万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

SNSの‘どんでん返し’問題-民主主義の‘敵’か‘味方’か?

2018年08月17日 14時55分14秒 | 国際政治
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 ‘2010年に始まる‘アラブの春’の影の主役はSNSであった‘と評しても過言ではないかもしれません。チュニジアにおけるジャスミン革命は、当局から理不尽な扱いを受けた若者のフェースブックへの投稿が発端となり、独裁政権に怒れる人々を革命へと駆り立てたのです。

 中東諸国一帯に広がった民主化運動は、SNSがもたらした自由な言論空間が民主主義への道を開いた好例であり、この時、誰もが、SNSに拍手を送り、民主化を推し進める役割を期待したことでしょう。過去においては流血の事態を招きやすかった民主主義革命を、その情報伝達力と動員力によっていとも容易く実現させたのですから。‘アラブの春’は、SNSの全世界的な普及の加速にも一役買ったかもしれません。

 しかしながら、その後の展開は、SNSに対する人々の期待を裏切っております。もちろん、民主化したとはいえ中東諸国の政情は今なお不安定であり、揺り戻しも見られることもありますが、SNSに対する期待が急激に萎んでいるのです。その理由として、先ずは、中国におけるSNSの逆利用を挙げることができます。‘アラブの春’では、SNSは、自由と民主主義の実現を望む人々に希望を与えるツールであり、国民の‘味方’でした。ところが、中国では、今やその役割は正反対であり、国民から湧き上がる自由や民主主義への渇望を封じ込めるための道具に転じているのです。SNSは、私的な空間におけるコミュニケーション手段でもありますので、中国政府は、国民の私的領域にまで踏み込んで言論を統制することができるようになったのです。この現象は、まさにSNSの‘どんでん返し’です。

 共産党一党独裁体制を何としても堅持したい中国にあっては、SNSの役割の逆転は想定し得る事態なのですが、SNSの‘どんでん返し’への警戒感は、自由主義国にあっても燻っております。今日、フェースブックやツウィッターといったSNSサービス事業者による私的検閲が問題視されており、自らが設定した価値基準に照らして不適切とされる内容やフェークニュースと判断した情報については、一方的に削除しています。これらの基準は、民主的な手続きを経て国民的な合意の下で設定されているわけではありませんし、フェークニュースについても、これらの事業者が、厳格な調査を実施して真偽を確認しているわけでもありません。そして、利用者の個人情報も否が応でもSNSを介して事業者によって自動的に収集されてしまいます。‘通信の秘密を侵してはならない’とする近代憲法上の原則は、もはや空文でしかないのです。

SNS事業者の運営そのものが民主的ではないのですから、SNSを見つめる人々の視線も自ずと変わってきます。しかも、フェースブックの創設者であるザッカーバーク氏に至っては、中国の習近平国家主席と懇意でもあります。SNSに限らず、フランス革命をはじめ、近代以降、人々が理想を求めて行動した途端、あらゆる場面で‘どんでん返し’が起きるのは単なる偶然なのでしょうか。

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