万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

北朝鮮が示す独裁国家のパラドクス-最も容易に傀儡化できる

2018年08月27日 15時34分16秒 | 国際政治
独裁国家に対して人々が抱いている一般的なイメージとは、国家権力を独占し、かつ、全国民から絶対的忠誠心を捧げられた独裁者が君臨する、易々と崩壊することがない堅固な国家というものなのではないでしょうか。あらゆる決定権が一人に集中しているのですから、権限が各機関に分散する権力分立体制とは異なり、機関間の対立や摩擦、さらには決定過程におけるデッドロック等の心配もありません。

 独裁体制と全体主義との親和性の高さも、その強固な団結性に求めることができます。国家有機体説の系譜に属する北朝鮮の主体思想も、国家を一つの生命体と見なしており、独裁者はその中枢に位置する頭部であり、国民は脳の指令を受けて動く手足に他なりません。一つの生命体である以上、国家全体が不可分・不分離に結合しており、マス・ゲームが象徴する如く、全体が一つの単体として行動するのです。

 結合力を以って強度の高さを誇る独裁国家では、そのトップは、全国民を従えるために絶対的な存在でなければなりません。自国のために闘う愛国的なヒーローであり、他の如何なる国民からの追随を許さない能力を有する超人的な人物である必要があるのです。このため、北朝鮮の歴代トップは、世界最大の軍事大国であるアメリカに対しても、対等、否、それ以上の立場から敵愾心や闘争心を露わにし、公然と罵詈雑言を浴びせてきました。小国でありながらアメリカとも渡り合っているかのように見えるトップのカリスマティックな姿は、北朝鮮国民の人心掌握には必要不可欠な演出であったのです。

 かくして独裁国家=強固な体制とするイメージが定着してきたのですが、果たして、独裁体制は、見かけ通りの‘強固な国’なのでしょうか。最近の北朝鮮の動向を観察しておりますと、このイメージは、あえなく崩れそうです。非核化問題を通して露呈した金正恩委員長の姿は、国内にあっては頂点から国民を支配する絶対的な指導者でありながら、国際的な観点から見れば、中国という大国の傀儡に過ぎないからです。

 ここに、独裁国家のパラドクスが見えてきます。それは、権力が一人の人物に集中しているからこそ、外部の国家、あるいは、勢力に極めて容易に操られやすいということです。言い換えますと、独裁者一人を籠絡する、あるいは、自らの息のかかった人物を独裁者の地位に就けることさえできれば、外部の国家や勢力は、国家権力と全国民もろともに、自らの意のままに独裁国家をコントロールすることができるのです。

一方、権力が分立しており、かつ、国民に参政権を含む権利や自由が保障されている民主主義国家では、その国を支配下に置こうとしますと、与野党含めて相当広い範囲の政治家に賄賂攻勢を仕掛けなければなりませんし、世論を操縦するにも、マスコミ各社のみならずネット空間にまで工作活動を広げる必要があります。しかも、民主主義国家では、言論の自由や報道の自由が保障されておりますので、工作活動が露見でもしようものなら激しいバッシングが起き、世論の風向きも一気に変わりかねないのです。このように考えますと、独裁国家ほど外見は屈強に見えながら、その実、脆弱な国家体制はないのかもしれないと思うのです。

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