今般、菅義偉首相が、日本学術会議が推薦した6名の新会員の任命を拒否した一件は、野党側が格好の与党批判の材料と見なしており、国会でも徹底追及の構えを見せています。しかしながら、この問題、‘政府による任命拒否’という一点のみに議論が狭められた場合、不毛の論争になるのではないかと思うのです。
その理由は、ここでもやはり‘情報’です。物事の是非を見極めるには、先ずもって必要不可欠となるのは、判断材料となる情報が十分に提供されていることです。言い換えますと、情報不足の状況にあっては、国民は、政府の側と日本学術会議の側のどちらに非があり、何が問題であるのか、正確に掴むことができないのです。的確な判断を行うためには、最低限、以下の情報が必要となりましょう。
日本学術会議側が提供すべき情報とは、(1)任命を拒絶された6名各自の推薦された理由(現行の制度では前任者推薦制ですので、その前任者が推薦した理由…)、(2)新会員6名の履歴や研究以外の分野を含めた活動状況や履歴(国籍、学歴、並びに、特定の政治団体や宗教団体のメンバーシップなど…)、(3)6名自身による推薦に至るまでの経緯の説明、(4)日本学術会議全体としての選考基準、(5)推薦制導入の経緯と理由…などを挙げることができます。とりわけ重要となるのは、(2)であり、任命を拒絶された理由として、多くの国民は、同6名に関しては、正式の党員であれ、隠れ党員であれ、共産主義者であった、あるいは、何らかの反日的な組織のメンバーではなかったのかと疑っております。あるいは、同会議のメンバーが特別公務員の資格を得る点を考慮しますと、国籍や外国との関係が問題となった可能性もありましょう。仮に、6名の間に何らかの共通項が見つかれば、国民は、その是非は別としても、首相による任命拒絶の理由を理解することはできます。
それでは、政府側は、どのような情報を国民に対して提供すべきなのでしょうか。政府側からの情報としましては、最も重要なのは、何と申しましても首相が同6名を任命しなかった理由となりましょう。この件に関して、菅首相は、旧帝大が45%を占める現状を理由とて挙げていますが、この理由では、何故、この6名のみが拒絶対象に選ばれたのか、この点を説明し切れていないに思えます。また、同6名には人文科学系であるとする共通点があるものの、それが本当の理由であるならば、政府は、堂々と日本学術会議の自然科学系への特化の方針を示すべきですし、敢えて隠す必要もないはずです。政府の説明が不十分であるからこそ、公安案件ではないかとする疑念やアメリカから提供された極秘情報の存在が疑われる事態に至っているのではないでしょうか。
そして、同問題の根源には、政府の人事に関しては、任命権者がその理由を述べないとする慣例の存在があるように思えます。この慣例こそ、改革すべき悪しき前例主義に他ならないように思えます。官僚組織であれ、日本学術会議であれ、民主主義国家である以上、首相、あるいは、政府には、公職に関する任免の理由を国民に説明する説明責任がありましょう。むしろ、公安案件であればこそ、国民に危険性を知らせるためにも積極的に公表すべきなのではないでしょうか。何れにいたしましても、国会にあって情報不足のままで議論しても埒が明かず、不毛の答弁が続くこととも予測されます。先ずは、政府も日本学術会議も、自らに非がないと考えるならば積極的に情報を公開すべきですし、より多くの有益な情報を提供した側を、国民は信頼することとなるのではないでしょうか。