放棄するとは考えられないのです。

 平和条約を締結しても北朝鮮が核を放棄する可能性が限りなくゼロに近い以上、米朝交渉に応じることは、北朝鮮に核・ミサイル開発の時間的猶予を与えるに過ぎません。目下、国連安保理では、民生用を含めて石油禁輸措置等、より厳しい制裁内容が検討されているようですが、KEDOや六か国協議の顛末が示すように、交渉という名の美名が制裁を遅らせ、今日の事態をもたらしたのですから、今度ばかりは、北朝鮮の宥和の誘いに応じてはならないと思うのです。

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